柔と耕作(松田)の新婚日記 6日目 (午前編第3部)
文書量(文字数)が膨大な為、一日を8分割で表記しています。
実家前でタクシーを降りた二人は木戸を潜り玄関から中へ入った。
柔「ただいま~、戻ったよ~。」
耕作「今、戻りました~。」
玉緒「あら、早かったわね、もっとゆっくりしてくれば良かったのに、
お昼までかなり時間有るから上でゆっくりしてらっしゃい。」
柔「うん、そうするね~。」
耕作「上に上がってます。」
二人は2階へ上がって部屋に入った。
耕作「柔、お疲れ様。」
柔「あなたこそ、お疲れ様だったよ。」
柔「コーヒー入れるから座ってて。」
耕作「うん、そうするね。」
耕作はベッドに座った。
柔は服の入った袋を隅っこに置くとコーヒーを2杯入れて
片方を耕作に渡しながら隣に寄り添って座った。
柔「今日の初?デートを記念したコーヒーだよ。」
耕作「ははは、思い出しながら頂くね。」
柔「初めてだし、あんなもんで良かったよね?」
耕作「そうだね、また機会が有ったらしようね。」
柔「うん、あ、そうだ、あなたの実家に行った時でも良いよ?」
耕作「あ、そういう手もあるか、俺の育った場所を案内するデートって事なんだね。」
柔「うん、その方があたしもあなたが育った場所を知る事が出来るし、
何よりあなたが慣れてるだろうから。」
耕作「柔、ありがとうね、俺が疲れない様に気を配ってくれて。」
柔「えへ、褒められちゃった。」
柔「あ、そうだった・・。」
耕作「普通じゃない喫茶店の事かい?」
柔「教えてくれるんでしょう?」
耕作「俺も行った事が無いし、詳しくは知らないんだけど記者仲間に
聞いた様な事でも良い?」
柔「うん、それで良いよ。」
耕作「ノーパン喫茶って言うのが有ったらしいんだ。」
柔「ノーパンって?」
耕作「英語でノーってどういう意味か分かる?」
柔「否定の意味で使われるんだよね?」
耕作「そうだね、でね、パンって言うのはパンツの略なの。」
柔「パンツを否定するの?」
耕作「う~ん、ちょっと違うかな?パンツを否定でも合ってるけどパンツを否定、
つまりパンツを穿かないって事なんだ。」
柔「お風呂に入る時みたいにするって事?」
耕作「まあ、そう言う事になるかな?」
柔「下は裸の状態なんだね?」
耕作「うん、その格好でウエイトレスをする喫茶店の事なんだよ、ノーパン喫茶って。」
耕作「一応ミニスカートは履いてるみたいだから直で見えるって訳じゃないんだって。」
柔「見えそうで見えないんだね?」
耕作「そうなんだけど、お客さん近くの床が鏡張りになってる場所も有るそうなんだ。」
柔「女の子なんでしょう?恥ずかしくないのかな?」
耕作「それは恥ずかしいに決まってるんじゃないかな?でもお給料が
良いみたいだから我慢してやってると思う。」
柔「働いてる方達には申し訳ないけど、好きでもない人にそんなあられもない
姿を見せるなんて、あたしには絶対に無理。」
耕作「柔は良い子だね、君は絶対にしないって分かってるよ。」
柔「あ、でも、あなたに・・。」
耕作「はい、そこまでね。」
柔「え~、何で~。」
耕作「前も言ったでしょう?君はそのままでも十分に魅力的できれいだって。」
耕作「それにそう言う事をさせたってご両親と滋悟朗さんに分かったら
何て言われるかも分かってるよね?」
柔「うん、分かった~、もう言わないね。」
柔「あたしもあなたを困らせる様な事は絶対にしないって決めたから、
向こうに居る時に。」
柔「しかし、やっぱり何でも知ってるんだね~。」
耕作「まあ、俺の仕事自体には必要ない知識だけどね。」
柔「でも、知らないよりは知ってる方が良いよね?」
耕作「う~ん、アダルト関係は余り知らなくても良いと思う。」
柔「そうなの?」
耕作「そう言う事は片方だけが知ってても詰まらないって思ってる、
一緒に知っていく方が良いとも。」
柔「それって、あたしの事なの?」
