
契約恋人⑦
次の日、まだ怒りを内心に残したままウンスはクリニックに出勤した。
パソコンを立ち上げメールの確認をすると、昨日帰ったすぐ後なのかチェヨンからのメールが届いており渋々内容に目を通すが、
『何を話してもユウンスが怒る内容ばかりだが、
これだけは知って欲しい。
欲求を満たす為では無かった。
最低な行為だと理解もしている。
助けを求めていた事も事実だ。
だけど、他の人間では嫌だった。
ユウンスに助けて欲しかった。』
「助けるとか何?
チェ家のしきたりだの掟だの私には関係無い!」
あの時の出来事は、コチラの許可も承諾も無い時点で加害者と被害者という立場であり、彼の言葉はただの自分勝手な言い訳だ。
この10年間自分が黙っていたおかげで彼は普通に大学を卒業し、会社にも務める事が出来た。
それだけでもありがたいと自覚しろと、ウンスはメールを閉じた。
ウンスが言った通りにあれから2週間経っても、チェ製薬会社の商品は変わらずに売れ、その都度ちゃんと納品されている。
チェヨンからのメールは業務連絡の内容だけで、この間の様な言い訳めいた内容はあれ以降無くなっていた。
そもそも彼は大邱市に帰っている為、ウンスが街中を歩いてもばったり会う事も無いのだ。あの後再び彼の叔母さんから電話が来て謝罪してきたが、短い会話だけをして直ぐに切った。
「チェ家の問題は私には関係無いもの」
無理矢理チェヨンは私をその問題に引っ張り込もうとしたのだろうが、先ずその考えが身勝手過ぎる。
「・・・しかも婚約者に話すだなんて呆れるわ」
鼻で笑いカルテを整理していると、奥部屋にいるウンスを呼ぶ声が聞こえた。
「ユ先生、お電話です」
「お客様?」
「違います。初めて聞くお名前なので、タン様という方から」
「・・・タン?」
――チェヨンの婚約者?
あの日声は聞いたが姿は見ていない。それでもチェヨンへの話し方でお嬢様なのだろうと想像はついた。
チェヨンの叔母さんの話ではアメリカ支社にいたが両親と共に帰って来たという。
チェヨンと夫婦になると信じていた様で、彼が結婚を申し込むまで健気に待っていたのではないだろうか?
あの男の為に?
そう考えるとこの女性の方が可哀想だと思う。
「はい」
『ユウンスさんですか?』
やはりあの日に聞いた声でウンスはもう一度はいと返事をすると、その女性は自分を『タンメヒ』と名乗った。
彼女の話ではチェヨンを紹介されたのは15歳の時で、まさか自分があのチェ家の一員になれるだなんてと驚いたが、それでも嬉しかったという。
『チェ家の話は小さい頃から聞いていたし、彼を見て好きになりましたから・・・』
「・・・そうでしたか」
婚約者に選ばれ嬉しかったが彼からの連絡は一切無く、それでも彼女は待ち続けたと話した。
こんな可愛いらしい婚約者ははたして彼に相応しいのか?
もっと良い男性がいるのではないか?
ウンスは女性の方が心配になったが、本人が彼を好きなのだからそこは何も言えない。
『彼が何故あんな事を言ってきたのか意味がわからないので・・・』
「そうですよね・・・」
『・・・ユさんは、ヨンと何時から知り合いだったのですか?』
「え?遡れば小学生の頃からにはなりますが・・・それでも彼は中学生の時に引越しましたし、そこからは何も・・・」
『・・・』
「・・・?」
『では、どうして彼が襲ったなど言ったのでしょうか?』
――・・・あれ?何か雲行きが怪しくなってきてない?
『その事実はあったのですよね?』
「は、はぁ・・・それは、確かに」
『やはりお付き合いがあったのでは?』
「違います!大学生時代実家に帰った時にチェヨンも帰郷していて、その時しか・・・」
『そこで再会する何かがあったのだと?』
「え、ええまぁ・・・」
お淑やかな女性だと思っていたが、まるで尋問の様な空気に徐々にウンスも押され気味になっていた。
やはり婚約者のプライドがそうさせてしまっているのかもしれない。
ウンスは素直に答えていたのだが――。
『今更彼を訴える事などしませんよね?』
「・・・は?」
『どういう状態だったのかはわかりませんが、聞くと結構昔の様ですし。もう少しでヨンはチェ家を継ぐ事になりますから今更その話を持ち出すなんて事はしないで頂きたいんです』
「・・・・・」
『私がお話したかったのはそれだけです。失礼します』
そう彼女が言うと、通話は切れた。
――・・・・え?
