ACT205妄想【24】 | 妄想最終処分場

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本誌ACT205の続き妄想です。

ようやくこれでラストですー。←イマイチ締まらない感満載ですがお許しください・・・







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ACT205妄想【24】



「…最初は、嫌いでした。意地悪で」

「…うん」


キョーコはしばらくの沈黙の後小さく口を開いた。

覚悟を決めたはずなのに、口をついて出てくるのは少し前の自分たちの立ち位置。


「意地悪なんだけど、垣間見える柔らかい表情が目に入ってくるようになって・・・でもお芝居に真剣な貴方を見て憧れをもって。・・・いつの間にか、魔法にかかってました」

「魔法?」

「予感がしたんです。あの時…軽井沢で敦賀さんがコーンにキスした時、受け取ったら悪い魔法にかかってしまうような」


キョーコは手の中の石達に視線を落とした。キョーコの幼いころからのお守りは朝日に浄化されたかのように美しく煌めいている。手の中で色味を変えるお守りは、もう自分の汚い感情を吸い尽くして壊れてしまいそうだと思っていたのにまだ大丈夫とキョーコを励ましているかのようだった。


「・・・もう二度と、あんな愚かな思いを抱かないって決意していたのに、それを覆されてしまう・・・そんな予感が」


そしてコーンに寄り添う桃色の雫もキョーコの心を奮い立たせる。彼女がいれば無敵の気分になれることを思い出して。

もう一度、顔を上げて蓮を見上げる。

夜が明け朝日の差しこむ室内で、尊敬してやまない・・・愛おしくてたまらない人が見慣れない瞳の色で自分を見ている。


「貴方に恋する・・・悪い魔法にかかってました」

「・・・最上さん・・・」


蓮の手が伸びてきて、きつく抱きしめられる。息がつまるほどの力強さなのに、包まれた熱と香りでそれまでのキョーコの緊張が一気に解けた。


「・・・気が付いた時には手遅れで・・・っ、あの時以上の愚かな女になるのが目に見えていて、ずっとずっと認めたくなかったんです・・・っ」


身体のこわばりがゆるむのとキョーコの涙腺が緩むのは同時だった。


「・・・でも自分を育てるために無駄になる事なんて何もないって・・・。ようやくこの気持ちに向き合えたけど、敦賀さんに好きな人がいるのを知ってて苦しかった。あなたの・・・誰かと紡ぐ幸せを、永遠に望んであげられないのに」

「・・・その誰かは君しかありえないんだ」


震える吐息と涙が蓮の胸元を濡らしていく。そこから燃え上がる様な熱を感じ、蓮は腕の中に抱き込んだキョーコに囁きかける。


「でもっ!敦賀さんあんな辛そうな顔で、どこにいても大切な人を作れないって・・・!だから私、敦賀さんは誰のモノにもならないってどこかで安心してて、好きな人がいてもその人と幸せになったりしないんだって・・・私、人でなしでこんなひどい・・・っ」

「俺だって君が愛を否定するから、きっと誰にも・・・俺も含めて誰のモノにもならないからって安心してた」

「コーンとだって・・・!コーンが好きだって言ってくれたのに、私・・・コーンに敦賀さんを重ねて・・・っ」

「重ねていいって言ったのは俺だよ?コーンも俺だから」


キョーコの呼吸は次第に嗚咽交じりに変化し、まるですべてを吐き出すように言葉が口をついて流れ出す。蓮はそれを受け止める様に返していくが、畳み掛けるキョーコの言葉は止まらなかった。


