昭和21年、日本占領中のGHQは、チャンバラは軍国主義だと時代劇を禁止した。
時代劇スターをかかえ困った京都映画界は、比佐芳武(脚本)のアイデアで、片岡千恵蔵主演の現代劇、名探偵「多羅尾伴内」が七変化の変装で活躍をする「七つの顔」(松田定次監督)を製作、昭和22年の正月映画として公開したところ、痛快無比な面白さが大評判となり大ヒットした。
<「七つの顔」DVDジャケット>
千恵蔵の多羅尾伴内シリーズは、昭和21年から大映が4作品、昭和28年から昭和35年に東映が7作品を製作し、「いれずみ判官シリーズ」と共に片岡千恵蔵の十八番(代表作)となった。
昭和21年、大ヒットした大映製作の多羅尾伴内シリーズ第1作「七つの顔」が面白い。
ご一緒に如何でしょうか。
大映製作・配給。モノクロスタンダード80分。
モーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」シリーズの一篇「謎の家」を翻案したストーリー。
タイトル通り、多羅尾伴内が変装しながら難事件を解決する。
共演は轟夕起子、喜多川千鶴、香川良介、時代劇のベテラン月形龍之介、原健作(健策)、島田照夫(片岡栄二郎)も出演している。
原作・脚本は比佐芳武。
監督の松田定次は、のちに東映に移り、東映京都のトップ監督として大作を多く手掛け、東映を業界首位に押し上げた。
ダイヤの首飾をめぐる怪事件が、知事公選の陰謀へと発展する。
罠にかけられた立候補者・野々宮信吾(月形龍之介)、私立探偵多羅尾伴内(片岡千恵蔵)の登場で、謎が一つ一つ解明されていく。
<野々宮信吾(月形龍之介)>
ラストの謎解きと、多羅尾伴内が扮装をかなぐり捨ながら「ある時は多羅尾伴内、あるときは片目の運転手、またあるときは中国の大富豪、・・・」の名セリフを吐いて拳銃をかまえるシーンが最大の見せ場となっている。
シリーズ第1作「七つの顔」で、探偵・多羅尾伴内が真犯人(原健作)を追い詰めるラストシーン。
<御園生俊彦(原健作)>
御園生:「誰だ 貴様は誰だ!」
多羅尾:「七つの顔の男ですよ あるときは多羅尾伴内 あるときは奇術師」
多羅尾:「あるときは老看守 あるときは新聞記者 またあるときは手相見 片目の運転手」
<藤村大造(片岡千恵蔵)>
続いてカーアクション銃撃戦。(撮影・石本秀雄)。
正体がバレて、車で逃走する御園生(原健作)。
<御園生俊彦(原健作)>
それを追う多羅尾伴内こと、藤村大造(片岡千恵蔵)とのカーアクション銃撃戦。
昭和21年製作とは思えない迫力のシーンが結構長尺で展開する。
<藤村大造(片岡千恵蔵)>
大ヒットした「七つの顔」はDVD化されています。
面白さを本編でお楽しみください。
《共演の原健策(原健作)》
多羅尾伴内と対決する犯人役の原健策(原健作)は、「まぼろし城」(昭和15年)や「天兵童子」(昭和16年)の主演作もある時代劇の大ベテラン。
昭和28年までの芸名は原健作、のちに東映時代劇を中心に脇役として活躍した。
スタッフからの信頼は絶大で、マキノ光雄(当時・東映専務)は昭和31年「赤穂浪士」の松の廊下の場面で東千代之介に対し「おまえは原健策に教われ」と言って原健策に頼んだ。
原も「光ちゃん判りました」と言って快く毎日やってくれたとキネマ旬報に書かれている。また、北大路欣也も共演した原に演技指導をして頂いたと述べている。
善人、悪人や、正体不明の怪人役などの難役をこなし「難役の健さん」と呼ばれた、いぶし銀のように光る時代劇の名脇役。女優の松原千明は娘さん。平成14年2月96歳没。
<「天兵童子」(昭和16年)の原健策(中央)>
<「赤穂浪士」(昭和31年)片岡源五右衛門役の原健策>
