※こちらは何のシリーズにも繋がらない短編です。
明らかに様子がおかしい、だが見たくない。
ウンスは先程から一向に表示が変わらない電子掲示板を真っ直ぐ見つめ、目の端に映る人物を見ない様にしていた。
この建物に来た事を後悔し、時間を無駄にしたと思っていたのが数分前で今は結婚相談所に登録した事さえ後悔し始めている。
数分前までの自分は結婚相談所でマッチングされ紹介された男性と今日待ち合わせをし、食事をする筈だった。確かに考えると自分も悪いのだが、高収入だけを聞き男性の資料を詳しく見ずに相談所に了承の返事をしてしまった事だ。
そしてその結果が当日ドタキャンを受けるという最悪なものだった。
『・・・申し訳ありませんでした!先方に連絡をしても何故か繋がらず・・・昨日まではきちんと確認も取れましたし時間も聞いて来ていたのですが・・・』
「だったら、確実にドタキャンですよね?」
―何?当日私の写真を見て“やっぱり止めた”とでも?
自分としては写りの良いプロフィール写真だと思ったのに、あれが気に食わなかったと?――ムカつく!
もういいです、と言い電話を切って何も頼まずにレストランを出た。
きっとレストランのスタッフ達も私が約束をすっぽかされた女性だと気付いたに違いない。
恥ずかしい。
いや、それよりも凄く悔しい!
結婚相談所には2年前から登録している。
これが初めての男性と食事で無く、それでも上手くは事が進まない。3年目に入りプロフィールに32歳と書いた私の気持ちが他人にはわからないだろう。
自分に自信が無かった訳では無いのに、周囲の女性達が先に幸せになっていく。
病院の同僚だった友人の結婚式に招待されブーケを貰いながら、
『次はウンスの番よ』
真っ白な美しいドレスを着た友人の幸せそうな笑みにありがとうと受け取り笑顔で返す。
でもその裏で泣きそうになっていた事なんて友人達は知らないでしょうね。
――私はどうやら異性から好かれる性格では無いみたい。
「――・・・ですよね?」
「・・・は?」
横から声で自分が現実逃避をしていた事を思い出し、ちらりと今まで無視をしていた男性に目を向ける。
どうやらその男性も動かなくなった掲示板を凝視している様で声を掛けた割にはこちらを見もしない。
かなりの身長としっかりした体躯、高そうなスーツは高級ブランド物なのだろう、随分と整った横顔によく似合うと感じた。
だが。
――あぁ、返事しちゃった、失敗したな。
何故ならこの男はエレベーターに入って来た時から機嫌が悪く苛立ちを態度で現し、スマホを見ながらぶつぶつと文句を言っていた。
「あぁ、くそ、デタラメ教えやがって。帰ったら覚えてろよ・・・」
――・・・うわぁ、最悪。
何が原因かは知らないが、失敗した事を他人のせいにして怒りを周辺にぶつけている。
私が一番嫌いなタイプだわ。
絶対に関わりたくない。
壁に背を付け文句を吐いている男を無視し、
早く階が下がれと待っていた―――筈なのに。
「さっき管理会社に連絡したんですが、まだ返事が来てないですよね?」
「・・・そうですね」
2人が乗ったエレベーターが止まり、既に10分が経っている。
レストランを出てエレベーターに乗り込み下の階で彼が入って来て動き始めた途端、ガタンと小さく上下に1度揺れそこから動きが止まってしまった。
上の電子掲示板の数字は止まったままで、壁にある矢印も表示は動かない。
「はあ?」
途端に再びその男性は声を上げ、管理会社へ繋がるボタンに手を伸ばす。
カチャカチャと激しく押す彼にウンスはうんざりしながらその様子を眺めていると、エレベーターの天井に設置された監視カメラを見上げ男性は声を荒らげ出した。
「エレベーター止まったぞ!早く来てくれ!」
「・・・・・」
――・・・管理会社の人達が来るまでこの人と2人きり?参ったわね〜。
ウンスは彼から少しでも離れ様と反対側の角へと後退りし、なるべく視界に入れない為に顔を上げたのだった。
関わりたくないのに、つい返事をしてしまった。
仕方ないとウンスはもう1度そうですねと返し、監視カメラや管理会社直通のボタンに目線を向ける。
「まさか休業日とかじゃないわよね?」
「そんな事・・・だったら警察に電話した方がいいか?」
彼はスーツのポケットからスマホを取り操作をしていたが、ピタリと動きを止めてしまう。
「・・・充電が」
・・・この人さっきから何をしているの?
