予告のブツです。
例のレシピが出来上がるまでの背景を書いてみましたw
kero様の寛大さに感謝★
~~~~~~~~~
(仮)『肉食キョーコちゃんのヘタ蓮君添え』レシピができるまで 1
「はぁ・・・」
「・・・・・・・・・・」
迷惑だ。
まったくもって迷惑だ。
無言で視線を送ってはみるが、相手はスマフォを片手に物憂げな溜息を止めはしない。
きっと俺がじと目で見てることなんて気がついていないんだろう。
「はぁ・・・」
いい加減止めないと被害が及ぶ。
いつもなら個人の携帯電話は仕事中預かっているのだが、今日はバラエティのコーナーで個人の携帯電話を扱うネタがあったので持参したのが運のつき。楽屋に戻るまでのわずかな隙にスマフォに指を走らせて何かを覗き込んでいた蓮は色気をたっぷり含んだ艶っぽい吐息をもらしている。それに当てられ虎視眈々と身を乗り出してきている女性陣の視線が痛い。
収録が終わったスタジオから俺は逃げる様に蓮を連れ出した。
そうはいっても走って楽屋に戻るわけにもいかない。蓮のイメージを崩さない範囲のスマートな歩行での最大速度・・・は俺の最大速度であってコンパスの差で蓮にとってはゆったり目な歩行なのだろう。
「・・・蓮、顔」
「・・・なんですか?何か不味い事でも?」
小声で脇をつつくとさっきまでの表情はなりを潜め、どうしましたか?と言わんばかりの人畜無害な温厚紳士の顔をする。
不味いことだらけだ!
と叫んでやりたいけれど、蓮の楽屋はもう目と鼻の先。ぐっと我慢して、背中に突き刺さる肉食女子たちの視線に注意を払いながら素早く楽屋に滑り込んだ。
「お前な。もう仕事中はケータイ禁止にするぞ」
「え?なんですかいきなり」
「さっきから!ケータイ見ては色気駄々漏れな溜息を漏らしまくって、公害レベルだ」
「今日はたまたま仕事でプライベート携帯を持参ってだけだったじゃないですか。別にそんな・・・」
「ふーん。じゃあさっき何見てそんなに溜息をついてたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな役者の顔してなんでもないように見せかけたって俺には通用しないぞ!
どーせ、キョーコちゃん絡みのモノを自分のスマフォで見返していたに違いない。
以前は携帯電話なんて仕事を管理する端末くらいにしか思ってなかったくせに、ちょっと前から携帯に触る時間が格段に増えた。携帯のカメラ機能だって使った無かったはずなのに、いつの間にかキョーコちゃんの写メが保存されてたりするんだ。蓮は見られたこと気がついていないけど、それをチラリと盗み見てしまった時の衝撃は物凄かった。こみ上げる笑いを押し込めるのがこんなにも辛い作業だったとは。
どちらにしても、今の蓮はキョーコちゃん不足。
一緒の仕事もないし、事務所での接触もない。
だんだんと不機嫌な時間が増えてきている蓮のためを思って、キョーコちゃんと仕事でニアミスできるタイミングを計ってはいるが、近くにいると分かっている時に限って蓮の方の仕事が押したりキョーコちゃんの方の仕事が押したり・・・ともかく運がない。
最初の方はキョーコちゃんもここで仕事してるから会えるかもな?なーんてからかったのがいけなかったのか。何を言ってるんですか?と平然とした顔で俺を嗜めていたくせに接触が無いとどんどんと傾く蓮の機嫌。最近は期待させとくとうまくいかなかった時の落差がきついので黙っていることにした。
でも今日の俺はちょっと違う!
