月明かりに華(19)
崩れ去った古びた建物の瓦礫の上にその男は立っていた。
辺り一面は倒れた木々も巻き込んで、何軒かあった家は文字通りに壊滅状態になっている。救いは既にここ一帯には誰も住んでいないという事だろうか?
しかし、ここに住民がいたとしても誰も気にも止めなかっただろうが。
「・・・手加減はしないつもりだったが、そんな事は覚悟の上だろう?」
瓦礫の上から低く、だがよく通る声が暗闇の中によく響いていた。先程まで何故他の音が聞こえなかったのか?あぁ、家や木から倒壊する音が煩く彼の声さえも防いでいたのか。
だが、そんな事を考えたのは一瞬で向かって来た何かに瞬時に足を後ろに退け、その場から離れた。
今いた場所にザクリと音を立て、地面に刺さったのは何処かに落ちていた剣なのだろうフンと鼻で笑う音が聞こえ、再び顔をその男に向けた。
先程からその男の眼差しは、光も無く濁っている様にも見えるがだが強い何かを感じ、逸らす事が出来ない。
――・・・あぁ、わかった。怒りだ。
自分達もそうだったではないか。
だが、その瞳を見て恐怖よりも歓びが湧き上がり思わず、目を細めてしまう。
恐怖等最初からあった。
この男は危険だと。
何時か自分達の素性を調べられ、再び屋敷にやって来るだろうと。
まだ、時間が欲しい。
隊長達の恨みを晴らすのだ。
そう思い、帰って来たのだから。
そして。
そう思っていたある日、屋敷の縁側で夕餉の為の山菜を干す手伝いをしていたが屋敷に来ている妓生が昔の話を始めその話に驚愕し身体が硬直した。
だが、次第に腹の中から笑いが溢れて来る感情を必死に抑え、妓生に視線を向け心配そうな声を出す。
「・・・あの、屋敷に来ていた隊長て人が昔その赤月隊に入っていたの?」
「そうよ、朱夫人やイ大臣の不正を暴いたのも本当は彼らだったと言われているわ。・・・だけど、あの時の王様は凄い横暴だし傲慢な方でねぇ、下の者が自分よりも民に慕われたのが気に入らなかったのね」
「・・・その隊は?」
「解体され、当時の隊長も自害してしまった。他の隊士達も酷い目に合ったとも聞いているけど、彼だけが生き残れたのだと町の人達は話していたわ」
・・・何故彼だけ?
「彼の本貫が、昔王宮に関わりのある方だったからと聞いてるけど、あぁ、あと彼は特別な気を使えると聞いたわね」
――まさか。
「・・・イ大臣や朱夫人達を捕らえたのが
彼らだとしたら、大臣達の味方も倒したの?」
「そりゃそうよ。彼らは偉い方達が雇う特殊部隊だったのだから」
数年前に緘口令が出て隊の名前さえ言ってはいけなかったけど、緘口令が無くなった今もあまり話す人はいないわね。
その妓生はそう言うと、笊の中に干していた山菜を別籠に移し持って行ってしまった。
「・・・へぇ、そうだったんだね。彼らはきっと良い事をしたのだろうね」
町人達から賞賛されたのだから。
――・・・見つけた。
――彼奴だ。
刺さった剣を一瞥し、ヨンを見上げた少年は真っ直ぐ自分の瞳をヨンにぶつけて来た。
「・・・貴方が、“彼奴”だったのですね?」
「・・・言っている意味がわからんな」
少年の言葉に見下ろすヨンは静かに返事をし、
「・・・ウンス殿を返して貰おうか」
早く吐かないと、お前の命が無くなるぞ。
そう言いながらジャリジャリと敢えて音を立て、
崩れた瓦礫を歩きながらヨンは少年へと近付いて行った――。
(20)に続く
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