気持ちの行方④

さらりさらり。
曇天からの雪が被る外套に落ちる音が耳を掠めていく。
長い間洗われていない為、濡れるとどろりと泥と混ざり落ちてしまうのにと一瞥しヨンは顔を戻す。
数ヶ月見ない間に雪に埋まった野原と葉も無く寂しい大樹の乾いている幹に背を付けた。
数ヶ月見ない間に雪に埋まった野原と葉も無く寂しい大樹の乾いている幹に背を付けた。
戦場から帰りそのまま此処に来た。
少なからず宿屋で身体を洗う時間もあったのだが、何故か足は既にこの場所に向かっていた。
あの方の気を感じる。
断定は出来なかったが、流れて来た空気にそんな事を感じてしまったのだ。
静かに、だが何時までも消える事が出来ない想い。
永遠に会えない恐れもある筈なのに、これは死ぬまで消えないだろう。
永遠に会えない恐れもある筈なのに、これは死ぬまで消えないだろう。
そう思えた。
―――夢を見たの。
・・・とても恐ろしくて、悲しくて。
どうか、貴方は生きて――。
自分に生きろと言った者は今までいなかった。
俺の為に自分を犠牲にする女人さえ知らない。
そんな自分の犠牲にしてしまうあの方をどうにか帰したかった。
まだこの地にいたあの方が話していた話を聞いておけば良かったと今更ながらに後悔してもいる。
きっとあの性格故にどういう経路かは知らないが、天門を潜りまた此処ではない地に行ったのだと見つけた小瓶で悟った。
「・・・イムジャは何処に行っているのです?」
――どうか無事でいて欲しい。
尊敬した師匠が亡くなった日も、自分の背中を預けられるだろうと思った者も、
苦楽を共にした兄弟子達が去って行った日も空は何も降っていなかった。
だから、空から落ちるものがあると不安に思ってしまう。
若い頃戦場に行きながら自分の考えも不安定だったがそれでも正しいと思っていた。
あの頃の自分の幸せは、
メヒに背を任せ剣を握る事で、
仲間であり友人であり慕う対象でもあった存在を無くし自分は生きる力を失ったのだと――。
しかし。
無理矢理連れて来たあの方が傍にいなくなる度不安と探す衝動に何時もの様に今までの様に理性を抑える事が出来ず、何故だと過ごしながらこの地からあの方が離れて――漸く自覚した。
絶望と言うには己が未熟者過ぎた。
消えた此処から一時も離れたくない気持ちで足を地面に埋めようかとおかしな考えさえ出てきたのだ。
「少しは貴女に似たのでしょうか?」
そう言ったらきっと素っ頓狂な表情になるかもしれない。
――俺は此処にいます。
早く帰って来て下さい。
・・・“帰りを待つ”・・・か。
あの方の元いた場所へ帰したいと思っていた自分が。
もう自分の中で此処を貴女の故郷にしたいと思っている様です。
「・・・買った反物は気に入るだろうか?」
二人で行けなかった買い物のかわりに遠征地で買い溜めをし、既に屋敷内には箪笥が足りないと叔母上に叱られていた。
「天界から来たあの方の装いを叔母上も見たではないか。おそらく細かい装飾もお好きなのだ」
「馬鹿たれ!知っとるわ!
だが、これはお前が医仙殿に差し上げたい物じゃ。医仙の好みを聞いていたのか?」
「・・・・・」
散々説教され買うのは止めた。
すると今度はウンスが気に入るかとその心配事も増えた。
――なら、ウンスが気に入るものを好きなだけ買って貰えれば・・・。
今まで稼いだ禄は充分にある。
それでウンスが満足するかは謎だが、
足りないのなら幾らでも――。
「そうだった、あの方は装飾を見て回るのは心が弾むと言っていたぞ」
結局行けなかったが、楽しみに微笑んでいた顔を思い出し、
微かに軽くなった気持ちに顔を空に向け肩から積もった雪を払った――。
「・・・・はーー・・・」
目が覚めた途端に身体の中から全ての空気を吐き出す様なため息が出た。
自宅のベッドに横になっていたチェヨンは自分が汗だくなのに気付き被っていた毛布を剥いだ。
何となく予想は出来たかもしれない。
ドラマと混合している訳でも自分の妄想でもないのだろう。
自分とあの女性とは何か関わりがあった。
あの草原も大樹も全く知らない。
あの草原も大樹も全く知らない。
だが・・・。
「ウンス・・・」
彼女の名前だろうか?
自分に似た男は彼女の名前を躊躇なく呼んでいた。
彼の頭の中が何故か見え映った女性はあの女性そのままだった。
夫婦だったのか?
お互いがお互いの名前を呼び掛けている様な場面を見て、自然にそう思える。
もう1人の名前が出たがそれは直ぐに消え、彼の中には残っておらず見た所髪も髭も伸ばしっぱなし、鎧も泥で汚らしいのに頭の中は彼女だらけになっていた。
しかし。
「・・・彼女の方が見れないのは・・・」
ここ数日間彼女の夢は見れてなく、この夢を考えてもまだ2人は再会してもいない。
彼女の後ろ姿しか見てないヨンには不安が消えていなかった。
とはいえ、あのイベント会場に来た彼女に聞くべきか?
全部自分の夢の出来事なのを伝えた所で彼女は信用するだろうか?
答えは、否だ。
ドラマの撮影も始まり行動範囲も制限が付いた今自分が彼女を探し、
「こんな夢を見たのですが心当たりはありませんか?」
と問うなど到底出来ない。
現実にいたと驚愕したが、では直ぐにでも見つけ出し質問するかというと、何故かそれは出来なかった。
「こんな夢を見たのですが心当たりはありませんか?」
と問うなど到底出来ない。
現実にいたと驚愕したが、では直ぐにでも見つけ出し質問するかというと、何故かそれは出来なかった。
人として怪しい行動になるのは自覚しているが、それよりも彼女がこちらを不審に感じ遠ざかる不安のが強かった。
「参った・・・、次はこっちを見始めるのか?」
・・・前と同じで疲れる事に変わりはないが、男の欲としては同じ顔より綺麗な女性のが良かった気がする。
「もったいないなぁ・・・はぁ」
そう愚痴を零しながら、ヨンは今日の撮影の準備をする為に身体を浴室へと向けたのだった。
⑤に続く
△△△△△△△△△
ありゃ今回もヨンさん側だった。🙂💦
次はウンス側から。
(追記)
ただ今昔の話を修正していますm(_ _)m
いい回し、流れがおかしい部分を直し中です。
あまり気付きはないかもしれませんが、増えている場面もあったり・・・。
とりあえず、ゆっくり修正しています😺🌟
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