耕作「君以外に誰が居ると思ってるのかな?」
柔「うふ、そう言って貰うと嬉しいな~。」
柔「あなた?よろしくお願いします。」
耕作「まあ、柔道が疎かにならない程度にね?」
柔「それは当たり前だよね、二人にとって。」
耕作「うん、今は君が柔道で滋悟朗さんと虎滋朗さんを納得させる事が
出来る様になるまで頑張る事が第一だから。」
柔「そうよね、二人を安心させる事が第一だね。」
耕作「ふふ、君がそれを忘れない限り大丈夫かな?」
柔「何に大丈夫なの?」
耕作「二人で色々する事に対して。」
柔「うふふ、あたしは忘れないから色々試そうね~。」
耕作「まあ、君が嫌がる事はしないって決めてたからそう言う事は
しないけどね、俺は。」
柔「この前も言ったけど一回はしないと、あたしが嫌かどうかは
分からないんじゃないの?」
耕作「柔?今の俺達ってどういう関係になってたんだっけ?」
柔「え~っとね、・・・一心同体、以心伝心だよね?」
柔「あ、そう言う事なのね、あたしの気持ちが分かるって。」
耕作「そうだね、だから俺が考えて嫌な事は君にも当て嵌まる事になるから、
しなくても分かるんだよ。」
柔「分かった~、あなたに任せるね、そう言う事は全部。」
耕作「うん、任された。」
柔「うふふ、お願いします。」
耕作「この分だと今夜はあれかな?」
柔「今の気持ちが有ったらだね?」
耕作「ふふ、そう言う事になるね。」
柔「あ・・。」
耕作「お願いね。」
柔「入れてくるね。」
柔は立ち上がるとコーヒーを入れて耕作に渡し隣に寄り添って座った。
柔「はい、短大時代の思い出が詰まったコーヒーだよ。」
耕作「ありがとうね、思い出しながら頂くね。」
柔「まだ時間有るね、お昼まで。」
耕作「何かしたい事有るかい?」
柔「あなたと一緒に居るだけで十分かな?」
耕作「それは俺も同じだよ。」
柔「あなた?」
耕作「何だい?柔。」
柔「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど。」
耕作「さっきの喫茶店での話かな?」
柔「うん、そうなの。」
耕作「どういった事なの?」
柔「あなたのあの時の思いを聞いたけど、あたしの思ってた事も知ってて
欲しいって言うのは嫌?」
耕作「そうだね、知りたい気持ちは有るけど、無理に話さなくても良いんだよ?」
耕作「今はこう言う関係になってるんだから。」
柔「そうだよね、でも、知ってて欲しいの。」
耕作「うん、分かった、どういう風に思ってたの?」
柔「あの時にあなたが言ってる事が良く分からなかったのも有ったけど、邦子さんと
あなたとの関係が気になってたから、ああいう態度に出てたんだと思う。」
耕作「そうだったんだ。」
柔「ハッキリと分かってた訳じゃないんだけど、あなたに対して嫉妬みたいな
感情が有った気がする。」
耕作「なるほど、そう言う事だったんだね。」
耕作「君にもある程度は俺に対して好ましく思ってた感情は有った訳なんだ、
あ~、その時に分かってたら。」
柔「前も言ったけど、素直になるって難しいよね。」
耕作「まあ、あの時は二人ともがそういう状態だったんだし、でも、今は二人とも
隠し事が無くなって素直に何でも言える関係になってるんだから。」
耕作「これからだよ、俺達二人は。」
柔「そうよね、これからだよね。」
耕作「もう君にあの時の感情が起きる事は絶対にしないからって
向こうでも言ったよね。」
柔「うん、あなたからそう聞いた時は凄く嬉しかった。」
柔「あ~、やっぱり来て良かった、そして好きな人があなたでほんとに
良かったって思ったの。」
耕作「俺も同じさ、好きな人が君で良かったって思ってた。」
柔「うふ、・・・。」
柔は耕作を見上げて目を瞑ると耕作は柔の頬に手をそっと
添えて優しく長いキスをした。
柔「素敵なキスをありがとう。」
