あの場所でもう一度◇(10)
イ医師はそのまま険しい瞳を女性に向けると、女性は顔を下に向けてしまう。
女性を責めて可哀想?
悪いが思えないな。
「・・・貴女、教職は?辞めたのですか?」
イ医師は何時もの淡々とした話し方に戻り、
女性は焦って目をさ迷わせてしまい、その両親はそれはと声を出す。
「小学校の先生の割には肌が白い。今は日に当たる仕事では無いって事でしょう?」
江南区の街で見た時も、時間は夜で教職という割にはオシャレな格好をしていた。入院していた時の健康的な肌とは違っていた為、それもイ医師が思い出せなかった理由だともいう。
それに。
「・・・おかしな話ですねぇ。俺はハン医師と付き合っていたという記憶があるのですが?」
あれは噂だったのでしょうか?
「・・・あ、あの」
「俺は、いや、俺達は同じ職場で働いていたし、同じ医者です。何となくですが彼が直ぐに転勤した理由も想像は付きました」
話しながらちらりとウンスに視線を向けると、やはり彼女も大凡の見当はついたらしくそうね、と小さく頷いた。
女性は顔色を悪くし、俯いてしまう。
医者と患者の恋だと彼女は恋人が出来嬉しかったのだろうが、結局はハン医師は彼女は患者であった。しかし、好意を示してきた女性に彼もそれを拒否る事も無いだろうと愚かにも考えたという事で。
・・・向こうの病院に既に約束された場所があったが、はたしてそれは自分の実力なのか?
「・・・そういえば、彼いつの間にか結婚していましたよね?・・・何故でしょうね?」
女性は顔を俯かせたまま、動かなかった。
「む、娘はあの後、やはり足に後遺症が残り教職は辞めてしまいました。今は銀行の窓口で働いています。それは既に過去の話であり今は・・・」
きちんとした場所で働いているという事を強く強調して来る両親にイ医師は、だから?と聞き返す。
「俺が彼女と顔見知りではありますが、だからと言って婚約する意味がわからないです」
「・・・それは、あそこにいる女性がいるからですか?」
両親はじろりとウンスを睨んで来た。
イ医師は、はぁとため息を吐き出す。
「・・・彼女は同じ職場の同僚です」
しかし、その言葉に女性はえ?と顔を上げ、イ医師とウンスを見て来た。
「・・・え?違いますよね?」
――彼女は今は同じ江南総合病院の医師では無かった筈。
「ッ?!」
「?!」
イ医師とウンスは女性の言葉に硬直し、一瞬目を合わせ素早く女性を見ると彼女は眉を顰めイ医師とウンスを交互に見ていた。
「この間、江南区の街で見掛けて・・・イ先生、彼女に久しぶりという話をしていましたよね?あの後、二人でお店に入って行ったけど・・・」
「え?何時?」
焦るウンスと目を薄め何かを思い出し、
あれかと渋い顔になったイ医師を見て兄ははぁ?と声を出した。
「同僚じゃない?医者じゃないのか?」
「ユ先生は医者です」
すかさずイ医師が言う。
「しかし、同じ江南総合病院の医者でもないのに一緒に来たのだろう?」
「以前は同じ職場でした。今は違うクリニックにいますが」
「何故同僚と言って連れて来たんだ?」
そこを嘘を付く必要は無いだろう?兄の的確な問いと執拗な質問に、イ医師も口篭り始めてしまう。
「・・・俺に、おかしな見合い話があるので、付いて来て貰っただけです。
地元は確かに彼女もここですので、それに嘘はありません」
「最初から変なんだ。何故彼女も一緒にいるのかと思っていた」
「だから、俺が長居するつもりは無いからだと言っているでしょう」
段々とイ医師の語尾も強くなり、苛立っているのが見てわかった。
「実家に長居するつもりは無いのに、彼女の家には行くのか?まるで挨拶に行くみたいじゃないか?」
「何だって?」
「ジュユン、そうなの?」
兄の言葉を聞いて今度はイ医師の両親が声を上げて来た。女性の両親までもが驚いた顔で見ている。
だが。
「医者の嫁だなんて・・・」
イ医師の母親が呟き、
その言葉にイ医師はとうとう我慢出来なくなった。
「何ですか?女性が医者で何が悪いのです?恋人だって夫婦だって医療関係者は沢山いますよ。ユ先生は立派な医者なんです、彼女をバカにしないで下さい!」
だからこの家は嫌なのだ。と声を出し、イ医師はウンスに近付いた。
「もう出ましょう」
「え?」
「ジュユン、待ちなさい!」
「じゃあその女性は恋人のつもりで連れて来たのか?」
見合いだとわかり違う職場にいる彼女をわざわざ連れて来た。
つまりはそういう事なのか。
「あぁ、そうですね。プライベートの場所に連れて来たって事はそう思って下さい。ユ先生行きましょうか?」
「え、いいの?」
日頃の彼とは違う荒れた空気のイ医師に先程からウンスは、気圧されている状態だったのだがもう用は済んだとばかりにイ医師は出るという。
イ医師の父親は同じ大邱市出身のウンスに少し興味が移ったのか、イ医師を呼び止めた。
「待て、ジュユン。本当にそうなのか?!彼女のご両親は何をしているんだ?」
・・・両親の仕事だと?
やはり結局は女性等誰でも良いのか?
「とても平和な農場らしいですよ。きっと父さん達には全く興味が無い事でしょうね」
ウンスを椅子から立たせ、部屋から出ようすると廊下からパタパタと足音が聞こえ、慌てて家政婦が扉を開けて入って来た。
家政婦は近くに立つイ医師を見ると、あの、と声を掛ける。
「ジュユン様にお客様が・・・」
「客だと?先客がいるのだ。後にしろ!」
父親が声を荒らげるが、イ医師はふと壁がけ時計を見てあぁ、そうと言うと顔を父親に向けた。
「迎え入れた方が良いと思いますよ?」
「何だと?」
「彼はとても重要な人ですよ?」
「は?」
「イ家等小さく感じる程に」
そう言い、イ医師はウンスを見下ろした。
「・・・怒って来ると思います」
「・・・はい?」
廊下からはドカドカと如何にも不機嫌そうに足音を鳴らし、
誰かが近付いて来たのだった――。
(11)に続く
△△△△△△△
来た・・・!ワァ
(・◇・)アヤヤー