※少し原作やドラマに被る部分がありますが、あくまでもこの話は“蝶が舞う~の中の二人”ですので、そのつもりで読んで頂けるとありがたいです。
「作戦に乗ったのですね?
・・・もう後戻りは出来ませんが・・・」
「別にいいわよ」
徳成府院君キチョルの陰湿な執着と重臣達の不審を躱す為に、ウンスが先見出来る天人として演じて貰う事に躊躇していたヨンだったが、チェ尚宮から聞いたウンスは自分の安全の為でもあると承諾をし、それを知ったヨンは一層彼女を王宮に縛り付けてしまうのだと心が苦しくなっていた。
しかし、それとは別に以前あった刺さる様な胸の痛みと霞の掛かった頭が一気に晴れた気もしていた。
・・・きっとそれは。
ウンスに配属された武閣氏達が見えず尋ねると、少し離れた場所にいるという。
「離れ過ぎです。これでは――・・・」
――またこの人があの男に拐われてしまったらどうする・・・。
そこまで考えヨンは口を閉じた。
「・・・そうか」
「え?」
「いえ、絶対に武閣氏から離れぬ様に」
奪われるのも離れるのももう無理だろう。
医仙があの天女だと知った今、
自分が諦めるのは確実有り得ないからだ。
徳成府院君キチョルが呼んだという暗殺集団を誘(おびき)き出し決着を着ける前に、この方の顔を見たいと思い足を向けていた。
何かをして欲しい訳では無いが、少しでも顔を覚えておきたいと思ったのだ。
あぁいや、出来るなら、
この方の持つ匂いも欲しいと思う。
――・・・この方がいるのだから、もう命を無駄にはしない。
そして負けるつもりも無い。
それでも護身の為にと自分の懐刀を渡したが、ウンスの細い足には重そうだった。
「私は医者よ?人を刺すだなんて!」
「後に縫えば良いではありませんか?俺と同じ様に」
「はぁ?!」
眉を上げたウンスの顔を見下ろしそう返すと、
更に上げ口を開けようとしたがヨンは顔を寄せ、
「冗談です。貴女が刺すのは俺だけで良い」
「・・・根に持ってるの?」
「いいえ、寧ろ逆だと」
「?」
「でなければイムジャがあの天女だとわからなかった」
さっさと天界に帰していたら、自分は永遠に暗い底を見つめ虚無の中にいた。
だとすると、この方が自分を恨む事も運命だったのだろうか?
「・・・俺が憎いですか?」
――また?
今何故それを聞いて来るのか?
帰してくれない辛さを自分に向けて欲しい様に。
「貴方を憎んで恨んで欲しい訳は?」
「・・・そういう意味では」
だが、ウンスの言葉をもう一度飲み込みヨンは、顔を上げ向けて来た。
「慕う気持ちも憎い気持ちも全て俺に向けて欲しい」
ヨンの言葉の意味がわからず困惑気味に見返すとヨンはちらりと外にいる武閣氏を見たが直ぐに顔を戻し、
「イムジャには俺の全てを見せている、恥も男としての甲斐性も・・・。
もう貴女に体面は通用しないとわかる。だから、俺の本音を言う事にした」
結局自分がいくら武士らしく装っても、この方にはあの時の甘ったれた自分がいるのだ。
なら、わざわざ隠す必要も無い。
ウンスの姿は王女から頂いたという元らしい華やかな衣装になっており、白い項も鎖骨も露わになっていた。
――自分はあの首に吸い付いた事があったのだ。
思わずジッとウンスの首筋を見つめてしまい、誤魔化す様に目を合わす。
「・・・美しいと思う」
「は?」
「似合っています」
ヨンに似合うかと尋ねようと思っていたウンスは先に言われ、返す事が出来ずに目をぱちくりと瞬たかせてしまった。
少し前の彼ならばきっと自分にそんな言葉は言わなかっただろう。
そして自分も彼の言葉を素直には受け止めなかった筈だ。
あの青年の様に素直な言い方に、急に恥ずかしくなりウンスは顔を下に向けてしまう。
「直ぐ戻りますので」
――さっさと終わらせて直ぐ戻りたい。
今までこんな気持ちに等なった事は無かった。
「チェヨンさん」
名を呼ばれ振り向くとウンスが手を上げ小さく振っていた。
「行ってらっしゃい」
「・・・・・」
それは江華島で慶昌君を連れ逃げ回っていた時、自分が留守にする時のあの姿だった。
戻るとあの二人がいる事に何故か心が弾んだ気がしたが、任務だからとそれさえも押し殺していた。
――早く気付いていたら?
あの小さい王の死も逃れられたのか?
いや、もう過ぎた事だ。
今が大切なのだ。
だから、
もう誰にも奪わせない。
ヨンは顔だけを振り返り見ていたが、踵を返しウンスに近付くとその姿を自分に取り込むように抱き締めた。
「俺は必ず戻ります。イムジャが毎日来てくれた様に」
腕の一本無くなろうが、イムジャがいるのなら必ずこの場所に帰る。
「・・・?うん」
きょとんとしたウンスの頬に唇を触れさせ、ヨンは素早く身体を離すとその場を去って行った。
「・・・今頬にキスして行った?・・・早いっ」
一瞬でわからなかったが確かに彼の唇が触れた。
柔らかい感触は山小屋での記憶よりも、最近受けた口付けの熱い軟体が口腔内で動いていた事まで思い出しウンスの顔は一気に赤くなっていく。
「真昼間から何考えてんの、私は!」
「何かありましたか?」
「何でもない、虫がいただけ!」
「そうですか、・・・?」
ウンスがバチンと両手で頬を叩き、
その音に驚いた武閣氏達が慌てて傍まで近付いたが、
頬を少し赤らめ否定するウンスに困惑する彼女達だった――。
◆〔3〕に続く
△△△△△△△△
お久しぶりですの蝶🦋ですねぇ。
このヨン氏は静か(本来そうだろうって?)
隊長のあのままでウンスに迫るのはとても良い事だと思います!
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