柔と耕作(松田)の新婚日記 26日目 (午前編第3部)
文書量(文字数)が膨大な為、一日を8分割で表記しています。
2人が乗ったタクシーは暫く走って会社の近くまで来たので、そこで停めて降りて歩く事にした。
柔が耕作の手を取ると耕作も手を握り返して繋いだまま歩き始めた。
柔「ね~、あなた?」
耕作「何だい?」
柔「何で何時も手前で降りて歩くの?」
耕作「それは・・。」
耕作「さすがに毎回タクシーで会社の前に乗り付けると君が会社の人に何か言われないか心配だから、
手前で降りて、こうして歩いて行こうって思ったんだ。」
柔「そうだったのね~。」
柔「うふ、やっぱり、あたしの事を気遣ってくれてたのね。」
耕作「それはそうだよ。」
耕作「君は会社で只でさえ特別扱いされてるみたいに思われてるでしょう?」
柔「そうなのかな?」
柔「皆は普通にお話とかしてくれてるよ。」
耕作「それなら良いんだけど、中には快く思って無い人も居るかも知れないからね。」
耕作「用心に越した事は無いと思うんだ。」
柔「そうなのね、あなたがそう考えてるなら今のままで良いよ。」
柔「今日は少し早いから表から入りましょうか。」
耕作「それで構わないよ。」
耕作「皆にも少しは俺の姿を見せておかないと、訝しがられそうだし。」
柔「心配し過ぎだよ~。」
柔「皆も何度となくあなたの姿は見てるはずだよ。」
柔「それに婚約発表後にも一緒に来たでしょう?」
柔「あなたの事を知らない人はここの支店に居ないと思うよ。」
耕作「それもそうか、俺ってちょっと気にし過ぎなのかもしれないね。」
柔「その傾向は少しは有るかも、でも、用心するのは悪い事じゃないと思うけど。」
柔「続きは中に入ってしようね。」
耕作「そうだね。」
柔と耕作は繋いでいた手を離して支店の入り口から中に入って行った。
入り口を入った所には受付の女性が既に来て開店準備をしていた。
受付女性「あら、おはよう~、今朝も早いのね。」
柔「おはよう~、偶にはね?」
受付女性「そう言えば、ご主人も一緒だったわね。」
柔「やっぱり、変かな?」
受付女性「そんな事は無いわよ?」
受付女性「柔さんも知ってる通り支店長からも朝礼の時に話が有ったから、皆知ってるし。」
受付女性「それに、婚約会見の翌日に一緒に来てたから、女性陣は皆既に知ってたわよ。」
柔「そうだったね。」
受付女性「第一、会見の時もそうだったけど、凄くお似合いの夫婦だって皆で話してたのよ。」
受付女性「だから、2人でここに来ることに対しても誰も違和感なんて感じて無いわよ。」
柔「それなら良かった~。」
柔「まあ、業務中は主人も部屋に居て殆ど出歩かないから、迷惑は掛けてないと思うけど。」
受付女性「心配し過ぎだって、誰も迷惑なんて思って無いから。」
柔「それなら良いんだけどね。」
柔「もし店内で見かけたら気軽に声を掛けて挙げてね。」
受付女性「分かったわ、皆にもそう話しておくね。」
柔「ありがとう~、そうして貰うと助かるよ。」
受付女性「旦那様も店内でもし皆に会った時は気軽に声を掛けて下さいね。」
耕作「分かりました、お気遣い感謝します。」
柔「それじゃ、部署の方に行くから、またね。」
受付女性「柔道も結婚生活も頑張ってね。」
柔「あは、ありがとう~、頑張りま~す。」
柔と耕作は受付の女性に会釈すると柔の部署の部屋に向かったが、途中、他の部署の社員に会う度に
会釈しながら部屋の前まで行くと耕作はドアを開いて柔を先に入れ自分も後に続いた。
柔「無事、到着~。」
耕作「ふふ、無事も何も社内だから特に何も無いだろう?」
柔「まあ、そうなんだけど、色々言われる事も無かったって事で無事って言ったの~。」
耕作「そう言う意味での無事か、確かに、その点で言えば君の言う通りだね。」
柔「あなた?席に座って待っててね。」
耕作「分かった、お茶を入れて来るんだね。」
柔「あなたには~、コーヒー・・だよ。」
耕作「ふふ、そうだった、待ってるよ。」
