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「ゴーヤチャンプルー」


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小学校最後の夏休み。
   母と妹がいなくなった・・・
   母が三日も家を空けたのは初めてで、
不安と悲しみが募る中、弟二人は楽しそうに遊んでいた。

   もう会えないかもしれない、そう想ったら、
頬を伝っていた汗が涙へ変わり、はしゃぎ過ぎた弟二人が隣でケンカを始め…

   僕は切れた。

   「お前たちフラーか!」

   驚いた二人が振り返る。

   「お母さんが三日も帰って来ないって今まであったか!」

   二人が悲しそうに顔を見合わせる。

   壁時計が7回鳴った。父は残業続きだった。

   「もう二度と会えないよ!この家に帰って来ないんだよ!」

   その言葉が合図となり、三人とも大声で泣き出した。

   僕らは夏夜の蝉のように母と妹を想い泣き続けた…。

   泣き疲れた頃、三日間景色の変わらない台所をぼんやり眺めていた…。

   「よし!」そう言ってフライパンのフタを開けた。

   酸味の強い臭いに一瞬、顔をしかめる。

   「お母さんが作った最後のおかず…二度と食べられないよ」

   そう言うと、僕らは発酵したゴーヤチャンプルーを口に運び、再び大声で泣いた。

   涙と酸味と母の想い出と共に。

   「お母さ~ん…」「帰ってきてぇ…」「いい子にするから…」

   そんな台詞を口にしながら食べ続けた。

   もう二度と母には会えない。もう帰って来ない。

   はずだった…。

   次の日。家に帰ると、母と妹がいた。

   昨日までの事が夢みたいに「女だけのプチ旅行」から帰っていた。

   台所で母がゴーヤを切っている。

   「おかえり」母の背中に声をかけた。

   「ただいま」母が答える。

   今、考えると逆だったのかもしれない。

   まな板からこぼれ落ちるゴーヤに油が弾け飛ぶ。

   弟二人が玄関から「お母さんよぉ~!」と走って来る。

   「ほら~、火使ってるでしょ~」

   母は三日分だけ優しくなった、気がした。

   「ゴーヤチャンプルーだ!」弟たちが笑顔を見合わせ振り返る。

   「兄々、ゴーヤチャンプルーだよ」 声をひそめて小さく言う。

   母が不思議そうに一瞥し、フライパンに塩を振った。

   ポークや玉葱がゴーヤと絡みあい、注いだ醤油の香りでお腹を鳴らせる。

   僕はいつもと同じように、何もなかったように部屋に入る。

   蝉が鳴き、鐘が時刻を知らせ、いつものように母がいる。

   妹がいる。弟たちがいる。夜になれば父が帰って来る。

   すべてが何も変わらないいつも通り。

   そしていつものように机に向かい、いつも使う色鉛筆をいつもの順番に並べ、

   僕は3日ぶりに絵を描いた。


   赤嶺しげたか 2009・4・28 沖縄タイムス 「唐獅子」掲載



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