柔と耕作(松田)の新婚日記 24日目 (午後編第2部

            文書量(文字数)が膨大な為、一日分割で表記しています。





西海大に向かう車中では部員達が柔に話し掛けていた。

陽子「良かったですよ、さっき、道場から出る時に柔さんを見てて。」

雅「そうだよね、もしかしてと思って見てたら出る時も一礼してたんですもの。」

恵美「そうそう、私も慌てて一礼したよ。」

温子「他の皆もそんな感じでしたよ。」

柔「言ったでしょう?感謝だって、出る時も当然しないとね。」

由紀「そうですよね~、尊敬しちゃいます。」

陽子「柔さん?西海大で教えられてたって仰られてましたけど、どの位の期間なんですか?」

柔「どの位だったかな?」

耕作「戻ってきてからだから全部で10日間位じゃなかった?」

柔「あ~、そうかも。」

柔「でも、後半は富士子さんに任せてたから実質5日くらいかな。」

陽子「そうなんですね。」

温子「富士子さんって、もしかして伊藤 富士子さんですか?」

柔「そうだよ、良く知ってるね~。」

柔「ちなみに、皆も知ってると思うけど結婚して姓は花園に変わってるけど。」

温子「そうでしたね。」

温子「富士子さんも柔道をやってる者にとっては柔さんの次位に憧れてますから。」

柔「何で憧れてるの?」

恵美「彗星の様にいきなり出て来たと思ってたら、今では国際大会で活躍されてますしね。」

雅「それも柔道を始めて数年しか経ってないのにですよ?」

真紀「もしかして、柔さんのお陰なんですか?」

柔「そんな事は無いよ、彼女って、凄い努力家なんだよ。」

柔「それに身長が高いお陰で手足も長いのよね。」

柔「後、持って生まれた天性のリズム感が有ったのも一助にはなってるかな。」

陽子「そうなんですね。」

由紀「私達も柔さんに指導して貰ったら、富士子さんみたいになれるのかな?」

柔「あたしの指導だけでは中々難しいと思うよ。」

温子「そうだと思います、指導だけで上手くなれるなら誰も苦労はしないですよ。」

温子「私達も今まで以上に練習とかトレーニングに取り組まないと駄目だと思うよ。」

由紀「やっぱり、そうですよね、頑張ります。」

耕作「そろそろ着くよ。」

陽子「はい、分かりました、皆、気を抜いちゃ駄目よ。」

部員達「はい、分かりました。」

耕作は車を西海大の駐車場に入れると先に止めていた鴨田の車の傍に駐車した。

耕作「さあ、着いたよ、降りようか。」

柔「は~い。」

陽子と部員達「はい、分かりました。」

耕作は先に降りると助手席と後部ドアを開けて皆を降ろした。

柔「荷物は持って行ってね。」

陽子「そうでした、着替えを持って行かないと。」

部員達は各々の着替えが入ったバッグを持った。

柔「じゃあ、行きましょう。」

陽子と部員達「はい。」

柔が先導する形で西海大の柔道場へと向かい、耕作と鴨田は今日の撮影の方針を話しながら
その後に付いて行った。

柔道場の入り口に富士子が待っていた。

富士子「柔さん、待ってたよ~。」

柔「お待たせ~、皆を連れてきたから。」

富士子「皆さん、初めてお目に掛かります、今日からよろしくお願いします。」

陽子と部員達「こちらこそ、よろしくお願いします。」

富士子「皆さんの荷物は更衣室に持って行って下さい。」

陽子「分かりました、皆、行こうか。」

部員達「はい。」

柔は中に入る前に一礼した、他の部員達もそれに倣って一礼すると道場に入り更衣室へ向った、
耕作と鴨田も皆の後に続いて一緒に柔道場の中に入った。
柔も部員達と一緒に行こうとしたが富士子に呼び止められた。

