Kさんは介護度5で全身麻痺のある
気管切開をされている方だった
身体がとても大きい方でもあり
始めの頃はとても怖かった
と、言うのも送迎に行く時は
1人でその大きな身体のKさんをベッドから起こし
車椅子に移乗して、連れてこなければならない。
最初は起こすのも恐々だし
ベッド上に起こしても、後ろに倒れてしまわないよう
支えながら、車椅子へ移乗する。
Kさんの奥さんはその様子を
心配しながら見ていただろうなぁと思う
見られている私も緊張だ
Kさんは経口摂取できない為
お昼の時間はベッド上に寝ていた。
デイには、廊下を挟んだ先に食堂があった。
だから昼食時はそちらへ移動しなければならない。
その為少しの間
Kさんがフロアに1人になる時間があった。
昼食が終わった方から口腔ケアをし
フロアに戻るそのタイミングで
その日のリーダー職員も一緒に戻る。
そのリーダーがTちゃんだった。
Tちゃんがフロアに戻った所で
Kさんの様子がおかしい事に気づいた
Tちゃんは少しパニックになりながら
大声でナースを呼んだ。
すぐさま駆けつけたのは私の尊敬するナースだった。
私も驚きながらも、他の利用者さんもいるので
遠目で様子を見ていた。
呼吸や、心臓に耳を当て確認しているナースの姿
そしてベッド上に上がり
心臓マッサージが行われ始めた。
その光景は今でも思い出せる
必死で心臓マッサージをするナースの額に
汗が滲んでいるのがわかった。
絶対助けたい
そんな気持ちが伝わってくるように
息を切らしながらマッサージをし
何度も何度もKさんの名前を呼んでいた。
その時、他のナースもいたのだが
眼科しか勤めた事がないと言い、何とも頼りないナースで
とてもじゃないけど心臓マッサージなんて任せられない
そう思って代わってもらう事は考えていなかったという。
そして、その横で呆然と立っているTちゃん
そこにいたって、何ができる訳でもない。
それなら他の利用者さん対応すればいいのに…
この騒ぎで、他の利用者さん達も
不安になりはじめている。
しばらくすると、救急隊員が到着。
心臓マッサージを代わってもらったナースが
状況を説明する。
私はこの時
ナースってすごい
特にこのナースがすごいんだけど
看護も介護もオールマイティーって
本当にすごすぎると思った。
そして…
残念ながら、Kさんは亡くなってしまった。
その日リーダーだったTちゃんは
なぜか数時間ほど勝手にいなくなっていた
後々本人から聞いたのだが
今回の事があまりにもショックで
仕事を抜け出し、彼氏に慰めてもらっていたと
この彼氏がまた、同じ職場の二股男という…
何かもう、クソだなと思った
悲劇のヒロインぶって
まるで自分のせいでこうなってしまった
みたいな口振りだった。
しかも勝手に仕事抜けて彼氏に会いにいくとか
あなたなんかより、命を助けようと
必死に頑張っていたナースのが
よっぽど無念だったと思うよ
とは言えなかったけど…
それからも仕事では嫌なこと
本当にたくさんあったけれど
尊敬するナースがいてくれておかげで
私が頑張る事ができていたと思う
そんなある日先輩から驚くべき事を聞いた
あの私を目の敵のようにしていたナースが
私の仕事ぶりを褒めていたと言うのだ
嘘でしょ、怖い怖い
と言うのがまず思ったことだった
まぁでも、私には目標があったから
あなたに何も言わせない
仕事をしたい
その原動力があったからこそなのかなと。
でも
段々と私を理解し、私を受け入れてくれる
そんな職員の人たちが増えたから
自分の立場を守りたくてそんな事言い出した
なんてひねくれた思いにもなった。
何はともあれ、自分の力で
ここまでこれた事は本当に嬉しかった