京都で一番長い歴史を持つ映画撮影所、東映京都撮影所。

映画産業の黄金期、東映京都撮影所は東映城と呼ばれ、豪華絢爛たる時代劇映画がたくさん製作されていました。

私事、団塊の世代(昭和23年生)には、かつて地元下町の映画館・荒川銀映(東映系映画館)で観た東映時代劇が娯楽でした。懐かしいポスターを見ながら歴史と思い出を語ります。

江戸の名物男 一心太助(昭和33年)

花のお江戸の名物は、火事と喧嘩と一心太助。

中村錦之助 (萬屋錦之介)版の一心太助シリーズは、昭和33年から昭和38年にかけて5本製作された、沢島忠監督と中村錦之助の名コンビ痛快時代劇。

第1作・江戸の名物男 一心太助(昭和33年)

第2作・一心太助 天下の一大事(昭和33年)

第3作・一心太助 男の中の男一匹(昭和34年)

第4作・家光と彦左と一心太助(昭和36年)

第5作・一心太助 男一匹道中記(昭和38年)

中村錦之助は、喧嘩っ早いが義理人情に厚い江戸っ子・魚屋の一心太助と将軍家光の二役、天下のご意見番・大久保彦左衛門役の月形龍之介(第4作のみ進藤英太郎)との痛快なコンビは絶品です。

昭和33年2月5日封切・東映スコープ・モノクロ90分。

 

脚本は田辺虎男のオリジナル、撮影は坪井誠。

共演は中原ひとみ、堺駿二、片岡栄二郎、山形勲、加賀邦男、三条雅也、星十郎、杉狂児など名優揃い。

沢島忠は時代劇、ひばり映画、仁侠映画など全49本を監督、徹底した娯楽主義で観客を楽しませました。

ひょんなことから太助の主人となった天下のご意見番・大久保彦左衛門。

太助と彦左の出会いのシーン。

「下に 下に」

三代将軍・家光(中村錦之助)上野寛永寺に参詣の途上、誤って行列に転がった手毬を取ろうと子供のお清(上田千里)が行列の中に! 

驚いた母親のおしの(東龍子)は制止しようとしますが・・・

<お清(上田千里)>

 

<おしの(東龍子)>

おしの:「あっ! お清・・・」

東龍子は戦前から活躍した女優。最初の主演作は「マラソン令嬢」(昭和8年 根岸東一郎監督)。昭和30年から東映京都撮影所作品に多く出演しました。夫は俳優の阿部九州男。

 

原伊代守(加賀邦男)は、将軍の行列を乱した親子を手打ちにしようとします。

原伊代守:「無礼者! 控えおれ」

おしの:「お許しくださいませ」

原伊代守:「上様お供先を汚す無礼者 手打ちにいたせ」

家来:「はっ」

 

行列を乱した罪で無礼打ちになるのを庇った太助(中村錦之助・二役)。

太助(中村錦之助)>

太助:「お待ちください お待ちください」

原伊代守:「控えろ」

太助:「年端もいかねえ子供の事 助けてくだせえませ」

 

<原伊代守(加賀邦男)>

原伊代守:「控えおれ 邪魔だていたすと そのほうも同罪だぞ」

原伊代守役の加賀邦男は東映時代劇の名脇役。俳優の志賀勝は子息。

 

心意気に惚れ込んだ大久保彦左衛門(月形龍之介)は主従の関係を結びます。

<将軍家光(中村錦之助二役)、大久保彦左衛門(月形龍之介)>

家光:「じい 何事じゃ」

彦左:「お供先を乱す 乱心者にございます」

家光:「乱心者?」

彦左:「はっ このじいに お任せのほどを」

家光:「うん じい よきに計らえ」

 

《一心太助》

一心太助とは、歌舞伎,講談などに登場する江戸の町人。 

いなせな魚屋で,腕に「一心如鏡」の入れ墨をしていることから一心太助とよばれています。 

ひょんなことから天下のご意見番大久保彦左衛門に愛され,さまざまな活躍をするのです。

<太助(中村錦之助)>

 