特撮とアニメを合成した東映の意欲作「大忍術映画ワタリ」では不気味な怪人トリコ役を熱演する原健策。
監督は船床定男、脚本は伊上勝の隠密剣士コンビ。特撮監督は倉田準二。
<「大忍術映画 ワタリ」(昭和41年)トリコ役の原健策>
東映京都テレビプロ第1回作品。品川隆二主演の「忍びの者」で、これも不気味な百地三太夫と藤林長門守の二役を演じた原健策。
監督は河野寿一、脚本は結束信二の新選組血風録コンビ。
<「忍びの者」(昭和39年)百地三太夫役の原健策>
佐々木功主演のTV時代劇「妖術武芸帳」では、妖術師・毘沙道人役の原健策。
中国人訛りのセリフは不気味でインパクトあり。
監督は外山徹、脚本は伊上勝、特撮は矢島信男。
<「妖術武芸帳」(昭和44年)毘沙道人役の原健策>
《多羅尾伴内シリーズ全11作品リスト》
脚本は全て原作者の比佐芳武。
大映で比佐芳武(脚本)、松田定次(監督)のコンビで4本製作され、大ヒットとなった。
2.十三の眼 昭和22年大映京都 松田定次監督
3.二十一の指紋 昭和23年大映京都 松田定次監督
4.三十三の足跡 昭和23年大映京都 松田定次監督
<ルリ青島、上代勇吉、片岡千恵蔵「十三の眼」より>
<大友柳太郎、片岡千恵蔵、月形龍之介、喜多川千鶴、木暮実千代「三十三の足跡」より>
昭和24年、比佐芳武、松田定次、片岡千恵蔵が大映を退社し東映に移ったためシリーズが中断、昭和28年から東映で再開され7本製作されている。
5.片目の魔王 昭和28年東映京都 佐々木康監督
9.戦慄の七仮面 昭和31年東映東京 松田定次・小林恒夫監督
10.十三の魔王 昭和33年東映東京 松田定次監督
11.七つの顔の男だぜ 昭和35年東映東京 小沢茂弘監督
<片岡千恵蔵「曲馬団の魔王」より>
シリーズ初の総天然色・東映スコープ、松田定次監督「十三の魔王」。
<片岡千恵蔵「十三の魔王」より>
片岡千恵蔵版シリーズ最後の作品「七つの顔の男だぜ」。
ラスト、多羅尾伴内が扮装をかなぐり捨てて正体を現す名セリフ。
第1作「七つの顔」に比べると「正義と真実の人」のセリフが追加されています。
ワルのボス、星村役は進藤英太郎。もちろん総天然色・東映スコープです。
<星村(進藤英太郎)>
星村:「貴様 誰だ!」
多羅尾:「フフフフ・・ 七つの顔の男ですよ」
星村:「・・・」
多羅尾:「ある時は多羅尾伴内 ある時は片目の運転手 ある時は香港帰りの船員 またある時は手品好きなキザな紳士 ある時は中国の大富豪」
多羅尾:「しかしてその実態は 正義と真実の人 藤村大造だ!」
このあと、凄まじい銃撃戦が展開し、事件は無事解決。
<久保菜穂子、片岡千恵蔵、佐久間良子「七つの顔の男だぜ」スチール写真>
《多羅尾伴内シリーズのリメイク》
東映は昭和53年、小林旭主演で多羅尾伴内シリーズを復活させるが、ヒットには至らず「多羅尾伴内」(鈴木則文監督)、「多羅尾伴内 鬼面村の惨劇」(山口和彦監督)の2本で打ち止めになっている。
《TVシリーズ「七つの顔の男」》
高城丈二が主演した東映テレビプロ制作のTVシリーズ「七つの顔の男」も面白かった。
共演は日活で活躍した清水まゆみ(同じ日活の小高雄二夫人)で、昭和42年からNET(現・テレビ朝日)で全13話放映された。
主人公・飛鳥譲次(高城丈二)が、名探偵“伴大作”ほか七変化して事件解明していくパターンは、片岡千恵蔵版と同じ。
TVシリーズ「七つの顔の男」は、これまで東映チャンネルで放映もされておらず、原版不明のようです。
主題歌「七つの顔の男」も高城丈二が歌っている。
高城は元歌手で、昭和37年の東映TVシリーズ「白鳥の騎士」(沢村精四郎・主演)の主題歌も歌っています。