底から②
途中王様達の様子を伺う為に馬車を止めたが、それ以外は休まず進めた為朝早く旅籠屋を出立し日が落ちる前に宮殿に無事着く事が出来た。
馬車の中で王妃が何か言っていたらしいが、そのうち静かになり時々女人の声が聞こえるだけになっている。
結局自分は天からの客人を帰す事が出来なかった。
名を掛けた約束も破り、
武士としての誇りさえ捨てた。
“王命”。
その一言で済むとわかっている。
だが、
女人との約束を違えた時、
詫びるモノは自分の命しかない。
瞬時にそう考えた。
・・・あの時の師匠はどういう気持ちだったのだろうか。
腹に刺さった師匠の剣を見ながら、
血を吐きながら、
一瞬メヒの面影が見えた気がした。
――会えると思ったが、
“まだ今ではないのか”。
あれもこれも『絶望』というにはまだ浅い。
慣れた訳では無いけれど、何かに向かい自然に身体が動き、次の任務に向けて働く。
“そんな人生だったのだ”と終わらせて別な場所に行きたかった。
なのに――。
――貴方を死なせないわ!
「・・・・・」
視線は前を向きながら背後にある馬車に意識を移すと、女人の声さえ聞こえて来ない。
――漸く静かになったな。
そう思うのに、何故静かなのかという疑問になるのは・・・。
「ッ」
ギリと鳩尾に激痛が走る。
痛みと息苦しさに微かに眩暈がしたが、
ヨンは歯を食いしばりただ正面を向いていた――。
開京に着き違和感を感じつつ宮殿に向かうと、我々を迎えてくれたのは王宮にいる半数の者達だけだった。
ヨン達が怪訝に思う中それでも懐かしい顔を見つけ安堵している王様に言う事は出来ず、それぞれの部屋に入って行く姿を見送り漸くヨンは宮殿内を巡察している兵士を呼び止めたが、話す内容に更にヨンの顔は険しくなっていく。
「・・・チュンソク」
「は」
「行くぞ」
確信は無かったが、
旅籠屋での奇襲の黒幕が誰なのかわかった気がした――。
またあの湖だ。
小舟が小さく感じるのは、自分の身体が大きくなったからだろうか?
「もう少しで、役目を終える」
『そう』
「そうしたら、小さい家で魚でも釣って細々と暮らす」
『ヨンが?』
「ああ。その日暮らせるだけのモノがあれば充分だと思っている」
『師匠の意思はどうするの?継がないの?』
「・・・」
『ヨンだけなのよ、もう赤月隊の生き残りは』
「“赤月隊”はもういない。師匠や兄弟子、メヒがいないのだから」
『ありがとう』
水が跳ねる音がした。
ヨンは懐かしい眼差しでゆらゆらと揺れる波間を眺める。
「懐かしいな」
『そうね、二人だけの秘密の場所ね』
「平民になれば毎日、メヒに会えるかもしれない」
『そう?』
「ああ、今の任務が終わったら・・・。
あの方を連れて来てしまったのは俺だ。
先ず、平民になり再び天門へ向かいお返ししなくてはならない―」
『――誰の事を言っているの?』
「だから、あの女人・・・」
『――まさか、天女を連れて来るなんて・・・』
「え・・・」
途端、静かに流れていた波は荒々しくなり大河へと流れて行く。
「メヒ?」
『知ってるかしら?この先には漢江があるわ』
「知ってるさ、だが、今行く訳には・・・メヒ?」
『―――さあ、“一緒にいきましょう?”』
急いでヨンは瞼を開けた。
身体を起こし周囲を見渡し、薄暗いがそこが大梁(おおばり)が剥き出しになった見慣れた自分の部屋だと確認したが自分が無意識に汗をかいている事にも気が付いた。
――今まであんな夢など見た事が無かった。
偶に見ても、メヒと鍛錬した時や兄弟子達も含めての騒がしくも穏やかな日常の時、そして師匠の最期と決まった場面しか出てこなかった筈なのだが・・・。
ド、ド、と激しく心臓が鳴る。
「・・・大丈夫だ、メヒ。
絶対にお前を忘れたりなんかしない」
明日、王様に前王から賜った書状を渡すよ。
メヒ、今はまだ暗い場所にいるのだろうか?
大丈夫だ、一人にはしない。
③に続く
△△△△△△
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