確かにこの男性はずっとスマホを弄っており、そのせいで充電が無くなっていたらしい。
――呆れてものも言えない。
ウンスは自分のスマホを取り出したが、画面の表示に微かに眉を顰めた。
「どちらにしてもビル内エレベーターだから電波は繋がり難いかもしれないですね」
「・・・そうか」
頼みの綱のインターフォンを押したのに応答が無い。
ランプが付いているのだから、管理会社にも異常は伝わっている筈なのにこれはどういう訳なのか?
「・・・熱いな」
そう言い男性はスーツのジャケットを脱ぎだし、ネクタイを緩めていく。
「貴女は大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
熱いからといって一枚しか着ていないワンピースを脱いだらとんだ露出狂になってしまう。
距離を置いて手でパタパタと自分の顔に風を送る男性をちらちらと見つつ、見る場所も無く結局は掲示板に目を向けていた。
「普通エレベーター管理会社は周辺のビルも契約しているとはいえ、緊急事態には対応可能な職員がいる筈なんです。いないとしたらそれは契約違反でもあるし職務怠慢だ」
「はあ」
「それに、このビルにも異常事態が伝わっている筈で警備会社も動いて良い筈なんだが・・――」
「そう、ですね」
相槌を打つ人がいるからなのか男性の話は全く止まらない。寧ろ、エレベーター内の酸素を使い果たしてしまうのではないかという程に延々と話し続けているのだ。
「管理会社とか詳しいんですね?」
「うちの会社も契約しているので。でもこんなに遅い所ではありませんが」
「あ、そうですかぁ」
どうやら男性も会社経営者で警備保障や管理会社に頼む程の立派な社長様らしい。
だが、今までの彼の様子でウンスはこんな会社経営者とお知り合いには絶対なりたくない。と、判断し当たり障りのない返事をただ返すだけにした。
チッチッチッ・・・。
ウンスが腕時計を確認すると、緊急ボタンを押し15分は経過した。
「本当に遅いわ。もう一度・・・、・・・?」
男性にもう一度ボタンを押して貰おうと頼むつもりで横を向くと――。
「はっ?!」
彼はいつの間にかウンスの隣りに近付いており、ジッとウンスを見下ろしていた。
「な、何っ?!」
まさか如何わしい事をするつもりじゃ・・・?!
密室の中で目覚める妖しい空気・・・。
――いやいや、ちょっと止めてよ?!
食事をドタキャンされ、エレベーターは止まり、男性に襲われる?何て日なのか?いや、どこから私の人生は最悪な方へと進んでいたのか?
ゆっくりと男性の手が上がり、ウンスのワンピースに触れようとしてウンスは慌てて壁沿いに離れ声を上げる。
「ちょ、おかしな事したら警察に言うから!監視カメラにだって映っているし証拠もある、貴方の会社も終わりよ!」
男性から離れ叫んだウンスをゆっくりと首を回し、彼は再び顔を見て来る。
「・・・・・」
「絶対に訴えるわ!そして勝つから!」
裁判まで考えてしまうのは自分もここに閉じ込められ、息苦しく疲れてきたのかもしれない。
早く扉を開けてよ!と焦りと、苛立ちと男性への憎悪で先程の男性の様に意味の無い言葉を吐き男性を威嚇していた。
「・・・そうじゃなくて、あの・・・」
「な、何よ!」
「・・・すみませんが、・・・手を・・・」
「はあ?」
「・・・手を握って、下さい」
「・・・・・・・?」
――・・・何て?