柔「行ってきま~す。」
柔は部屋を出て行った。
耕作は自分の為に用意された机の椅子に座って待つ事にした。
耕作「(皆、柔や俺に気軽に声を掛けてくれてるな。)」
耕作「(俺の考え過ぎなのかもしれないか。)」
耕作「(まあ、用心するに越した事は無いから、余り夫婦感を出さない様にしないといけないな。)」
耕作「(ただ、陽子さん達はそう言う面も見たいとか言ってたな。)」
耕作「(態々、見せようとしなくても、柔から俺に話し掛けるだけでそう言う雰囲気にはなるか。)」
柔が戻って来た。
柔「あなた~、お待たせ~。」
耕作「お帰り、コーヒーありがとね。」
柔は耕作にコーヒーを渡すと自分の席に座って椅子を動かし耕作の傍に来た。
柔「机、隣に置いて貰って並んで座りたかったな~。」
耕作「いや、さすがにここでそれすると不味いと思うよ。」
柔「そうなのかな?」
耕作「皆の目の前でイチャイチャしてたら仕事にならないと思わない?」
柔「・・・、それもそうだね、じゃあ、このままの方が良いのか。」
耕作「そうに決まってるよ。」
耕作「今はこうやって隣同士に居ても仕事が始まったら別々に座らないとね。」
柔「我慢するしかないか~。」
耕作「我慢してる?結構仕事中でも俺に話し掛けてる気がするけど。」
柔「そうだった?」
耕作「昨日も一昨日もそうだった気がするけど、俺の気の所為じゃ無かったら。」
柔「う~ん、普通にお話してるだけだと思うのよね~。」
耕作「ほら、しっかり自分でも話してるのは自覚してるじゃない?」
柔「あは、そうだね、でも、無駄話はしてないと思うんだけどな~。」
耕作「それはそうだと思うよ、俺に何か聞きたい事が有った時に話し掛けてるから。」
柔「今日は課長が来たらお話しないといけなかったんだよね?」
耕作「いや、それって今度の月曜日じゃなかったっけ?。」
柔「そうだった?」
耕作「君が告知したいって言い出したからだと思ったけど・・。」
耕作「それで、君の妊娠の事を羽衣さん経由で社長に伝えて貰うんじゃなかった?」
柔「あ~、そうだった。」
柔「柔道連盟と富士子さん達には月曜にお話するから一緒に知らせるんだったね。」
耕作「そうだよ。」
耕作「月曜日に妊娠発表の原稿を編集長に渡すから、翌日の朝刊に乗る前に知らせないとって。」
柔「そうだったね。」
柔「日曜に陽子さん達に知らせるから、あたしの妊娠の事が外部に漏れる前に手を打つんだよね。」
耕作「そうそう、万が一も許されないからね。」
耕作「君の妊娠の事が先に外部に漏れるのは不味いんだ。」
柔「連盟には祐天寺監督にお話して連絡を取って貰った方が良いかな?」
耕作「その方が手っ取り早く出来そうだから、それで良いと思うよ。」
耕作「しかし、君が言い出したのに忘れるなんて珍しいね。」
柔「そうかも、たま~に有るのよね、こういう事が。」
耕作「確かに、以前からその傾向が有った気はするよ。」
耕作「俺から聞いた事は良く覚えてるのにね。」
柔「自分の事は余り気にしないからかな~。」
耕作「大丈夫だよ、俺が君の言った事は必ず覚えてるから。」
柔「えへへ、これからもよろしくお願いしま~す。」
耕作「お互い補い合っていこうって話したしね。」
柔「そうだったね。」
陽子達が出勤してきて部屋に入って来た。
陽子達「おはようございます。」
柔「おはよう~、今朝は早いね~。」
耕作「おはよう、皆元気そうだね。」
陽子「はい、ここに来ればお二人に会えると思うと、つい急いで来たくなるんですよ。」
雅「そうそう、お二人の姿を見るのが楽しみになってます。」
恵美「お二人の姿を見るだけで元気を貰える気がするんですよ。」
柔「そう言って貰うのは嬉しいけど、お仕事や柔道も頑張ってね。」
由紀「勿論そのつもりです、ご安心を。」
温子「由紀?お茶入れに行こうか?」
由紀「はい、分かりました~。」
温子と由紀は部屋を出て行った。
柔「そうだ、皆、今日のお昼はどうするの?」
