10月になろうとしている。
カーニバルのような夏が終わり、少しの肌寒さを感じつつ、冬の準備をする。そんな季節だ。
夏はグラスに汗をかきながら持て囃されたのだったが、秋という季節はそれを感じた途端に消えてしまうようで儚い。
だからこそ美しいのかもしれない。
ちょうど、夜景になってしまう前の夕暮れのようだ。
私はグラスの中に1300万個の星のような空気砲を創り、下から上に昇らせた。

彼と別れたのは10年前の今頃だった。
突然彼の前に現れた安い女。
私にはちょっと似てたけどね。

そう思い出して心の中で苦笑した。


彼と別れた後、財務省で働き始めた私は、10年前を思い返し、これから進めるプロジェクトに興奮し、身震いをした。
復讐のシナリオである。
秋の夜空が更に自分を冷たくしているような気がした。


10年前に現れた第三のビールは、今や発泡酒のシェアを追い抜き、全体の3割近くまでに成長した。
一方、ビールはというと、発泡酒と第三のビールに追われ、20年前の半分にまでシェアが落ち込んでいるのである。

気に食わないのは財務省だ。
ビールで税金がとれないのだから。
現在のビール系統の酒類の税金徴収では麦芽比率で課税額が決まる。
つまり、麦芽比率が50%未満の発砲酒や、麦芽が使用させていない第三のビールなどは同じビール類でも税金が安い。

今年、財務省ではビールメーカー各社の明暗を分ける酒税法改正が検討されている。
ビールメーカー各社との無益ないたちごっこにピリオドを打つべく、新たな施策である。

警視庁と厚生労働省は、脱法ドラッグの法律逃れを阻止するためにその名称を『危険ドラッグ』とした。

同様にビール・発泡酒・第三のビールを一括りとして、税金をとればいいじゃないか。
なぜそんなに簡単なことに今まで気づかなかったのか。

財務省の新たな施策とは、今後これらのビール系統の酒類を一括りとし、統一した呼び名で世間に知らしめる。
統一した呼び名はやはり『危険ドラッグ』同様に分かりやすい方が良い。

財務省が決めたビールの新名称。
それは、


『お酒ビール』だ。



『食パン』と同じ原理である。
食べれるパンなんて当たり前の話だ。でも今では誰も疑わずそう呼んでいるではないか。
定着すれば違和感はないはずだ。

『お酒ビール』には、350ml缶に対し一律して77円の税金をかける。そうすれば、全ての『お酒ビール』が約200円の販売価格になるのだ。

ビール復活劇の幕開けね。

そもそも『第三のビール』って呼び名もどうかと思う。イギリス映画みたいに気取っちゃって。
ギネスが言うならまだしも、あなたなんてパチモンじゃないの。
『お酒ビール』が可決されれば、あなたの勝ち目はないわ。

私から彼を奪った『第三の女』もこの世から消えるときが来たようね。

そう囁いて壊れたライムグリーンの羅針盤をみた。


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