人魚と騎士[出逢い編](2)
ヨンは一人生い茂った草原を歩いていた
他の部下も連れて来れば良かったと思ったが、はたして話を信じてくれるかどうかもわからない
「・・・来なければ良かったか?」
長いため息を吐くも足を進めどんどん森の奥へと入って山道を歩いて行った
役目も無く久しぶりに暇となったヨンは愛馬のチュホンに乗りぶらぶらと山道を歩いていた
他の隊士達は久しぶりの休みに酒楼に飯屋にと早々と出掛けてしまったがヨンは一人馬に乗り王宮を出たのだった
休む為に入った飯屋で町人が酒を呑みながら話をしていた
「また出たらしい」
「何がだ?」
「化け物だよ」
ヨンは動かしていた匙を止める
「崖近くの祠の辺りでズルズルと不気味な音がしたと村人が聞き
見に行ったが何も見当たらなかったらしい」
「蛇では無いのか?」
「昔からあの辺りはおかしな話ばかり聞いているからな、
祠に近付くのだってあの辺に住んでいる者だけだろう」
「彼奴らは昔の風習を信じ生贄を捧げる奴らだからな」
「何の話だい?」
ヨンが顔を其方に向けると違う客が町人達の話を聞いていた
「もう十年以上も前に干ばつが酷かった年だ
あの村で娘を守り神に捧げたのだがその娘が逃げて帰って来てしまった、
村人達は娘の身体中を切り動けなくしてまた捧げたと聞いた事がある」
「酷い話だなぁ」
バカバカしい何が生贄だ守り神だ
そんなもの人間の勝手に作った事だろうに
胸糞悪いと舌打ちをしてまた飯を食べようとしたが
「実はその娘まだ生きているらしいぞ」
「何と」
「しかもこの間も見かけたと聞いた」
「何処でだ?」
「その崖の辺りでらしい」
「・・・・・・」
ヨンは匙を置き机に飯の代金を置くと店を出て行った
崖に向かっている筈なのに
何故こんなに獣道だらけなのだ
まるで行き先を隠している様だ
とうとうヨンはチュホンから下り手で生い茂る枝や草原をかき分け前に進む
何故あの話を聞いて来ようと思ったのか?
守り神云々では無い
その娘は生きているのかもしれない
だが、祠の辺りにいたという
おそらくは・・・
考えながら前に進んで行くと開けた場所に着いた
崖が直ぐ傍にありポツンと小さな古びた祠があった
ヨンは周りを見渡したが誰もいない
歩いてあちこち見るが人間が暮らしている様には見えなかった
「勘違いしたか?」
違う暮らしをしているのだろう
ヨンは草原に座り込んだ
誰も近付かないのか草も伸び放題で座ったヨンが隠れる程だった
チュホンは勝手に歩き回り草を食べている
静かで落ち着く場所だ
大の字に寝転ぶと気持ち良さに直ぐ目を閉じた
音がした
何かを引き摺る音だ
目を開け横に置いた剣を取ると様子を伺う
ズルズルズル……
やはり何かを引き摺っている
そして何故か女人の囁く声
小さくなったと思った途端
バシャン!!
崖から飛び降りただと?!
ヨンは飛び起きると祠の近くの崖迄走った
そんな高くない崖の下には海が広がりヨンは急いで崖下を覗くと海の中に人間がいた
赤い
血か?
見ると細く白い手で女人とわかった
「何て事をしてやがる!」
ヨンは慌てて海に飛び降りた
(3)に続く
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
何て事はない普通にヨンの一目惚れ話よ。笑