陽子「今日は外食しようって昨日帰り掛けに皆で話してました。」
柔「それなら、あたし達も一緒に良いかな?」
恵美「大歓迎です、一緒に行きましょう~。」
美香「柔さん達と一緒に食事出来るのは楽しいです。」
真紀「そうだよね、昨日も一緒で楽しかったですし。」
耕作「今日は俺が奢るよ。」
雅「そんな、悪いですよ、これだけの人数が居るのに。」
耕作「昨日は皆に作って貰った物を頂いた訳だから、そのお礼としてね。」
柔「気にしないの~、主人は言い出したら聞かないから、了承して貰わないと。」
陽子「分かりました、柔さんまでそう仰るなら、ご一緒させて頂きます。」
恵美「温子も由紀も喜ぶと思いますよ。」
柔「そうしてね。」
耕作「遠慮しないで食べたい物を食べて良いから。」
陽子「遠慮は・・しませんけど、練習前なので沢山は食べられませんよ。」
耕作「そうだった、じゃあ、デザートを好きなだけ食べて良いから。」
真紀「本当ですか?嬉しいです。」
美香「もう、真紀ったら、デザートって聞いただけで目の色変えちゃって。」
柔「あたしもデザート大好きだよ。」
真紀「柔さんもですか?」
柔「うん、最近は余り食べて無いけど、以前は結構食べてたもん。」
真紀「美味しいですよね~、幾らでも食べられそうなんですよ~。」
柔「まあ、程々にね。」
真紀「分かってます、練習前ですしね。」
温子と由紀がドアを開けて戻って来た。
温子「お待たせしました。」
由紀「どうぞ、お茶で~す。」
温子と由紀が陽子達にお茶を配っていった。
陽子「温子?由紀?」
温子、由紀「何ですか?」
雅「今日のお昼は柔さん達も一緒に行ってくれるんだって。」
由紀「本当ですか?」
恵美「本当よ、それに何と旦那様が御馳走してくれるそうよ。」
温子「え?よろしんですか?この人数ですよ?」
柔「あは、雅さんと同じ事言ってる。」
雅「温子、それ、さっき、私が同じ事を言ったのよ。」
温子「そうだったんですね。」
柔「気にしなくて良いから、昨日のお昼のお礼だと思ってね。」
温子、由紀「分かりました。」
由紀「お昼、とっても楽しみです~。」
温子「その前にお仕事をしっかりとしないとね?」
由紀「分かってますよ~、ちゃんとしますって。」
陽子「柔さん?」
柔「何~?」
陽子「今日の練習ですけど。」
柔「今日の練習がどうかしたの?」
陽子「トレーニングのやり方を変えるって仰ってましたけど、具体的には如何されるんですか?」
柔「そうね、単純に足腰の鍛錬かな。」
柔「後はそれに見合う位に上半身も一緒に鍛える方法を考えてるよ。」
温子「早く教えて欲しいです。」
柔「まあ、そう慌てないでね。」
柔「今日、道場に行ったら教えるから。」
温子「そうでした、楽しみにしてます。」
陽子「皆も楽しみにしてるんですよ、昨日の帰りに話してました。」
柔「そうだったのね。」
柔「まあ、最初からいきなりハードにはしないから安心して良いよ。」
由紀「徐々にハードにしていくんですね。」
柔「そうした方が良いと思ってるから。」
柔「いきなりハードにして挫折されても困るし。」
陽子「このメンバーでそれは無いと思いますよ。」
柔「そうなの?」
陽子「滋悟朗先生にも結構キツ目に鍛えられましたから。」
柔「そうだったわね、でも、やっぱり徐々にする事にします。」
陽子「柔さんがそう仰るならそれで構いません。」
柔「皆の反応を見てどれ位ハードにしていくか決めるから。」
柔「体が早く慣れる様だったら、段階を飛ばしたりするかも。」
陽子「分かりました、それでお願いします。」
陽子「皆もそれで良いよね?」
雅、恵美「構いません。」
温子、美香、真紀、由紀「はい、それで良いと思います。」
柔「分かった、そう言う風にやっていくね。」
羽衣がドアを開けて入ってきた。
柔「羽衣課長、おはようございます。」
陽子達「課長、おはようございます。」
耕作「おはようございます。」
羽衣「皆、おはよう。」
