
誓約恋人㉕
「・・・・そうなの?」
ヨンの周りに集まっている製薬会社の上層部とその中でしきりに自分の娘の内定を喜び彼に礼を言う父親。そして実は製薬会社の関係者だったサラさん。
何となくついこの間も似た様な光景を見た気がするが、その違いはヨンが承認しているかいないかの差だろうか。
彼女の父親を見ると会議室で見た事もあり、重役ともわかる。
まるで自分など見えないかの様に彼らはヨンに話し掛け、サラの優秀さを褒めていた。
「・・・・・」
以前彼の叔母さんが話していたのは代々チェ家の婚約者はチェ家と関わりがあった家から娶っていたという内容で、ヨンはそれを馬鹿馬鹿しいと跳ね除けタン家と婚約破棄後は自分と付き合い始めたがそれに納得していない者も必ず内部にはいるだろうとウンスは自覚していた。
そう考えると彼女はその条件に当てはまりサラの内心は見えないが、父親はきっとそんな狙いは持っている筈だろう。
自分よりも若く可愛らしい女性で仕事も優秀、ヨンが採用したのなら彼もその才能を認めているのだから。
――・・・私が、ここに来る意味は何なのか?
朝のご機嫌など一瞬で下がり、この店に来た事さえ後悔している自分がいた。
ヨンは上層部とサラの話を終わらせ1人ウンスの元に戻って来た。
「今日は会社の新作も発表する予定なんだ」
「へぇ」
「実はそれをユウンスのクリニックにも送るつもりだった」
「・・・それを教える為に今日呼んだのかしら?」
少なからずウンスの声の不機嫌さを感じ取り、ヨンは見下ろし顔を見つめて来ると、
「いいや、違う」
「は?」
更にウンスの中で苛立ちが増していくが、ヨンは腕時計を見て此方に直ぐ視線を戻した。
「もう少し時間があるから、良かったら部屋で待つ?」
――疲れてもないし、ヨンの社長室に行きたい訳でも無い。
わかっているのかそれとも再び彼は自分の事しか考えなくなったのか、ヨンの言葉に少し前の醜い気持ちが膨らみ始め思わずヨンを睨んでしまう。
「別に疲れていないけど?」
「・・・」
睨まれたヨンは一瞬目を広げたが、あぁ、と小さく声を出してそうかと呟いた。
「じゃあ、店内で少し待っていてくれないか・・・サラさん」
「え?はい!」
呼ばれたサラはまだ父親の近くにいたらしく、慌ててヨン達の場所へと走って来た。
「ユさんと店内で少し待っていて欲しい。出版社の方がまだ来ていないんだ」
待っていたのは国内外のファッション・美容等を紹介する雑誌の記者達で、ヨンの新店プラス新作コスメの取材があるという事だった。
「ずっと取材が途切れませんね」
「いや、いいんだ。敢えて受けているのだから」
2人の会話を聞きながらウンスはヨンが普通に女性と話しているではないかと拗ねていた。
無表情のヨンに対しても彼女はニコニコと話を聞いているのだ。
――・・・笑顔で返事してくれたら、誰だってねぇ。
店内にある待ち合い席を勧められウンスがそこに座るとヨンが手を握ってきたが、それに対応する気は無かった。
「何?」
「・・・いや」
何も無いと言いながらも手を離さないヨンにウンスはちらりと店内に視線を巡らせ、少し離れた場所にいる上層部の人達を見つけると、
「今は仕事中でしょう?」
と言い手を引いたが、
すると、ヨンは少し口篭りながらも話があるんだと言う。
「今話す内容?」
「え、いや、後でゆっくりでも・・・」
「だったら後にして」
「はい」
彼に返す言葉が全く柔らかくならないとわかっており、自分の不機嫌の原因も把握しているのに長年拗れた性格は素直に聞く事が出来ない。
そんなウンスに気付いているヨンはまだ傍から離れず、何かを話そうとして来る。
――・・・あー、参ったわね。
最初から教えてくれなかったヨンに腹が立つし、知らずに彼女を可愛らしいと褒めた自分も恥ずかしい。
以前の自分ならもう少し冷静に考えていただろうか?
