人間のちから。
別れのときにもってゆける思い出が少ないと感じ取ったとき、ひとは、五感が強くなるのかもしれない。
自分の限界を超えて頑張ったときの、筋肉の喜び。
自分との勝負に勝てなかったときの、腹の底から湧き上がる痛み。
陽の光を受けた水面の、刺激するような眩しさ。
目の前にある、柔らかなやさしさ。
触れたり触れられなかったりした距離感。
胸いっぱいに吸い込んだ、ぬくもりの匂い。
穏やかな声や、音もない静けさ。
鼻が触れ合う、甘い味。
全身で、人間は記憶することができる。
思い出がすべてではないけれど、ものごとを見つめる立ち位置は360度分あるのだけど。
でも、自分で感じたことは、たしかなことでもあるから。