唖然とスマホの画面を見ていたが、え?と再び声を出す。
まだ夫婦では無い筈なのに、彼女の話し方はチェヨンの妻そのものだ。
「・・・数年間待っていたせいで、こうなったとか?」
自分の男に手を出すなと言わんばかりの圧にウンスは呆けてしまうが、被害者はこちらだと我に返った。
「・・・もしかしたら彼女も危険人物かもしれないわね」
自分はもう関係無いんだからこれ以上は・・・。
――・・・無いわよね?
チェヨンもだが、このタンメヒにも関わらない様にしようと決めたウンスだった――。
通話を切ったメヒはギリと唇を噛んでいた。
『チェ家の婚約者に選ばれた』
父親から言われた時は嬉し過ぎて飛び跳ねてしまう程だった。国の中でもTOP5に入る程の大きな製薬会社で元々の由緒あるチェ家に自分が選ばれた。
メヒは嬉しくて周囲にも自慢したかったが、正式に発表されるまでは言ってはならないとの事で必死に耐えていた。
その後会社の懇親会で初めてチェヨンを見て、爽やかな姿に未来の旦那様が彼かと満足し早く公表をとその時を待った。
・・・だが、いくら経ってもチェ家からは何も発表はされず、チェヨンに至ってはコチラに連絡さえして来ない。
「私は彼の婚約者なのよね?」
「そうだ。だが、今はまだその時では無いのだろう」
父親はそう言うが、彼もまた少なからず焦っているのか頻繁にチェ家に接触を始め、それでも1年経ち、3年経ち、何も変わらなかった。
「騙されているんじゃない?」
友人がそう心配して来たのもあり、とうとうメヒはヨンに電話を掛けた。
しかし、忙しいからと会話は出来なかった。
何時かはきっと・・・。
だが、高校生に入った頃会社の都合によりタン家はアメリカ支社へと転勤が決まってしまい、悲しみに何日か泣き絶望しながら過ごしているとある日会社の上層部だけでの食事会でヨンと再会できたのだが・・・。
「君か」
何故話し掛けて来るのか?と不思議な顔を返された。
・・・え、それだけ?
彼の反応に驚いたが、ふと初めてヨンと会った際の会話が甦えった。
まだ中学生の時で勉強や趣味の話をし、その流れだったかもしれない。私が婚約者だと知らなかったのだろう、彼は素直に答えていた。
「――ヨンは今好きな人とかは、いるのかしら?」
「・・・まあね」
「付き合っているの?」
「いや・・・でも話はする」
「告白はしないの?」
「嫌われて、話せなくなるのは嫌だから・・・」
「ふーん・・・」
思春期男子特有の気持ちだとその時はそう思ったのだが。
その後、数年待っても自分とヨンの関係は一向に進まずやはり連絡は来ない。
しかしヨンは既に会社に就職もし働いているという。
――だったら何故連絡してくれないの?
父親もチェ家に対し疑心暗鬼になり始めている様で、そんな父親にヨンとの結婚を催促出来る空気ではなかった。
彼を信じてはいるがもうチェ家を諦め様と違う男性と付き合った事もある。
それでも、やはりあの大企業と関わるなんて二度と無い幸運なのだと暫くして再び彼を待つ、諦める、それの繰り返しだった。
――そして、遂にヨンから連絡が!
アメリカから帰って来た数日後ヨンからのメールで話があると来て直ぐに返信をした。
「ほら、やっぱり彼は考えていたのだわ!」
彼も今年から本社に転勤になった。
会社を継ぐ準備が出来たという事かもしれない。
数年ぶりに会ったヨンは、更に周囲が見惚れる程の聡明な男性になっていた。
だが、
彼の話はとんでもない内容だった。
彼はまだその女性を好きという。
しかも、好き過ぎるが故に女性を無理矢理襲っただなんて。
自分が妻になるのだから、男の火遊びなど大目に見ると広い心でいたかった。
なのに――。
『何言ってんのよ!ふざけないでよ!!』
隣の部屋から壁を殴りつける音と女性の怒鳴り声。
驚きに固まったが、瞬時にヨンが椅子から立ち上がる。
「ユウンス?」
咄嗟にヨンの顔を見ると、驚愕している筈なのに近くに彼女がいたのが嬉しいのか何故か優しい目を向けてもいて。
自分には興味無さ気にこちらを見ようともしなかったくせに――。
・・・数年前からそうだった?