誰かを好きになるという事は考えや視野がこれ程に狭まるものだったなんて――。
「・・・はぁ、こんな事になるとは」
「・・・」
ウンスの呟きにヨンの手がぴくりと止まり、話そうと開けた口を静かに閉じた。
少しの間、誰も離さない2人の席にサラが飲み物を運んで来てテーブルにどうぞと置くと遠慮がちに話し出す。
「ダージリン茶ですが、ユさんのお好みに合うか・・・」
「いえ、ありがとうございます」
「それとチェ社長、出版社の方から電話がありましてもう着くとの事でした」
「ああ、そうですか。・・・ユウンス、少し離れるのでここで待っていて」
「ええ」
短い返事のウンスを見てからヨンは再び店の外へと出て行った。
「今日は色々とお客様が多かったんですね、そんな時に来てしまってごめんなさいね」
謝るウンスに目を丸くしたサラが見つめ、どうしてですか?と聞いて来る。
「ユさんはチェ家から認められているのでしょう?何時遊びに来ようが大丈夫ではないでしょうか?」
――・・・チェ家全体から認められているのかはわからないけど。
「・・・それは、何と言って良いのか。でもお店の大元は製薬会社でチェ家だけが、という事ではありませんから」
「そ、それは確かに・・・」
「私は思うんですよ、“婚約者”とはいえ一部だけが認めただけでは何らかしらのいざこざが起きる位にチェ家って難しいお家なんだなぁと」
前回は本人が認めなかった。
今回は会社役員が認めていない。
ヨンの身体云々では無く、結局は自分達に有利な者がチェ家と繋がらないと不満を持つという事なのかもしれない。
「サラさんは、彼が採用したのよね?」
「はい、以前いた会社を辞めたばかりで父親が受けてみないか?と言って来ました。でも“あくまでも採用するのはチェ氏だから”とも言われまして・・・」
「でも受かったのだから、サラさんは優秀なのね」
「そんな事はありません!」
パタパタと手を振り謙遜する姿は本当に焦っているのか、何とも可愛らしい姿だった。
ウンスがした事も無い初々しい仕草と、人に対しての柔らかい雰囲気は同性でも好印象しか与えない。
ウンスはにこりと微笑みサラを見つめると、
「・・・チェヨンは人としてどうかしら?」
すると、
ウンスの問いに一瞬だけ動きを止めたサラはウンスの目を見つめて来たがすぐ様視線を逸らし、
再び見つめて来た時には営業用の笑みを作りそうですねと返事をした。
「チェ社長は若いのに凄い才能を持っていると思います。きっと社長ならチェ製薬会社も大丈夫ではないでしょうか?」
当たり障りの無い返答だったが、ウンスには彼女の表情で直ぐ気が付いた。
――・・・あぁ、やっぱりこの女性もヨンを狙っているのだわ。
先程の会話からちらほらと此方を伺う言葉が入って来ており、持っていたのかと思う程に女の勘が働いていた。
何故チェ家だけがウンスを認めている事を知っているのか、既にヨンと恋人関係なのも常に誰かから聞いていたのだろう。それを彼女は知った上で、ヨンの化粧品会社に入ったのだ。
確かにサラの方が年齢的にも若く、肌だって滑らかでそれと比べられたら勝ち目は無い。
負けないとしたら、それは彼をどれ位理解しているか?
・・・だったのだが。
――・・・何を考えているのか、あの男は。
膨れ上がる苛立ちにヨンが戻って来たら小一時間説教をしたいとさえ思い始めている。
まさかとは思うが、自分と彼女を天秤に掛けたなどと吐いたら、即座に頬を張り倒したい。
――怒るべきか、それとも大人な自分を見せるべきか?
「・・・少しお聞きしたいのですが」
先に問うて来たのはサラだった。
「何でしょうか?」
「ユさんは幼なじみと聞きましたが、チェ社長のどこに魅かれたのですか?」
「・・・・・」
にこりと笑みを作ったまま今度はウンスが一瞬止まってしまう。
実は彼のどこを好きになったのか?
と聞かれると、“これです!”
というものがウンスには無かった。
顔か、身体か、性格か。
はっきり言って、彼は昔とそう変わっていないので何もギャップで好きになった訳では無い。
それに最初は嫌いでもあった為、ヨンのここが魅力的、と定めたものは1つも無いのだ。
「・・・」
「・・・」
ニコニコと笑顔のまま何も言わないウンスにサラも、次の言葉を掛けて良いかわからずその顔を見ているしかない。
「・・・あ、何か私失礼な事聞いてしまいましたか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
しかし、ウンスはサラの返答はしない。
気まづい空気のままサラが顔を横に向けた時、丁度ヨンが出版社の人達を連れ帰って来た。
「あ、では少し失礼します」
サラはウンスに頭を下げるとヨンの元へと近付いて行き、その後ろ姿を見ながらウンスは口に手を当て半分顔を隠す。
――・・・大丈夫よね?
私焦った顔してなかった?
サラの顔が一瞬呆けていたので何かしらは気付いたかもしれない。
確かにヨンを恋人として好きなのは確か。
誰かと仲良くしているのを見て腹が立つのは焼きもちなのも自覚している。
では彼の何が好きなのか?
「・・・・何も思い付かないんだけど・・・?」
彼に対する独占欲や執着心を持ち始めたのだから、きっと好きなのだと思う。
――・・・え?