「子供がいるかもって思って、逃げ出さなきゃいけなかったのに敦賀さんに会いたくって。でもあったら苦しくって」

「うん」

「思い違いだったって分かった時に、一瞬でもよかっただなんて・・・!私、酷い女なんですよ・・・!?」

「最上さん、もういいから」

「よくありません!」


蓮の腕の中で暴れていたキョーコは、グイッと自分を抱き寄せる蓮を押し退けた。開いた距離で、真っ赤に泣き腫らした顔のキョーコが蓮の目に映る。

キョーコとは対照的に、蓮の表情は甘やかな微笑を湛えていた。


「卑怯なのは俺も同じ。いや、俺の方がもっとひどい。君に無責任なことをした」

「私、地獄に落ちるべき人でなしなんですよ?」


抗議するように腕の中で暴れるキョーコを蓮は愛おしそうに抱きしめる。


「そんな『酷い女』の君が好きなんだ」

「・・・っ!さっきから!何でそんなに嬉しそうな顔をしてるんですかっ」


蓮の浮かべる微笑みにキョーコが思わず声を上げた。


「好きな子から、こんな熱烈な告白を受けたら嬉しい顔しかできないよ」


蓮はこつんとキョーコの額に己のそれを合わせた。神秘的な碧眼がキョーコの視界一杯に広がる。


「キョーコちゃん、キスしていい?」

「なっ・・・」

「今度は誰かに重ねたりしないで」

「・・・コーン・・・っ」


至近距離にある碧眼にキョーコの呼びかけが自然と変化する。少し咎める様なキョーコの呼びかけを無視して蓮は軽く唇を合わせる。


「まだ乗り越えるべき自分の壁はたくさんあるけれど、君が隣にいればもっと高く飛べる」


確信に満ちた表情の蓮は、キョーコに向かって柔らかく微笑んだ。


「君が好きなんだ。キョーコちゃん」


蓮のその表情にキョーコは見覚えがあった。

高熱に浮かされた蓮が『キョーコちゃん』と呼びかけ、初めて目にした柔らかく愛おしげなあの笑顔。


(・・・・あの時と、同じ)


「・・・コーンのばかぁ・・・。敦賀さんのバカ・・・」


(あれは、私だったんだ)


蓮の告白で、幼い頃出会って南国で再会した妖精の王子と尊敬する先輩が同じ人物であることは理解できたつもりだったが、自分をキョーコちゃんと呼ぶその表情に、やっとキョーコの中でその事実が腑に落ちてきた。


「ばかって・・・。まあ、事実か」


ぐすぐすと鼻を鳴らすキョーコの言い様に蓮は苦笑した。その様子はなぜだかいつも大人に見える蓮よりもずっと年相応に見える。

しばらくしてキョーコはまだ涙でぼやける目元をグイッと拭った。


「取り戻した愛を、育てていっても良いですか?・・・あなたの隣で」

「もちろん。まだ乗り越えられていない壁は多いけど、必ず乗り越えるから隣で見てて」


躊躇いがちだったが、キョーコはこくりと頷いた。愛おしさが込み上げてきて蓮はまだキョーコを腕の中に囲い込んだ。


「・・・大好き」

「・・・・あ・・・の・・・」


耳元で何度も囁かれる言葉に、もう限界と言わんばかりにキョーコの頬に熱が昇っていた。

叶わないと思っていた想いが通じ合った事実が、抱きしめられてようやく実感し始めたキョーコは次第に恥ずかしさが込み上げてきていた。


「・・・愛してる」

「つ、敦賀さん・・・っ?」


「・・・君は?」

「・・・・・・っ」


真っ赤な顔を覗き込まれてキョーコは返事に窮した。目の前の蓮は、嬉しそうだがどこかで何かを期待するような・・・そんな幼い部分を織り交ぜた表情をしていた。


「教えて?」


そこまで言われて、キョーコは何を強請られているのかやっと理解する。


いじわる・・・と心の中で呟いて


「・・・・・・貴方が、好きです・・・」


消え入りそうなくらい小さい声になってしまったが、それはちゃんと伝わって

神々しいまでの破顔を直視できず、キョーコは蓮の胸に顔を埋めた。









「よし、こんなもんかなっ」


前髪を整えられている間目を閉じていたキョーコは、仕上がりを告げる明るい声に目を開けた。


「我ながらいい出来!これでリクエストした蓮ちゃんに文句は言わせないわ」

「え?敦賀さん?」


社長室に呼び出されたキョーコはそこに待ち構えていたテンに連行された。

着替えを命じられてからはあっという間。目を開ければ黒髪のミディアムヘアにナチュラルメイクの自分と目が合う。胸元にはプリンセスローザや揺れている。


「そ。隣の部屋に蓮ちゃんはもう準備出来て待ってるから早くいってらっしゃいな」

「あのっ・・・」

「はいコレ。そんなに化粧直しもいらないと思うけど、必要な小物は入ってるから好きに使いなさい」

「え?ええっ?」


戸惑うキョーコに小さなハンドバックを持たせ、テンは連れてきた時と同じ勢いでキョーコを部屋から追い出した。


「ダーリン、終わったわよ~。急な呼び出しだったけど頑張ったんだからご褒美ちょうだい!」


キョーコを送り出した扉とは別の扉に足取り軽く駆け寄ったテンは、ドアを開くと同時に自らの口も開いていた。


「ああ、すまなかったな。ほれ、ご褒美だ」

「んもう!ちゃんと大人の女性扱いして!」


いつぞやのように飴玉を差し出すローリィに文句を言いつつ美しい包み紙にくるまれた飴玉にテンは手を伸ばす。宝石のようなそれを口に放り込むと、ソファーの上で寛ぐローリィの隣にちょこんと座った。


