保「あぁぁぁ!!あっつっ!!!!」




教室中に田村さんの悲鳴が響き渡る。




夏「た、田村さん!」


A「脱いじゃえよ〜ここで着替えたらいいじゃん〜どうせ女子校。女子しか居ないんだしさ〜」




そう、バカにされてる間も田村さんは熱さに苦しみ、蹲っている。




夏「た、田村さん、着替えよ。私の体操服貸すから!!」


保「ない


夏「え?」


保「ぬ、脱ぎたくない


夏「でも、そんなこと言ってたら火傷が酷くなるよ!ごめん!」





罪悪感と心配とでいっぱいになってしまった私は、田村さんの許可なくブラウスを脱がせ始めた。





夏「え



私は目を疑った。






下着姿になった田村さんの身体には無数の傷があったのだ。




切り傷


青あざ


火傷のあと




夏「た、田村さんこれ




どう考えてもA達がした嫌がらせのせいでは無い。




A「どーしたんだよ〜恥ずかしくなんかないだr...




うずくまっていた田村さんが立ち上がった瞬間、教室中がシンと静まり返った。









保「びっくりした?びっくりさせたくなかったからあんま見せたくなかったんよなぁ



そう言えば体育の着替えの時も、気づいたら田村さんはいなくなっていた。



夏「



保「こんなこと話したら友達になって貰えへんおもて。話したくなかった。でも話さないかん流れよな()ほのが転校してきたんは、最低なあいつから逃げてきたからなんよ。」





田村さんは少し歪んだ笑顔で話し始めた。





保「ほのはもともと4人家族。ふつーの家族やった。でもある日からおとあいつが酒に酔ってお母さんに暴力振るうようになった。」



保「お母さんはほのと、ほのの妹のひかるを守るために全部背負ってくれてた。でもとうとう私にも手を出してきた。お母さんが沢山暴力受けて気を失うと次はほのの番。ひかるを守らないとって思って、意識飛ばすまいと必死に耐えた。」



保「毎日毎日毎日毎日!!殴られ、蹴られ、ベルトで叩かれ。タバコの火を押し付けられ、熱湯を掛けられ



保「でも、ひかるが心配せんようにひかるの前では元気でおらなあかんと思った。やから毎日笑顔でおってん。」



保「そしたらな、ある日ほの、気づいてしもてん。ひかるの腕にあざがあること。」



夏「まさか



保「そう。ひかるが学校から帰って、ほのが帰ってくるまでの間に暴力ふるってた。」



保「もう我慢の限界で。だからあいつが出かけてる間にお母さん説得して3人で逃げてきた。」



保「お母さん、今は精神的にもやられちゃって、足が動かんくなってしもて、働けてないんよ。やから今、ほのが働いて何とか生活してる感じ。初日、昼から来たやん?あれは本気で寝坊した。前日の夜も遅くまで働いてて。学校で寝ちゃうのもいかんのは分かるんやけど、毎日学校終わってからずっとバイトしよるから、睡魔に負けちゃうんよな笑」



保「まあ、こういうわけやから、あんたらがいくら嫌がらせしてきても大したことじゃないねん。私からしたら。」



A



保「やからもう、ほっとってくれへん?私虐めても、夏鈴ちゃん虐めても、あんたらは人を虐めて快感を得ることにしか楽しみを見いだせてない、しょーもない人間ですって周りにアピールしよるだけやで。」



B



保「別に謝れとも言わん。夏鈴ちゃんには謝ったの見たし。許す気はあんまないけど、ほのは普通の生活がしたい。学校を離れると嫌でも現実見なあかんねん。みんなと話して遊んで勉強して。当たり前の高校生活を、味わいたいねん。やからもう普通に過ごさへん?」



夏「で、でも、私も、Aも田村さんに酷いことを



保「ほの。」 



夏「え?」



保「そろそろ、ほののこと、ほのって呼んでくれへん?(笑)夏鈴ちゃんは、ほのって呼んで、これからも仲良くしてくれたら許したるわ!(笑)」



夏「ほ、ほの。」



保「はーい!!ありがとう!夏鈴ちゃん!」




A「あの、保乃ちゃん。許してもらおうなんて思ってないけど、その、ほんとにごめんなさい。」



B「ごめんなさい。」



保「ん。わかった。これから普通に過ごしてな。みんなも!ちょっと暗い話しちゃってごめんな!」






話が終わった後はいつも通りの笑顔の田村さんだった。


いつもニコニコしていた笑顔の裏側にはそんな壮絶な生活があったなんて...


そんなこと微塵も感じさせなかった彼女はやっぱり強い人だ。






この一件があってからA達はとても大人しくなった。


私に対しての虐めはもちろん、保乃への嫌がらせも無くなった。



周りのみんなも、初めこそどう接しようか戸惑いが感じられてたが、保乃のあの性格のおかげもあって、今じゃ仲良くしている。



保乃はというと、相変わらずの笑顔で楽しく高校生活をエンジョイしている。





相変わらず、授業中寝てることも多いから、放課後のバイトまでの時間に私が勉強を教えたりもするようになった。




保「夏鈴ちゃん〜また寝てしもてた...起こしてってゆーたやん!!」


夏「ちゃんと起こそうとしたし。いくら揺すっても、先生に頭叩かれても起きんかったのは保乃やろ()


保「え、ほの、先生に叩かれてたん?やからかぁ〜なんか違和感あってんな〜」


夏「ふふっ。あ、今日の授業の内容、テストに絶対出すって言ってた。」


保「え、ほんま!?やばいやん!夏鈴ちゃ〜ん...お願い...教えて?」


夏「も〜またか。いいよ。」


保「やったぁ〜!夏鈴ちゃんありがとう!」






私の中にはまだ罪悪感がある。


保乃が嫌がらせされてるのに助けなかった罪悪感。


保乃に熱湯を掛けてしまった罪悪感。


本当に〝保乃〟と呼ぶことだけで、こんなにも許してもらえているという罪悪感。



こんな事じゃ、罪滅ぼしにもならないことは分かってる。 


でも、私に出来ることがあるなら何でもしたい。そう思うようになっていた。