“「警視庁物語」シリーズ全24話を語る"

前回に続き、第19話「警視庁物語 19号埋立地」から最終話までを投稿します。

東映からDVD(初ソフト化)が発売されました。

 

警視庁物語。当時、映画館でリアルタイムに観ましたが、60年以上前なので、内容は殆ど覚えていません。

今観返すと、今どきの派手な刑事ドラマに比べ、昭和の映画全盛期、職人監督の手腕、リアリティーある脚本、刑事の心情も垣間見えて楽しめる作品です。

また、警視庁物語はロケーション撮影が多く、都内を縦横に走る路面電車(都電)や、都バスには女性の車掌さん、昭和時代の街並みなどの風景が懐かしい。

<渋谷駅前(警視庁物語・七人の追跡者より)>

 

<バスの車掌さん(警視庁物語・七人の追跡者より)>

 

<浅草・雷門>

脚本は、警視庁鑑識課に勤務していたした長谷川公之で、警視庁物語シリーズ全24話を執筆、当時の警視庁捜査1課の雰囲気が良く伝わってきます。

 

シリーズ後半の撮影はモノクロ・東映スコープ。

佐藤三郎、仲沢半次郎、山沢義一のキャメラマンが交代で、プロのモノクロームの世界を投影し、若手監督がエネルギッシュな演出を魅せます。またゲスト出演者も名優揃いです。

 

荒波が岩に砕かれて東映マークが出たら、昭和の世界に引き込まれます。

ストーリーは、実際に映画を観て楽しんで下さい。

当時のポスター、出演者や監督などを中心に、遠い昔を思い出しながら、投稿します。

 

第19話「警視庁物語 19号埋立地」

第20話「警視庁物語 ウラ付け捜査」

第21話「警視庁物語 全国縦断捜査」

第22話「警視庁物語 十代の足どり」

第23話「警視庁物語 自供」

第24話「警視庁物語 行方不明」

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第19話「警視庁物語 19号埋立地」

監督:島津昇一 昭和37年  67分

 

ポスター左下は岩崎加根子。

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣

ゲスト:岩崎加根子、織本順吉、星美智子、新井茂子

 

19号埋立地の工事現場フォーク・リフトがすくい上げた土の中から、珠数を握った絞殺死体が・・・。

珠数を仏具店で調べると、日々教という新興宗教のものらしいという。

唯一の手掛かりである珠数の出所をつきとめるため、刑事たちは捜査を開始する。

浅草(東京都)のロケーションの風景が懐かしい。

 

ラスト、酒乱の前夫に愛想をつかし、幸福になりたいと思う女心。

警察署からおでんの屋台を引いて帰る主人公を、カメラがズームアウトするカットが切ない。

 

第16話「十五才の女」に出た新井茂子、今回は近所の奥さん役で、チョットだけ出演。

<新井茂子と花沢徳衛>

 

島津昇一監督は名監督“島津保次郎”のご子息。

TV映画の監督作品、波島進主演の「七色仮面」(昭和34年)や、「忍者ハットリくん」(昭和41年)が面白かった。初監督作品は大村文武主演の「月光仮面 幽霊党の逆襲」。警視庁物語は助監督を経て4本監督しています。

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第20話「警視庁物語 ウラ付け捜査」

監督:佐藤肇  昭和38年  58分

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣

ゲスト:井川比佐志、今井健二、小林裕子、八代万智子

 

浅草留置場に無銭飲食で逮捕された川村(井川比佐志)は、迷宮になっていた殺人事件の自供をはじめたが、本当の話か?