耕作「君こそ、素敵な表情をありがとうね。」
柔「二人の事を確認したら必ずだね?」
耕作「そうだね、恒例行事みたいになってるね。」
柔「うん、しかし、明後日が結婚式って実感が無いな~。」
耕作「やっぱり、あれじゃない?形式的になってるから。」
柔「そうだよね、実質的にはもう夫婦だもんね。」
耕作「まあ、セレモニーとして割り切るしかないかな?」
柔「どういう事なの?」
耕作「そうだね~、最初の会見みたいな感じ?そう思うしか無いんじゃ
ないかなって事で良いかも。」
柔「あ~、それなら良く分かるよ、要は晒し者なんだね?」
耕作「ははは、言葉は悪いけど、ある意味そう言う事になるね。」
柔「じゃあ、成る様に成れって気持ちで臨めば良いのね?」
耕作「そう言う事だね、流れに身を任せるだけで良いと思う。」
柔「うん、そうするね~。」
耕作「まだかなりお昼まで時間あるけど寝るかい?」
柔「そうね、横になるだけでも良いかな?」
耕作「帰ってからこっち、何かいつもこのパターンな気がするけど、
君が休めれば良いか。」
柔「うふふ、あたしはあなたにも休んで欲しいんだけどね。」
耕作「じゃあ、横になってようか。」
柔「うん、そうしようね。」
二人はベッドに寄り添う様に横になった。
柔「ね~、あなた?」
耕作「何だい?柔。」
柔「明日はどうする?午前中。」
耕作「何も思いつかないね、どうしようか?」
柔「富士子さんの所でも訪ねてみる?」
耕作「そうだね、落ち着いたらって言ったけど全部が終わるの待ってたら、
かなり先になるよね。」
耕作「それに練習後は親父達も居るから直ぐ帰らないといけないからね。」
柔「じゃあ、今日、富士子さんに聞いてみて良かったら行く事にしようか。」
耕作「それが良いね、富士子さんの都合が良かったら明日の午前中に
行く様にしようね。」
柔「その際に、かなり早いけど、子育ての事とか聞いても良いかな?」
耕作「うん、それで良いと思うよ、先に知識として知ってても
可笑しくは無い事なんだし。」
柔「うん、そうするね。」
耕作「しかし、結婚式前に聞く様な事じゃないよね。」
柔「そこは、ほら、あたし達って・・。」
耕作、柔「普通じゃないから。」
耕作、柔「あはは。」
耕作「何にしても、これで明日の午前中の予定は出来たね。」
柔「あ、忘れるとこだった。」
耕作「何を忘れそうだったの?」
柔「結婚指輪・・。」
耕作「あ~、受け取りに行かないといけなかったんだった。」
柔「お昼前に受け取りに行こうか?富士子さんの所から帰ってから。」
耕作「そうしようか、近くだしね、頼んだ所は。」
柔「忘れない様にしないと。」
耕作「君は忘れないでしょう?」
柔「でも、この前バッグ忘れそうになってたよ?」
耕作「じゃあさ、左手の婚約指輪を見て思い出す様にしたら?」
柔「あ、それ良いかも、あたしが忘れてそうなら、あなたもそう言ってね。」
耕作「うん、そうするね。」
柔「ところで婚約指輪なんだけど、入籍しても嵌めてて良いのかな?」
耕作「う~ん、どうなんだろう、結婚式が終わってないから
良い様な気もするけど。」
柔「じゃあ、そのままにしとくね。」
耕作「そうだね、入籍後に誰も突っ込み入れてこなかったし。」
柔「あ~、もう一つあった~。」
耕作「あ、そうか・・。」
耕作、柔「ジョディーの到着時間。」
耕作「確認どうするかな~。」
柔「時間的に夜遅くだと向こうは朝だよね?」
耕作「そうだね、出来るだけ遅い時間に電話してみようか?」
柔「うん、そうしないと、あたし達が出掛けてたらジョディーが
悲しむかもしれないよね?」
耕作「うん、君に会いたいって言うのが一番だろうしね。」
柔「飛行機は早くてもお昼前、遅いと夕方あたりかな?」
耕作「俺達が帰ったのが夜遅く、出たのが朝早かったから向こうの時間で
夜の便だと朝か。」
柔「ね~、それってもう既に向こうを発ってるって事にならない?
