霜月プレゼンツ!甘さ皆無のバレンタインデーベインデーネタ、中編でっす!←前編が短かったのでバランスを考えて前中後編・・・?の予定。(でもこの先後編で終わらなかったらどうしようw)
2/14 20:003部構成に納まらなかったのでタイトル前中編に変更しました。スイマセン~
許可を頂きましたので、メロキュン参加作品とさせていただきます!
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総合案内 魔人
様、ピコ
様、風月
様
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
HARAKIRI 前中編
コン コン
「はい」
「おはよー、敦賀君~」
「おはようございます」
「これぇ、チョコなんだけどぉ、もらってくれるぅ~?」
「え?いいんですか?ありがとうございます」
「私が貰って欲しくて勝手に用意してるんだから~。こっちがお礼言いたいわ!ありがと」
「いえいえそんな……」
ノックの瞬間はぱっと顔を期待に輝かせ、開いたドアの先に期待した人物がいないことに現実に返り、そして今日何度聞いたか分からない会話のやり取りを聞いていくうちに明らかにテンションが下がっていく。
「ここ数年言ってますけど、その明らかにテンションの下がった表情で来た女性を出迎えるのやめませんか…」
社の表情に、相手が楽屋を離れたのを見送った蓮はここ数年続いている注意を投げかけた。
「数年じゃないよ、もう4年目だ」
ちょっと失礼ですよという蓮に、社は俺は役者じゃないから何とも思ってない人にそんなに愛想はふりまけない、といじけながら楽屋奥に準備したダンボールを組み立てている。
(そうは言っても、毎年裏工作する癖に…)
なんだかんだ言って敏腕マネージャーはどうしてかこの日にキョーコとのニアミスをセッティングしている。
一昨年はちょうど昼食の休憩時間にキョーコが手製の弁当を持って楽屋を訪ねてきた。
去年は夕食は社さんに依頼されました!と珍しく20時には自宅に戻った蓮のもとにキョーコが訪ねてきた。どちらもチョコレートではなかったが、スイーツ付きの食事の差し入れだ。
その後ニヤニヤと、「進展はあったかね、蓮君?」と結果を分かり切っているのに聞いてくるのだ。
追い打ちをかければ、それをダシにからかわれること請け合い。
泣いて縋るつもりもないが、もうセッティングしてやらないとスケジュール管理を任せている社に言われれば、少ないプライベート時間で自力で解決するのは難しいだろう。何せ社は絶対にキョーコのスケジュールも把握し、多少は弄っているのだから。
そして今年もそれを期待してしまっている自分に蓮は軽く頭を振った。
「もらったチョコは…例年通りでいいな?」
「…はい」
組み立てたダンボールに、控室に溢れるチョコレートを社が詰め込んでいく。華やかなラッピングが無機質なダンボールの箱にとって代わっていく楽屋で、蓮は社の行動を自然と観察していた。
いつもならまだ控室に人が訪ねて来そうな時間帯には失礼になるからとダンボールにいただいたプレゼントを詰めたりはしない。
時折ちらりと時計を見てはせっせと詰め終わったダンボールを控室の隅のくぼんだ場所に積み上げていく。
その様子から、今年は昼間にキョーコが来れる時間帯があるのだなと蓮は思い至る。
社がキョーコに何かしら情報を流しているのは確実だが、キョーコが蓮の楽屋に来るか否かは別問題なのに、来るはずと期待してしまうのは学習能力か惚れた弱みか敏腕マネージャーの誘導か。
不確かな情報を確かな予測にして他人の意識に植え込む社の情報操作の餌食になってしまった自分。
(外れたら、責任とってもらわないと…)
「で、今年は何だろうな~?」
「何がです?」
「とぼけちゃってさ。キョーコちゃんだよ!今までチョコは無かったけど、バレンタインチョコは食べない蓮君はキョーコちゃんのチョコを貰ったらどうするんだろうねぇ~」
「………」
ぐふふ、と笑う社に蓮は沈黙を通した。
3年前のバレンタインの時に社に突っ込まれた質問の答えはいまだ出ていない。
というか、キョーコからバレンタインに何らかの形でお世話になっていますので、とプレゼントは貰っていたがチョコレートは貰った事が無いのだ。
コン コン
再びドアがノックされ、社の表情が先ほどと同様にぱっと期待に輝く。
「はい」
社の態度からそろそろだろうかと思ってしまった蓮の返答は、ほんの少し緊張した色合いを含んでいた。
「おはようございます!敦賀様!」
「あ…おはよう…?」
開いたドアの向こうに立っていたのは予想通りの人物だったのだが、その人物の表情は予想とは異なっていた。思わず、出迎えの言葉が尻すぼみになってしまう。
ドアの向こうにいたのは浅葱色の洋服に身を包んだ蓮の想い人。
背中に鉄筋でも入っているのではないかと思うほど真っ直ぐに背筋を伸ばした仲居立ちに一文字に結んだ唇。緊張と覚悟を思わせる張りつめた雰囲気に呼びかけはいつもの敦賀さんではなく敦賀『様』。
様付けで呼ばれるのは、大抵何かしら思いつめ突拍子もないことを言いだす時のサインだと、ここ数年の繰り返しで蓮は学習していた。
ビシリと直立しカックンと綺麗な斜め45度のお辞儀をしたキョーコ。取りあえず、と蓮は楽屋内に受け入れた。
