柔と耕作(松田)の新婚日記 3日目 (午後編第2部)
文書量(文字数)が膨大な為、一日を8分割で表記しています。
耕作「ここから徒歩だけど、柔さん、様子を見ながら行こうか。」
柔「うん、そうすれば大丈夫かどうか分かるね。」
鴨田「柔さん、どうかしたんすか?」
耕作「うん、少しね、多分大丈夫と思うけど、念の為にだよ。」
鴨田「そうっすか、用心して下さい。」
柔「ありがとう~、鴨田さん。」
三人は柔道場へ向かって歩いて行った。
近くまで来ると富士子が外に出て来て待っていた。
富士子「猪熊さ~ん、待ってたよ~。」
柔「富士子さん、お待たせ~。」
富士子「始めるまで少し時間が有るけど、どうする?」
柔「そうだね、少し話したい事も有るから更衣室に行こう?」
耕作「そうだね、行ってらっしゃい。」
柔と富士子は更衣室へ向かった。
耕作「(さて、どうなるかな?富士子さん驚きそうだけど。)」
耕作「あ、祐天寺監督、どうもお世話になります。」
祐天寺「おぉ~、来てくれたんだね、柔さんは更衣室かな?」
耕作「そうです、あ、監督?写真撮影しても構いませんか?柔を主体で撮影しますから。」
祐天寺「あ~、どうぞご自由に撮って構いませんから。」
耕作「ありがとうございます、そうさせて貰います。」
祐天寺は他の部員達の所へ行った。
暫くすると柔道着に着替えた柔と富士子が戻ってきた。
富士子「松田さん、ちょっと良いですか?」
耕作「うん、良いよ。」
富士子に促され鴨田から少し離れた。
富士子は耕作に耳打ちした。
富士子「松田さん、おめでとう~、上手くいったみたいですね。」
耕作「ありがとう、富士子さん、そう言う訳で乱取は難しいかも知れないんで、
その時はよろしくね。」
富士子「お安い御用ですよ、でも、猪熊さんの口から聞くといまだに信じられませんけど。」
耕作「そうだね、俺もだけど柔さんも何も知らなかったんだから。」
柔「耕作さん、そろそろ始めるね。」
耕作「ああ、無理するなよ、頑張って。」
柔「はい!!」
柔はトレーニングを開始した。
耕作はその様子をじっと見詰めていた。
鴨田は撮影を始めていた。
耕作「(今の所、余り影響はなさそうだな。)」
富士子が耕作に耳打ちした。
富士子「猪熊さん、余り変わった様子は無いけど本当に昨日しちゃったんですか?」
耕作「ああ、間違いなく終わってるよ。」
耕作「その証拠に少しペースは落ちてる。」
富士子「松田さん、そこまで分るなんて凄いですね。」
耕作「まあ、向こうでもこっちでもずっと見てきたからね。」
富士子「でも、もう打ち込みに入ってますけど。」
耕作「うん、そうだね、ただ、この時間だと打ち込みは半分位終わってないと
いけない時間なんだ。」
富士子「え?そうなんですか?」
耕作「うん、それに打ち込みって腰でするでしょう?」
富士子「そうですね、手はそれを補助する感じですね。」
耕作「富士子さん、見て分からない?」
富士子「あ、そう言われれば、腰を余り使えてないですね。」
耕作「さすがは富士子さんだ、やっぱり影響は出てるんだよ。」
富士子「やっぱり、本調子じゃないんですね。」
耕作「うん、まあ、仕方ないよ、柔さんも望んだ事だし、俺もここまで影響が
出るって思わなかったから。」
富士子「それって、初めてだったからなんですよね?」
耕作「そうだね、明日からは普通に練習が出来る様になると思う。」
富士子「そうなんだ、良かった~。」
耕作「だから、富士子さんに乱取をお願いしたんだ。」
富士子「はい、分かりました、今日は私が務めます。」
