「さあ、着いたよ」
いや、足が無いから無理か。
家主はそう呟き、人魚を担ぎ店に入っていく。
店に並べられている蝋燭を人魚はぼさぼさの髪の間から凝視していたが、家主は構わず普段使っていない客間へと運んで行った。
人魚の姿はとてもみすぼらしく、着ている着物も水が滴る程濡れている。
家主の妻は仕方なしと自分の着物と身体を拭く布を持って来て人魚の着替えを手伝った。
「見た事もない髪色だねぇ」
妻は珍しそうに赤い髪の毛を眺めていたが、
人魚が徐に顔を上げて来た。
「お願いします!此処に置いて下さい!」
何とこの人魚言葉を話すではないか!
慌てて家主を呼び二人は警戒しながらも見ていると、人魚は額を床に付け縋る様に夫婦に懇願していた。
「私を売らないで下さい!」
はたしてこの化け物は売れるのか?
売るとしても偶に町にやって来る見世物小屋しかないのではと夫婦は思う。
「何が出来るんだい?」
腰から下が魚じゃ男の相手も出来やしない。
「先程蝋燭が並んでいるのを見ました。
あの蝋燭に絵を描けます」
「人魚が絵を描くとは・・・」
家主は人魚に既に呉汁を塗った真っ白な蝋燭と幾つかの塗料を渡した。
小筆を取り蝋燭に滑らかに絵を描いていく。
「ほうほう」
「何と見事な」
人魚は蝋燭に美しい牡丹の絵を描いた。
「わかったよ、
あんたには絵付けを手伝って貰おうか」
「ありがとうございます」
そう言うと、またその不思議な女人は頭を下げた。
❹に続く
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
🌟【25、9修正済】
