「巣」 | Silver_Arrow_74

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「巣」

長すぎた夏のせいで
間引きされた秋
一足飛びな気温の下降に
急激な変色を余儀なくされた
紅葉

夜勤明けに信号を渡ると
一直線の道の彼方から
朝焼けに目をやられる

目にしたくない物が多くて
くたびれた足取りで
俯いたまま急ぐ

エントランスの中奥に
安い坪庭が設えてあって
なにやら
悪しき物が溜まっていそうで
日当たりの濁りに
毎日 眉根を寄せる

濡れた踏み石に
紅葉が貼りついていて
不快だ

血を吐くほどの恋じゃなかった
愚かと言う文字にすら笑われるほど
節操も
分別も
見失い
ただ避けられて
立ち枯れる

消毒が必要なのだろう
夏の間 ずっと虫が湧いていた

階段を登るのもつらい
死んだ人のように
部屋へ向かう

先だってからの吐血は
食べ慣れないものに
久々に箸をつけたせいだ

分不相応なものを
口にしてはいけませんと
もう この先 一生
欲しがってはなりませんと
身の内からの警告だろう

それでもまだ
穢れが蓄積しているのだろうか
日に一度、二度
煮凝りのように禍々しい
朽ちた紅葉の塊を吐く

早く
雪になればいい
温みのない手で鍵を開け
ただいまと呟く

待つ人はみな
金字墨字の姿をし
もう 何も
欲しがらない
のに
贖罪のように水を替える

この扉に入り
この扉から出て
いずれ 入ったきりになる

早く雪になればいい
凍りつくまがい物の山水に
あの日の
紅葉の跡も覆い尽くし

胃の腑の底も凍らせて
もう二度と
もう何も
欲しがらぬよう
飢(かつ)えぬよう

なのにまだ
一直線の道の彼方から
射しこむ陽が充ち充ちて
手を合わせることも忘れ
伏して泣く

穢れが深く
身の奥深く
色づき損ね
青々と巣くっている


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