富士子「柔さん、一寸待って。」

富士子はそう言いながら西海大の部員達の方を見て手招きをした。

柔「どうかしたの?」

柔「陽子さん、更衣室はあそこだから先に行ってて良いよ。」

陽子「分かりました。」

陽子と部員達は先に更衣室へと向かった。

富士子「ほら、例の選抜メンバー、今から紹介するから。」

柔「あ~、そう言ってたね、それでどこに居るの?」

柔がトレーニング中の西海大の部員達の方を見ると2人程こちらに向かって来た。

柔の傍に2人が来ると富士子が紹介した。

富士子「こちらが今日から来て貰ってる選抜メンバーの方です、自己紹介お願いします。」

??「分かりました、では、私の方から。」

??「初めまして、柔さん、私は新藤 亜弓と申します。」

亜弓「これからよろしくお願いします。」

柔「こちらこそ、よろしくお願いします。」

??「初めまして、私は山本 友梨と申します。」

友梨「亜弓同様、これからよろしくお願いします。」

柔「こちらこそ、よろしくお願いします。」

柔「今日は直接指導は出来ませんが、あたしの代わりに富士子さんが指導してくれますので。」

友梨「はい、そのお話は既に伺っています。」

亜弓「直接指導して頂けなくても、柔さんがいらっしゃるだけで気が引き締まる思いです。」

柔「あ~、そこまで緊張しなくて良いよ。」

柔「あたしも何か気が付いた事が有ったら、お二人には直接お話しますから。」

柔「何時も通りにする気持ちで構わないので。」

友梨「是非、お願いします。」

富士子「じゃあ、また、うちの皆とさっきのトレーニングを続けてきて下さい。」

友梨、亜弓「はい、分かりました。」

2人は西海大の柔道部員達の所へ行きトレーニングを再開した。

柔「素直な子達ね。」

富士子「そうなの、最初は柔さんからの直接的な指導が無いと聞いた時は落胆してたけど。」

富士子「柔さんが今言ったみたいに気が付いた事は指導して貰えるよって言ったら元気になってたわ。」

柔「なるほど、今日はあたしも忙しくなりそうね。」

富士子「柔さんならきっと大丈夫よ~。」

柔「そうだと良いんだけど、自分の会社の部員も居るからね。」

富士子「そうだったわ、それで、部員達はどんな感じなの?」

柔「今の2人と同じ様に素直な子達ばかりよ。」

富士子「それなら指導し甲斐が有りそうね。」

柔「まあ、まだ皆の全ての技量は掴んでないんだけどね。」

富士子「柔さんでも難しい事って有るのね。」

柔「さすがに、あたしでも見てない技までは分からないよ。」

富士子「あ~、そう言う事なのね。」

富士子「あっ、柔さんも荷物置いてきたら?」

柔「そうだね、行ってくるよ。」

耕作「皆も先に行ってるから急いだ方が良いよ。」

柔「そうね、行ってくるよ。」

富士子「行ってらっしゃい。」

柔が更衣室に向かうと入り口で荷物を置いた鶴亀の部員達と鉢合わせしていた。
そこで柔と部員達が会話を交わし、部員達は柔が出てくるのを入り口で待った。
柔が更衣室から出てくると全員で耕作の元に戻ってきた。