私を好きなヨンだから自分は好きになったのだろうか?
「・・・ユウンスは何かあったのか?」
椅子に座っているウンスが何やら考え込んでいる様子に心配になりヨンは近付いて来たサラに聞くが、彼女も不思議そうな顔でよくわからないと話し出した。
「具合が悪くなったか?」
だが、先程ウンスは違うと言った。
朝はにこやかにしていたのが徐々に不機嫌になっていき聞くべきかとヨンも様子を受かっていたのだが、まるで聞くなと言わんばかりに返事がつれない。
実は、
今日ウンスを招待したのは新作コスメの発表もあるが、彼女との関係をチェ家やチェ製薬会社の関係者になると公に発表するつもりだった。
製薬会社の上層部が何を考えているのか予想は付きその差し金だろうとわかった上でサラを化粧品会社に入れたので彼女を信頼している訳では無いが、同じ社員として仕事面はかなり優秀だとわかり意外だと驚いた。
とはいえ、
彼女に対して特別な感情は湧く筈も無く、
サラが上層部に何の報告をしているのか位しか興味はなかった。
「・・・あの」
「何か?」
ウンスを心配し始めたヨンにサラは先程ウンスと話をした事を話し出し、
「もしかしたら私、失礼な事を聞いてしまったのかもしれません」
「何をです?」
「あの、ユさんはチェ社長の何処に魅力を感じたのですか?と。
・・・あ、はは、恋人同士なのに何を聞いてしまったのか、と――ッ」
だが、サラは次の言葉を出す事が出来なかった。
見上げたヨンの眼差しがとても冷たく、
瞳の奥には怒りをも含んでいる様に感じられ思わず身体を硬直してしまい、
ヨンはサラに対しその強い眼差しを刺す勢いで暫く睨んでいたが、それで?と聞いて来た。
「ユウンスは何て言いました?」
「・・・何も」
「そうですか」
それだけ言うと、ヨンは戻って来たチュンソクを見つけ其方に歩いて行ってしまった。
唖然とヨンの背中を見ていたサラは、ちらりと椅子に座っているウンスを見て再びヨンに向く。
「・・・この2人ってどういう関係なの?」
ラブラブなのかというとそうでは無く、長年の夫婦の様な関係にも見えない。
お互い好き合ってはいるのだろうが、ウンスがそう反応をするだろうとヨンは何故かわかっている様だった。
――自分の質問にヨンが何故怒ったのか?
ウンスに聞いて欲しくなかったの質問だった?
チェ社長があの女性を凄く好きなのは、よくわかったのだが――。
「・・・チッ」
――・・・余計な事を。
ヨンは思わず舌打をしていた。
漸くウンスと恋人同士になったが、自分の中で1番の不安はそこだったからだ。
何故自分と付き合っているのかとウンスが冷静に考え始めたら、ヨンはただひたすら彼女が結論を出すまで大人しくしていないといけない。
自分は長年ウンスだけだと思ってきたし、それを大きな声で言う事も出来る。しかし、ウンスは自分がした愚行を許し恋人という立場を了承してくれた側であり、やはり嫌いだと言われたらもうそれに従う他はないのだ。
離れる気は更々無い。だが、ヨンとウンスの気持ちの差が違う事も重々承知している。
あまり気付いて欲しくなかった部分をサラの言葉のせいで、ウンスが考え始めてしまったのかもしれない。
ヨンは今直ぐにでも離れないで欲しいと縋りたかったが、それも怖く感じウンスの傍に近付けず、
チュンソクと話をしながらちらちらとウンスを見ていると、考え込んでいたウンスは徐に椅子から立ち上がり店から出て行こうとした。
「え、ウソだろう!」
慌ててヨンはウンスを追い掛け店の外で手を掴み、待って!と声を上げ、いきなり手を掴まれたウンスは驚き振り返ったがヨンだとわかると、何だと見返し、
「何?どうしたの?」
「それはコチラの台詞だ。どうして出るんだ?」
――まさか帰るのか?
