ある会社が、表面が黒く中身がわからない箱を自動販売機で売り出した。
形式としては中に小さなおもちゃが入っているガチャガチャに似ていたが、その箱は全く丸みをおびていず、しかも大きさもそれなりだったために、既存の販売機では対応できなかった。
販売地域もごく一部に限定されていたそうだ。
値段は大きさに不釣り合いなほど安かった。
大人達は、
「なんでこんなものが?」
「商売になっているのか?」
と首を傾げたが、子供たちの反応はシンプルだった。
「何が入っているんだろう?」
一日の販売個数が決まっていたために、様々な情報が乱れ飛んだ。
「かなり美味しいお菓子じゃないかな」
「1万人に1人、大金が入っているんだ」
「いや、小さなゲーム機だ」
けれど、しばらくすると噂はある一定の輪郭を持ち始めた。
「あれには、何かのパーツが入っているんだ」
それはもう決定事項のように、皆がそう噂していた。
発生源がわからないまま、噂は大多数の真実となりつつあった。
ただ不思議なことに、本当に中身を見たというものは現れなかった。
一時的なブーム。
すぐに子供たちも飽きる。
大人たちは、皆そう思っていた
しかし、異変はその販売機設置後、わずか2週間という短かい間に起こっていた。
最初に気づいたのは、小学校の教師だった。
子供たちの成績や運動能力が、急に跳ね上がったのである。
ある教師は奇妙な光景を目にした。
ボールにぶつかりそうになった子供の手が、関節を無視してグルンと回転したのだ。
手は華麗にボールをキャッチしたが、そのことさえ本人は気づいていないようだった。
また、ある教師は「日光を受けた子供の顔がツギハギに見えた」と言ったまま寝込んでしまった。
子供たちの様子と黒い箱の関係を怪しみ始めるのに、そう時間はかからなかった。
何か精神的に悪い影響を与えているのではないか?
疑わしきものは、排除すべき。
ただの商品ということに躊躇しながらも、大人たちは黒い箱の販売機を撤去する方針を固めた。
以下は、撤去時の一部始終を見ていた住民の証言である。
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……できれば、あんまり話したくないですけど。
ええ、わかりました。まぁ、少し気になることもありますし。
なるべく多くの人に知っておいてもらった方が良いかもしれませんね。
撤去自体はすぐでしたよ。
小さなおもちゃ屋をやってる店主に頼み込んで。
実は店主も困っていたらしくて、住民全体で商品の値段分補償すると言ったら、
すぐ頷きました。
え? 何を困っていたかって?
いや、会社の人が来なくなったとか何とか。
最初の頃は定期的に「当たり」を補充しにきてたらしいんですが。
ええ、急に来なくなったみたいです。
それで撤去自体はスムーズだったんですが、中の1人が
「実際、何入ってたんだろうね」
って言い出しちゃったんですよね。
まぁ、どうせ捨てるものでしたから。
もしかしたら子供たちの異変の原因となるような、
何かはっきりとした証拠が出てくれば警察にも行けますしね。
でもね。
私は正直見なけりゃ良かったと持ってますよ。
ほとんどの箱には、よくわからないゴムの切れ端が入ってました。
肌色でね。平たいものが多かったかな。
でも、しばらくして、箱を開けてた1人が
「うわっ」
と言って箱を取り落としたんです。
落ちた箱からは、
コロコロコロ……
と。
あれは……目でした。
あ、と言っても義眼というヤツですよ。
皆は一瞬緊張して、それから笑い出しました。
「何て悪趣味なおもちゃなんだ」
「一瞬本物かと思っちゃったよ」
ほとんどの大人たちが安心したように話し出しました。
「これなら、子供の様子がおかしくなるのもありえるなぁ」
……本当に、それだけなんですかね。
私は、どうにも安心し切れませんでした。
店主に聞いたんですが、「当たり」の箱には必ずそれとわかる小さな傷がついているそうなのです。
そして、私たちが開けた箱には全て傷が付いていませんでした。
もちろん、あの義眼の箱も。
じゃあ、一体「当たり」の箱には何が入っているんでしょうか。
私はそれが気になって、眠ることも出来ません。
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ある男の子の証言
「1週間ぐらいしたら当たりが急に増えたんだよ」