柔「お待たせ~。」

富士子「お帰りなさい。」

耕作「お帰り。」

柔「皆の自己紹介をして貰おうと思ったけど、人数が多いから次の機会でも良いかな?」

富士子「私はそれで構わないわよ。」

柔「皆もそれで良いかな?」

陽子「はい、構わないと思います。」

陽子「これからもこちらに伺いますので、その時にでも追々個別にしますので。」

富士子「そうね、私はそれで良いわよ。」

富士子「取り敢えず、今日からよろしくね。」

陽子と部員達「こちらこそ、よろしくお願いします。」

柔「あたし達はトレーニングと少し乱取りしてきたから、富士子さんの所の子達が終わるまで
  体を動かす程度にしておくよ。」

富士子「分かったわ、うちの部員達と選抜メンバーが終わったら合流しましょう。」

柔「そうだね、じゃあ、陽子さん、銘々に体を解しておいてね。」

陽子「分かりました、皆、軽く柔軟しておきましょう。」

部員達「分かりました。」

陽子と部員達は柔達から少し離れると柔軟を開始した。

柔「富士子さん?今日はどんな練習をする予定なの?」

柔「あっ、その前に監督は?」

富士子「監督は監督室に居ますよ、柔さんによろしく伝えてくれる様に言われたわ。」

柔「そうなのね、それで今日はもう出てこられないの?」

富士子「最後の挨拶には来ると思うけど、途中は来ないかな?」

柔「って事は、富士子さんに全部任せてるのね。」

富士子「そうなるのかな?今日は私のやりたい様にして構わないって言われたけど。」

富士子「勿論、監督には練習内容は伝えてるわ。」

柔「そうなんだ、監督は富士子さんを完全に信頼してるんだね。」

富士子「そうなのかしら?一応、今後も練習内容は事前に話すようにしてるわ。」

柔「それは大切な事ね、監督には全て知って貰ってた方が良いに決まってるし。」

柔「あ~、それそれ、忘れるとこだった、今日はどんな事をするの?」

富士子「え?柔さんは考えて無いの?」

柔「一応は考えてるけど、ここは西海大なんだから富士子さんが主導しないと。」

富士子「それもそうよね。」

富士子「分かったわ、私が考えてた練習方法は以前やった事をアレンジした感じかな。」

柔「具体的にはどうするの?」

富士子「人数が多いので2人ずつで二組同時に乱取りして貰って、他の皆はそれを見るって
     形にしようと思ってるけど、どう思う?」

柔「勝敗は付けるの?」

富士子「そのつもりなんだけど。」

柔「分かったわ、それで良いと思うよ。」

富士子「二組なので柔さんにも審判をお願いしても良いかしら?」

柔「勿論、良いわよ。」

富士子「よろしく頼みます。」

柔「全部の対戦が終わった後で皆にどう感じたのかを聞くのかな?」

富士子「そのつもりだけど良いのよね?」

柔「うん、それで良いと思うよ。」

柔「ただ、選抜メンバーとうちの会社の部員達はあたしが聞く様にするよ。」

富士子「なるほど、全員に聞いていくと時間が掛かるわね。」

柔「それも有るけど、今後も指導する際は分けるつもりだから、その方が良いと思うの。」

富士子「分かったわ、私は大学の部員達だけを指導すれば良いのね。」

柔「それでお願いね、お互いにその方が負担は少ないと思うから。」

富士子「そうね、今後もそのやり方にすれば良いわね。」

富士子「終わったみたいだから、向こうに行きましょうか。」

柔「そうだね、あなた?行ってくるね。」

耕作「ああ、頑張れよ。」

柔「はい。」

柔「皆、向こうに行こうか。」

陽子と部員達「はい、分かりました。」

陽子達は運動を止めて柔と一緒に富士子に付いて行き大学の部員達と合流した。
そこで初めて柔の会社の部員と西海大の部員と選抜メンバーが向かい合って並ぶと挨拶を交わした。
全員を並び直させて富士子が練習方法を説明して柔は補足説明をした。

