ザンクト・ガレンはスイスの北東部に位置する、人口75000人ほどの街です。
ここには7世紀に聖ガルスによって建てられた小屋に起源を持つ、ヨーロッパでも最も古い修道院のうちのひとつ、ザンクト・ガレン修道院があります。
伝説では・・・
ガルスは師匠である聖コルンバンとその他の弟子たちと共に、アイルランドからキリスト教の布教をしながらローマを目指していました。
その途中、ミューレネン渓谷にやって来た彼は、うっそうと生い茂る草に足を取られて転んでしまいます。
ガルスはこの出来事を 《神の啓示だ!》と感じ、その地に留まる決心をしました。
彼は、この地に小さな僧院を建て祈りの場にすることにしたのですが、ここには恐ろしい熊が出没して人々を怖がらせているというのです。
ガルスが焚き木を集めていると、件の熊が現れました。
ガルスは、熊にパンを与え、小屋の建設を手伝うように諭します。
熊はパンのお礼に僧院の木材を集めるのを手伝い、その後二度とこの地には戻らないと約束したのだそうです。
この伝説は今では、街のあちこちにレリーフとして残されています。
こうしてガルスが建てた僧院こそ、現在のザンクト・ガレン修道院の原型です。
ガルスの死後、僧院のあった場所に建設された修道院は、重要な教えの場として成長していきました。
印刷技術のなかった当時、本を書き写す 《写本》 という作業は修道士たちにとっての重要な仕事のひとつで、修道院には書物の保管と写本作業の場として図書館が併設されるのが普通でした。
ザンクト・ガレン修道院の図書館には、9世紀までには既に古代の文献を含む貴重なコレクションがあり、ラテン語で書かれた福音書の写本、ドイツ語で記された最古の本、現存する中では最も古い羊皮紙に描かれた大聖堂の建築設計図があります。
宗教革命を生き残った修道院は、アルプスの北部地域で最も重要な修道院の一つに数えられ、1767年に図書館は、美しい木工細工、天井画、化粧漆喰が組み合わさった美しい後期バロック様式の現在の姿に改装されました。
1805年、再編成されたザンクトガレン州は修道院を閉鎖しましたが、図書館は保存することに決定。
その蔵書は16万冊、中世期の文献では世界最大級のものとなっています。
写真 The Baroque Library of St Gallen © St.Gallen-Bodensee Tourismus
木製の床を傷つけないため、見学者は大きなスリッパを靴の上から履きます。
また、図書館内は撮影不可、バッグ類もすべてロッカーに預けて見学しなければなりません。
これは、たぶん貴重な文献の盗難を防ぐためと思われます。
ガルスがこの地へやって来たのが、612年。
もとは何もなかったこの地は、ザンクト・ガレン修道院と共に発展していき、やがてザンクト・ガレンという街になりました。
1983年には世界遺産に登録された修道院と図書館は、2012年には聖ガレスがこの地にやって来て1400年の節目を迎え、様々な式典が催され、聖ガルスにまつわる古い宝が公開されました。
図書館の貴重なコレクションを見るために、世界中から年間10万人以上が訪れます。