開いたドアは気を利かせた社が閉めに行く。むろん、ドアの外側に『ただいま取り込み中。入室はご遠慮ください』という張り紙を張り付けていることに二人は気づかない。
「取りあえず、座って。どうしたの?そんなに難しい顔をして…」
「あ、いえ…」
思わず突っ込まずにはいられないキョーコの表情。およそプレゼントを渡しに来たとは思えないその表情に用件は何だろうと蓮は話しかけた。
蓮に指摘されて、キョーコははっとした様子で一度ため息をつき俯く。気持ちを落ち着かせたキョーコが再度顔を上げると、目の前の蓮はもとよりいつもなら女子高生の様なキラキラした瞳でこっちを見ている社も不思議そうな顔をしているのが目に入った。
「お、お渡ししたいモノがありまして…」
おずおずと零れた言葉に社は内心ガッツポーズをとる。
「あ、蓮に何か持ってきてくれたんだろう?」
「社さんにもお渡しした物があるんです!」
いそいそと気を利かせて部屋を出ようとした社をキョーコが呼び止め、持参したカバンをごそごそと漁る。
最初の年は蓮より先にチョコを渡されて焦りまくった社だったが、例年お世話になっている人用のチョコを社に用意するキョーコに、社も初めての時ほどの焦りは感じずにキョーコの行動を見守ることができる。
「毎年同じもので申し訳ないのですが、お世話になっている社さんにバレンタインのチョコを…。受け取ってもらえますか?」
「あ、ありがとう」
蓮より先に、義理と分かり切っているけれどチョコを受け取るこの気まずさは完全にはなくならない。しかも、さっきから蓮に対してはなぜだか鬼気迫る表情をしているのに社にチョコを手渡す時はいつもの柔らかな表情なのだ。可愛らしいラッピングのソレを受け取りつつ、背中に突き刺さる気がするキラキラスマイルを予感し、社は背中に嫌な汗をかく。
「きょ、キョーコちゃん。もちろん俺『にも』って事は蓮にも渡すものがあるんだろう?」
今年、蓮の誕生日プレゼントはすでに手渡されているのは知っている。なので、今日渡したいモノはバレンタインのプレゼントに間違いない。
背後でペットボトル飲料に手を付ける蓮の気配を感じつつ、社はキョーコに耳打ちした。
「はい…まあ…」
「じゃあ俺はいったんせ…」
「困ります!」
「へ?」
席を外すからと言いかけた社の言葉を遮ったキョーコの表情は、先ほど蓮と対面した時のソレになっていた。
「社さんには見届け人になっていただきたいので!」
「ええっ!?」
それってそれって!まさかの告白!?
でも見届け人ってなに!?
キョーコちゃんの告白なんて言ったら、蓮の口から出るのは砂吐くばかりの甘い台詞ばっかりに決まってる!
それを見届けろって事!?いくら可愛い妹のお願いでもそれはちょっと酷だな…
ああ、もしかして!舞い上がった蓮が暴走しないように監視する防波堤って事?
瞬時に期待と困惑が入り混じった連想が社の中に駆け巡るが、いまいちいつものようにきゃあ~と盛り上がれないのはそう言いすがるキョーコの表情だろう。
緊張しているのはよく分かるが、よくある告白前で緊張に震える乙女のそれとは程遠い武士の様なキョーコの表情に不安が隠せない。
社を室内にとどめたキョーコは、回れ右をして蓮に向き直った。それこそ、保健体育の授業で習うような、右足を一歩引きくるりと体を反転して前に出た右足をとんと左足の脇にそろえる。
「敦賀様」
キョーコの手の中には、シンプルなリボンが巻かれた小さな小箱。
これがチョコじゃないと言ったら何を期待するのだろうという外観の箱を手にしたキョーコを見て、蓮は息を呑んだ。
社に渡したものとは外観の異なる15センチ四方のその箱。
しかし気になるのは、さっきと同様に様付けで呼ばれる自分の名前。蓮の胸中に不安が過ぎる。
ビックリ箱のように予想外の行動をとるキョーコを知っている蓮の学習能力は警報を鳴らしていた。
「お渡ししたいものがあります。バレンタインのチョコレートです」
告白とは縁遠い表情のまま、キョーコはずいっと手にした小箱を蓮に差し出した。
キョーコの口から中身がチョコレートであることを明かされたそのプレゼント。毎年お世話になった人用はサイズ・パッケージがみんな同じことを知っている蓮と社は、明らかに義理チョコの社と異なる外観の箱にごくりとつばを飲み込んだ。
蓮よりも早く反応し、キョーコの背後できゃぁあ!という表情をした社が次の瞬間にやりと意味ありげに笑うのが蓮の視界の端に映る。しかし、社とてキョーコのバレンタインチョコを渡す女子とは程遠いこの硬い態度に若干手放しにからかう気分に乗り切れないでいるようだ。ほんの少し、微妙な色を残した表情で2人を見ている。
「あ、ありがとう…うれしいよ」
若干の困惑を残しつつ、述べたお礼は硬かっただろうか?
お礼の言葉を口にして、キョーコの手からその箱を受け取るべく蓮は手を伸ばした。
愛しい少女からのプレゼントだ。どのような状況であれ受け取らないなんて選択肢は存在しない。
しかし、取り落とさないようにしっかり箱を持った蓮の手にその箱の重みは伝わってこなかった。
「も…最上さん?」
困惑の表情で蓮はキョーコを見る。
俯いたままのキョーコの手は箱の反対側をしっかりと持ったままで、蓮の手が箱に添えられてもその手を放さなかった。