何があったかなんて、憶えているはずないのに。
記憶なんてないはず。
きっとあったなら恥ずかしくて憤死してしまう。
それなのになぜ、ふとした瞬間にアノ時の情景が頭に浮かぶのか。
少しかさついている指先。
時折触れて身体を擽る髪。
耳元で低く囁かれる睦言。
顰められた顔に浮かぶ汗。
深く、奪うような口付け。
意識が飛んでしまうほどの、快楽。
「サイアク」
断片的に思い出される記憶は、小さな小さな熱を生む。
日を重ねるごとに熱は増して、苛立ちが募るばかり。
「ゼッタイニチガウ」
そんなことあるはず、ない。
自らそれを望むなんて、ありえない。
否定したいはずなのに、それでもいいかなんて思わせるのは。
あの日から浮かぶのはいつも決まって
熱を孕んだ眼をして私を見る、アノ人。