《大久保彦左衛門》

大久保彦左衛門は江戸初期の旗本本名,忠教 (ただたか) 。 

徳川家康・秀忠・家光の3代に仕え,幕府創業の諸合戦に従軍して功をたて、戦国生き残りの武士として旗本の間で尊敬されていました。

<大久保彦左衛門(月形龍之介)>

 

家宝の皿を割った腰元お仲(中原ひとみ)を手討にしようとする彦左衛門

<お仲(中原ひとみ)、太助(中村錦之助)>

「人の命と皿一枚を引きかえなさるおつもりか」と啖呵をきって残り9枚の皿をたたき割った太助に惚れなおした彦左でした。

太助:「殿様 この世の名残に お願いがございます」

彦左:「聞き届けてつかわす 何でも言え」

太助:「人のために やっておきてえ事がございます」

彦左:「人のために? かまわぬ 何でもやってみろ」

彦左:「た 太助 気でも狂ったか!」

これにはお仲もビックリです。

<お仲(中原ひとみ)>

 

太助:「気なんか狂いやしませんや 殿様! この皿1枚割るごとに 9人の命がなくなるんだ こうしてしまえば あっし一人の命で済むじゃありませんか」

 

太助に惚れなおした大久保彦左衛門、2年のお屋敷奉公を経て、彦左の後見で魚屋を開店した太助。

貧乏人には親切に、強きを挫き、弱きを助け、太助の人気はますます上がっていくのでした。

 

総登城でごったがえす大手門前で、駕篭がふれあったことから、旗本と大名の間の争いは表面化し旗本は今後駕篭による登城禁止、大名の方は三日間の遠慮という御処置がありました。

片手落な処分に興奮した旗本連は、太助の発案で、彦左を筆頭に八万騎総出で、タライにのって登城します。

将軍家光公は、旗本と大名の意地の張りあいをいましめ、天下はやがて万民一つの泰平の世となるのだとさとすのでした。

この事件を境に、太助の恩人である彦左は元気がなくなり、病の床につきます。

中村錦之助版の一心太助シリーズ第1作「江戸の名物男 一心太助」は、その他面白いエピソードがいっぱい。

映画黄金期の豪華なセット、派手な乱闘シーン、CGのない時代の迫力ある群衆シーンが東映スコープの大画面いっぱいに展開します。感涙のラストは、是非本編でお楽しみください。

沢島忠監督

中村錦之助版一心太助シリーズの沢島忠(沢島正継)監督は「忍術御前試合」(昭和32年)で監督デビューしている。当時、映画館で観た伏見扇太郎と悪役・月形龍之介の忍術合戦は面白かった。

大友柳太朗の「右門捕物帖シリーズ」などの時代劇、美空ひばり、江利チエミ競演のミュージカル風時代劇「殿さま弥次喜多シリーズ」などのひばり映画、鶴田浩二の代表作「人生劇場シリーズ」など東映任侠映画の先駆者である。

<沢島忠監督(一心太助シリーズのころ)>

<沢島忠監督「忍術御前試合」ポスター>

 

《映画版「一心太助」アラカルト》

映画版、一心太助シリーズを製作年代順に、大まかに並べてみました。

 

一心太助

(昭和5年・片岡千恵蔵プロ・日活)

監督:稲垣浩、太助:片岡千恵蔵、彦左:山本嘉一)

戦前、無声映画の作品です。モノクロ57分。

<昭和5年の日活京都太秦撮影所風景(ジャパンアーカイブズより)>

★「お馴染 一心太助」

(昭和8年・松竹キネマ)

監督:秋山耕作、太助:坂東好太郎

 

★「一心太助」

(昭和13年・日活)

監督:菅沼完二、太助:尾上菊太郎

 

★「天晴れ一心太助」

(昭和20年・東宝)

監督:佐伯清、脚本:黒澤明、太助:榎本健一、おなか:轟夕起子

江戸っ子の一心太助をエノケンこと榎本健一が演じた時代劇。

黒澤明が初めて脚本を担当したエノケン映画。

監督は東映仁侠映画でお馴染みの佐伯清。

原版が存在しているようです。上映時間69分。未見。

 

★「天下の御意見番を意見する男」

(昭和22年・大映)

