
誓約恋人㉓
ヨンがあっさり承諾した事に叔母と秘書は大丈夫か?という不安な眼差しを送ったが、それを横目に彼は彼女達の内心を呼んだ様に大丈夫ですと返した。
「あぁ、そういえば本社の方々も視察に来ると聞きましたが?」
「まあ、本社の奴等の考えそうな事だよ」
「始めだけの勢いでそのうち下がっていくと嘲笑っているのかもしれませんね」
「なら気をつけな」
「承知しています」
ヨンはテーブルの上にあったその女性の書類を持つと一旦実家に戻ると言い部屋から出て行ってしまい、その後ろ姿を見送っていた秘書は心配そうな瞳を叔母に向けていた。
「・・・ヨン氏が何を考えているかわかりませんが、ウンスさんがどう思うか心配です」
「女性側としてかい?」
「・・・え、ええ。恋人がいるのに、関係者の娘さんを近くにだなんて・・・」
「ほうほう?」
何時もあまり感情を出さない秘書の女性らしい面を見て叔母はニコニコと笑い、焦り気味に秘書は違いますと否定をした。
「私はただウンスさんがどう思うかと・・・」
「ウンスさんを心配するのは良い事だよ、後々チェ家の関係者になるのだから」
静かに話す叔母を見ていたが、秘書は再び眉を下げる。
こちらはそう捉えているが本社関係者の一部はまだそこに不満を抱いている者もおり、それがこの書類ではないだろうか?
しかもイ部長の娘とは。
メヒとはまた違う面倒くさい関係者だと秘書達は考えていた。
メヒの様に裏から手を回す人物でも無く、大手化粧品会社の社員だったその女性からは何の粗も出てこなかった。
凛とした表情は自分の仕事に自信を持ち、自分を磨く為に色々な知識も得ていると写真からも見て取れる。
――こういう女性が一番手強いのよね。
ウンスがけしてそれに負けるとは思っていない。彼女の美しさや仕事に対する姿勢は素晴らしいと感じる程で、ウンスと関わっていく度に秘書達はウンスを気に入り始めていて、彼女ならチェ製薬会社を存続させる事が出来るだろうと、表情が穏やかになった叔母やヨンを見てそう感じていた。
それなのに――。
実家に一旦戻ったヨンは着替えや必要な物を車に詰め、運べない物は後から業者が来ると家にいた使用人に伝えた。
「では、ソウル市のお家はヨンさんが使っていくと決まったのですか?」
「ああ、元々名義変更は既にしていたからね」
中身もリノベーションし既に様変わりしている事を話すと使用人は少し間の後、
「あれだけ広いですから、ご家族が増えても大丈夫そうですね」
「・・・そう、だね」
「楽しみです!」
にこりと笑う使用人を見ていたヨンは焦りながら目を逸らし、
後は頼みますと言うと車を発進させたのだった――。
次の日、
本社内部では、イ部長の娘がヨンの会社のスタッフとして合格した事が伝わり少し騒ぎになっていた。
婚約破棄問題はヨンの体質もあり深くは問えないと思っていた上層部は、直ぐウンスと付き合い始めたヨンに疑問を持ち、
「あれは精神的な事だったのか?」
「思うのだが、彼の好みの問題なのかもしれないぞ?」
そして、それに気付いたイ部長が先手を打ったのだと悔しがった。
イ部長の娘はまだ20代で若く大学卒業後はとある有名化粧品会社に就職し、事務職ではあったが優秀な逸材との噂があった。
真面目なイ家らしく遊ぶ等もあまり無かったと聞き、チェヨンに紹介するには適していると納得する他ない。
――何の魂胆があって彼の会社に入れたのか、安易に想像出来る。
先を越された上層部の面々は、渋い顔をお互い見合わせるしかなかった。
「全く、面倒くさいね・・・」
叔母は疲れた様に自室のソファーに座り込み、内容のあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れたため息しか出ない。
あまりにもうんざりし、
「だったらヨンを呼ぶ。甥の会社は全て甥が指揮を取っているのだから本人に交渉して欲しい」
と伝えていた。
その言葉に何か思案している彼らの顔を思い出し、アホらしいと再び呟く。
・・・が。
それを承諾したヨンにも呆れてもいた。
「何を考えているのか・・・」