羽衣「松田さん、ご丁寧にどうも、おはようございます。」
羽衣「それじゃあ、私はまた部屋に居るから、後は、柔さん、よろしくお願いしますよ。」
柔「はい、お任せ下さい。」
羽衣は自分の部屋に入って行った。
柔「それじゃ、もう少ししたらお仕事を始めましょう。」
陽子達「分かりました。」
耕作「皆、済まないけど、今日は柔とちょくちょく話す事が有るから。」
陽子「それは構いませんけど、どうしてなんですか?」
耕作「俺が新聞の連載で柔のこれまでの事を書いてるって言うのは話したよね?」
陽子「はい、お聞きしてます。」
耕作「その中で今回は柔の短大時代の事を書こうとしてるんだけど。」
耕作「柔の短大時代って、俺も余り知らない事が多いんだ。」
由紀「あ~、分かりました、その事を聞く為なんですね。」
耕作「そう言う事なんだ、だから、ちょくちょく話すって言ったんだ。」
陽子「それでしたら、問題無いので、どうぞお話して下さって構いません。」
耕作「余り大きな声では話さないから。」
由紀「え~、私達も聞きたいので普通にお話して構いませんよ。」
耕作「柔?どうする?俺は構わないけど。」
柔「あたしも別に構わないよ、聞かれて困る様な事なんか無いし。」
耕作「柔もこう言ってるから普通の話声で話すよ。」
陽子「すみません、由紀ったら、自分が聞きたいからって、そんな事を言ったら駄目よ。」
由紀「すみませんでした。」
耕作「大丈夫だよ、柔も良いって言ってるんだから。」
陽子「本当にすみません、お邪魔はしませんので。」
柔「単に聞いてるだけなら邪魔にはならないから良いわよ。」
柔「そろそろ時間かな?」
陽子「そうですね。」
柔「皆、お仕事を始めましょうか。」
陽子達「はい、分かりました。」
柔達が通常の業務を開始したので、耕作も原稿の執筆を始めた。
耕作「(何となく、陽子さん達の個性が分かってきた気がする。)」
耕作「(それと、陽子さん達全員が柔をほんとに尊敬してるのも分かるな。)」
柔は陽子達に呼ばれる度にそこへ行き仕事の内容を説明している様だった。
耕作「(なるほど、仕事でも教える立場だから皆が自然と尊敬してるんだ。)」
耕作は柔が席に着くと声を掛けた。
耕作「柔?」
柔「な~に~?」
耕作「済まない、富士子さんと初めて出会った時の第一印象を聞かせてくれないかな?」
柔「印象か~、凄く背が高い人だな~って思ったかな?」
耕作「それだけ?」
柔「話す前だからそんなもんじゃない?」
耕作「それもそうか、分かった、ありがとう。」
柔「それだけで良いの?」
耕作「後はもう少し書いたら聞くよ。」
柔「分かった、頑張ってね~。」
柔は自分の仕事を再開した。
耕作「(確かに、第一印象だから、柔が言った事は間違ってないな。)」
耕作「(俺も初めて見た時はそう感じたんだったか。)」
耕作「(うん?俺が初めて富士子さんを見たのは何の時だったっけ?)」
耕作「(・・・、そうか、花園君が体育館の前に居て何をしてるのか覗いた時に見たんだったな。)」
耕作「(あの時は行動力が有ると感心したんだった。)」
耕作「(それが、柔の為だと知って全面的に協力しようと思ったんだよな~。)」
耕作「(そう考えると、富士子さん無しでは今の柔は考えられない。)」
耕作「(柔もそう思ってるけど、俺も富士子さんには感謝しかないな。)」
耕作「(柔が柔道を本格的に止め様とした時も富士子さんに頼ってしまって迷惑を掛けたな。)」
耕作「(俺達がこうして一緒に居るのも富士子さんの後押しが有ったからだし。)」
柔「ね~、何で富士子さんの名前をそんなに書いてるの?」
耕作「びっくりした~、脅かすなよ~。」
柔「何だかぼ~っとしてたから気になっちゃったの。」
耕作「俺、そんなにぼ~っとしてた?」
柔「そうだよ、何だか上の空って言う感じだった。」
耕作「そうだったのか。」
耕作「俺が富士子さんと出会ったのは何時だったかを思い出そうとしてるうちに考え込んでたんだ。」