その後、鶴亀の部員と西海大の部員を2人ずつ選抜して違う所属同士で組ませると柔と富士子の
合図と伴に対戦する形で乱取りを始めた。

耕作「(なるほど、対戦と言う形を取る事で普通の試合みたいにさせてるのか。)」

耕作「(勝敗は二の次とは言え、お互いに負けるのは嫌だろうから真剣にならざるを得ないか。)」

耕作「(富士子さんも良く考えてる、指導者らしくなってきたって事かな?)」

耕作「(お、もう勝敗は決したのか。)」

耕作「(一勝一敗か、さすがだな、鶴亀側が二勝すると思っていたが。)」

耕作「(次の組か、しかし、人数的に鶴亀組の方が少ないけど、どうするつもりなんだ?)」

耕作「(鶴亀組も伊達に今迄滋悟朗さんから鍛えられてた訳じゃないな。)」

耕作「(この組は鶴亀が勝ったか。)」

耕作「(次は今年入社した人達か。)」

耕作「(あ~、今年入社の人はやっぱり先に入ってた人とはかなり差が有るな。)」

耕作「(惜しかったがこの組は大学側が二勝したか。)」

耕作「(今度の組は・・、なるほど、鶴亀側に選抜メンバーを入れたんだ。)」

耕作「(さすがは選抜メンバーだけ有るな、他の人とは技量がかなり違うか?)」

耕作「(でも、柔と富士子さんに指導を受けただけあって中々良い勝負をしているな。)」

耕作「(大学の子は負けたか、仕方ないか、経験年数が違うし。)」

耕作「(選抜メンバーの子はさすがに大学生には勝てるよな~。)」

耕作「(今度は選抜メンバーの子と西海大学の子が一緒になって西海大学の子達と対戦か。)」

耕作「(同じ大学でも入部年数が違うと差は歴然としてるな。)」

耕作「(やっぱり、そうなるよな、一勝一敗は仕方ないか。)」

耕作「(この後は西海大同士になるんだな。)」

耕作「(お互いに手の内を知ってるからやり難そうにしてる。)」

耕作はその後の対戦も見ていたが全員良い取り組みをやって全ての対戦が終わると柔の周囲に
鶴亀組と選抜組が集まり、富士子の周囲には西海大の部員達が集まって、それぞれに今行った
試合形式の乱取りについて意見を述べさせていた。

一通り意見を述べさせた後、柔と富士子は自分が担当した組の人達に対しどこが悪かったかを
指摘していって、それに対する質問をさせて全ての質問に対して丁寧に答えていった。
それら全てを終えると柔と富士子を前に全員が整列し一礼すると終了になった。

暫くの間、大学の部員、選抜メンバー、鶴亀の部員は先程の乱取りについて皆で話していた。

そこに監督室から祐天寺が出てくると全員が祐天寺の前に整列した。
祐天寺が全員に対して話し終えると柔と富士子に声を掛けた後に挨拶して解散になった。
柔と富士子は少しの間祐天寺と会話していたが、会話が終わったのか祐天寺は監督室に引き上げた。