夜遅くに電話しても。」
耕作「今から電話してみようか?」
柔「それが良いかも。」
耕作「じゃあ、下に下りようか。」
柔「うん、そうしましょう。」
耕作と柔は起き上がると階下へ下りて電話の所へ急いだ。
するといきなり電話が鳴った。
柔「おかあさん、あたしが出るから。」
玉緒「下りてたのね、お願いね。」
柔が受話器を取った。
柔「もしもし、松田です、どちら様でしょうか?」
ジョディー「お~、柔か?ジョディーだわ。」
柔「え~、ジョディーどうしたのこんな時間に。」
ジョディー「明日の、飛行機、到着時間、言わないといけない、
思って、電話しただわ。」
柔「あ~、あたしもそれが知りたかったの、何時なの?」
ジョディー「そっち、時間で、明日、13時、到着だわ。」
柔「そうなんだ、じゃあ、ここには14時前には来るのね?」
ジョディー「そうなるだわ、楽しみ、してるだわよ。」
柔「うん、あたしも楽しみにしてるよ。」
ジョディー「それと、クリスティー、一緒、だわさ。」
柔「うん、それは、おじいちゃんから聞いてたから知ってるよ。」
ジョディー「そうだったか、それじゃ、もう、出掛けるだわ。」
柔「気を付けてね、ジョディー、待ってるね。」
ジョディー「それじゃあ、だわ。」
柔「うん、じゃあね~。」
柔は受話器を置いた。
耕作「まさかのまさかだったね。」
柔「うん、思いもしてなかったから、最初驚いた。」
耕作「取敢えず、上に上がろうか?」
柔「うん、そうだね。」
柔「おかあさん、また上に行ってるから。」
玉緒「そうなさい、お昼までまだ時間あるから。」
柔「うん、そうするね。」
二人は2階へ上がって柔の部屋に戻った。
柔「あなた、コーヒー入れるから座ってて。」
耕作「うん、そうするよ。」
耕作はベッドの端に座った。
柔はコーヒーを2杯入れると片方を渡して耕作の傍に座った。
柔「ジョディーの無事な旅を祈ったコーヒーだよ。」
耕作「ありがとうね、祈りながら頂くね。」
柔「あ、明日の練習どうしようか。」
耕作「君の判断に任せるよ?」
柔「ジョディー、一緒に行くって言いそうだよね?」
耕作「うん、絶対に言うと思う。」
柔「だよね、どうしようかな~?」
耕作「今日行った時に祐天寺監督に聞いてみたら?」
柔「うん、そうするつもりだけど、ジョディーが試合したいって言いだした時
どうするかなのよね~。」
耕作「柔?」
柔「な~に~?あなた。」
耕作「どうしようって言うか、君、試合したいんじゃないの?」
柔「えへ、あなたに隠せる訳ないよね、そうしたいかな?」
耕作「その事も併せて祐天寺監督に聞いてみたら良いと思うよ。」
柔「そうね、そうする、世界レベルの柔道を目の当たりにする機会って
早々ないから見て貰った方が為になるから。」
柔「まあ、ジョディー次第なんだけどね。」
耕作「うん、結婚式直前でそう言うかどうかも分からないし。」
耕作「ジョディーも来たばかりになるから言わないかもしれないからね。」
柔「後、この事はおじいちゃんとおとうさんにも聞いてみないといけないよね?」
耕作「そうだね、俺達だけで判断しても良いけど、後で分かったら何て
言われるかって心配しないといけないから、聞いた方良いね。」
柔「うん、そうした方が良いよね、お昼の時に聞いてみるね。」
耕作「うん、それが良いね。」
耕作「それに関してなんだけど。」
柔「うふ、今夜の事でしょう?」
耕作「ふふ、もう言わなくても分かってるみたいだね。」
柔「うふふ、もう一心同体だからね~。」
耕作「大人しく寝ようね。」