柔「それで、そんなに富士子さんの名前を書いてるのね。」
耕作「え?あっ、ほんとだ、つい考えながら書いてしまったっぽいな~。」
柔「あたし達にとっては恩人だから、あなたが考え込むのも分かる気がするよ。」
耕作「そうなんだよな~、富士子さんが居たから、こうして君と一緒に居られるんだし。」
柔「そうなのよね~、感謝感謝だね。」
耕作「それしか思い浮かばないな、富士子さんに対する思いは。」
耕作「そうだ、丁度良かった。」
柔「何?あたしに何か聞きたいの?」
耕作「正直に言って欲しいんだけど・・。」
柔「何を言って欲しいの?」
耕作「富士子さんが君を柔道に引き戻そうと柔道部を作ったじゃない?」
柔「あ~、あの時ね。」
柔「正直言うと、何を馬鹿な事をやってるんだって思ったよ。」
柔「柔道の素人が集まっても何も出来ないと思ってた。」
耕作「まあ、普通はそう思うのが当然だよ。」
耕作「俺も最初はそう思ってたし。」
柔「でも、富士子さんの熱意に絆されたのよね。」
耕作「それは俺も一緒さ。」
柔「皆が試合をする、それも強豪相手と知った時は止めさせないとって真剣に考えてた。」
耕作「そうだろうな、無理だと誰でも思うよ。」
柔「あたしが素直じゃ無かった所為で、富士子さん達に無理をさせちゃったのよね。」
耕作「あの時の君の状況からすれば無理からぬ事だとは思うよ、今思えばだけど。」
柔「皆も真剣だったから、あたしも頑張ってみようって言う気になったのよね。」
耕作「あの時、君が筑紫大に再試合の申し込みをするとは思ってなかったから、正直驚いたよ。」
柔「皆の悔しそうな姿を見てるともう一度試合をさせたいって思っちゃったのよね。」
柔「後の事は、あなたも知ってるよね。」
耕作「そうだね、また何か聞きたい事が出来たら声を掛けるよ。」
柔「分かった~、余り根を詰めないでね。」
耕作「そうするよ、ありがとう。」
柔は再び自分の仕事を始めた。
耕作「(柔の思ってた事は、俺が考えてた事に近かったか。)」
耕作「(柔は自分が素直じゃないと言ってたけど、それは俺も同じだったんだよな~。)」
耕作「(柔に対して、つい意地を張って強がりを言ったりしてたからな。)」
耕作「(しかし、変われば変わるもんだな。)」
耕作「(柔も俺も素直になってお互いを理解出来るまでになったんだから。)」
耕作「(素直と言えば、柔が俺のアドバイスを素直に聞いた事も有ったっけか。)」
耕作「(どうして素直に聞いたのか聞いてみるか。)」
耕作「柔?」
柔「な~に~?」
耕作「今やってる仕事が終わってで良いんだけど、少し確認したい事が有るんだ。」
柔「一寸、待ってね。」
耕作「分かった、待ってるよ。」
柔は自分がやっている仕事を手早く終わらせた。
柔「何を確認したいの?」
耕作「短大の時、全国大会の前にランニングしてた事が有ったでしょう?」
柔「えっと・・・、あ~、あなたがいきなり現れた時の事ね。」
耕作「そうそう、その時に俺が言ったアドバイスを素直に聞いたじゃない?」
柔「アドバイス?」
耕作「自分が皆の練習相手になるって言う、あれだよ。」
柔「あれね~、良い考えだと思ったからやってみようって思ったの。」
耕作「何で素直に聞いたの?」
柔「あなたのアドバイスがあたしがどうすればって考えてた答えだと思ったからだよ。」
柔「実際にやってみて皆も熱心に取り組んでくれる様になったしね。」
耕作「そうだったね、その時見てたから皆の目の色が変わってたのは分かったよ。」
柔「それが聞きたかったの?」
耕作「そうなんだ、何でか分からなかったから、素直に聞いた理由がね。」
柔「あたしだってあの時以前も良いアドバイスは素直に聞いてたと思うんだけど。」
耕作「あの時以外に聞いてくれた事有ったっけ?」
柔「藤堂さんと対戦して態と負ける案も素直に聞いたじゃない?」
耕作「確かに、あの時も素直に聞いてたね。」
柔「さっきも言ったけど、あたしが悩んでる時に的確にアドバイスしてくれてたのよ、あなたは。」
