【国際医療展示会】
今年開催される展示会は、ジャンルが医療や美容だけでなく食育等も同時開催され、今までのイベントより規模が大きいものになるという。
2階の空きテナントではワークショップの薬草蒸しやネイルアートのブースも開くという事で、ウンスの同僚達は配布されるサンプルをお願いと強請(ねだ)り始めてもいた。
2階の空きテナントではワークショップの薬草蒸しやネイルアートのブースも開くという事で、ウンスの同僚達は配布されるサンプルをお願いと強請(ねだ)り始めてもいた。
「私は午後から講習なのよ。終わるのは夕方だからもう終わってるんじゃない?」
「えー?」
不満顔の同僚を無視しウンスは再び原稿に目を落とした。
講習は質疑も入れて1時間半しかなく、韓国での美容整形の歴史、発展、高レベルな技術をどれだけアピール出来るか、それによっては後の自分の独立にも繋がるので手を抜く訳にはいかない。
――独立か。
・・・そんな事がさっさと出来れば自分の人生ももっと幸せだったかもしれない。
愚痴と不満と自分の願望と。
最近のウンスの口から出るのはそんな言葉ばかりだった。
学生時代からの親友は2年前に会社経営者と結婚し、今は自由で優雅な生活を過ごしているという。
1度自分を信じて投資して欲しいとお願いしたが、返ってきた返事は冷たいものだった。
『ウンスも1度考えを切り替えて恋人を探す方に力を入れてみたらどうかしら?』
―――してるわよ、何時でも。
しかし仕事と家庭を天秤に掛けた時、まだ仕事を選ぶ自分は『ここにいなければならない』と謎の使命感でも持ってしまったのかもしれない。
ふと無意識に呟いたウンスを見た同僚は近付き、薄く目を細めてきた。
「多分ユ先生の理想が高いんだと思うけどね」
「はあ?でも友達だって会社社長と結婚出来たのよ。別に高くないわ」
「そういう事じゃなくて・・・あぁ、あれ。
じゃあどうしてチャン氏と一緒にアメリカに行かなかったんです?」
「え・・・」
「今思えば、彼ユ先生が好きだったんだと思うけど。病院に来る度にユ先生に話しかけていたし・・・」
「え・・・」
「今思えば、彼ユ先生が好きだったんだと思うけど。病院に来る度にユ先生に話しかけていたし・・・」
「・・・・・」
そう言われ、ウンスは口をへの字にし黙ってしまった。
韓国内の企業や施設に機器を卸している張(チャン)電工という会社はアメリカに本社を置く有名機器メーカーであり、そんな会社が江南で1番大きな病院と取引し始めたのは数年前からだった。
時々営業に来ていた男性はウンスを見かけると柔らかい笑顔を向けながら近付いて来る。
そんな男性に初めは戸惑ったが、更に彼がこの会社の息子で時期社長になるという話に驚いた。
「高性能レンズなので皮膚の執刀部分が鮮明に見えます。あとこの針ですが、傷跡が残り難いんです」
小さいチューブ型の入れ物の先に沢山重なった針を手の甲に押し付けながら悠長に説明を進めていく、痕を見ても赤くもならず腫れてもいない。
「毛穴並の針の細さなのでその中に直にプラセンタやコラーゲンを注入出来る訳です」
――どうでしょうか?
美容に力を入れている国だからこそ必要な物だと思います。
「高性能レンズなので皮膚の執刀部分が鮮明に見えます。あとこの針ですが、傷跡が残り難いんです」
小さいチューブ型の入れ物の先に沢山重なった針を手の甲に押し付けながら悠長に説明を進めていく、痕を見ても赤くもならず腫れてもいない。
「毛穴並の針の細さなのでその中に直にプラセンタやコラーゲンを注入出来る訳です」
――どうでしょうか?
美容に力を入れている国だからこそ必要な物だと思います。
そう言う彼の眼差しは真剣で最新の商品よりもそんな彼の表情が印象深かった記憶があった。
しかし、暫く経った頃ウンスに声を掛け、
「ユ先生はアメリカに興味はありませんか?」
話して来た内容はヘッドハンティングだった。
ウンスがまだ諦めきれず密かに別棟で頼んでいた“幹細胞”の研究を彼は何処かから聞き付け、
アメリカの研究棟で“医師”ではなく“研究員”として働かないか?―――と彼は言う。
自分が長年大切にしていた研究を世に放てる可能性が出てきた。
しかしアメリカに行った場合、医師という職種を辞めることになってしまう。
悩んで悩みぬき、
ウンスが出した答えは、
“否”だった。
そう告げるとチャン氏は暫く悲しそうに下を見ていたが、眉を下げながらもこちらに笑みを向け、
「・・・何時か、それを商品化させたい時は私を思い出して下さい。必ず協力しますので」
そう言いチャン氏は頭を下げ去って行った。
あれから数ヶ月、彼がこちらに来た話は聞かないが少なからずウンスは後悔する時もある。
誘いを受けていたら今頃はコスメの会社を立ち上げていたかもしれない。上層部に訴え煩わしい顔を向けられる事も無かったかもしれない。
・・・でも、自分が目指した場所はそこじゃない。
夢を諦めた時、私は再び後悔する。
"ウンスの頑固なのはそういう所よねぇ。“
何処からともなく親友の呆れた声が聞こえた気がした――。
悩んで悩みぬき、
ウンスが出した答えは、
“否”だった。
そう告げるとチャン氏は暫く悲しそうに下を見ていたが、眉を下げながらもこちらに笑みを向け、
「・・・何時か、それを商品化させたい時は私を思い出して下さい。必ず協力しますので」
そう言いチャン氏は頭を下げ去って行った。
あれから数ヶ月、彼がこちらに来た話は聞かないが少なからずウンスは後悔する時もある。
誘いを受けていたら今頃はコスメの会社を立ち上げていたかもしれない。上層部に訴え煩わしい顔を向けられる事も無かったかもしれない。
・・・でも、自分が目指した場所はそこじゃない。
夢を諦めた時、私は再び後悔する。
"ウンスの頑固なのはそういう所よねぇ。“
何処からともなく親友の呆れた声が聞こえた気がした――。
仕事の合間に原稿の見直しや動画作成をし、帰る頃にはすっかり日も沈んでいるそんな日がずっと続いていた。
睡眠時間が短いからか、忙しくなってきたからか、あれから夢を見る事は無くあの俳優が近くで撮影している場面さえ見つからない。
現実に似た人がいた。
だからもう夢は見ない。
ではあの夢は一体何だったのか?
