気持ちの行方⑤

薬草園の周辺に置かれていた薬草や花壇の草などは無くなり、乾いた土が見え寂しさを醸し出している。
そんな薬草園に昨日から降り続いている雨が屋根の隙間から落ち、ポタポタと板を鳴らしていた。
夏も終わり身体にあたる風も冷たくなってきたとウンスが振り返りながら言うと、
「そろそろこの辺も薬草庫に仕舞わなくては」
と話しチャン侍医が動き出す。
季節が秋になっても暫くするとあっという間に雪が降るとの事だった。
「そうなの?」
そういえば確かに朝は寒くなり始めている。
学生時代にこの半島は昔はシベリア方面から流れて来る寒気で物凄く寒いと習ったが、それがこの時代なのだから暖房器具が無い室内の寒さは尋常ではないだろう。
赤や黄色の木々を眺める穏やかな季節を予想していたウンスにチャン侍医は不思議そうな眼差しを向けてきた。
「この時期は寒い季節を越す為の支度で誰もが忙しいです」
・・・そりゃ、そうよね。
冬支度をしなければ生死に関わるもの。
「・・・あー、オンドル・・・は無いわよね」
「ん?それでもここは元倉庫でしたから・・・火鉢を持って来ますので」
あとは厚めな布団と――。
ウンスの言葉が理解出来ない部分を華麗に躱しながら、その言葉を残しチャン侍医は去って行った。
「・・・確かに壁は厚いけれど、火鉢だけで私は無事この時代の冬を越せるのかしら?」
――まだ帰る事は諦めていない。
だが何時(いつ)現代に帰してくれるかも謎になり、それを口に出す事をウンスは止めていた。
暫く過ごして感じた事は、
あのチェヨンという男が必ずしもこの王宮で実権を握っている様にはとてもじゃないが見えなかったからだ。
それでも。
「命を掛けて約束は守る」
言った彼の目は本気だった。
――もしかしたら、少なからずチェヨンを信じ始めているのかもしれない。
偶に見せる眼差しは最初の頃に比べると変わってきた様に見えるし、この間は何と外に出掛ける事を王様から許可を取ると言っており『動くな』『離れるな』『余計な言葉を話すな』と言っていた彼とは思えない程だ。
「早く出掛けたいわ」
温かい物が食べたいし買いたい。
意外と寒さに弱いのよね、・・・私って。
そうウンスは呟いた――。
しかし。
次の日から天気は雨になり更に気温も低くなっていった。
「・・・へくしゅ!」
窓の隙間から入り込む冷たい風に完全に閉めようとウンスは雨戸に手を伸ばした。
珍しく雨は数日続いている。
何時までも鳴り止まないその雨音をぼんやり眺めていると、雨音に紛れて板を軋ませながら近付く足音に目線を向けた。
「・・・チェヨンさん?」
だが、こちらの姿を見つけ足を止めた彼を見たウンスは窓に近付いて来るヨンに待てと手で制した。
「えぇ?ずぶ濡れじゃない、何してたの?」
「警備強化した後、王宮から来ましたので」
「この部屋だってそんなに暖かくないわよ?入る前に拭いてね」
「・・・はい」
乾いてる場所が無い程全身濡れているにも関わらず、微塵も気にしていない様子のヨンにウンスは困惑しながらも窓を閉め錠を外しに入口に向かって行った――。
「・・・と、まあ、後から考えると誰かがいるという事は何て幸せだったのか」
土間に下り竈門で湯を沸かす。
食事用の山菜や野菜を細かく切り、土鍋に入れて僅かな味付けとして市井で頂いた塩をふりぐつぐつ煮込んでいく。
「何処に行っても料理は苦手だわ。しかも、調味料も無い、砂糖も無い、塩はあっても高価だし・・・」
そもそも肉も柑橘類も貴重な時代。
町民が手に入れるのも難しい。
そりゃ栄養不足で寿命だって長くは無いでしょう。
「・・・うーん、やっぱり味がしないわ。もう少し足そう・・・あっ」
手に取った小瓶がするりと手から落ちそうになり慌てて掴んだが、逆さになった小瓶から入っていた僅かな塩が土鍋の中へと零れ落ちた。
「・・・はぁ。本当にご近所から教えて貰おうかな?」
ガックリと肩を落としウンスは土鍋に木蓋を乗せたのだった――。
「・・・っ、わあー!?」
慌てて起きたウンスは瞬時に頭を振り、部屋を見渡した。
見慣れた部屋は何時も通りの自分の家で、古ぼけた土間も竈門も見当たらない。
当たり前だ。
ここは文明機器で溢れた現代なのだから薪から火を起す道具等ある訳が無い。
では今の自分は一体どういう事なのか?
ベッドの上でウンスは胡座をかき考え始める。
最近あの夢を見なくなっており、それはウンスがあの俳優に会えたからだと思っていた。
しかし実は違っていたのかもしれない。
確かにあれから1度あの草原に行っていた。
だが既に彼の姿は無く、馬さえいなかった。
自分がその場にいた理由は今だ不明だったが、それでも夢は終わったのだから自分の中でも終了した――筈だった。
しかし、今のは確実に“自分”だ。
古ぼけた藁葺き屋根の台所と呼べるのかも怪しい場所で料理を作っていた。
包丁を使う手は苦手さがよくわかり、ドジをして塩を鍋にぶち撒ける。
呆れる程に料理が苦手だとわかった。
違う違う!
そうじゃない。
苦手な筈よ。
だってあれは私じゃないの。
赤茶色に染まった髪色も、
癖になっている口端を指で突くのも、
そして何より彼女は左利きだった。
「・・・・・何あれ?」
気付いたら無意識に肩を擦っていた。
自分が見ていた夢はあの俳優が淋しい原っぱで1日中石の様にジッと座っている場面だった。
時々馬が来たが、馬を見ても一度も此方を見る事は無かった夢。
あの夢の世界で自分は見えていないのだと理解し、それでも偶に話し掛けてもいた。
じわじわと身体に染みる様に溢れる恐怖。
――では私〘ユウンス〙は?
私は何故あんな古ぼけた藁葺き屋根で生活をしているの?
ベッドの上にいる筈なのに、
ウンスは冷たくなっていく指先を必死に温めていた――。
⑥に続く。
△△△△△△△△△△
どちらも自分の夢を見た様で・・・。
何か次はドラマの撮影が始まるみたいね。
あまりこれ長くないのよ。
多分撮影場所あの寺。
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