監督:木村恵吾、脚本:依田義賢、太助:大友柳太郎、彦左:山本礼三郎。

GHQのお達しで、チャンバラ禁止時代(昭和25年解除)の映画です。誤って家宝の皿を割ってしまうお仲(風見章子)を太助が助ける話が出てくるようです。モノクロ70分。未見。

<太助:大友柳太郎>

 

★「彦佐と太助 俺は天下の御意見番」

(昭和30年 東映)

監督:内出好吉、彦左:月形龍之介、太助:片岡栄二郎)

内出好吉が監督した“彦左と太助”シリーズの第一作。

彦左に月形龍之介、太助役の片岡栄二郎は、この作品で島田照夫から片岡栄二郎に改名、東映時代劇で活躍した俳優です。

モノクロ50分のプログラムピクチャー。未見。

 

「彦佐と太助 殴り込み吉田御殿」

(昭和30年・東映)

監督:内出好吉 彦左:月形龍之介 太助:片岡栄二郎。

内出好吉監督の“彦左と太助”シリーズの第二作。

千姫(喜多川千鶴)の住む謎の伏魔殿に乗り込む、彦左と太助の痛快コンビ。

噂の主、千姫の狂態ぶりは本当か? 

モノクロ48分のプログラムピクチャー。未見。

 

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ここから中村錦之助・主演の映画シリーズ5作品始まる。

★第1作・江戸の名物男 一心太助

(昭和33年)

記事を参照ください。

 

★第2作・一心太助 天下の一大事

(昭和33年)

この第2作目「一心太助 天下の一大事」から、シリーズ初の総天然色(カラー作品)。91分。

 

<中村錦之助 (萬屋錦之介) 「一心太助 天下の一大事」より

 

<月形龍之介、中村錦之助 (萬屋錦之介) 「一心太助 天下の一大事」より>

 

★第3作・一心太助 男の中の男一匹

(昭和34年)

太助とお仲(中原ひとみ)がついに結婚、仲人は大久保彦左衛門。

東映スコープ・総天然色の94分。

 

★第4作・家光と彦左と一心太助

昭和36年

第4作の大久保彦左衛門役のみ、月形の体調不良で進藤英太郎が務め、シリーズ最終作「一心太助 男一匹道中記」は月形が復帰しています。

お仲役は新東宝から来た北沢典子。

脚本は黒澤明の常連、小国英雄で、コメディ時代劇の秀作。

昭和36年お正月映画。東映スコープ・総天然色の93分。

 

 

★第5作・一心太助 男一匹道中記

(昭和38年)

中村錦之助・主演の映画シリーズ最終作。

太助と恋女房お仲の新婚一周年・二人旅を描くてん末記。

お仲役は渡辺美佐子。

昭和38年のお正月映画。東映スコープ・総天然色の85分。

 

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★「天下の御意見番」

昭和37年・東映)

監督:松田定次、彦左:月形龍之介、太助:松方弘樹。

脚本は黒澤明作品常連の小国英雄、演出は当時東映京都トップ監督の松田定次で撮影もコンビの川崎新太郎、豪華キャストの昭和37年お正月娯楽映画。

東映スコープ・総天然色の92分

 

★「一心太助 江戸っ子祭り」

(1967年・東映)

監督:山下耕作、太助:舟木一夫、彦左:加東大介。

人気歌手・舟木一夫初の時代劇主演で一心太助と三代将軍徳川家光の二役。

腰元お仲は藤純子。東映スコープ・総天然色の87分。

監督の山下耕作は東映時代劇・任侠映画を中心に活躍した。昭和38年の中村錦之助主演「関の弥太っぺ」の演出は見事。

 

 

《テレビ版「大久保彦左衛門」アラカルト》

★大久保彦左衛門

(昭和48年~49年フジテレビ・全39話)

彦左:進藤英太郎、太助:関口宏、家光:中尾彬、お仲:市毛良枝。

 

★彦左と一心太助

(昭和44年~45年TBS・全52話)

太助/家光:山田太郎、彦左:進藤英太郎、お仲:小野恵子。

 

★一心太助

昭和46年~47年フジテレビ・全25話)

太助:杉良太郎、彦左:志村喬、お仲:音無美紀子、家光:中尾彬。

 

文中、敬称略としました。ご容赦ください。