柔と富士子は全員に声を掛けて一緒に更衣室に入って行った。

耕作「(監督、忙しいのかな?普通ならこちらにも声を掛けてくれそうなもんだが。)」

耕作「(まあ、事前に許可は貰ってるから、改めて話す事は特に無いから良いけど。)」

耕作「(それにしても、人数が多くなると着替えの時間も結構掛かるんだろうな。)」

耕作「(皆で色々と話してるんだろうか?何時もより時間が掛かってる気がする。)」

耕作「そうだ、鴨田?」

鴨田「はい、何すか?」

耕作「この原稿を持って行ってくれないか。」

鴨田「良いっすよ、編集長に渡せば良いんすよね?」

耕作「ああ、そうしてくれ。」

鴨田「了解っす。」

耕作「それと今後は送り迎えは要らないから。」

鴨田「松田さんがあの車を使って皆の送り迎えをする様になったんすか?」

耕作「そうなんだよ、何でか知らないが、何時の間にか決まってたっぽい。」

鴨田「松田さんもこれから大変っすね。」

耕作「皆の為になる苦労なら厭わないさ。」

鴨田「さすがっす、俺もその心構えは見習いたいっす。」

耕作「そこまで大層な事でも無いと思うけどな。」

鴨田「しかし、皆元気っすね~。」

耕作「それはそうだろう?柔と富士子さんが指導してるんだから。」

鴨田「そうでした、それで元気が良いんすね。」

耕作「鴨田、今日は先に帰って良いぞ。」

鴨田「了解っす、明日はこっちに直行で良いんすか?」

耕作「そうしてくれ、その方がお前も好都合だろう?」

鴨田「はい、時間に余裕が出来るっす。」

耕作「それじゃ、気を付けて戻れよ。」

鴨田「分かったっす、松田さんも気を付けて。」

耕作「わかった、じゃあな。」

鴨田「はい、会社に戻るっす。」

鴨田は先に駐車場へ行き会社に戻って行った。

耕作「(まだ話してるのかな?)」

耕作「(あれだけ人数が居ると各々が話してたら時間も掛かるか。)」

耕作「(柔も富士子さんも質問攻めされてそうだな。)」

耕作「(柔に帰宅したらどんな話をしたのか聞いてみるか。)」

耕作「(そうだ、キョンキョンの結婚式の話は富士子さんも聞いてるのかな?)」

耕作「(その辺りも柔が聞いてるだろうから俺が心配しなくても良いか。)」

耕作「(お、漸く出てきたか。)」

更衣室から全員出てきて柔と富士子に選抜メンバーと大学の部員が挨拶すると先に帰って行った。

柔と富士子と鶴亀の部員は一緒に耕作の元にやって来た

柔「あなた、お待たせ~、ごめんね~、長引いて。」

耕作「お帰り、長引きそうだと思ってたから気にしなくて良いよ。」

富士子「松田さん、お待たせしました。」

陽子と部員達「お待たせしました。」

柔「富士子さん、また明日よろしくね。」

富士子「こちらこそだわ、今日は有意義な練習になったと思うから。」

柔「来週辺りに対抗戦でもやってみる?」

富士子「それ、良いわね。」

富士子「監督の許可は貰わないといけないと思うけど、是非、やりたいわね。」

柔「皆は如何かな?」

陽子「私達は構いません、柔さんの練習方針には従いますので。」

雅「今日やってみたけど、中々に手強いと思いました。」

恵美「そうね、もっともっと柔さんに鍛えて貰わないと。」

温子「後、自分達で出来るトレーニングとかも頑張らないと。」

柔「そのトレーニングなんだけど、明日から少し項目を増やしても大丈夫かな?」

由紀「望むところです、是非、お願いします。」

富士子「私達の方も負けてられないな~。」

柔「そうかもね。」

富士子「しかし、選抜メンバーも柔さんの指摘には驚いてたわね。」

柔「そうなの?」

富士子「それはそうよ、乱取りを一度見ただけで、どこが悪いとか指摘されてたから。」

真紀「それは、私も同じ事を思いました。」

美香「そうだよね。」

美香「まさか、数回見ただけであそこまで的確に指摘されるって思わなかったですよ。」

由紀「そこは、やっぱり、柔さんはさすがだって思いましたよ。」

陽子「その通りだと思います。」

温子「凄く参考になりました。」

柔「お話の続きは帰りの車の中ででも、早く帰らないと遅くなるよ。」

恵美「そうでした。」

富士子「じゃあ、後の戸締りとかはやっておくから先に帰ってね。」

柔「富士子さん、ごめんね、先に帰るね。」

富士子「また、明日待ってるから。」

陽子と部員達「お手数をお掛けします、お先に失礼します。」

柔「また、明日ね~。」

富士子は戸締りをする為に更衣室に入って行った。

柔「じゃあ、車の所まで行きましょうか。」

陽子と部員達「はい、分かりました。」

耕作「じゃあ、行こうか。」

柔「その前に、あれをしないとね。」

柔と陽子と部員達は道場を出る際に一礼した。

耕作が先頭を歩き柔達は後に続いて駐車場へ向かった。

駐車場に着くと耕作は助手席と後部ドアを開けて皆を乗せると自分も運転席に座った。

耕作「皆は最寄りの駅で良いのかな?」

陽子「はい、全員最寄り駅で降ろして下さい。」