ヨンの言葉にウンスは更に困惑顔になっていく。
「何で私が帰るのよ?帰る様に見えたって事?」
目を薄め少なからずウンスの機嫌が悪いのがわかる。
あぁ、そうでは無く。
俺が言いたいのは――。
「・・・だったらどうして、外に・・・」
「人が多くなってきて涼しい空気を浴びたかったからよ。理由もわからないのに待たされてもつまらないもの」
「・・・ユウンス、怒ってる?」
先程から彼女の棘のある話し方にヨンが尋ねると、ウンスは小さくため息を吐き何でもないと言う。
「何でもない顔じゃない」
「むっ」
言い当てるヨンにウンスも眉を顰めてしまう。
「そもそも私この場所に来る必要あったのかしら?先にお店のイベントを終わらせた後でも良かった気がするんだけど」
「ユウンスがいないと」
「いても、上層部の方々は渋い顔になるだけよ?」
「上層部の奴らなど関係無い!」
語気を強めたヨンにウンスは黙り、ジッと眉を顰め見上げている。
今日、サプライズとしてウンスにするにはお互いの気持ちが違う事も重々承知していた。それでも、焦る自分がいて早く彼女の返事が欲しかった。
離さず握っていたウンスの左手を少し上げると、指を撫でる。
意味がわからないと更に不思議そうな顔になったウンスを見ながらヨンは片手をポケットに入れ小さな箱を取り出した。
「・・・」
「・・・何・・・」
言おうとしたウンスの口がポカンと開き、ヨンの手元を凝視している。
ヨンの大きな手の平の中にはハイブランドのマークが付いた小さなガラスケースがあり、中には外の日差しに反射して光るダイヤが付いた指輪があった。
「・・・」
「・・・」
「・・・付けていいか?」
「・・・は、え?はあ?!」
ウンスは驚愕してヨンの顔を見上げると、
次には咄嗟に彼の脛を蹴っていた。
「いっ・・・!」
「そういう所よ!全く!」
「ユウンス・・・?」
「店前で渡すなんて何てセンスの無い・・・!何で、格好良い所が無いの、貴方は!」
「ユウンスが怒って帰りそうだったので・・・」
必死に止めようとした結果、先に指輪を出してこんな場所で指にはめようとしたのか?
やはり、この男は最初から何かズレている。
「・・・あぁ、わかったわ。私がチェヨンの何に魅かれたのか・・・」
「え?」
ぴくりと顔をウンスに向け、焦ったヨンは先程サラが言っていた話を思い出した。
「あ、いや、ユウンス・・」
「貴方を見て1つも格好良いと思った事が無いのよね、しかも昔は嫌いだったし」
「ユ・・・」
「それでも確実好きだと言えるのは、私を騙そうとはしない人だったから。バカ正直ともいうけど」
「・・・」
「まさか、“サラさんに気が向いた”なんて事はないわよね?」
「有り得ない!」
「・・・わかってるわ。だったら、彼女を店に入れたのは製薬会社の中で何かあるって事かしら」
「ユウンス・・・ッ」
ヨンは手を広げてウンスを自分の中に囲うとそのまま強く抱き締めた。
苦しい位に抱き締められたが、暫くヨンの好きな様にしておいたウンスはふと店に視線を向けると店内から上層部の面々が驚いた顔で此方を見ており、その中にはサラの姿もあった。
もしかしたら自分だけが彼のおかしな部分を見ているのだろう、でもそれはヨンの本来の姿であり元々の性格とも言えた。
――サラには見えていない所を自分はずっと知っている。
そんな些細な事だが、
それでもウンスには優越感を持つには充分だと理解した――。
――・・・結局あの2人はどうなっているの?
仲が良いのか悪いのか、全く読めない。
サラはちらりと父親を見るが、父親は渋い表情で外で抱き締め合っている2人を見ている。
「・・・しかし、彼女はチェ家に関わりは無い筈だ・・・」
父親がぼそりと話す言葉にサラはふとある事を思い出していた。
それはチェ化粧品会社に就職する前にチェ家に関しネットで調べたが、検索通りにこの家は教科書に載る程の偉人がいる家でもあり、その後も何かと著名人の名が刻まれている。
だが、サラは1番気になっていたチェ家の偉人に引っかかりを感じ、実は1人であの大将軍の墓へと行っていた。
向かった先は山の中で随分と寂しい場所に墓はあった。だが団体客や学校の見学に来る程に人気はあり見学人は途切れてはいない。
飾る物も家具にも執着しなかったという彼が何故か唯一第二夫人とだけは一緒に墓に入ったという事で、2人の名が刻まれていたのだが――。
――・・・確か、第二夫人の名は“ユ氏”・・・。
『“ユウンスは――”』
チェ社長が何度か彼女を呼ぶ時にふと引っ掛かった事――。
「・・・まさか、ねぇ」
見つめ合っている2人の姿が、
遙か昔にいた恋人同士の様に見えてしまいサラは混乱したのだった――。
㉖に続く
△△△△△△
いや、その通りなのだがね。
🐥🐥🐥🐥🐥
ご心配して下さった方々、本当にありがとうございました。
熱も下がり、まだ咳などはありますが仕事を出来る位には元気になりました😊
熱もですが、後からくる後遺症の方が大変だとわかりました。いやしかし乾燥している時期になるよりはまだマシだったのかも・・・と思う様にしました(✘д✘๑;) ³₃
まだの方、気を付けている方、まだ手洗いうがいアルコールが必要かもしれませんね……お気を付けて。
(*`・ω・)ゞ
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