姉の山荘とアトリエがある八ヶ岳の富士見高原。
結婚前から招待されて何度も行く。
だが、だいたい私にしかできないお仕事が待っているという姉なのである。
ピンボケだがよい。
若いときの山荘の写真。
こんなとこを撮ったのは姪。
ファッションモデルが私の影響かカメラマン。
今はご主人もコマーシャル造りの世界につかれ、二人で静かに山で暮らしている。
この写真は、姉に頼まれて嵐で倒れた白樺をペチカの薪にしているところである。
女性にはできない。
バカ力で剣道部を知っている姉は私を待っていたのだ。
ここまで運ぶのにも半端ではない。
10メートル近い樹木、下は太い。
確かに重いし、女性では動かない。
滑車の要領で何とか森の奥から運んだ。
小さなのこぎりと手斧
朝から初めて、
夕方暗くなって最後の円い幹を台に安定させた。
これで終わり、一度やりたかった示現流の囲碁の硬い碁盤を切る兜割を試そうと思った。
私たちは柳生新陰流、示現流を破る使命はいまだ血の中にある。
10センチの直径で30センチの長さの白樺。
薪にされたら、ペチカで青紫の美しい炎でよく燃えるがそれで消える。
最期の一つに私は賭けた。
十年も示現流の重い木刀をふって作った肩。
無心になるまで呼吸を整える、
重心を低くして力が最大にぶつかるところを決めた。
おおげさなようだがこの一瞬で、
短編の時代小説 薪割剣法が生まれた、初めての時代もの。
可愛いめいっこもモデルにしてしまう。
山荘のテラスで私を写してくれていた彼女が暗くなって、
最期の白樺を切る私が一番怖かったという。
この一撃に十年の技のすべてを賭けた気迫を感じられたのだろう。
正眼から体全部を使いふり下ろした手斧。
白樺になんの手ごたえもない。
さわると真っ二つになっている。
はて!
赤胴鈴之助真空きりかと昔の漫画を思う。
山になった白樺で夜はペチカでお疲れさまとご馳走になる。
それ以来山荘の薪割は夏に一年分を私がすることになる。
神楽坂の剣道の達人に、このことを話すと
私の気合か刃が触れた一瞬、割れた瞬間にすり抜けたから薪は左右に飛ばなかったといわれた。
六段の先生で真剣も自在だから気合より当たった瞬間の力の力学で真空のようになった。
たった一回の白樺の思い出だが、
嵐が来て白樺が倒れなければこんな経験はできなかった。