陽子「バスを使う子もそこから乗りますから。」

耕作「了解、じゃあ、出発するね。」

柔「よろしく~。」

耕作は最寄りの駅へ向かう為に駐車場から車を出した。



最寄り駅へ向かう車中では陽子達が柔と耕作に話し掛けていた。

陽子「すみません、プライベートな事をお尋ねしても構いませんか?」

柔「あたし?それとも主人?」

陽子「私は柔さんだけなんですけど、他の子達は松田さんにも聞きたいかと。」

柔「あなた?良いよね?」

耕作「構わないけど、質問の内容によっては答えられない事も有るよ。」

恵美「それで良いですので。」

雅「恵美?何か松田さんに聞きたい事でも有るの?」

恵美「有るけど、陽子が先に聞いてからにするよ。」

柔「陽子さんは何を聞きたいの?」

陽子「多分、皆も同じ事を聞きたいと思うんですけど。」

陽子「お二人の馴れ初めを知りたいです。」

柔「あ~、やっぱりそう来たか~。」

陽子「駄目ですか?」

柔「ううん、そんな事は無いよ。」

柔「あなた?あたしが言おうか?」

耕作「そうだね、君が言った方が良いかも。」

柔「分かった~、じゃあ、言うね。」

由紀「はい、お願いします。」

柔「最初の出会いはあたしが藤堂さんと初めて試合をした時かな。」

真紀「その時はお互いに名乗ったりしたんですか?」

柔「違うよ、主人は単にあたしの取材をしに来てただけだったよ。」

雅「と言う事は、後からそこで出会ってたって分かったんですね?」

柔「結果的にはそう言う事になるかな。」

陽子「それって、かなり前の事ですよね?」

柔「そうだね~、あたしはまだ高校生だったし。」

美香「そうだったんですね、松田さんはその時から柔さんの事を気に掛けてたんですか?」

柔「それも違うかな?」

柔「主人に聞いた話だとあたしが短大に行く前後に自分の気持ちに気が付いたんだって。」

美香「そうなんですか。」

恵美「告白とかはされてないんですよね?」

柔「されてないよ。」

柔「あたしに柔道での目標が有ったから、それを達成した時に言うつもりだったみたい。」

恵美「実際に告白されたのは何時なんですか?」

柔「あたしが国から賞を貰った時かな?」

由紀「国民栄誉賞ですか?」

柔「そうそう、それだったよ。」

由紀「授賞式の時に告白されたんですか?」

柔「それも違うかな~。」

由紀「え?違うんですか?」

柔「厳密に言えば、授賞式の日なんだけど、あたしは途中で抜け出しちゃったからね。」

温子「あっ、それ知ってます、授賞式なのに柔さん居ませんでした。」

柔「あたしは主人と一緒に成田空港に行ってたの。」

柔「その時に告白されたのよ。」

真紀「何故、成田空港に?」

柔「主人が渡米する為に行くのに、あたしが半ば強引に一緒に付いて行ったの。」

美香「柔さん、結構情熱的なんですね。」

柔「そうかも、最初にお話したと思うけど、アメリカにも行ったし。」

由紀「そうでしたね、それで、その時に婚約したと。」

恵美「松田さん?」

耕作「何か聞きたいの?」

恵美「あのですね、知り合ってから告白するまでの間に自分の気持ちを伝えようと思った事は
    無かったんでしょうか?」

耕作「そうだな~、柔にも話した事が有るけど、何度か気持ちを伝えようと思った事は有るよ。」

恵美「どうして伝えなかったんですか?」

耕作「さっき、柔が言った様に柔にはオリンピックで金メダルを取るって言う目標が有ったからね。」

耕作「それを邪魔する様な事は出来なかったって言うのが俺の気持ちだったかな。」

恵美「確かに、好きな人の目標を阻害出来ませんよね。」

雅「柔さんは松田さんの事を意識したのは何時なんですか?」

柔「うふふ、もう何度その質問をされた事か。」

雅「やっぱり、私みたいな人が居たんですね。」

柔「そうね、何人も居たよ。」

柔「今の質問に対する答えは、あたしがユーゴに行った時かな~。」

雅「どうしてユーゴなんですか?」

柔「主人は普通はどんな大会でも来てくれてたのね。」

恵美「それはそれで凄い事ですね。」

柔「そうなのよね。」

柔「今考えたら、それだけであたしに普通以上の感情が有るって思うはずなんだけど。」

柔「その時のあたしって恋愛事に関しては疎かったもんだから。」

雅「今のあたし達みたいな感じで柔道一筋だったんですか?」

柔「ううん、あたしは余り乗り気ではやって無かったのよ、柔道自体。」

温子「え~、そうだったんですか?」

柔「失望させる様な事になるけど、柔道を心底本気でしようと思ったのは、この前のオリンピックの
  選考会の前以降かな。」

温子「そうだったんですね、知らなかった。」

雅「その柔さんがユーゴでどんな事が有って松田さんを意識したんですか?」

柔「あ、ごめんね、話が逸れちゃったね。」

柔「さっきも言った様にどんな大会にも来てた主人がその時は来てなかったの。」

雅「どうしてなんですか?」

柔「それは・・、あなた?あたしが言っても良いかな?」