私は貴方の婚約者なのよ?
だが、彼はそのまま大股で部屋を出て隣りに向かって行く。
「待って、ヨン・・・!」
廊下に出ようとすると2人の声が聞こえて来た。
「本当に訴えるわよ?!」
「だから、訴えていい!」
「あ、わかったわ!私が訴える事で婚約を破棄にしようと企んだのね?その考えが最低って言っているのよ!」
「・・・わかっている」
「女性を何だと思っているの?物じゃないのよ!」
――彼は、婚約を破棄にしたかった。
その言葉に呆然と立ち竦んでいると女性は怒りのままその場を去って行き、部屋から出ないメヒの前を横切って行った。
白い肌の綺麗な横顔は真っ直ぐ前を向き、赤茶色の柔らかそうな長い髪を風になびかせ歩いて行く。
薄いピンクのスーツは細いスタイルに似合っていて知性的にも見えた。
――彼女が“ユウンス”?
彼が中学生の時から好きだと言っていた女性だろうか?
バシン!と激しい音がし、メヒが慌てて廊下に出ると年配の女性がヨンを叩いたらしく俯いたヨンは頬を抑えていた。
「馬鹿たれ!何て恥知らずな!謝っても謝り切れないだろうが!」
怒りに叩いた手を震わせ、女性はヨンを睨んでいたが彼は頬に手を当てたまま直ぐ顔を上げた。
「わかっている」
「わかっとらん!ウンスさんに何て事をしたのか!」
「俺は彼女をずっと待っていた。訴えて来たら謝罪し続けようと、来なくても彼女の為に動こうと・・・」
「はぁ?何だ?それが償いか?」
「それもあるが、ずっと昔から決めていた事だ。彼女と付き合いたい、出来るなら結婚もしたいと」
「・・・まさか、大学生の頃からお前の様子がおかしくなったが・・・その時に・・・?」
大学生時代にヨンはウンスに失礼な行為をした。
そこから彼女の為に様子が変わっていったという事か?
叔母さんが目を薄め睨むが、ヨンは黙っている。
だが、それが答えだった。
「はぁ、何て事だ・・・」
今色々とヨンが会社内で動いている事はわかっている。
おそらく着実に社長の座に座る為だろう。
それとは別に心配もしていた。
30歳だというのに、婚約者に興味が無い。
だからといって別な女性と付き合う訳でも無い。
だから、ユ家と言って来た時に不思議に思った。
まさか、過去にそんな事があったとは――。
甥がやった意味もわかっている。
どうせ自分の評価を下げる事で婚約破棄を狙ったのだろう。会社の中でも立場が危うくなるだろうがそこは嫡男で会社を継ぐ事は決まっている。歳を取ろうが何時かは社長だ。支社を転々とする覚悟もしていたのかもしれない。
だからといって何たる愚行か――。
「好きな女性に毛嫌いされては意味が無いと思うがな」
「それも自覚している」
「お前の思考が理解出来ん!」
ガックリと肩を落とし叔母さんは歩き出し、ふと前にいるメヒに気が付いた。
「この子は見ての通り馬鹿者です。結婚しても良い未来は無いでしょう」
そう言うと頭を下げ去って行った。
「・・・騒がせてすまない」
ヨンの声にメヒは彼を見ると、
彼もまた視線を落としメヒを見ようとはしない。
「俺は昔からしぶとい性格だし、女性もこの人だと決めたらもう変えらない。貴女と良い夫婦になる事は無いかと思います」
失礼します、そう言いヨンもレストランを去って行く。
――・・・何なの?
私は一体何だったの!
数年間の期待と諦めを何度繰り返したか!