イ部長の娘はイ・サラといい、ヨンの会社では営業部の管理事務をする事に決まった。流石に大手化粧品会社にいただけあって物覚えも良く商品に入っている各成分はパンフレットを読んだだけで把握してしまい、業者からの連絡もそつ無くこなしていた。
「それは箱での発注とバラをお願いしていた筈です。パッケージは似ていますが、中身にアルガンオイルが入っているか無いかで違いますので・・・3日後には展示したいので早急に配送をお願い致します――」
「・・・」
「・・・」
近くにいたチュソクとトルベは無言で顔を見合わせると、静かにその場を離れて行く。
「可愛らしい顔だし仕事は出来るし、ありゃモテるだろうに」
「はたしてあの仕事面まで見て社長は採用したのだろうか?」
「と、いうと?」
「意外と社長好みの・・」
「うーん?」
あまりにもタイプが違うし、何ならチェヨンは綺麗な女性が好みなのだと思っていたのだがと彼の恋人であるウンスを思い出し、チュソクは首を捻った。
オープン前にヨンがウンスを連れて来たのを遠目から見ただけだが、あれはどう見ても女性側よりもヨンが夢中なのだと直ぐにわかったのだ。
彼女がチュンソクに挨拶をする時も、業者に声を掛けていた時もヨンの目が威嚇のそれで、しかもそれ以外は店舗説明や上階の説明等をさも誇らしげに話し、それもまた彼女に褒めて欲しい様子を醸し出していた。
――・・・何つぅか、下手くそだな。
見た目は最高なのに、中身が思春期覚えたばかりの男並みに不器用すぎてチュソクは“チュンソクさん、アドバイスしてくれよ”と絶対言わないであろう人に丸投げし放置したのだ。
あの後普通に仲良く帰ったのだから、もしかしたらウンスも気付いていなかったかもしれない。
「・・・あ、そこはウンスさんわかっていたのか?」
数年ヨンの下に付いていたが、今彼がとてつもなく浮かれているのだけは会社の社員は皆知っている。
だが、その勢いで他の女性にまで気が向く様なら何人かの部下を失う事にもなるだろう。
「・・・違うと思うけどな」
とりあえず、チュソクは今の己の意見を述べるだけに留めておいた――。
「・・・ん?」
ウンスは配送されたチェ製薬会社からの包みを見て微かに違和感を感じたが、気のせいかと箱を開け始めた。
中身はいつもの美容液や店売用の商品が入っており納品書が入った封筒を取ってから、一瞬手を止め、
「んっ?」
もう一度箱の宛先を確認した。
直ぐ様納品書の封筒にも目を通してそれを何度か繰り返し口をへの字に曲げると、
「・・・気のせいかしら?この字が女性のものに見えるんだけど?」
宛先や納品書に書かれた字も今まであったヨンの字では無く、丸みのある字体が何故か女性の字に感じてウンスはまじまじとその紙を見つめてしまう。
最近彼が忙しい事は知っているし、新しい会社で人事も変わったと聞いていた。なので、これもそれの1つなのだと、毎日メールや電話も来るのだから気持ちが変わっていない事も知っている。
――しかし、このもやもやは何なのか?
「・・・彼って他にも契約したとか?」
他店や病院等に卸す様になれば仕方ないと納得するが。
・・・納得・・・?、いや、それはわからない。
今週末に会うのだから、そこで確認すれば良い事だが小さい事をつつく重い女だと見られても嫌だ。
・・・・・。
・・・。
「・・・・・はっ?」
気付いたらスマホに手を伸ばしている自分に慌てて耐える。
「いやいや、こんな女絶対嫌われるって!」
自分は特別では無くなったのか?等と吐く女の何処が可愛いというのか?
「耐えて、私!週末になれば何気に聞けば良いんだから!」
こんな自分を好きというヨンは自分のどんな所が好きなのか?
小さい頃からだとしても、この感情を出すには醜すぎるしあまりにも小さい人間だ。
「大丈夫大丈夫、私はそんな人間じゃないんだから、うんそう!」
そう言いながらもウンスは、
普段捨ててしまう封筒や宛先シールを丁寧に引き出しにしまったのだった――。
㉔に続く
△△△△△△
目敏いウンスは直ぐに気付いたヨ。б(´・~・`)
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