耕作「君が説明してるんだから言っても構わないよ。」

柔「分かった、えっと、主人のお父様がご病気で倒れられたので、その看病で故郷に帰ってて
  ユーゴに来るどころじゃなくなってたの。」

恵美「そうだったんですか。」

柔「でも、主人はお父様の容体が落ち着くと、取る物も取り敢えず、文字通りユーゴに飛んで
  来てくれたのね。」

柔「その時、主人が来てくれる前のあたしはとても柔道をやれる精神状態じゃなかったの。」

雅「どうしてなんですか?」

柔「主人の姿が見えないって言うだけで柔道が真面に出来ていない状態だったのよ。」

由紀「その時に気が付かれたんですか?松田さんが必要な存在だって。」

柔「正にその通りなの、あたしには主人が必要なんだって気が付いて何で必要なのか考えたら
  あたし自身の気持ちに気が付いたの。」

雅「柔さんが松田さんの事を好きって事にですか?」

柔「それよりももっと強い気持ちかな?今、由紀さんが言った言葉が一番適切かも。」

柔「あたしには主人が必要なんだって。」

雅「その時点で既に一緒に居るべき存在だったって思われてたのか~。」

柔「そうね~。」

真紀「それならどうしてユーゴの時にお互いに告白しなかったんですか?」

柔「それは、さっき主人も言ったでしょう?」

美香「柔さんがオリンピックで金メダルを取るまでは~って言う事ですね。」

柔「そう言う事なの。」

柔「ただ、あたしは自分から告白するより主人から言って欲しかったって思ってたのかも。」

温子「そう言えば、柔さんって1年位大会に出場されたませんでしたけど、どうしてなんですか?」

柔「良く知ってるね~。」

温子「それは、憧れてた柔さんの姿を名立たる大会で見ませんでしたし、寂しかったですよ。」

柔「そうだったのね、ごめんね~。」

柔「内容は勘弁して欲しいんだけど、あたし自身の都合で出ないって決めてたの。」

温子「そうだったんですか、何かご苦労されてたんですね。」

柔「苦労か~、そうかもね。」

柔「でも、主人にそれまでずっと見守られてたのを再確認出来て、このままではいけないと
  思って復帰を決めたの。」

恵美「そこでも松田さんの存在が大きかったって事なんですね。」

柔「そうだね、その時に主人の存在はあたしにとって欠くべからざるものだって再認識したよ。」

陽子「お二人の間で色々大変な事が有ったんですね。」

柔「そうだね、だから、今はこれほど強い繋がりを感じてるんだと思うよ、お互いに。」

柔「そうよね?あなた?」

耕作「そう言う事になるね、俺も君が必要だと思ってるし。」

柔「あたしだってあなたは絶対に必要なんだもん。」

由紀「良いな~、そういう関係って、憧れちゃいます。」

柔「そう思うなら、皆も柔道が恋人とか言わずに、誰か好きな人を早く見付けたが良いよ。」

陽子「そう言われても、中々居ませんよ~。」

柔「居ないと思うから居ないのよ?」

柔「視点を変えて周囲を見回したら誰かしら居るかも知れないよ?」

雅「そうでしょうか?」

柔「疑う前に実行あるのみだよ?」

耕作「周囲って言うのは君達で言えば今の会社もそうだけど、以前の学校とかもそうかも知れないよ。」

恵美「なるほど、現在だけじゃなくて過去の事も振り返って考えなさいって事なんですね。」

柔「そうそう、もっと視野を広くしたら良い縁も有るかもしれないって事ね。」

陽子「今のお言葉肝に銘じておきます。」

温子「私もそう思いました、皆もだよね?」

部員達「はい、肝に銘じて覚えておきます。」

柔「他に何か聞きたい事って有る?」

陽子「今の所、何も思い付かないので、また次の機会までに考えておきます。」

柔「分かったわ、何時でも良いから、但しプライベートな質問はこういう感じの時だけにしてね。」

由紀「はい、分かりました。」

耕作「そろそろ、駅に付くけど駅前に直付けして良いのかな?」

陽子「えっと、バス利用の子も居るので入り口手前辺りで構いませんので。」

耕作「分かった、じゃあ、あの先辺りで停めるよ。」

陽子「はい、それで構いません。」

耕作は駅の入り口手前で車を左に寄せて止めると、陽子が助手席から降りて後部ドアを開け
皆も車から降りた。

陽子「今日はありがとうございました。」

雅「また、明日もお願いします。」

恵美「明日も色々お聞きしたいと思います。」

温子「明日こそは、ご指導よろしくお願いします。」

由紀「明日を楽しみにしています。」

真紀「明日もよろしくお願いします。」

美香「お二人ともお疲れ様でした。」

柔「皆、明日の練習、楽しみにしてて良いよ、但し、厳しいかもだけど。」

温子「それは望むところです。」

耕作「皆、気を付けて帰るんだよ。」

陽子「はい、ありがとうございます、お二人もお気を付けて。」

柔「また、明日ね~。」

陽子と部員達「はい、また、明日です。」

耕作が車を出すと車が見えなくなるまで陽子達は見送っていた。