人魚と騎士[赤の秘密]⑤
チャン侍医の誘いを素直に受け止めたウンスは典医寺に来て花壇を見ていた
診療が暇になったチャン侍医が薬材を取りに外に出ると
花壇の前にいるウンスを見つけパチリと瞬きをし静かに近付いた
「気に入った花はありますか?また差し上げますので」
「え?良いんですか?」
「構いませんよ」
そう言いながらチャン侍医は
ウンスの姿を頭から見下ろしていく
・・・人なのだがな
この違和感は何なのか?
「・・・足が辛いでしょう?宜しければ此方にどうぞ」
チャン侍医は優しく微笑み
ウンスに手を貸しながら診療所に招き入れた
薬員達が忙しく動いていてウンスは戸惑っている様だったが
大丈夫だとチャン侍医は椅子に座らせお茶の用意を始めた
ウンスは顔をチャン侍医に向けていたが
「あの兎なのですが・・・」
「・・・あぁ、なるほど・・・そういう事ですか?」
その言葉にチャン侍医はふむと頷きウンスの目を見る
ヨンから少しは聞いているのかもしれない
「・・・誤解しないで頂きたいのは私は貴女を
王宮から追い出す為に調べている訳ではありません」
「・・・はい」
「私達に全てを言う必要は無いですが
・・・大将にはお話した方が宜しいかと思います」
「はい」
ウンスはコクリと頷く
薬員が診療所を出て行き誰もいないと確認するとチャン侍医は
部屋の隅に置いてある木箱を持って来た
カタ、カタ、と音がして中にまだ兎がいるのだろう
ウンスはほぅと安堵した
「・・・同じ事をした事はありますか?」
「村にいた時に・・・」
「村?」
自分が生まれた海に近い村の話を聞いてチャン侍医は首を傾げる
「貴女は港町にいたのでは無いのですか?」
この女人は少し離れた港町にいたと聞いていたのだが?
最近になって港町から薬材が届かなくなって不思議に思っていた
あっという間に町は廃れ、貿易さえも無くなったと・・・
売られる所を大将が助け出したと隊士達が話をしていたので
女人と大将に関係がありそうだと思っていたのだが
またそれとは違うきっかけが二人にはあったらしい
「・・・これを教えた方は何方ですか?」
「守り神です」
「・・・・・・・・・ほう?」
チャン侍医は座りを直し
ウンスに向き合った
「・・・始めに申しておきますが、
全てを信じながら聞いている訳では無い事を
お伝えしておきます」
「はい・・・」
「ですが貴女が今迄して来た事はこれから患者を治療するにあたってとても役に立つと考えています」
「そうなのですか?」
「ウンス殿は手先が器用と聞きましたので・・・
それを何かに役立てる事が出来るかもしれませんね」
田舎の村で育って何も学んでいなかった
それに村から追い出され海で暮らしていたウンスは
自分は何も出来ないと考えていたのだ
絵を描くだけ、昔母親が教えてくれた裁縫をしただけ
それで少しでもあげた人が喜び、動物の命が助かるなら良いとしか考えていなかった
何か学べたらヨンは喜んでくれるだろうか?
少しはここでヨンにとって役立つ人になれるだろうか?
ウンスは目を輝かせるとチャン侍医を見つめた
しかしウンスが典医寺に行きチャン侍医に話をしたとヨンに教えると
ヨンは膝を折り何て事だと思い切り落ち込んだのだった
⑥に続く
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
※余計な事教えたチャン侍医に怒ってもいるヨン。
まだチャン侍医は調べている最中でもあるし
でもウンスに嘘は言っていない。(´・ω・`)