「今回は俺というより蓮の依頼だからな。あいつからちゃんと礼と報酬が来るはずだ」

「そんなお子様からお金取るほど困っちゃいないわよ~。蓮ちゃんのお願いだったら喜んで受けるけど・・・う~ん、でもねぇ」

「なんだ?」

「あんなに髪を何度も染め直したら痛んじゃうじゃない」


美に寛容な美容師としてはちょっとね・・・といささか渋い顔のテンにローリィは苦笑した。


「まあ、あんなに素の姿に戻ることを拒否してたんだ。いい傾向だと思ってやってくれ」

「そうねぇ。これからはキョーコちゃんのサポートもあることだし!」




自分が出て行ったあとそんな会話が交わされているとは露知らぬキョーコは、テンに言われた隣の部屋のドアをノックしていた。


「最上です。お待たせしてたようですみません。敦賀さ・・・」


ノックにどうぞと返され、ドアを開けたキョーコは敦賀さんと呼びかけた途中で目に飛び込んできた蓮の姿に口を開いたままになってしまった。


「そんなとこに立ったままでいない。さ、行こうか」


目も口もぱっかり開いたままのキョーコに蓮は苦笑した。


「つ・・・コーン・・・?」


キョーコは目の前にいる金髪碧眼の男に思わず呼びかけを変えてしまう。そんなキョーコの手を取り、蓮は部屋を出る。


「コーンじゃなくて久遠って呼んで」

「あ、あの・・・」

「折角外を歩ける機会だし、色が違っても敦賀さんって呼ばれたらバレるかもしれないだろう?」


蓮に手を引かれるままエレベーターに乗り込む。密室となった金属の箱は二人を乗せて地上に向かって下降し始めた。


「え、外?コー・・・じゃなかった、敦賀さん?」

「・・・・・・」

「えっと・・・く、久遠さん?」

「さんもとって」

「く、・・・くおん」


以前に教えてもらった蓮の本名を戸惑いながら呼ぶと素のままの色の笑顔が返ってきて、気恥ずかしさにキョーコは俯いてしまった。


「俺も今日は最上さんじゃなくてキョーコって呼ぶから」

「なっ・・・」


急に呼ばれた呼び捨ての名前に困惑する。はじめて蓮の声で呼ばれた名にくすぐったさと同時にいつかどこかで聞いたような・・・とキョーコは引っ掛かりを感じた。


「キョーコ」

「・・・・・・」


(・・・・こんな時に思い出すなんて・・・)


頬に上がる熱が抑えられず、キョーコはますます俯いてしまった。

初めてではなかったのだ。前に名を呼ばれたのは・・・


「そ、外って、ど、どうして・・・」

「約束しただろう。二人で出かけようって」

「つ・・・久遠はその姿のは良いとして、どうして私まで・・・」

「あの日の気持ちに戻ってみたかったんだ。コーンには黒髪のキョーコちゃんだろう?やっぱり長い黒髪似合ってるよ。ね、デートしよう?」


そう言われて、今日の扮装は蓮のリクエストだとテンが言っていたのをキョーコは思い出した。約束をした時と同じように指を絡めて手を繋がれて、堂々と街中を歩きだした蓮をそっと見上げた。蓮の目立つ容姿からたくさんの視線が投げかけられるが、どうやら俳優敦賀蓮とはやはり悟られていないようだ。


キョーコはあの後蓮の過去を本人の口から聞かされていた。素の姿で翳りのない表情を見せる蓮に、彼が少しずつ自分を受け入れて前を向き始めたことを感じ心の内がほんのりと温かくなるような気がした。


「・・・負けないから」


時折気遣わしげに自分を見上げるキョーコに心配をかけたな自覚している蓮は、絡めている指先にをより一層すり合わせた。


「近い未来に、素のままの自分の足で立つから。今はキョーコだけの俺でいるわがままを許して」


今まで避けていた海外での仕事を蓮は受けた。

素の姿に戻ることにはずっと抵抗を持っていた。一度目は両親のためで二度目はカインとしての撮影のためやむを得ずだった。今回は自分の意思で選択し過去の自分を受け入れる覚悟を改めてするつもりで、この姿でキョーコと過ごしてみたのだ。


「どんな姿でも、貴方は貴方ですよ?」

「・・・・・・」


そんな覚悟をキョーコに告げたのに、なんてことないようにキョーコはそれを易々と打ち破ってしまうのだ。


「・・・・・なんか、もう負けそう」

「へ・・・?何がですか?」


脱力したように蓮はキョーコの肩に額を預けた。肩にかかる重みと近い距離にキョーコはどぎまぎしつつ蓮の背に手を添えた。


「・・・・君に」

「えぇ?」


参ったと笑う蓮に、キョーコも戸惑いつつ笑顔を見せた。