※こちらも短編という、他とはクロスしないお話です。
『運命』という言葉は好きじゃない。
そんなもので全てを差し出せる程の私は短絡的な人間でも無いし、それを言うなら必然的と表現した方が納得出来るからだ。
不確かで偶然とは表現するには説明が出来ず、何時起こるかわからない瞬間をそう言う人はきっと将来に何かを期待し、これから来るであろう幸運を待っているのではないか?と私は感じていた。
では幸運とは?
今ある環境を不満に感じる人間が更に異なった素晴らしい未来を夢見る事で、今現在納得している人間にはそれが幸運とは限らない。
それは正に天文的な確率の問題であり、その幸運や奇跡を呼ぶには―――。
「うるさいわよ!いいから明日帰って来なさい!」
「だからどうして?勝手に決めないでよ!」
「お母さん達が卸している組合のお偉いさんが電話を下さったのよ?知ってる?組合長て市場を管理しているイさんの親族で凄いお金持ちなんだから」
「知らないし、興味も無い。いきなり組合長の話出されても何の感想も出ないんだけど!」
「兎に角帰って来て。貴女に会わせたい人がいるんだって」
「誰?仕事に関係ある人?」
今の個人クリニックに利益になるのなら会ってやってもいいけど、田舎の組合長の知り合い等がソウル市云々に関わりがあるとは思えない。
だが、その考えの返答を返すとは思っていない母親の言葉を聞いて、
ウンスはスマホを持ったまま固まってしまった。
「何言ってんの?帰って来たのよ、あの子が―――チェヨン君だっけ?あんた、小さい頃よくあの子と遊んでいたじゃないの。
今こっちに来ているから是非ウンスも来て欲しいって組合長が―」
「・・・・は?・・・あの男帰って来たの?」
『運命』とは幸運や明るい特別な何かで構築されたものである。
これ程ない突発的で不条理で反吐が出る程の顛末(てんまつ)。
あれは最早【事故】だ。
私はそう記憶を切り替えていた――。
あれは大学2年の夏休み実家に帰っていた時だ。
その時私が何をしていたのかというと、田舎の図書館に数年ぶりに行ってみようと母親の自転車に乗り向かっている途中だった。
見慣れた街並みだったが、少し離れただけで懐かしい気分になるのだから少しはホームシックになっていたのかもしれない。
そんな事を考えながらゆっくりと走らせていると、前に似た様に自転車に乗り同じ方向に向かっている男性の後ろ姿を見つけ、
その後ろ姿に見覚えがあり思わずウンスが声を上げると前の自転車が止まりその男性が後ろを振り返った。
「・・・あ」
やはりその男性は小学校からの同級生で高校、大学は違う為最近は見掛けていなかったが、小さい頃の可愛らしい顔はすっかり男らしく整い、体も運動でもしているのか大きくなっていた。
「やっぱり、チェヨンじゃない」
「・・・ユウンス」
とはいえあまり話した事は無かったし、彼は女子にはモテていたが男子と遊ぶタイプで何時もサッカーをしてグラウンドを走り回っている姿しか覚えていない。
「今夏休みなの?」
彼も自分と同じソウル市内の大学に進学した事は母親達の噂話で知っていた為、尋ねると小さく頷いて来た。
・・・本当にあまり話さないわね。
「ユウンスは?」
「私もよ、一昨日帰って来て暇だから図書館に行こうかと・・・」
「俺も行こうと思っていた」
「あらそう?じゃあ一緒に行きましょう」
「・・・ああ」
チェヨンはウンスをチラリと見ると再び前を向いて自転車を進め始めて行く。
「・・・一緒に行くのは嫌だったかしら?」
あまり此方を見ない彼に、
ウンスは肩を竦ませながらもチェヨンの後を追って行った――。
あの時、私の何が彼を駆り立ててしまったのだろうか?
私の起こした行動といえば、彼と暫くの時間本を読み違う本を探そうかと椅子から立ち上がり本棚に向かっていた。
本棚の向かいの窓には本焼けしない様ずっと締め切られたブラインドに手を伸ばし、窓の外の薄い夕焼空を確認しもう帰ろうか?と小さく呟いただけだった。
その何気ない仕草が彼の情欲を煽ったというのだろうか?
そんなバカな話があるか。
もしそれなら彼の欲求不満のハードルの低さとその精神状態を疑うレベルだ。
夕暮れが綺麗だわ。
薄いグラデーションに一瞬だけ気を取られていたその時――。
自分の背後に誰かが立った気配を感じ彼だと振り向こうかと思ったが一瞬だけ頭を掠めた寒気。
異様な気配と狂気めいた重圧、そして荒い息遣い。
この館内のカウンターには司書もいるし、そんな危機感など持つ必要も無かった筈なのに。
何故か足元から駆け登る危機感に押し出されるまま窓から離れ様と足を踏み出そうとしたが、
それは叶わなかった。
ガシャガシャと耳に響く煩い音を鳴らせ、身体を押し付けられたウンスは咄嗟に叫ぼうと息を吸い込んだ。
だが、
「叫ばないで」
優しい声とは反対に押さえる手と口を塞いで来た手の力は強く、ウンスは顔だけを振り返り背後にいるチェヨンを睨み付けた。
声は出せないがウンスの憎悪に満ちた眼差しで自分を避難されている事はわかっていた筈なのに、彼はそれでも静かにウンスを閉じ込め間近から凝視している。
言葉とこの状況の違和感さにウンスのこめかみがひくつき始めていく。
「近くにいた時はわからなかったが、離れてよくわかった」
――言っている意味がわからないわ!
荒い息遣いと共に吐き出す言葉に背中の鳥肌が止まらない。
この男性は少しおかしい。
会わなかった数年間で彼に何があったのか?
癖で考えてしまい大人しくなった隙にチェヨンはウンスが着ていたシャツの襟を後ろから強く引き伸ばし首や項が露出されていき、慌てたウンスは手を上げたが素早くそれさえも片手で押さえ付けられる。
「・・・やめっ―!」
必死に上げた声は思わず上擦ってしまった。
しかし、次の瞬間露出した白い肩に今まで経験した事が程の痛みが走った。
「きゃっ!」
人に噛まれるなんてと衝撃と驚愕に唖然と固まってしまったウンスをチラリと見たチェヨンは、
濡れた唇を離すと短く息を吐き出し次にはシャツの中に手を這わせていく。
「・・・今はいないけど、少ししたら司書が戻って来るかも」
――だから声を出すと恥ずかしいんじゃないか?
あの時すぐ様あの男の手を振り払い、服が崩れていても必死に逃げれば良かった。
見つかったら自分だけが恥をかき、狭い田舎に話が広まってしまう。
そんな事を考えていた自分が馬鹿だったと気付いたのはあの後、
後ろも振り向かず逃げる様に家に帰ってからだった――。
「何で私があの男と会わなくちゃいけないの!嫌よ!」
「でもお世話になっている組合長さんからのお願いだし、無下には出来ないわよ」
――・・・あの男、何か手を回したんだわ!
あんな異常者!
変態、最低と罵っても平気な顔をしていたあのチェヨンの顔は二度と見たくない。
あの男はあの後短い息を背後で吐き出しながら自分に言い放ったのだ。
「これは『運命』だと思って」
②に続く
△△△△△△
まだヨンの性格が見えないなぁ。
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