持っていたバッグを床に投げつけようとしたが、動きを止め去って行ったウンスを思い出した。
彼女はヨンとこれ以上関わりたくないと言っていたではないか。
私はヨンのご両親からは承諾を得ている。
――・・・要はあの女がヨンに近付かなければ良いだけの事。
婚約破棄なんてするもんですか。
破棄さえしなければ私はヨンとずっと婚約者のままよ。
様子を見るとあれからあの女性がチェ家に関わっている様子も無かったが、念の為に彼女のクリニックに電話をした。
通話を切った後メヒは口元を歪ませ、スマホを再びタップし、
「お父さん?チェ社長に私達が帰って来た事は教えたのよね?だったら、ヨンのご両親とお食事をしましょうよ!」
『いくら女性と付き合おうが構わないが、お前には許嫁がいるからな』
中学校から帰って来たヨンにいきなり両親はそう言い、その言葉に肩に掛けていた鞄を床に落とし唖然と両親の顔を見つめた記憶はいまだに覚えている。
『意味がわかりません!勝手に決めないで下さい!』
『これは名家を狙って来る者達からチェ家を守る為で、遥か昔から受け継がれている事なんだよ』
『昔の事を受け継ぐ?今は現代ですよ?そんな時代錯誤な!』
『チェ家はこの国でも知れ渡っている家でもあり、製薬会社も海外にも支社がある。迎えるヨンの嫁だってしっかりした家でないと・・・』
父親が話す婚約者の家は、朝鮮時代より前から何らかの繋がりがあったという。
戦争で本貫を離れ散り散りに別れてしまったが、チェ製薬会社が国内外に名を広め始めた頃にタン家が族譜を持ちチェ家にやって来た。
どうやらチェ家の中でタン家と婚姻した者がいたといい、骨もチェ家が管理していたという事だった。
その後はタン家も何かと製薬会社に関わる事になり、数年経ち待望の女の子が生まれたとチェ家に報告があった。
『可愛らしい子だよ、写真を見て・』
『興味ありません!』
出して来た写真を見もせずヨンは2階の自室へと入って行った。
――・・・何なんだ!婚約者?
俺はまだ中学生だぞ!
ドラマじゃあるまいし!ふざけている!
ヨンは両親では埒が明かないと叔母の家に電話を掛け話をすると、何と叔母はそのタン家自体に疑問を持っているという。
『チェ家が身内からしか嫁を取らないという情報は少なからず噂は広まっているし、仕方のない事だがわざわざ高麗時代まで遡り持って来るだろうか?』
「怪しい家なのですか?」
『怪しくは無いが、戦争時代に財産を奪われ没落していたのかもしれない。
だから、チェ家に関わっていたと知り飛び付いた』
「俺は嫌です!知らない子と結婚なんて!」
『・・・寺に確認したら、そういう事があったかもしれないと。戦時中に無くなった物もある為、確証は無いが族譜に入れたのならそうなのだろうと言われたよ』
「何でそんな事をしたんだ!知るかよ、そんな昔の話!」
ヨンは頭を掻きむしり、声を荒らげた。
誰の血が流れているだの、由緒ある家だの、そんな事を重要視している事が既に時代遅れなのをどうして気付かない!
両親はその直系にあたり、やはりその決まり事を大事にしている。きっと母親も近しい者から嫁いで来たのだろう、会話の中からそれを感じてもいた。
だけど、自分は嫌だ。
自分には好きな人と恋愛し、結婚をしたい。
だけど、今はそんな人もいないのは確かで――。
「・・・・・」
――いない訳ではないが・・・そんな事・・・。
恋人だ結婚なんて言うレベルで無いし、言った途端絶対嫌な顔をされるとわかっている。
「中学生だぞ、当たり前だ」
――あぁ、本当に嫌だ、この家は。
会社の上層部だけが呼ばれている懇親会にヨンも呼ばれ、つまらなそうに椅子に座っていると同年代の少女がヨンの隣りに座って来た。
――誰だ?コイツ。
「私タンメヒって言うんだけど・・・」
――タン?・・・ああ、コイツが。
「チェヨンです。・・・何か?」
「ここ、大人ばかりでつまらないわね」
「そうだな」
短く返してもまだ質問をして来てヨンはため息を隠しながらも答えていた。
「――ヨンは好きな人とかはいるのかしら?」
話の流れでそんな話を聞いて来たメヒを睨みそうになった。
だが、ふと頭に浮かんだ事を口に出す。
「・・・まあね」
――いない訳ではない。
「付き合っているの?」
「いや・・・でも話はする」
「告白はしないの?」
「嫌われて、話せなくなるのは嫌だから・・・」
向こうは単なる同級生としてだし、何なら小学生から自分の事はつまらない奴だと思っている可能性もある。
昔の記憶だが、ウンスから声を掛けられたのをまだ覚えていた。
