底から④
「王宮が土地併呑(併合)の御触れを出したので、官僚や地主達がこぞって土地を買い占めています」
「だから、何です?」
「・・・結局民はその地主に雇用して貰い、働くという事になってしまいます」
「・・・」
「官僚や地主達は代々土地を確保出来るでしょうが・・・民達には何も残らなくなってしまうんです」
「・・・それを、某に言ってどうするんです?某は既に平民になった身で、貴方方の方が王様の近くにいるではないですか?」
「それは、そうですが・・・」
そこで会話は途切れ、ずっと前を向いていたチェヨンは竿を振り上げ釣り糸を再び水の中へと放り込んだ。
チェヨンが隊長の役目を降り、まだ十日程しか経っていない。
だが、辞めた途端何故か重臣達がチェヨンの元に来ては王宮の不満や王様が出した勅命を教えて来た。
しかし、何の決定権も指揮権も無いチェヨンにとってそれは聞いても意味の無いものだった。
「先日は、王宮が従来銀数量に値する“大銭”を発行したせいで貨幣価値が下がり商売に悪影響になったと近くの市井の店から来ましたが。・・・はたしてそれは王様のお考えだったのか・・・」
「う・・・」
詰められた重臣達は狼狽えそわそわとお互いの顔を見合わせた。
その態度で大凡の想像が当たったのだと理解したがチェヨンは小さくため息だけを吐きそのまま湖を見つめていた。
チェヨンがいなくなった途端、次から次へと王様には要求の嵐だったのだろうか?それを采配する者は確かにチェヨンには思い浮かばなかった。
それでも、離れたいと思った。
それでも、離れたいと思った。
漸く、自分は一人になれる。
メヒとの約束を反故にしたくないとそれだけで、王宮を出たのだ。
後悔はしていない筈だ。
だから、もう自分に話を持って来て欲しくない。
しかし、希望とは裏腹に来客は減らなかった。
「テマン」
「は、はい?」
「次誰か来たら、先に話を聞いて家には入れるな」
「え、話・・・?はい!」
傍の木の上で空を見上げてぶつぶつ言っているテマンを一瞥し、チェヨンは凝った肩を鳴らした。
テマンが内容を理解出来なければ、わからないで終わりだ。しかも、テマンがそのまま中に通す訳は無い。
暫くはこの家も静かになるだろう。
――自分は、これを望んでいたのだ。
しかし。
数日経っても心の奥底から清々しい気持ちにはなれなかった。
チャン侍医の見送る時の言いたげな眼差しでは無く、叔母上のお小言が煩わしかった訳でも無い。
門を出る時に見た、
あの方の眼差しは、
『嘘つき!何が武士か!』
怒りと軽蔑に染まり、
自分の存在をも否定する様な光を帯びていた。
自分の存在をも否定する様な光を帯びていた。
すみませぬ。
貴方への詫びを一生背負って生きていく覚悟です。
そう伝えたところで更に逆上されるだけだと頭だけを下げ、自分は去った。
「・・・・・」
気付いたら、餌を食われておりただ寂しく釣り糸だけが水の流れのままにゆらゆら揺れている。
時々、呆けてしまう時がある。
あの天人を思い出すからか?
―――ピチャン!
