「ひかる!来て!」
その声は私の耳に届いているはずなのに
身体が動いてくれなかった。
ここで夏鈴と天に着いていけば
ここから1歩踏み出して飛び降りれば
前みたいな楽しい3人の日常に戻れ…
…戻れるのか?
優しいふたりはきっと私のしてきたことを許してくれるだろう。
でも、どこかでは分かってるんだ。
“許されてはいけない”
「私は行かない。」
今の私がするべきことをする。
案の定、天は駄々を捏ねていた。
でも夏鈴は分かってくれた。
レオンも何か、夏鈴に伝えたみたい。
そして私から離れていく、2人の背中に向かって呟いた。
「…ばいばい。」
博「ひかる!ここにいたのか!被験者達は!」
ひ「ごめんなさい!目を離した隙に…」
博「くそっ!あと少しだったのに。まあいい、あいつらが警察に駆け込んでこの研究所のことがバレたらまずい。逃げるぞ!」
そこから急いで実験道具をまとめ、研究所を後にした。
研究所を出たら平和な日々が戻るかなと少し期待した。
私がご飯を作って
お父さんと仲良く食べて。
でもそんなことは無かった。
博「被験者からのデータは全て揃っている。あとはひかるが頑張れば…」
…ああ。あの苦痛が続くのか。
博「だからひかる。頼んだぞ。ひかるはいい子だからな。」
違うよ、私はいい子なんかじゃ…。
ひ「はい、博士。」
そんな日々に耐えきれなくなった日。
少し散歩に出た。
研究所があった所へ。
すると、案の定警察が調査していた。
思い出すのは夏鈴と天のことばかり。
夏鈴、ちゃんとご飯食べてるかなぁ。
…食べてないだろうなぁ…笑
探偵として活躍してるかなぁ。
…いや、引きこもってなにもしてないだろうな…笑
天のこと、守ってくれてるかなぁ。
…うん。それは大丈夫な気がする。夏鈴だもん。
にゃ〜
ひ「あれ?レオン着いてきてたの?」
にゃん
ひ「夏鈴達、元気かなぁ。レオン知ってる?」
にゃ〜
ひ「ん?元気だよ〜って?レオンは自由だもんね。私も自由になりたい。」
にゃん
レオンはサッと走り去ったかと思うと、何かくわえて帰ってきた。
それは翻訳機だった。
ひ「あ、やば。これ落としちゃってたんだね。ありがと。」
にゃっ
ひ「ん?使えって?」
レオンの言っていることは分からない。でも、そんな気がしたからボタンを押してみた。
ガガガッ
ひ「なんだ、壊れて…」
『ひかる、じゆう、なれ』
ひ「え?」
『かりん、まもる、ひかるのこと』
『だから、いく、ひかる、かりんのとこ』
正直お父さんの研究のことは信じていなかった。
この機械も適当なことを言っているものだろうと思った。
私の苦しみはなんの意味もないのだろうと。
でも、今のレオンの言葉を信じたくなった。
ひ「いいの?」
『ひかる、だいすきだよ』
そういうと、レオンはサッとどこかへ行ってしまった。
ひ「…ありがとう。今まで。」
私はこの機械を持って警察へ行った。
でも、信じては貰えなかった。
だから、週刊誌の出版社へ駆け込み、全てを話した。
そこはネタに飢えていたようで、信じてくれた。
夏鈴や天の存在も話した。もちろん名前等の情報は伏せて。
するとその記事が反響を呼び、警察も動かざるを得なくなったようで、家にやってきた。
色々耐えられなくなった私は家を飛び出した。
外は雨が降っていた。
私の心を写しているかのような土砂降りの雨。
雨の中。微かに猫の鳴き声がした。
藁にもすがる思いで、その声のした方へいった。
にゃっ
…こっちか。
にゃにゃっ
…次はこっちね。
気付いた時には知らない街並みが広がっていた。
でも目の前には見覚えのある文字が並んでいた。
…人違いかもしれない。
…同じ苗字なだけかもしれない。
でも。
コンコンッ
どうか
もう一度会えますように。
そう願いながらドアを叩いた。
出てきた彼女は前よりも少し身長が伸びていて。
でも、私の顔を見て見せた、キラキラした顔は変わっていなかった。
中に入ってデスクに座っていた彼女は少し痩せたのではないだろうか。
やっぱりご飯を食べていなかったんだろうな。
これからはたくさん美味しいご飯を作ってあげるから。
だから。
ひ「あの…拾ってください。」
すると、ずっと聞きたかった彼女の声が聞こえた。
夏「おかえり。」
天「おかえり!ひかる!」
ひ「…!ただいまっ!」
Fin.