 

戦後の法律で「本人の自白のみでは罪にならない」をテーマに、捜査1課の刑事たちの捜査を描く。

ウラ付け捜査で、雪深い小地谷市(新潟県)にロケーションしている。

 

劇中、質屋に質入れする際、身分証明書として米穀通帳(昭和56年に廃止)を使用していたのも、今は昔。

 

監督の佐藤肇は、東映に入社し、「十七歳の逆襲 俺は昨日の俺じゃない」(昭和35年)で監督デビュー。警視庁物語は「ウラ付け捜査」「十代の足どり」の2作品を監督。

SF、ホラー映画に異才を発揮し、「散歩する霊柩車」(昭和39年)、「海底大戦争」(昭和41年)などを監督した。特に昭和43年の松竹映画「吸血鬼ゴケミドロ」は映像感覚が素晴らしく、クエンティン・タランティーノ監督が絶賛した。テレビ映画監督作品では「悪魔くん」(昭和41年)、「キャプテンウルトラ」(昭和42年)、「キイハンター」(昭和43年)などが懐かしい。

 

 

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第21話「警視庁物語 全国縦断捜査」

監督:飯塚増一 昭和38年  82分

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣

ゲスト:今井健二、星美智子、清水元、中原ひとみ

 

警視庁物語の長編(82分)、沖縄ロケ作品。

東京奥多摩で男の黒焦げ死体が発見される。遺留品のバンドのバックルが沖縄に関係あり、長田部長刑事(堀雄二)は沖縄へ飛ぶ・・・

沖縄本土復帰が昭和47年、本作が製作されたのは昭和38年ですから、返還前の沖縄でロケされています。

長田部長刑事(堀雄二)と沖縄の南風原部長刑事(清水元)>

 

ラストシーンは、上野駅構内での大捕物。

 

飯塚増一監督はイタリア映画のネオリアリズムに影響を受けて、映画への道を志したそうです。高倉健主演の「黒い指の男」(昭和34年)が初監督作品。代表作と云える警視庁物語を4本監督、「警視庁物語 全国縦断捜査」は沖縄本土復帰の願いが込められたドキュメンタリータッチの秀逸でした。

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第22話「警視庁物語 十代の足どり」

監督:佐藤肇 昭和38年   58分

ポスター中央は新井茂子。左は小川守。

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣

ゲスト:新井茂子、小川守、加藤嘉、三宅邦子

 

多摩川堤で十六歳の高校生、松本みどり(佳島由季)の死体が発見された。

被害者の母(不忍郷子)と姉(新井茂子)の悲しみ、十代の足どりを追って、捜査を開始するが、事件は意外な方向へと展開する。

女子高生殺害事件を切り口に、十代の生態を取り上げた異色作。

 

署に連行された不良学生・木元(砂塚秀夫)と刑事との「パジッて」の会話だけ、何故かずっと記憶にありました。

金子刑事(山本麟一):「彼女の姓名は?」

木元(砂塚):「知らないね!}

林刑事(花沢徳衛):「知らねぇ?」

木元(砂塚):「夕べ、ジャズ喫茶で、カウンターしたんだ」

捜査主任(神田隆):「カウンターにいたのか、その子は」

木元:「違うよ、判っちゃないんだね  誘って向かい撃つ、カウンターパンチのカウンターさ」

捜査主任:「なるほど で、何時ごろ」

木元:「みどりに振られて面白くねえから ストリップ見て それからパジッて」

捜査主任:「え?」

木元:「パチンコ!」

捜査主任:「ハハ、なるほど いろいろ言葉があるもんだねぇ」

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第23話「警視庁物語 自供」

監督:小西通雄 昭和39年  58分

ポスターは本間千代子と刑事役の今井健二。

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣、今井健二

ゲスト:本間千代子、楠田薫、浜田寅彦

 

東京ゼロメートル地帯の悪臭漂うドブ川から、行李(こうり)詰めの変死体が発見された。

被害者が“私設馬券売り”と判り、競馬場、居酒屋、血液銀行へと聞き込み捜査が始まった。

戦時中のシーンが丁寧に描かれ、戦争がもたらした母と娘の、切なくも愛しいラストが心に沁みる物語。

<本間千代子と母親役の楠田薫>

 