かなり明るい情報を掴んでいるので自然とからかいたくなるのは許されると思う。
「ちゃんと食べてるか?なんかちょっと弱ってる感じで、手負いの獣を狙うお姉さま達の視線が痛いんだけど」
「手負いの獣って・・・」
「じゃあ栄養失調で弱った獣」
「・・・・・・」
「反論しないんだな。やっぱ食ってなかったか」
恋煩いで。とは言わないでおいてやる。
この栄養失調はキョーコちゃんを補給してやるだけで改善するのは知ってるんだ。ま、キョーコちゃんの事だからリアルの栄養補給はばっちりしてくれるのも期待してるんだけど。
ここ一ヶ月はモデルの仕事も入ってないからまだ問題にはならないが、蓮の肌のかさつきもちょっと気になるところだ。
「久々にキョーコちゃんに依頼を出そうかなぁ~?蓮が食事をサボるんだって言いつければきっと厳しい指導をしてくれるに違いない」
ぴくり、と蓮の眉が動いた。
明らかに期待しているくせに、妙なプライドでそれをすんなりお願いしますとは言えないんだ。
「食事のことくらいで最上さんを呼びつけるって良くないですよ」
「呼びつけるってなんだ。れっきとしたラブミー部への依頼・・・仕事だ」
「屁理屈ですよ。そもそも最上さんだって仕事が増えて暇じゃ」
「キョーコちゃんは今日の夜は仕事は無い」
「だったら余計に休む時間を・・・」
煮え切らないヤツめ。
どうせこのまま俺の前でもいい先輩ヅラして依頼を良しとは言わないんだろう。ついでにキョーコちゃんが今日の夜仕事が無いって知っても、自分から誘いをかけることはできないんだろうな。
「そうかー。じゃあ別件で俺が依頼を出すか。お願いしたい仕事もあるし」
「・・・は?」
ああ、なんて顔してるんだ蓮。
ラブミー部への依頼は誰でもできるのは常識だろう?
俺がお前の事以外でキョーコちゃんに何らかの依頼をしたって何の問題もないのに、どうしてその可能性を考えないんだろうな。
「キョーコちゃん、仕事は無いけど番組の打ち上げ会に強引に誘われて困ってたんだよ。どうもキョーコちゃんを気に入って必要以上に絡んでくる芸人がいるらしくってな。お仕事があればすんなりお断りできるのに・・・って愚痴ってたんだよ。キョーコちゃんの為になるんならラブミー部の仕事を入れてやろうと思って」
「・・・・・・・・・」
「でもお前はキョーコちゃんいらないっていうんだし、そうなればお兄ちゃんが」
「・・・・・・・・か?」
ぞわり
急に室温が下がった気がした。蓮が何かしらを呟いたようだったが聞き取れず、ただ地を這うような低い音が聞こえた気がする。
「社さん、今、なんて・・・?」
闇の国の蓮さん・・・っ!
「や・・・だから、キョーコちゃんが今日の夜仕事が欲しいって」
「・・・その前です」
「番組の打ち上げに強引に誘われて困ってたって」
「・・・だからその困ってたのは」
「キョーコちゃんの子と気に入って必要以上に絡んでくる芸人・・・・ひっ」
ダメだ!あれはどう考えても女の子を誘う顔じゃない!!
キョーコちゃん!!逃げてぇ~!!!
思わず固まってしまった俺の目の前で、蓮は無言のままスマフォのを操作して耳に当てた。
「・・・あ、もしもし、最上さん?悪いんだけど今日の夜、ラブミー部の依頼をしても良いかな?」
人を殺してもおかしくなさそうな極悪な人相になってるくせに、電話に話しかける音声はいたって穏やかな声だ。そのあまりにもなギャップは、アニメ声優本人が喋ってる映像なのに本人が喋っている時に感じるのと同じような奴だ。あの人相の人間から発せられる音じゃない!
打ち上げを断る口実を求めていたキョーコちゃんが都合よく舞い込んだ依頼を断るわけがない。
まんまとキョーコちゃんに約束を取り付けた蓮は、通話を終えるとキラキラした笑顔で俺を振り返った。
なんだろう・・・。今きゅぅうっと胃が引き絞られている様な痛みが・・・
「・・・と、言う訳で。最上さんへの依頼は取り付けたました。社さんの方の依頼は他のラブミー部員にお願いしたらいかがですか?」
「おま・・・」
「じゃあ今日はこれで上がりですよね。申し訳ないですけど、今日はこのまま直帰するのでここで解散で」
電光石火の素早さで、蓮はぱたんとというドアが閉まる音だけ残して消えてしまった。
・・・・この、ヘタレ野郎~~~!!!!
蓮が居なくなったことでぎゅうっと掴まれていたような胃がふっとゆるんで少し楽になったが、俺の腹の怒りに似た感情はそれと反比例するかのごとく燃え上がった。
お膳立てしてもなかなか動かないくせに!
なのに嫉妬心は人一倍で!
どうせ今夜だってキョーコちゃんを呼びつけても何にもできないまま些細な幸せを噛み締めるだけな癖に!!!
このヘタレが!!!!!
ぶちり
俺の中で何かが切れた音が聞こえた。
「・・・るぅえぇぇん!今に見てろよ・・・!」
――・・・今思えばこれがきっかけだった。