キッチンにまつわるファンタジー







☆ ☆ ☆ ☆







夜遅くに部屋のチャイムが鳴った。











来るはずだった時間よりも、大分後になってあなたがやって来た。











「悪りぃ、時間があまりねぇんだ。」











この後も仕事が入ったみたい。

時間を割いてやって来てくれた。











あなたがやってくるといつも、部屋の雰囲気が一気に変わる。







何か、新しい物が動き出すような感じがする。







とりあえず、急いで、飲み物の準備をしよう。









そう思って、じゃあ何か飲む?と尋ねながら、食器棚からマグカップを取り出そうとした時、あなたの声がした。











「なぁ、飲み物飲みに来た訳じゃねーんだけど。」











後ろからあなたに抱き寄せられた。











腕が私の前で交差してる。











あなたから冬の澄んだ空気の匂いがした。











背の高いあなたの頬が当たった。まだ冷たい。











飲み物じゃない、そんな事はわかってる。









でも・・・・。









「でも、何?」











私の気持ちをわかってるのに、わざとささやくあなた。楽しんでる。









動揺してそれ以上、何も言えなかった。









「じゃあ、動くなよ。」











そう言ったあなたによりいっそう抱きしめられた。









もう、動けなかった。











静かなキッチンに、あなたのコートの生地が擦れる音だけがずっと聞こえていた。