「ん?」
チェヨンは我に返ると薄暗い水を見つめた。
――一瞬、誰か呼んだ気がしたが・・・。
テマンは、夕方になると家の周辺に怪しい者がいないか偵察に行き、既に木の上にはいない。
「・・・メヒか?」
開京から少し離れたこの地は、昔メヒと任務中によく来ており、そこに小さな藁葺屋根の家を建てた。
だから。
――帰って来たぞ、メヒ。
「・・・・・」
だがそう口に出そうとしたが、どうしてか言葉に出来ない。
チェヨンは無言で竿を纏めると帰る為に歩き出した――。
「・・・医仙、お話があります」
「ん?」
夜になり、夕餉も終わり横になろうかと考えていたウンスは外からの声に顔を上げた。
扉を開けるとその声は予想通りチャン侍医のもので、夜に訪問する詫びを伝えて来た。
「大丈夫ですが、どうしたんですか?」
用事なら昼間でも良かったのでは?そんな顔のウンスに気付いたチャン侍医はチラリと外を見た。
外には王様に依頼し、武閣氏の警備を付けて貰っている。その武閣氏はチャン侍医の視線に気付き去ろうとしたが、いて良いと制した。
外には王様に依頼し、武閣氏の警備を付けて貰っている。その武閣氏はチャン侍医の視線に気付き去ろうとしたが、いて良いと制した。
「変な気遣いをさせる前に、話を終わらせますので」
「?」
ウンスはどうぞと椅子をすすめ、正面に同じく座る。
チャン侍医と話をするのは何時もの事で、何気に何か食べる物でもと考えていたが、彼の話を聞きだすうちに困惑の表情に変わっていった。
「はい?チェヨン氏ですか?」
何を今更・・・。
あの人は、自分を現代に帰すなどと約束しておきながら、さっさと王宮を出て行ったのだ。
裏切り者。
何が武士の名にかけてか!
そう罵倒してやりたかった。
・・・ただ、去る時の此方を見た眼差しは、少し違って見えた。
言葉に表すには難しい何か。
「・・・彼が、どうしたと?」
「実はここを出てから、一人細々と暮らしているんです」
「へぇー」
人を置き去りした人間が自由気ままに暮らしているのか。
ムカつくわね。
「“一人”と言うには語弊がありまして、付き人としてテマンも一緒に暮らしています」
テマンの主はチェヨンの為、チェヨンが隊にいなければテマンもまたいる意味が無いという。
苦労無く暮らしていると聞き、ウンスは更に不機嫌気味になっていく・・・が。
苦労無く暮らしていると聞き、ウンスは更に不機嫌気味になっていく・・・が。
「先日、テマンが来まして話をしていきましたが・・・少々おかしな話でして・・・」
「話?」
気付くと、開いた窓から武閣氏の子達もチラチラと中を伺っている。チェヨンの名が上がり、やはり興味を持ってしまった様だ。
「・・・医仙は、彼が自ら王宮を出たと思いますか?」
「・・・は?実際そうじゃないの?」
止める隊士達や重臣達を無視し、去ったではないか。王様でさえ今だに落ち込んでいるというのに。
彼は、記憶が間違っていなければあの“崔瑩“だった。だが、王宮にいないとなると自分が知っている歴史もまた変わるのだろうか?とそれもあり落ち着かない。
ただでさえ、今王様があちこちからの声に迷走を始めてしまっているのは大丈夫なのかと不安になっていた。
「・・・テマンの話によると、彼は時々うなされている様です」
「ふーん」
「それは隊長の頃からで、数日寝ない時もあった様です。半日寝て数日起きている。又は数日間眠り続けている、でしょうか」
「随分とデタラメな睡眠時間の取り方だこと」
「そこです」
「何?」
「半日寝ている時は、毎回うなされ具合悪そうに起きて来る。そこから数日眠らないというんです」
「悪い夢でも見たのかしらね」
「あちらに行って十日程経ちますが、彼が寝たのは二回だけの様です」
「え」
「毎回うなされてしまう為、寝るのを止めてしまったとか・・・。そして、その後は暫く湖を見つめている様なのです」
「・・・何か、嫌な予感しかしないわ」
そんな状態の人達を現代でも沢山見てきた。
病名を付けないまでもギリギリの場所にいる人もいた。
まさかあのチェヨンがそんな状態になるとは想像もしていなかった。
もしかしたら歴史のイメージが強く残っているからだろうか?
話に他の事を考えていたウンスを見つめチャン侍医は、実は、と再び話を始めていく。
話に他の事を考えていたウンスを見つめチャン侍医は、実は、と再び話を始めていく。
「チェ尚宮から彼の過去を聞きました」
「過去・・・」
「まだ迂達赤隊隊長になる前のお話です――」
⑤に続く
△△△△△△
久しぶりに暗い話にーとかいいがら、間が空いてしまいまして💦
ヨン氏睡眠不足なのかな・・・。
この話だから、遅くても良いのではと最近思ったり😌
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