耕作「ごめんね、富士子さんなら分かってくれると思って甘えてしまった
形になるけど、よろしくね。」
富士子「いえ、困った時は私もかなり助けて貰いましたから。」
耕作「今言った事は、多分、柔さんも自覚してると思うよ。」
富士子「分かってて、あれだけやってるんですか?」
耕作「そう、それが柔さんの柔さんらしさなんだ。」
富士子「あ、終わったみたいです。」
柔は打ち込みが終わって耕作の元に戻ってきた。
耕作「柔さん、体調が芳しくなかったのに良く頑張ったね。」
柔「うん、時間掛かり過ぎたでしょう?後、打ち込みも思う様にいかなかった。」
耕作「ね?言った通りだったでしょう?富士子さん。」
富士子「そうですね、松田さんの言う通りでした。」
柔「うん?何かお話してたの?」
耕作「君の今日の出来を二人で話してて、その話した内容は君も分かってるって、
俺が富士子さんに言ったんだ。」
柔「さすが、耕作さんに富士子さんだね。」
耕作「でも、最後の方は良くなってたよ。」
柔「ほんと~?明日には元に戻るかな?」
耕作「元に戻るどころか、良くなるかも知れないよ。」
柔「良かった~、耕作さんがそう言うなら、そうなんだね。」
富士子「柔さん、乱取は私がやるよ、どうすれば良いかな?」
柔「昨日、私がやったみたいに相手の技の隙を突く様にやってみてくれない?」
富士子「出来るかな~、私にそれが。」
柔「大丈夫、富士子さんなら出来る、あたしの打ち込みの出来を判断出来たんだから。」
富士子「そう?出来るだけ頑張ってみるね。」
富士子「じゃ、ちょっと、その事を監督に話してくる。」
富士子は祐天寺の元に行くと、柔の体調が芳しくない事と
自分が乱取の相手をする事を話していた。
祐天寺と富士子が柔達の元に来た。
祐天寺「柔さん、体調が芳しくないって本当ですか?」
柔「ご迷惑をお掛けしてすみません、明日には元に戻りますから。」
祐天寺「そうですか、余り無理はなさらないで下さい。」
祐天寺「そう言う事でしたら、今日は時間を余り掛けない方が良さそうなので、
最近入った子ですが二人ほどご指導願えませんか?」
柔「はい、分かりました、喜んで。」
柔「じゃあ、早速始めましょう。」
柔「耕作さん行ってきます。」
耕作「うん、頑張って。」
三人は道場中央付近で今日の練習相手に何か話していた。
暫くすると富士子とその新人の子が対戦を始めた。
富士子は柔に言われた様に技封じに徹していた。
途中で柔が止めて富士子の相手に何やら話して、また再開した。
すると、富士子が再三にわたって技封じを外される様になっていた。
また、柔が止めて相手に何か話して、再度始めると今度は
富士子が技に掛かりだして倒される様になった。
そこで柔は終了を宣言して、次の相手と交代させた。
次の相手も同じ様に、柔は指導した。
同様に富士子が技に掛かりだして時点で終了を告げた。
相手の二人は富士子と柔に一礼してお礼を言っていた。
柔達も相手に一礼を返していた、そして握手をすると二人とも、耕作の元に戻ってきた。
耕作「二人とも、お疲れさんでした。」
富士子「猪熊さん、さすがだわ~、少し教えただけであそこまで修正出来るなんて。」
柔「ううん、あの子達の呑み込みが早かったからよ。」
耕作「いやいや、中々的を得た指摘をしてたと思うよ。」
柔「え?そうなの?」
耕作「うん、修正箇所を的確に教えてたじゃない?柔さんは。」
柔「そうなのかな?でも、上手くいってたからそうなのかも?」
耕作「うん、あれだけ的確に指摘出来たら相手は分かり易いと思うよ?