ゲストの本間千代子は「ナショナルキッド」(昭和35年)に出演していたのを覚えています。昭和33年・東映児童研修所の第1期生で、児童向け映画に出演後、「恋と太陽とギャング」(昭和36年)で千葉真一の妹役が本格デビュー。当時の東映は、やくざ映画やエロ映画が主流で、青春映画「君たちがいて僕がいた」(昭和39年)などに主演しましたが、人気はあっても本間の映画は企画されなくなったようです。役に恵まれず「大忍術映画 ワタリ」(昭和41年)を最後に東映退社、フリーとなっています。

<本間千代子>

 

 

 

 

川にゴミを捨てる女役で、谷本小代子再々登場。

<谷本小代子>

刑事:「もしもし」

女:「あらぁ~ うちだけじゃないんだよぉ この辺りじゃどこだって

   ゴミ屋さん、表通りだから 間に合わないんだよぉ

   衛生上良くないってのは 判るんだけどさぁ」

刑事:「私たちは警視庁から来たもんなんですが 事件の事でちょっと」

女:「あら ゴミの取り締まりじゃないの?」

谷本小代子は数秒映る脇役ながら、いつも熱の入った演技が楽しく、作品に欠かせない女優さんです。

「警視庁物語 追跡七十三時間」で映画デビューし、警視庁物語に12回出演しています。

その昔、東京に流れる川にゴミを捨てる人が多く、当映画でも問題提起しています。

 

死体を入れた行李(こうり)、あまり見かけなくなりました。竹や柳で編んだ箱形の物入れで、旅行の際に荷物を運搬するのに使いましたが、今日では衣類の保管などに使用しています。

<行李(こうり)>

 

血液銀行での売血シーンが出てくる。血液銀行は、いろいろな血液型の保存血液を集めて貯蔵し、必要に応じて提供する施設。昭和39年に輸血用血液を献血でまかなうことが決定され、5年後の昭和44年に売血が終息しています。

<血液銀行のシーン 南廣と花沢徳衛>

 

監督の小西通雄は、昭和29年、東映入社。

初監督作品は、高倉健、佐久間良子主演の「東京丸の内」(昭和37年)。

続いて新人監督の登竜門のような警視庁物語「自供」「行方不明」の2本を演出し、水準以上の出来であったと評価されています。

後にテレビドラマの演出に主軸を移し「キイハンター」から「Gメン‘75」までの東映製作によるアクションドラマの監督を務めた。

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第24話「警視庁物語 行方不明」

監督:小西通雄  昭和39年  58分

キャスト(刑事):堀雄二、神田隆、南廣、今井健二

ゲスト:大村文武、小林裕子、水上竜子、加藤嘉

夜残業をしていた技師、松井、小山(中野誠也)の二人が、突然行方不明になった。現場から血液反応が認められたため、警視庁捜査一課が出動した。

 

皮革工場の濃硫酸の液体タンクの中に被害者が・・・という不気味な展開。

学歴がものをいう現代社会が生んだ恐るべき犯罪。警視庁物語シリーズ最終話。

 

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<警視庁物語出演回数が多い俳優>

・捜査1課刑事役で皆勤賞(全24話出演)は、堀雄二、神田隆、山本麟一。

・味のある刑事役の花沢徳衛は刑事役で第1話から22回、もぐりの医者役で1回の計23回出演。

・須藤健は、第1話から刑事役18回、その他4回の計22回出演。

<堀雄二、須藤健、山本麟一、花沢徳衛、今井俊二(健二)、南廣>

 

・南廣は第9話から刑事役で11回出演。

・今井俊二(あとに今井健二に改名)は第3話から刑事役4回、その他6回の計10回出演。

<神田隆、花沢徳衛、今井俊二(健二)、南廣>

 

・鑑識職員の片山滉は第1話から15回出演。

<片山滉>

 

文中、敬称略としました。ご容赦ください。