柔「うん、そうする、明日試合となると出来ないよね。」
耕作「万全の体調で臨まないとジョディーに失礼になるしね。」
柔「そうだよね。」
耕作「他に何か忘れてそうな事は無いかな?」
柔「う~ん、・・今の所思い付かないかな?」
耕作「そうだ、・・・。」
柔「どうしたの?あなた。」
耕作「万一、披露宴の時にジョディーと試合したって事が分かると他の人達も
試合したいとか言い出さないか心配になった。」
柔「そうなの?」
耕作「だって、遠路遥々来るんだよ?1日だけの滞在の訳ないだろうし、
数日は居るのは間違いないから。」
耕作「その間に試合がしたいって言いだしそうなんだよね。」
柔「あ、そうだよね、当然滞在中に試合したいって言いそうよね。」
耕作「どうするかな~。」
柔「あたしは大丈夫だから、試合しても良いよ。」
耕作「あ、そう言えば、君ってジョディーの結婚式の時にエキシビジョンマッチで
試合したよね?」
柔「あ~、クリスティーさんとの試合の事ね、うん、やったよ。」
柔「柔道を止めるって決めてたから余り乗り気じゃなかったんだけどね、
クリスティーさんも強かったから途中から本気になったの。」
柔「あ、そう言う事なのね。」
耕作「君も分かったみたいだね。」
柔「つまり、披露宴後にそれをしようって事なのね。」
耕作「うん、勿論、相手の意向も踏まえた上でだけど。」
耕作「もう一つの案は・・。」
柔「え?もう一つ考えてるの?」
耕作「うん、これはジョディーにも言える事だけど、来た早々での試合は
君も分かるだろうけど辛いよね?」
柔「そうね、移動して直ぐに試合は普通は無いね。」
耕作「つまり、結婚式翌日に親父達には先に戻って貰って、その日に試合を
するって事なんだ、ここでも、西海大でも良いけど。」
柔「うん、そうだね、一日空けた方が体調は良いでしょうしその方が皆に怪我とか
起きる可能性も減るね。」
耕作「今から滋悟朗さん達と話してみようか?」
柔「そうだね、食事中だけじゃ終わらない気がする。」
耕作「じゃあ、下に下りよう。」
柔「うん。」
耕作と柔はポットとカップを持って階下に下りて台所に向かった。
柔「おかあさん、おとうさん達はどこに居るの?」
玉緒「あら、もう下りてきたの?」
柔「うん、おとうさんとおじいちゃんに話したい事が有ったから。」
玉緒「そうなのね、多分、居間に居るんじゃないかしら?」
柔「そうなんだ、ありがとう、おかあさん。」
耕作と柔はポットとカップを台所に置いて居間に向かった。
居間では滋悟朗と虎滋朗が何か話していた。
柔「あ、居た居た。」
耕作と柔は虎滋朗と滋悟朗の前に並んで座った。
虎滋朗「どうしたんだ、柔。」
滋悟朗「珍しいのう~、こんな時間に下に下りてくるとは。」
柔「おじいちゃん、おとうさん、少しお話が有るんだけど。」
滋悟朗「何ぢゃ?話とは。」
虎滋朗「どういう話なんだ?」
柔「明日ジョディーがお昼過ぎに来るんだけど、多分、練習に一緒に
付いてくると思うの。」
柔「それで、ジョディーが試合をしたいって言いそうなの。」
滋悟朗「そうぢゃのう~、あの性格からすると言うぢゃろうな。」
柔「でも、来た早々だと怪我とか心配じゃない?」
虎滋朗「そうだな、移動直後の試合は無謀過ぎるな。」
柔「それとね、マルソーさんやテレシコワさんも試合するって言いそうなのね、
勿論、クリスティーさんもだけど。」
虎滋朗「それは言いそうではあるな。」
柔「だから、結婚式が終わった翌日に、ここか西海大で試合をしようかなって、
耕作さんと相談したんだけど。」
滋悟朗「相変わらずぢゃのう~、何でも二人で相談するとはのう。」