ウンスが話すのを止め、男性を凝視すると、
気のせいか入って来た時よりも顔色が悪くなった様に見える。
しかも、熱いと言いジャケットを脱いだ筈なのに額やこめかみから一雫の汗が流れている。
・・・まさか。
「・・・貴方、閉所恐怖症なの?」
するとあの攻撃的な勢いなどどこに行ったのか、首をブンブンと振って頷いた。
「だったら最初から言ってよ!」
「・・・すまない」
真っ青な顔になった男性は荒い呼吸を吐き出し、酸素が欲しいとばかりに肩を上下に動かしている。
ウンスは急いで自分のバッグをひっくり返し化粧品やスマホを床に出すと男性に近付けた。
「袋とか持っていないから、とりあえずこれを口に付けておいて。ゆっくり呼吸をするのよ?」
指示通りにバッグに顔を寄せはぁはぁと息を吐いていたが、男性は次第にゆっくりとした深呼吸へと変わっていく。
「大丈夫?」
「ああ・・・」
男性の額の汗をハンカチで拭きながら、ふと先程の彼を思い出した。
彼の行動は随分と荒っぽく傍目には態度の悪い人だと感じたが、そもそもがエレベーターや狭い場所が苦手だとしたら長時間は耐えられず、焦りが先に出たのだろうか?
エレベーターが止まった途端、直ぐにボタンを押し監視カメラに声を上げる、自分を落ち着かせ様と必死に話をしていたが、やはり耐えられなかったのかとうとうこちらに助けを求めて来た。
そういう事なのだろう。
ガタン!
ハッと2人は顔を上げ閉まったままの扉を見つめていると、微かにだがグラグラと室内が揺れエレベーターが少し下に動いていく。
「グッ」
気持ち悪くなったのか男性はウンスの身体に手を回し掴んで来て、その手にウンスは自分の手を重ねる。
「動いたみたいです。もう大丈夫よ」
『今扉を開けます!』
「遅いわよ!早く開けなさいよ!」
ウンスが怒鳴り出すと管理会社の職員は申し訳ありません、と慌てて謝罪し
2人の正面の扉は手動なのかガタガタと煩い音を出しながら、
涼しい風とロビーの明るさも入り込み漸く扉は開いたのだった――。
「・・・えー?どうしてですか?」
前回ドタキャンの男性からもう一度会いたいと連絡を受けたと結婚相談所から電話を受け、意味不明なその相手の都合にウンスは不満を漏らしていた。
「そもそもドタキャンしたのはあちらですよ?なのに、またセッティング希望なんて随分自分勝手な方ですよね?嫌なんですけど?」
『ユさんのお気持ちはよくわかります。ですが、あちらの方がどうしても行けない事情があったのだと・・・けして、ドタキャンするつもりは無かったと言っておりまして・・・』
「はあ、そうですか。どうせ仕事でしょう?仕事と女性の約束天秤に掛け仕事を選んだ段階でその方の性格がわかります。私はそんなに暇ではありませので、今回はご遠慮致します、あちらにもお伝え下さい――」
『ま、待って下さい!実は、あの後直ぐ連絡があって。・・・実は大変申し訳ないのですが、こちらのスタッフが違う待ち合わせ場所を彼に教えていたらしく本当はこちらの手違いなんです!』
すみませんすみません、と謝罪して来た相談所の職員の言葉にウンスは唖然と呆けてしまう。
つまりは相手に教えたのは違うレストランで向かった先にウンスはいず、男性もまたウンスと同じく待ちぼうけをしていたという。
『で、ですので前回と今回の食事代はこちらが負担させて頂きます!ですから、もう一度あちらと会って頂けないでしょうか?』
もう職員の声は泣きそうだ。
きっと上層部から怒られたか、向こうからクレームが入ったか。
これを断ったら彼の今の立場も危ういのかもしれない。
「・・・わかりました。・・・でしたら、あちらのプロフィール写真でも良いので送ってくれません?
この間は顔もわからず待っていて、確かに私も悪かったので・・・」
顔を知っていたとしてもはたして探す事をしたかは謎だが・・・。
『ありがとうございます!次の待ち合わせ場所と時間もお送り致します。
これはあちらにも同じ連絡ですので、絶対に間違いはありません!』
首の皮一枚繋がった喜びなのか、職員から直ぐ様メールが届き結婚相談所に登録されている男性の写真と簡単に書かれたPR紹介、次回の食事会の場所と時間が届いた。
「・・・ふむふむ。名前は“チェヨン”。
あぁ、私と同じ30代だったのねぇ、知らなかったわ。
高収入って会社社長だったからだ・・・・わ。
・・・・・はああーー?!」
1分後、
メールに目を通したウンスは自分の部屋で変な叫び声を上げていた。
結婚相談所から送られて来た男性の写真は、
あのエレベーター内にいた“閉所恐怖症”の男性の顔だった――。
後編に続く
△△△△△△
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