年金暮らしで隠居の特権、50年程自宅の書棚に眠っている「江戸川乱歩全集 全15巻」(講談社)を、久しぶりに読み返しています。
<自宅の書棚の「江戸川乱歩全集」>
江戸川乱歩全集購入は、昭和45年・東京12チャンネル(現・テレビ東京)放送の「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」を観たのがきっかけでした。
講談社の全集は発行日(昭和44年)から2年ほど経っていたので、東京・神田の書店街を探し回って全巻揃えました。
<江戸川乱歩>
さて、第1巻(屋根裏の散歩者)の巻頭は、暗号小説の古典として有名なで江戸川乱歩の処女作で17ページの短編の「二銭銅貨」。
目次
電機工場の従業員の給料を盗んだ泥棒が、金の隠し場所を描いた暗号文を大ぶりの二銭銅貨の中に隠す。その二銭銅貨は、表と裏が二つに分かれる容器になっていた。50年振りに原作を読んで、巧みな文章とトリックに、すっかり魅了されました。乱歩は大学時代から暗号に興味を持ち、暗号史を調べていたそうです。
【二銭銅貨】
二銭銅貨(31.81mm)は明治から昭和初期にかけて流通した硬貨で、かなり大きい。1円未満のため昭和28年の小額通貨整理法により通用停止となっており、現在は法定通貨としての効力を有していません。
江戸川乱歩全集の編集委員は三島由紀夫、松本清張、中島河太郎。
カラー挿絵に横尾忠則、古沢岩美、永田力。
<横尾忠則の挿絵「D坂の殺人事件」より>
<古沢岩美の挿絵「吸血鬼」より>
また、月報(付録の8ページの冊子)には横溝正史、仁木悦子、山岡荘八、海音寺潮五郎らの乱歩に関する思い出が寄せられていて、今考えると豪華版です。
<月報(冊子)>
松本清張が江戸川乱歩全集の魅力について語っています。
『いま、乱歩の作品群を読み返してみると、その新鮮さは少しも失われていない。卓抜な着想、独創的なトリック、官能美の追求、酔うような話術などにあらためて敬服するのである。現在ほど、この天才の再評価が必要とされるときはない。乱歩は日本の伝統美への耽溺と西欧の知性とを美事に融合したが、その底には世紀末的な頽廃のかげりと旺盛な好奇心とがうごめいている。』
推理作家・都筑 道夫が語る江戸川乱歩全集の色彩豊かな別世界。
『推理小説を読みなれない読者にとっても、この全集は色彩豊かな別世界をのぞかせてくれる。しかも、これらが書かれた大正末期の人の心と風俗を鮮やかに浮かばせながら、ついきのう発表されたものかのように新しい』
探偵小説マニアの乱歩は「エドガー・アラン・ポー」をもじった「江戸川乱歩」を自らの筆名としました。
江戸川乱歩の本は現在も、書店や図書館(地元の印西図書館に蔵書あり)に並んでいます。
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乱歩は昭和11年から少年向けの「少年探偵シリーズ」を執筆します。
名探偵・明智小五郎と怪人二十面相の対決は少年読者の圧倒的支持を受けラジオドラマ化。松竹、東映で映画化され、テレビドラマ化もされています。
私が中学生に時、貸本屋(今なら図書館でしょうか)で借りて読んだことを思い出します。
「少年探偵団」とは小林芳雄(小林少年)が団長で、名探偵明智小五郎を補佐しながら、怪人二十面相を追い詰める、勇気ある少年たち。
現代社会では考えられない話ですが、受験地獄も無かった当時は普通に受け入れられました。
<カバー絵・挿絵:柳瀬茂>
俳優・梅宮辰夫の主演デビュー作は東映映画「少年探偵団 敵は原子潜航艇」(昭和34年)での名探偵・明智小五郎役でした。
「少年探偵団 敵は原子潜航艇」スチール写真。
<明智(梅宮辰夫)と対決する二十面相(植村謙二郎)>
<二十面相(植村謙二郎)に誘拐されたトモ子(松島トモ子)>
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「江戸川乱歩全集」を買うきっかけになったTVシリーズ「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」は、昭和45年に東映製作・東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された大人向けの物語です。
DVD化され、東映チャンネル(CS)でも、たまに放送されます。
明智小五郎役の滝俊介(溝口舜亮)は刑事ドラマや時代劇への出演も多かった。
波越警部の妹・亜沙子役の懐かしい女優・橘ますみ。ファンでした。
小林少年役の岡田裕介は後の東映社長、東映グループ会長。
俳優としては東宝の青春映画「赤頭巾ちゃん気をつけて」(昭和45年)で注目されました。
父は東映社長・会長を経て晩年は名誉会長の岡田茂。
「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」のゲスト俳優は、伊丹十三、野川由美子、フランキー堺、西村晃、佐々木功、赤座美代子などの名優が顔を揃えました。
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【古沢岩美の挿絵】
余談ですが当時、江戸川乱歩全集での古沢岩美の幻想的な挿絵が気に入って、展覧会に出かけています。
江戸川乱歩の怪奇な幻想・耽美の世界へのご招待、お薦めです。
文中、敬称略としました。ご容赦ください。