「アンタ、入りたいなら自分から言いなさいよ」
「・・・別に混ざりたいと思ってない」
「そうかしら?黙って見ている段階で遊んでいるのが羨ましいのよ」
「うっ」
図星を突かれてヨンはウンスを睨んだが、ウンスも睨み返して来た。
「今男子達野球やりたいみたいだけど人数が足りないみたい」
「彼奴ら馬鹿なのか?野球は9×9でやるのにクラス男子全然足りないじゃないか」
「アンタ頭良いんだから、別けてサッカーでもやりなさいよ」
「・・・」
ヨンは無言で男子達の集団に向かって行った。
あれがきっかけで、ヨンは男子達と遊べる様になり毎日が楽しい日々だった。
その後中学生になってからも、ウンスと廊下で会ったり合同授業の際は時々話をしていたと思う。
仲は良いとは思うがそれだけだった。
なのに、告白してフラれたら次の日から自分はどんな顔で話せば良いのか。
メヒは短い会話でも納得したのかその後もいくつか質問をして来ていた。
おそらく自分と婚約者だと聞いているのかもしれない。
――あまり好きなタイプじゃないな。
しつこさや図々しさはウンスに似ていなくもないが、そこでは無く自分にも好みの見た目だってある。
だからなのか、自分の中でこの少女に何の感情も芽生える事はなかった。
それでも嫌だと思っても決まり事は変わらない。
しかも高校は両親の引越しと共にソウル市になってしまい、ウンスと話す事は更に無くなってしまった。
高校時代に時々友達だった男子達からは連絡が来たが他からは来る筈も無い。その間執拗くタン家からの連絡は来たが、自分が返事をする事はなかった。
大学2年生になり夏休みにチェ家の実家に行きたいと1人大邱市に戻った。
空き家状態になってはいるが、時々業者に頼み掃除や雑草の手入れだけはしているという。
――・・・今かもしれない。
裏庭に物置代わりにしている古い家があった筈で、中にチェ家に関する何かがあれば助かるかもしれない。
この現代に時代遅れな事などしていられるか。
――駄目なら最悪の事だってしてやるさ!
「何だよ、大した記録は残っていないのか?」
国の資料館に幾つか寄贈した話も聞いていたので、古い資料を期待した訳ではなかったが・・・。
「チェ家の族譜は何処だ?」
探しても見つからない。
両親が一緒に持って行ったか?
電話で叔母に尋ねると、持っていると話しヨンは今直ぐ行くと電話を切った。
「何でもいい。断れる何かを・・・!」
自転車に乗り走っていると後ろから名前を呼ばれ、
聞き覚えのある声に驚き急いで止め後ろを振り返った。
するとそこにいたのは、
「やっぱり、チェヨンじゃない」
――・・・あ。
半袖のシャツから出た白く細い腕を上げ振っている姿は少し大人っぽくなっていたが、
「・・・ユウンス」
明るい声と口を三日月の様にニコリと笑うあの表情は変わっていなかった――。
――・・・今、彼女を傷付けている事はわかっている。
―・・・ギリギリの所で止めるつもりだし、殴られたらそのまま受け止める。
だが、身体を硬直させてしまったウンスはまさぐるヨンの手を払う事無く、ヨンも彼女の表情を後ろから伺いながらも自分の消え掛かる理性を必死に抑えていた。
白い肩に歯を立てたのは失敗だった。
痛みで我に返り逃げるだろうと想像した自分の愚かさと、内心ウンスに謝罪しながらもやはりそうだったのだと思い知った自分の想いのせいで手が止まらない。
――・・・やばい。
喉が渇いていくし、下半身が重くもなってきた。
一瞬躊躇し、
手を腰から下げていこうとした時、ウンスが思い切り腕を振って来てヨンを突き飛ばした。
素直にそのまま離れるとウンスは後ろを振り返る事なく走り図書館から去って行ってしまった。
「・・・本当にごめん」
ヨンは上がりそうになった熱を必死に下げながら何度もそう呟いた。
――ユウンスが俺を訴えてくれないだろうか。
チェ家の落ちこぼれだと世間に広めてくれ。
恥知らずな男と結婚したい女性なんている筈が無い。
自分は支社をたらい回しにされてもいい。
その間ウンスに謝罪し償っていく。
だが、ウンスがヨンやチェ家に謝罪を求める事はなかった。
「・・・・・」
彼女は医大に通っているとの話だった。
ユウンスの性格なら必ず医者になる筈だ。
今までチェ家が嫌だったが、
製薬会社でこれほど感謝した事はない。
ヨンは1つの計画を遂行すると決めたのだった――。
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