在宅介護は24時間

それではデンマークでの研修のホームヘルパーについて記してみたい。

老後を在宅で過ごしたい人々にとって、この手厚いサービスがあるから安心して生活ができるといっても過言ではないだろう。

 

「キアケリュー」と呼ばれる事務所風の家に朝7時からその週のリーダー2人が出勤していた。角にある小さな机に電話があり、壁には開きドアの浅い棚があり、ドアが開けられていた。

赤や緑、黄色、ピンク等のカードが差し込まれている。

このカード票を見ると、どの老人のろころへどのヘルパーが行くのかすぐに分かる。「休み」の連絡が入ると、非番のヘルパーに連絡を取り、カードを移動する。

 

 

7時45分までにリーダーは調整をする。7時45分に全員出勤。みんなで歌をうたって行動開始。

 

市議会も議会が始まる前に全員でうたうとのこと。

今日は「魔女の歌」をうたった。

「魔女は箒に乗って飛び回り働くから私たちの歌だ」と言われた。簡単な打ち合わせの後、自転車で出発。リーダーは2週間ごとに交代し、一人は無線を持って出かける。

 

昼間この部屋は地域住民が使用するため、先程のカード表の棚のドアは施錠される。

 

ヘルパーの勤務は老人90人に対して13人。準夜勤は看護婦も含めて12人。深夜勤は2人となる。

 

 

 ここで特筆すべきことは、若い人が多いのにびっくりした。

「サービス業はほとんど中年婦人ばかり」と聞いていたのとは大違い。

 

昨日のプライエムの掃除係も調理係も若者だった。年齢を訊くと、18才、25才、30才、19才。若い男性も1人いる。

ホームヘルパーになるには1年間の教育を受ける。

その後2年半ヘルパーをすると、看護学校へ行く権利ができ、助産婦、作業療法士、看護婦の資格を取ることができる。

 

学生となっても給料が保障される。

努力すれば報われる制度に若者が働いている理由かもしれない。

 

更に、全てがヘルパー達の自主運営にまかされていて、役所が口出ししないどころか、報告書も何も書かなくて良い。

日本の役所は全て書類がものをいう。に、比べてびっくりしてしまう。

 

いい加減なケアをしていると、当然老人から役所にクレームが入るのだから、報告はそれで充分。

 

働く人を信じて託している役所の懐の大きさに拍手。

 

 

こうしたホームヘルパーは、日本でなら「ボランティア」とか「パート」とか「非常勤」といった身分の人たちが受け持つことがあるが、デンマークにボランティアはない。と、私には思えた。 


 

市の職員として働くことにより、本人に専門職としての自覚と誇りを持たせ、より充実したサービスにつながり、地域社会にとっても税金を払う人が増える等、経済効果もある。


 

私は盲人と車いす利用者のガイドヘルパーをしている。

時給の賃金をもらっているからボランティアではない。

仕事だと思っているが、身分保障もない。

事故にそなえて保険だけ市が加入してくれている。デンマークで専門職の人がやっている仕事にボランティアが入ってきたら迷惑な話だろうなーと思った。

 


 

「ボランティアでご苦労さんね。ありがたい」と、一方的に言わせてしまう関係になりかねない。


私としては、仕事と思っていても、対等の関係にならない。どこかおかしいといつも感じている。

 

が、今の日本でボランティアがいなくなってしまったら、少しづつ動き出した障害者の介助や介護はどうなるのだろう。

 

だとしたら、私たちを必要とする人がいる限り、やっぱり頑張らなあかんなー。でも、次に来る人達は専門職として誇りをもってやれるようになってほしい。

 

 

これらのことは全て制度が問題なのだ。ホームヘルパー制度、ガイドヘルパー制度がきちんと作られるかどうかだ。


 

わたし達もホームヘルパーと同行。3人一組に通訳がついて、公団住宅に住まうオルセンさんを訪ねた。


 

家に入る前に、「日本からの見学者が4入ってもいいか」と聞いてくださったが「ノー」だった。

デンマークは「自己決定尊重」の国と納得した。

そこへ1階の方が出てきて「どうしたのか」と聞いてくださり、家に入れてくださった。

 

 

アナセンさんで50才位。娘2人は絵と音楽を勉強していて他のところに住んでいる。

お連れ合いはテレビ局に勤務。室内はきちんと整頓され快適な空間が充分ある。


 

テラスやサンルームもあり、家賃は8万円。

なんともうらやましいお住まい。古い大きな時計や、ウイスキーを入れておく鍵付き棚を自慢げに話された。(この鍵は昔は当主だけが持っていて、女性の地位は低かった)


 

見ず知らずの日本人にジュースまで出してくださり、デンマーク市民の心に触れたような思いだった。

そこへお連れ合いも帰ってこられ、話がはずみ、ポロライド写真を撮ってくださった。

 

 

福祉の話では「老後に不安はありませんか?」の問いに

「政治には関心がある。自分たちの払った税金だから。そこで外国人がどんどん入ってきて、外国人は子供が多く非常に福祉のお金が掛かっている。外国人が嫌いではないが、私たちが年金を受けるころには十分なサービスが受けられなくなるのではないか。

スタンダード(生活の水準)が下がるのを心配している。グラザザクセ市は福祉に力を入れているが、予算は節約されて下がってきている。

 

 

アルコール中毒、麻薬患者に今までどおりお金をかけていくのか、住宅に力を入れるのかの時だと思う。

スウェーデンはアルコールは制限されているが、デンマークはどんどん飲んでいる。アルコール中毒の問題と失業率と関係がある。スタンダードが下がるのが心配だ。」

と、お二人は次々意見を述べられた。

 

 

ヘルパーと同行は果たせなかったが、一般市民のお宅でお話することができた貴重な経験となった。

(つづく)