虎滋朗「耕作君も柔もそうやって相談するのは良い事だな。」
柔「それでね?おとうさんとおじいちゃんの考えを聞きたいと思って
今こうして来たんだけど、どう思う?」
滋悟朗「儂はお前がどう思うておるか次第ぢゃと思うておるぞ。」
虎滋朗「私も同じかな?柔自身がどう思ってるかだな。」
柔「あたしは遠路遥々やってきた方達が試合をしたいと言うので有れば、
それに応えないといけないと思ってるよ。」
滋悟朗「それなら何も問題は無いぢゃろうて、後は先方がどう返答するかぢゃな。」
虎滋朗「おとうさんの言う通りだと思います、先方次第なのも。」
耕作「万一、試合するとなって全員と柔が試合するとなると一日掛かりの
試合になると思うんです。」
耕作「インターバルを挟まないと柔の怪我が心配なので。」
虎滋朗「そうだな、耕作君の懸念は実際に有りそうだからな。」
滋悟朗「そうすればよかろう?儂から祐天寺に話しても良いぞ。」
柔「あ、お話自体は今日練習に行った時するから良いんだけど一日となると、
色々と西海大に迷惑をかけそうで。」
虎滋朗「私は嬉しいぞ、お前がそこまで人様に心配り出来る事が。」
滋悟朗「柔よ、お前の思う通りにして良いぞ、儂はその後押しをするとしようかのう。」
滋悟朗「お前がそこまで柔道の事を考えておる事は儂の望んでおった事ぢゃから、
その為にはどの様な事でもする覚悟ぢゃぞ。」
柔「それじゃあ、今日練習に行った時に、そういう風に話してみる、勿論、
相手の承諾が有った場合なのも話すけど。」
耕作「これも相手の承諾が必要になる事なんですが、マスコミ各社にも知らせないと
いけないと思ってます、虎滋朗さんと滋悟朗さんはどう思いますか?」
滋悟朗「それで良いんじゃなかろうかのう?非公式とはいえ世界クラスの柔道家が
試合をする訳ぢゃからマスコミが取り上げない事は無かろうしのう~。」
虎滋朗「そう言う事なら、来てから話すより私が二人に今から確認しておく事にします。」
柔「おとうさん、お願いね、ジョディーとクリスティーさんは明日来てから話してみるね。」
虎滋朗「今から連絡してみるから、少し待っててくれ。」
耕作「よろしくお願いします。」
虎滋朗は席を立つと電話を掛けに行った。
滋悟朗「柔よ。」
柔「何?おじいちゃん。」
滋悟朗「お前も松ちゃんと一緒になって成長したのう、儂ゃ嬉しく思うぞ。」
柔「そうなのかな?でも、おじいちゃんがそう思ってるならそうなんだろうな、
喜んで貰って、あたしも嬉しいよ。」
耕作「柔?」
柔「な~に~?あなた。」
耕作「君は向こうに来て以降かなり成長してるんだよ、自覚は無い様だけど
間違いない事実だから。」
柔「あなたもそう言うならそうなんだね。」
滋悟朗「その試合は儂と虎滋朗も行くからの?」
滋悟朗「と言うか、儂が主審、虎滋朗と祐天寺が副審をと思うておるぞ。」
柔「え?おじいちゃんとおとうさんが主審と副審をするの?」
耕作「柔?お二人とも自分の目で直に確認したいんだよ?君の柔道が
どれほどになったのかをね。」
滋悟朗「松ちゃんの言う通りぢゃ、儂も虎滋朗も実戦としての試合で、
お前の成長を確認したいんぢゃよ。」
柔「何だか恥ずかしいけど、それなら仕方ないね。」
滋悟朗「練習で感じたものが本物なのかこの目で見たくてのう。」
柔「そうなんだね、あたし頑張るから。」
耕作「君は頑張るって言ってるけど、今の君だと恐らく全力を出したら、
皆付いて行くのがやっとじゃないかと思う。」
柔「あなた、それ大袈裟じゃない?」