耕作「それで素直に聞いてたんだ。」
柔「そうよ、あなたはあたしに明確に答えを示してくれてたから、素直に聞いたの。」
耕作「なるほど、そういう事なら納得出来るか。」
柔「それは今も同じだけどね。」
耕作「確かに、君に聞かれた事に対して何かしら答えを提示してたか。」
柔「だから、あなたはあたしには必要な存在なの。」
耕作「以前もそう言ってたね。」
耕作「ごめんよ、仕事を中断させる様な事をして。」
柔「そこは謝らなくて良いよ、区切りはちゃんと付けてるから。」
耕作「取り敢えず、短大時代の事はこれで終わるから、残りの仕事に専念して良いよ。」
柔「短大時代は全部終わって無いよね?」
耕作「そこは、ほら、連載だから残りの分を次回に回す方が読みたいと思うでしょう?」
柔「さすがね~、そこまで考えてるんだ~。」
耕作「次も新聞を買って読みたいと思う様な構成にしないとね。」
柔「お見逸れしました、伊達に新聞記者を長くやって無いって事ね。」
耕作「一応はね、記事の構成とかは自分で考えてたし。」
耕作「おっと、いけない、仕事に専念して良いよ。」
柔「は~い、あなたも残りの原稿頑張ってね。」
耕作「勿論さ、君も頑張れよ。」
柔「うん、そうするね。」
耕作は柔が仕事を始めたのを確認して原稿を書き始めた。
耕作「(短大の分は全国大会前で区切ったから、読者が次も読みたいと思ってくれると良いな。)」
耕作「(さて、次は練習の記事を書かないと。)」
耕作「(会社の練習と合同練習の分が有るから結構大変だけど、ある意味書き易くはなってるかも。)」
耕作「(明日書く分も今日の練習の布石を昨日の時点で打ってるから書き易いな。)」
耕作「(柔って、やっぱり、先を見据えるというか、見越して練習内容を考えてそうだ。)」
耕作「(それにしても、さすがだと思うよ、僅か2日で皆の技量を見極めてるんだから。)」
耕作「(今日はトレーニングを変えると言ってたけど、当然、練習内容も変えるんだろうな。)」
耕作「(それも個別に指導し易い様に変えてくるかもしれないな。)」
耕作「(それを考えると、柔が指導する練習は見てて面白いと思える。)」
耕作「(次はどうするのかって言う期待が持てるんだよな。)」
柔「終わった~、そろそろ時間かな?」
柔「皆?お仕事は終わった?」
陽子「私は終わりました。」
柔「他は?」
雅、恵美「私達も終わりました。」
温子、美香、真紀、由紀「私達は今終わりました。」
柔「じゃあ、少し休んだら何か食べに行こうか。」
陽子「分かりました。」
柔「あなたは?終わった?」
耕作「ああ、終わってるよ。」
柔「そう言えば、どこに食べに行くか決めてたの?」
陽子「以前行った事が有るレストランって言う程じゃないんですけど、そこに行こうかと。」
柔「良いわね、デザートも有るのよね?」
雅「勿論有りますよ。」
柔「そこって近いの?」
陽子「歩いて10分位の場所です。」
柔「近いね、ゆっくり出来そう。」
柔「それじゃ、あたしは課長にお話してくるから、その間に机の上を片付けておいてね。」
陽子達「分かりました。」
柔は自分の机の上を片付けると羽衣が居る部屋に入って行った。
耕作「今言った店って何度か行った事が有るの?」
陽子「いえ、私達も一度行っただけですけど、結構品揃えが有りましたよ。」
耕作「それは良いな、色々有ると何度でも行けそうだ。」
恵美「そうですね、色々食べてみたくなる位料理も美味しかったです。」
耕作「どんな料理が有るか楽しみだ。」
雅「期待して良いと思いますよ。」
柔が羽衣の部屋から出てきた。
柔「報告も終わったし、出掛けましょうか。」
陽子達「お疲れ様です、分かりました。」
耕作「裏から出るんだよね?」
柔「そうね、表からぞろぞろ出て行く訳にはいかないし。」
柔「陽子さん、先導してね。」
陽子「分かりました。」
陽子達に続いて柔と耕作も部屋を出ると裏口から表に出て店を目指して全員で歩いて行った。