契約恋人③
暫く皆で会話をした後ヨンとウンスだけを残し3人は部屋から出て行ったが、
何も話さないチェヨンと話したくないウンスだけが残った空間は当たり前の様に重苦しい静寂に包まれていた。
――『結婚を前提にお付き合いしたい』ですって?
この男の思考回路はどうなっているのか?
有り得ない言葉に思わず彼の目を見てしまったが、静かな瞳により困惑してしまう。
そんな事よりも自分に言う言葉があるだろう?
そう思いウンスが口を開けると、少し視線を落としていた正面のチェヨンがパチリと此方に目を上げ、一瞬身体が強ばった。
「・・・俺を、訴えてもいい」
「は?」
「ユウンスの怒りが収まらないなら、俺を訴えても構わない」
「・・・はっ。訴えられる事をした自覚はあったのね」
「ああ」
「・・・」
無意識に舌打ちが出てしまった。
だったら、この数年の間に謝罪に来るものではないか?わざわざ見合い話として対面などしなくても良かったのだ。
「何なの?謝罪しに来た訳?」
「ああ」
「・・・で?慰謝料でも払うと?」
「ああ」
「全く、金持ちの思考にはついて行けないわ!」
吐き捨てる様に言ったウンスは椅子から立ち上がり、部屋から出ようとしたがチェヨンも椅子から離れウンスを追いかけて来る。
背後に近付いたヨンにビクリと肩を跳ねさせ、ウンスはドアに背中を付け声を上げた。
「近付かないでよ!アンタから慰謝料なんていらないわよ!」
「・・・では、代わりに無条件で取引をしないか?」
「取引?そんなもの・・・」
「契約金も支払いもいらない。
ユウンスのクリニックに無条件で薬剤や美容関連製品を納品する」
「・・・」
「ユウンスがこれ以上要らないと思う段階で契約を切って構わない」
「・・・・・」
「それでも怒りが収まらなければ裁判を起こしてもいい」
「・・・裁判なんて起こしたら、クリニックの評判に関わるわ」
だがそれは自分もだが、チェヨンもではないのか?チェ家にも製薬会社にも確実影響は出る筈だ。
なのに、この男は先程から訴えても構わないという。
・・・何なの?
しかし、無条件で薬や美容商品を納品するというチェヨンの言葉も嘘には聞こえない。
――本当に?本気で言っているの?
「・・・それはチェ家の権限で出来るという事?」
「ああ」
「貴方ね、そんな事会社にバレたら横領で捕まる案件よ?」
そして私も協力者として罪に問われてしまう。
しかし。
チェ家の製薬会社は国内外で有名であり、販売されている化粧関連品などはハリウッドなどでも使われていた。
今契約している会社が悪いとは言わないが、ブランド名の高さは断トツチェ家のが上なのだ。
江南区のクリニックや病院でもチェ家の商品が置かれているのは滅多に無い。
――・・・それを私のクリニックで・・・。
この男は嫌いだ。
しかしチェ家のブランドは凄い魅力的で・・・。
「・・・無料じゃなく、割引適用があるのなら・・・」
「ある」
即答するチェヨンを見てウンスは、どうすればと悩み始めていたが彼はそれにと話を続ける。
「・・・だからといって許されるとは考えていない」
当たり前だ。
この男のせいで自分の華やかな青春時代は無いに等(ひと)しかった。
無料でくれるなら貰いたいが、チェ家の会社の大きさにトラブルになった時の影響力の大きさを考慮しての自分の優しさだと思う。
――許してはいない。
私が妥協してあげたのよ。
「貴方を許した訳ではない事だけは覚えておいてよね」
「わかっている」
「・・・」
チェヨンとの短く終わる会話にウンスはもう見合いは終わりだとばかりにドアを開け、そのまま部屋から出て行った。
「・・・・はぁー」
チェヨンは長いため息を吐き出すと、
近くにあった椅子にゆっくりと座ったのだった――。
「ヨンよ、お前ちゃんとわかっているのか?」
「何が?」
待ち合わせ場所に向かう車の中で後部座席に座ったヨンと叔母は正面を見たまま、会話を続けていた。
「いきなり見合いだのと、チェ家の名前まで使い・・・」
「俺が望んだ事だ」
だが、ヨンの言葉に隣りの叔母はため息を吐き出した。
「・・・後で、騒ぐのではないか?」
「問題無い。
誰が騒ごうが“部外者”に口出しはさせない」
――本当かの?知らんぞ、私は。
叔母の険しい眼差しを無視し、ヨンはじっと腕を組み正面を向いていた。
――・・・出来るなら、その場で彼女が自分を罵れば良い。
そうすれば自分は土下座でも何でもし、見苦しい姿を周囲に見せ付け彼女に縋り付く。
許しを乞いながら、貴女だけなのだと叫ぶ事が出来るだろう。
だが、ヨンを見たウンスは嫌悪感を漂わせながら目を合わせようとはしなかった。
此方を向いて美しい微笑みのまま、瞳はヨンを映す気は無く背後の窓を見ている。
美しい姿に一瞬硬直してしまい自分の目的を忘れそうになるが、どうしても視線が外せなく凝視しているととうとう彼女は叔母と会話をしながら、チラリとヨンを見て来た。
「・・・」
やはり、此方に向ける眼差しは怒りに満ちている。
なのに此方を責める事はしない。
――・・・駄目か。
「そうですか、でしたらきっと私はユさんのお手伝いが出来るでしょう」
するとウンスの瞳の憎悪が更に膨れ上がった様に感じ、その瞳を見つめたままヨンは言葉を続けていく。
「・・・実は、私とウンスさんは・・・お付き合いした事がありまして。私が彼女を諦めきれなかったんです。なので、今回チェ家から其方にお願いしました」
なった事も無い関係を吐きウンスの顔が驚愕し始め、周りの人達も驚いた顔を向けて来た。
彼女から“そんな関係は無かった”と言われたらお終いだと、ヨンは瞬時に渇いた唇を舐め次の言葉を放つ。
「・・・それに、それなりの関係にもなったし・・・ね?」
自分が犯した罪は10年前からわかっている。
許して貰えるとも思っていない。
だけど、どうしても貴女の記憶に残りたかった。
それが憎しみでも。
無様に這いつくばりながら謝罪し、許して貰えるまで貴女に尽くす。
「・・・私は、ユウンスさんと“結婚”を前提としたお付き合いをしたいです」
ヨンの言葉にウンスの眼差しは更に軽蔑が増している。
――・・・あぁ、あの時の眼差しと同じだな。
薄く笑うヨンだったが、心は剣で刺された様に激しく痛み苦しかった。
④に続く
△△△△△△
少しヨンの考えが見えたかな・・・🙄
でもまだよくわからん。
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