次に見た女性は自分だとわかったが、意味は何なのか?
「私が田舎に行く・・・?訳でもないかぁ・・・」
昔じみた場所で孤独にいる自分を予知しているのなら、それは今の仕事を離れているという事なの・・・?
「やだ、やめてよ!地方から漸く江南まで来たのに」
人生の半分は勉強と研究に費やした。
それが無になる絶望に私は耐えられない。
キラキラと煩い程の照明に気付きふと横を見ると、今流行りの占い師がいるという古びた看板があった。
――あまり占いは信じないんだけど・・・。
これから進む自分の人生を聞いて不安を取り除きたい。
幸運な運勢になるのなら尚良い。
ウンスは息をゆっくり吐くと階段を上がり始めた。
イベント当日、
ウンスの気分はどん底に沈んでいた。
ウンスの気分はどん底に沈んでいた。
結局占い師から言われた事を纏めると
「昔の男と出逢う」という事だ。
『昔の男ぉー?』
ウンスが未来を見てくれと話しても返ってくる言葉は、
『門が開く時、そこに運命が待っている』
『貴女が出逢ってきた昔の誰かが再び目の前に現れる』
・・・意味がわからない。
そもそもまともな男性なんて・・・。
昔も何も自分の恋愛経験は乏しいもので、大学時代初恋だった先輩は自分を上手く利用し実績を上げて教授の娘と恋人になった。
唯一の救いは自分が研究していた幹細胞のレポートを奪われなかった事だけだ。
まだ懇親がある当時の教授と連絡は取り合っているが、教授の定年も近付いている為早くそれを生かす製品を考えたい。
しかし、その為の費用も用意しなくてはならない。
――あれもこれもと望んでいるから何時まで経っても何も手に入れられないの・・・?
「はぁ・・・」
ため息を吐きつつただ足を進めている。
ウンスにはイベントの講習会のみの為、休憩スペースを与えられてもいない。
首から掛けたIDパスを会場スタッフに見せ、施設へ入るとそのまま真っ直ぐ講習会場へ向かおうとした。
「・・・ユ先生?」
背後から声を掛けられたウンスは、振り返るが即座に驚き顔へと変わっていった。
「・・・え?チャンさん?」
そこにはアメリカ本社に戻ったと思っていたチャンビンが立っている。
「ど、どうしたんですか?」
「年末に出す最新医療機器の営業で今日のイベントに参加しているんです。
・・・ユ先生もどうして此処に?」
まだ開場前で企業やスタッフしか入れない時間帯にウンスの姿を見つけ急いで声を掛けたという。
「あぁ、今日の午後の講習に私が入っているんです」
「そうだったんですか。ユ先生は優秀ですから病院も安心して任せたのですね」
「・・・あはは」
乾いた笑顔を返すしか出来ないウンスに気付かずに1人納得したチャンビンは、ゆっくりと頷きにこりと微笑む。
「終わるのは何時ですか?」
「うーん?多分19時前には終わるかしら」
「では送って行きますよ」
「え・・・?」
「ん、知らないんですか?夕方から天気が悪くなるらしく、しかも数日前から太陽フレアの影響で電波障害が起きているんです。今日も『早めの帰宅を』とテレビで言っていました。昨夜は何と江華島で赤いオーロラが見れた様です」
「赤いオーロラ?へぇ、凄いですね・・・」
確かに北側に近い地域で夜にオーロラが発生したとニュースが流れていた。
黒点が爆発し太陽から放たれたプラズマ粒子が大量に散り、大気中の酸素と化学反応を起こしオーロラが発生するが、磁気嵐が激しいからかそんな近場でも見れたという事なのだろう。
赤いオーロラか・・・。
ウンスにはその光景が怖いと感じてしまうのは何故なのか。
そんな日にここにいる自分が不安になるなんて・・・。
「・・・忙しくて全く見ていなかったです。」
内心を誤魔化す様にウンスは肩を竦め苦笑すると、
そんな表情を見てチャンビンは、
「ユ先生は相変わらずですね」
と再び微笑んだ――。
そういや、先に男性がアピールしてしかし、後から入ってくる事を(ねるとん方式)と言ってた時期がありました・・・覚えてる方います?
そのうち書いてみようかなぁと思っていたら、何かで書いてたわ笑。
じゃ、いいかあ(´∀`)外堀から攻めていくヨン書いてもと思ったが、似てしまうなw