耕作「いや、ジョディーと向こうで対戦した時の感じだとそうなる可能性が高いんだよ。」
柔「そうなのかな?あたしは余り感じなかったんだけど。」
耕作「以前も言ったけど、君自身が当たり前って感じてるから
そういう感想になってると思うよ?」
柔「あ、そう言ってたね、あたしが当たり前に思ってる事は
あたし自身には分からないって。」
滋悟朗「そう言う事ぢゃな、お前は当たり前と思っておっても相手からすると
脅威に感じおるはずぢゃから。」
滋悟朗「柔よ、覚えておるか?ジョディーと最初にここで対戦した時の事を。」
柔「うん、覚えているよ。」
滋悟朗「あの時、最初に組む前にジョディーはお前に対して
脅威を感じておったんぢゃよ。」
柔「え?そうだったの?」
滋悟朗「直ぐに組んでこんかったであろう?」
柔「そう言えば、直ぐに組み手争いにならなかったね。」
滋悟朗「そう言う事ぢゃ、何故か分かるか?」
柔「う~ん、何でなんだろう?」
滋悟朗「お前の構えを見て何を仕掛けられるのかと
恐怖しておったんぢゃよ、ジョディーは。」
柔「そうだったんだ、でも、おじいちゃん良く分かったね。」
滋悟朗「当たり前ぢゃ、儂を誰と思うておるんぢゃ?」
柔「あたしのおじいちゃんだよ?」
耕作「柔、・・そう言う事じゃないからね?」
柔「あ、いつもの調子で言ってしまった、ごめんね~、おじいちゃん。」
滋悟朗「まあ、良いわ、そうでないとお前ぢゃ無いからのう。」
耕作「滋悟朗さんは数々の試合をしてきて、数知れない相手と闘ってきた経験から、
そう言う事が分かる様になったんだよ。」
滋悟朗「松ちゃんの言う通りぢゃ。」
柔「へ~、そうなる事が出来るのって凄いよね、おじいちゃんってやっぱり
凄い柔道家なんだね。」
滋悟朗「今頃そう言う事を言うんぢゃな、お前は。」
耕作「その凄い柔道家に物心付く前から柔道を習ってた君も凄いんだからね?」
柔「あ、そうか、そう言う事になるんだね。」
滋悟朗「話を戻すが、あの時お前は本気では無かったであろう?」
柔「う~ん、あ、そう言えば組むまでは本気じゃなかったかも。」
滋悟朗「組んでみて初めてジョディーが強いと分かったのであろう?」
滋悟朗「そしてお前は本気になった。」
柔「うん、そうだった気がする。」
滋悟朗「お前がそれまでに体格差の有る相手とやったのは高校の時の
対外試合だけで有ったが相手は弱過ぎた。」
滋悟朗「だから、お前は本気を出さずとも勝っておった。」
滋悟朗「ところがジョディーは体格差もある上、実力も有った。」
滋悟朗「そういう相手と初めて対戦したお前は苦戦した。」
滋悟朗「だからこそ、お前は本気にならざるを得なかったと言う事なんぢゃよ。」
滋悟朗「それが何故かお前には分かるか?」
柔「う~ん、負けたくないとかじゃ無かったのは覚えてるけど勝ちたいとも
思って無かった気もする。」
滋悟朗「それはな、柔、お前自身の闘争本能なんぢゃよ。」
滋悟朗「好敵手と闘う喜びにお前の闘争本能が反応したんぢゃ、お前自身が
そう感じておらんでもな。」
滋悟朗「これは無心の状態で初めて発揮されるもんなんぢゃ。」
滋悟朗「ぢゃからして、あの時のお前は無心で有ったのぢゃ。」
柔「あ、それであたしの印象として残って無かったんだね、強い相手って言う事しか。」
滋悟朗「そう言う事ぢゃな。」
耕作「滋悟朗さん、ご教授痛み入ります、俺もあの時は何がどうなってるのかを
理解していませんでした。」
滋悟朗「それは仕方の無い事ぢゃて、普通の人間にあの状況を
理解出来る訳は無かろう?」
耕作「そうですね、あの時は今ほど柔道に対して理解して無かったのは事実です。」
