■『十月の慈雨』
僕の起動力は
いつも
怒りだ
奥歯が摩耗する憤怒と
眦を焦がす憎悪
笑顔の裏にささくれ立つ悪意と
糸より細い針に含んだ害意
そんな自分は好きじゃない
冷や水を浴びせるように
常態を保とうとするけれど
些細な風に
舞い上がる火の粉
黒煙に炙られて
塵芥に汚されて
醜い自分が彫り上がる
悍ましさに
震えるとき
そんなときにも
僕は
君を
頼ってしまう
はた と
君を思い
我に 返る
面影の君の笑顔に
おずおずと瞳を合わせ
恥ずかしくなる
優しい響きの君の名前を
躊躇いながら呼んでみて
情けなくなる
広く厚く逞しい君の胸を
思い浮かべるだけで
優しくなる
僕の岐路には
いつも
怒りがあったけれど
それを 決して
悔いはしていないけれど
妹がいた頃は
彼女とだけは
目を逸らさず
話ができる僕でいたかった
ずっと ずっと
忘れたまま生きてきた
と 知らされる
愛する人が
この世に、いる
と いう
ただ それだけのことを
君は
僕の
十月の霧雨のよう
僕が錯乱する炎を鎮めて
僕の愛する涼気を誘う
しとやかな慈雨のよう
僕は
髪から雫をぽつぽつと
睫から雫をはらはらと
体中から雫をしとしとと
きりもなく
流しながら
うつむいて
ひざまずき
君の足許にくちづける
永遠に濡れ続ける
恥知らずな
しあわせな
しもべのよう
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