※少し原作やドラマに被る部分がありますが、あくまでもこの話は“蝶が舞う~の中のヨン”話ですので、そのつもりで読んで頂けるとありがたいです。
何故俺はあの女人を選び連れて来てしまったのだろうか?
何度も頭に浮かぶ疑問の答えは今だに出て来ない。
しかしあの女人の近くに来た時に浮かんだのは、言葉には出せないもどかしさだった。
もどかしい?
違う、言葉に出せない程に朧気で曖昧な、何か。
それが思い出せない。
昔とても良い思いをした様な気がする。
なのに、ではそれが何かとはもう言えないのだ。
山の匂い、川の匂い、そして花の匂い。
しかし、一度しか嗅いだ事の無かったそれは、あちこち探しても似た様なものは無かった。
妓楼みたいな胸糞悪い匂いじゃない。
泣きたくなる位の安心感で、そのまま深い眠りに落ちそうだと思える程の・・・。
やはり、あれは夢だったのだろうかとも思う。
女人が二度と来ない小屋に用は無く、言われたままに木々を伝い山を下りると、直ぐに師匠達の気配を感じ俺は必死に合図の指笛を吹き所在を伝えていた。
――だが。
一度山を下りてしまった俺は二度とあの小屋へは行けなかった。
そもそもが物置小屋等存在しなかったのだ。
目が見える様になり再びその場を訪れたのにそこは鬱蒼と生い茂る草原しかなく、ただ呆然と佇むしか出来なかった。
――妖に化かされたか?
確かな何かがあれば良かったのに、あの女人の一時の最中に目に巻いていたものさえ取ってしまい、手元には何も残っていない。
肌触りの良かった布団も女人の服も、――あの匂いも。
確かに俺は女人の身体を抱いたのだ。
柔らかく、滑らかで、どこもかしこも絹の様な肌触りだった。折れてしまいそうだと、気遣いながらも抑え切れない欲望を吐き出してしまった。
何も見えないのに、収まらない興奮と、快楽と、もっとと願い、女人のお願いを聞いた事で再びこれが味わえるならと素直に従った自分もいた。
離したくないな、離れたくないな。
だが俺と一緒に行こうと言った自分に、女人はやんわりと拒否をした。
切なく悲しかった。
俺は駄目だったか?
未熟者だからか?
では、待っていてくれるか?
そう尋ねてもやはり返答は曖昧で。
今の自分の現状を見て、快い返事等貰える筈もない、
わかっていたのに――。
――だが、それは全て夢の中での出来事だったのだろうか?
意識が無い時に見た、
――幸福な夢。
✣⑩・5を先にお読み下さいませ
思わず身体が動いていた。
普段何の作戦も無く動くのが嫌いな自分がだ。
奥底にある焦りが喉まで這い上がって来ている事もわかっている。
じくじくと腹の痛みがまだ身体中に走り、上手く気を流す事も出来ない。
だが、急げと言っているのだ。
行く迄の間でも良い、
待っている間でも良い、
少しでも回復を。
連れ戻さなくては。
ヨンはチュホンに乗り、徳成府院君キチョルの屋敷へと走っていた――。
天からの人は、
罵る訳でも無く泣く訳でも無く、
ただ笑った。
そっと滑らかな白い手が頬に触れた時にヨンは、
一気に鼓動が早くなるのを必死に抑えていた。
――何か。
この距離で、自分の頬に触れたままで暫くいたら、
この言葉に出来ない気持ちの理由がわかるだろうか?
助かったのね、と問われ、はいと答える。
良かったと微笑まれ、微かに自分も口角を上げた。
――・・・何処かで、似た様な事が。
もう少し近付けたなら、思い出すだろうか?
一瞬手が動いたが、
血が付いた手で触れる事に躊躇ってしまう。
――・・・まだこのままで。
だが、その温もりは直ぐに消え、
天人は手を離すと連れ去られた事を話し出す。
わかっている。
既に後ろから気配は感じていたのだから。
ヨンは天人を背に隠す様にし、後ろを振り向いた――。
離れるな。
俺から離れなければ守れるのだ。
しかし、それは自分だけの傲慢だとも知っている。
それでも本当に離したくなかった。
「その手を退けて」
何故か、叫びたくなる程に胸が痛い。
天人はわかって下さると、それでも俺からは離れないと、何処かで自惚れていたのか?
先程庭先で見た笑顔は消え、自分に向けるのは怒りと悲しみ。
傍にはもう目覚める事の無い慶昌君様。
二人が自分に手を振ったあの光景は二度と来ないとわかっている、自分で儚い夢もたった今この手で切り裂いたのだから。
だが、
一度に全てを失った様に感じ絶望的になったのは、
あの天人の眼差しで・・・。
――あぁ、俺には他に選ぶべき道があったのだろうか?
ただひたすらに、
天人から離されて行く瞬間も、
ヨンはそれだけを考えていた――。
⑪に続く
△△△△△△△
もう少し今のヨンの話が続きます・・・´-`)✨
ヨンの報告を先に出そうと思っていましたが、話が少し・・・でしたので蝶が舞う~を先に出しました
報告は深夜になります。
※人魚と騎士【ヨンの報告】は⑨と⑩の間に移っております🐈(10.30記)
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