高齢の御婦人が雑踏の中、小声で囁いた。















シアワセ?















その手が触れていたお連れの方は、虚ろな表情をしたまま・・・無言で前を見つめていた。




その目に映るイルミネーションにも、人波にも、街中の光景にも・・・まったく心を動かしていないようだった。















シアワセ?







届いてはいなかったのだろう。















彼らの傍らを



海外からの観光客とおぼしき一団が賑やかにすり抜けて行った。















家電量販店の大きな紙袋やお土産物を抱え、カーニバルの群れのように。














ホテルのある方向へと流れてゆく。















シアワセ?















世界へ呑み込まれていった言の葉だけが・・・あたしの耳の中に小さく残っていた。
















ねぇ・・・シアワセ?

















sin/綾羅