滋悟朗「ぢゃが、松ちゃん、お主は向こうで柔の練習をずっと見ておって、
その理解が深まったと言う事なんぢゃ。」
耕作「そうかもしれませんね、柔の練習を見ていると何を考え何をなそうと
してるかが分かってきましたから。」
滋悟朗「ぢゃから、儂は柔道に関してお主達に任せると言うた訳なんぢゃよ。」
耕作「そうだったんですね、今のお話を聞いて納得しました。」
柔「あたしも今のでおじいちゃんが何でそう言ったのか分かったよ。」
滋悟朗「うむ、それでぢゃ、最初の話に戻して、今度来る相手に対して
お前が本気を出したら相手にならんと松ちゃんが言うた事はな
今言うた事と関連しておるんぢゃよ。」
柔「どう言う事なの?いまいち理解出来ない。」
耕作「君の闘争本能に火が付いたら、現状では相手にならないって事なんだよ。」
耕作「ジョディーも言ってたよ、今の柔に追い付ける選手は居ないって、
君も聞いたって言ってたよね?」
柔「うん、それは聞いたけど半信半疑だったよ。」
耕作「以前から言ってるけど、それは君自身がそれを理解して無いから、
つまり無意識でやってるからなんだ。」
柔「そう言えば、以前、あたしの柔道は無意識でやってるって言ってたね、あなたは。」
耕作「うん、だからなんだ、君が分からないのも無理は無いって。」
滋悟朗「そう言う事ぢゃな、体が勝手に反応して柔道になっとる
状態ぢゃからのう、お前のは。」
虎滋朗「話が盛り上がってるみたいだな~。」
柔「あ、おとうさん、どうだった?」
滋悟朗「戻ったか、して、首尾はどうであった?」
虎滋朗「両名とも快く承諾してくれて上の方に話を通して試合する事と
マスコミの件の許可を貰うそうです。」
滋悟朗「そうであったか、でかしたぞ、虎滋朗、ようやった。」
虎滋朗「ありがとうございます、おとうさん。」
柔「おとうさん、ありがとう、後はジョディー達か。」
虎滋朗「ところで、さっきまで何を話してたんだ?」
滋悟朗「こやつの柔道の現状をな、以前の話を交えて話しておった所なんぢゃ。」
虎滋朗「そうでしたか、私も聞きたかったな。」
滋悟朗「虎滋朗、お主も気付いておったであろう?こやつの柔道が無意識下で
おこなわれておる事に。」
虎滋朗「それは勿論そうです、何よりそれに気が付いたのがあの巴投げで
投げられた時ですから。」
柔「おとうさん、ごめんね~。」
虎滋朗「何を謝る事が有るものか、私は感動したんだぞ、お前に
そういう才能が有った事に対して。」
柔「あなたに聞いた通りだったんだね。」
耕作「うん、俺は聞いた通りに話しただけだから。」
虎滋朗「耕作君、あの時の事を柔に話していたんだな。」
耕作「はい、そうしないと柔が虎滋朗さんの事を理解出来ないと思ったので。」
柔「おとうさん、耕作さんからその話を聞いて、あたしもおとうさんの事を理解出来たの。」
滋悟朗「やはり、松ちゃんは儂の見込んだ通りぢゃったのう~。」
虎滋朗「耕作君、改めて、本当~に感謝する、柔を柔道に導いてくれただけじゃなく、
柔をここまでにしてくれた事に。」
耕作「あ、いえ、俺は自分が思った事を行動に移しただけなんで。」
柔「でも、こうしてお話してあたしもおじいちゃんの考え、おとうさんの思いを
知る事が出来て嬉しいよ。」
耕作「後は君がお二人の望んでいる事に対して報いる事だね。」
柔「うん、あなた、今、改めてその思いが強くなったよ。」
滋悟朗「松ちゃんに柔よ、頼んだぞ。」
柔「うん、おじいちゃん、分かったよ、耕作さんと一緒に実現させてみせるから。」
虎滋朗「期待しているぞ、二人とも。」