東宝映画の名バイブレイヤー“沢村いき雄“さんの魅力(その1)の続きです。

大ファンだった沢村いき雄さんの名演を、映画の画面と共に邂逅しています。

妖星ゴラス(1962年)

燃える妖星(ゴラス)が地球と激突寸前! 人類を救うため、

科学者の地球軌道脱出計画なるか! 

本多猪四郎監督、円谷英二特技監督の特撮SF大作。

沢村さん(右)はハイヤーの運転手役。

後席は客(科学者)の池部良さん、上原謙さん。

客(上原):「時に運転手さん、あんたがたはゴラスがやって来た時は、

       どうするつもりかね?」

運転手(沢村):「星が衝突するなんて話ぁ、大昔から何回もあってさ、

          まだ1度だってぶつかったタメシはねえんでさ」 

と、いたって呑気。

 

天国と地獄(1963年)

エド・マクベインの小説「キングの身代金」を映画化した作品。

映画公開後、誘拐事件が起きて誘拐罪に対する刑の軽さが国会でも問題となり、刑法が一部改正「身代金目的の略取(無期または3年以上の懲役)」となりました。

走る特急こだまを使った緊迫シーンには驚きました。

 

沢村さんは横浜駅の乗務員役。

刑事(木村功さん)が脅迫電話の録音テープから電車の音を聴き取り、横浜駅の乗務員(沢村)が江ノ電だと言い当てる1分足らずの場面は、サスペンス劇「天国と地獄」の中で唯一笑える沢村さんの独壇場。緊迫感が続くストーリーの中で、観客に一息つかせる黒澤演出は見事で、事件を解決に導く重要なシーンとなっています。

刑事(木村功):「電車の音だ! 子供が監禁されていた家の近くを電車が

          通っている。 専門家に相談してくる!」

横浜駅の乗務員室で、

刑事(木村功):「江ノ電? たしかに江ノ島電車ですね」

 

乗務員(沢村):「間違いありませんよ。旧式のポールが架線に擦れて出る

          音で、カーブが多くて継ぎ目が多い江ノ電はガーコトン

          ガーコトンなんて言わねえ、ガタコンガタコンガタコンと来る

          んでさあ」

 

江ノ電(写真右)が、まだ旧式のポールで走っていた頃の映画です。

 

海底軍艦(1963年)

明治32年に押川春浪が発表した冒険活劇「海底軍艦」を、脚本の関沢新一が現代に置き換えてシナリオ化した本多猪四郎監督、円谷英二特技監督の特撮SF大作。

沢村さんは丸徳タクシーのドライバー役。

盗まれたタクシーの引き揚げ現場で、高熱体温の人間に襲われたと証言。

写真左から高島忠夫さん、沢村さん、小泉博さん。

 

赤ひげ(1965年)

“赤ひげ”は山本周五郎の世界を極めた黒澤明監督の力作で

黒澤監督と三船敏郎さんとの最後の映画作品となりました。

沢村さん(写真中央)は、むじな長屋の住人役。

 

フランケンシュタイン対地底怪獣(1965年)

怪獣映画としては初めての日米合作で、アメリカの俳優ニック・アダムスが出演しています。

本多猪四郎監督、円谷英二特技監督作品。

大きくなったフランケンシュタインと凶暴な地底怪獣バラゴンとが闘いますが、人間ではないフランケンシュタインの悲劇性や哀感が上手く表現されている佳作です。

沢村さんは住宅の主人役。写真左は水野久美さん。素敵です。

住宅の主人(沢村):「何て奴でしょうね。犬を殺して死骸を持っていくんで 

             すよ。食べるらしいんです。」

季子(水野):「浮浪児でしょうか?」

住宅の主人:「でしょうねぇ。終戦後にはたくさんいましたが、

         気を付けて下さいよ。何をするか判りませんからねぇ。」

 

日本一のゴマすり男(1965年)

植木等主演のバイタリティ喜劇「日本一の男シリーズ」第3作。

古沢憲吾監督作品。

沢村さんは自動車会社の守衛役。そこの新入社員、植木等さんとのコントが絶妙。

守衛(沢村)が、朝早く来た新入社員(植木)の名刺“中等”を見て、

守衛(沢村):「何だ、新入社員か。」

(名刺を見て)何だ、これ? 中等(ちゅうとう?)。」

中等(植木):「いえ、中等(なかひとし)と読むんですよ。」

守衛:「締まりのない名前だな。まぁ頑張り給え」

 

中等:「これ(名刺)、差し上げますから。」

守衛:「こんなもの差し上げられちゃったって、屑籠に捨てるだけだよ、

        君。」

このあとも二人のコントが続く。

 

キングコングの逆襲(1967年)

悪の科学者ドクター・フーの陰謀に、正義の怪獣キングコングが立ち向かう。

アメリカの俳優ローズ・リーズンとリンダ・ミラーが出演した本多猪四郎監督、円谷英二特技監督の日米合作の特撮映画。

沢村さんはモンド島の老人役。

モンド島の老人(沢村)とドクター・フー(天本英世さん)と手下(田島義文さん)。

 

沢村さんは1964年からはテレビドラマにも進出し、東芝日曜劇場、三匹の侍、快獣ブースカ、鬼平犯科帳、太陽にほえろ!など出演作品多数。

遺作は「メカゴジラの逆襲(1975年)」の真船家の老人役で、数か月後に逝去されました。最後まで映画人としてご活躍されています。

 

私の好きな黒澤作品、特撮映画が多くなってしまいましたが、沢村いき雄さんは江利チエミのサザエさんシリーズ、サラリーマン出世太閤記シリーズの山中為助役、加山雄三の若大将シリーズ、忠臣蔵(1962年・畳屋安蔵役),眠狂四郎無頼控シリーズ、宮本武蔵完結篇 決闘巌流島(宿の亭主役)、日本誕生(高天原の神役)などに出演。みな小さな役ですが記憶に残る役者さんでした。沢村いき雄さんの表情、伝わったでしょうか。DVD化されている作品も多いので、お楽しみ頂ければと思います。

                         《おわり》