誰でも修正出来る様な指摘だったから。」
柔「耕作さんにそう言って貰うと教えた甲斐が有ったな~って思う。」
富士子「あの子達、始める前と終わる頃とで格段に進歩してたよ。」
耕作「そうだね、富士子さんの言う通りだよ。」
柔「それなら良かった~。」
祐天寺「二人とも、お疲れ様でした。」
祐天寺「柔さん、さすがですね、新人二人をあっという間に使えるレベルに
してしまうんですから。」
柔「いえいえ、あの子達も呑み込みが早かったお陰ですから。」
祐天寺「今日はどうもありがとうございました、明日もお待ちしています。」
柔「はい、こちらこそ、ありがとうございます。」
柔「また、明日お邪魔します。」
祐天寺は二人に礼をして他の部員の所へ戻って行った。
二人も一礼を返していた。
柔「耕作さん、それじゃ、着替えてくるね。」
耕作「うん、富士子さんもでしょう?行ってらっしゃい。」
富士子「そうですね、着替えてきます。」
二人は更衣室に行って、暫くすると着替えて戻ってきた。
耕作「富士子さん、今日は鴨田も居るので帰るね。」
富士子「うん、猪熊さんの事も有るから早く帰ってあげて。」
柔「富士子さん、今日はありがとう、明日は大丈夫だから。」
富士子「じゃあ、また明日会いましょう~。」
柔「うん、また明日ね~。」
耕作「鴨田、すまん、送ってくれないか。」
鴨田「良いっすよ。」
柔達三人は富士子に手を振ると駐車場へ向かった。
鴨田の車に乗り込むと柔の実家へと向かった。
鴨田「松田さん、写真ばっちり撮りましたから。」
松田「ありがとうな、それ、明日持って行く、俺の記事に使う様にするから現像頼んどくよ。」
鴨田「任せて下さい、帰ったら直ぐに現像しときます。」
柔「鴨田さんもお疲れ様でした。」
鴨田「いえいえ、これ位どう~って事無いっす。」
鴨田「無事到着したっす、周囲には人影有りません。」
耕作「鴨田、ありがとうな、写真頼んどく、また明日。」
柔「鴨田さん、ありがとうございました、またです。」
鴨田「はい、またっす、では~。」
鴨田は会社へ戻って行った。
耕作と柔は木戸を潜って玄関へ入って行った。
柔「ただいま~、戻ったよ~。」
耕作「ただいま、戻りました。」
玉緒「お帰りなさい、上で休んでなさ~い。」
滋悟朗「帰ったか~、お疲れぢゃったの~。」
虎滋朗「お疲れさん、ゆっくり休めよ。」
柔「うん、分かった~。」
耕作「はい、休んできます。」
二人は2階へ上がって部屋に入った。
耕作「柔さん、ほんとにお疲れ様。」
柔「ううん、大丈夫だよ、でも、ありがとう~。」
柔「コーヒー入れるね。」
耕作「お願いね。」
柔はコーヒーを2杯入れて片方を耕作に渡した。
柔「はい、二人の気遣いが入ったコーヒーだよ。」
耕作「ありがとうね。」
耕作「少し、休んだら写真撮りと印鑑作りに行かないといけないね。」
柔「そうだった、忘れかけてた。」
耕作「そうだと思ったんだ。」
柔「あ、そうそう、富士子さんには結婚式の時間は更衣室で話したから。」
耕作「そうなんだね、時間か、明日、編集長達にも言っておくかな。」
柔「ジョディーは前日に来るから良いよね?」
耕作「そうだね、そうか、俺の両親にも言っておくか。」
柔「そうだね、今日電話しておく?」
耕作「そうだね、明日は忙しいから、その方が良いね。」
柔「他の人達は通知が行くから良いのかな。」
耕作「うん、それで間に合うと思うよ。」
柔「あなた?」
耕作「うん、分かってる、今夜は大人しく寝ようね。」
柔「ごめんね~、今日の柔道を思うとさすがに控えないとって思ったんだ、
あれ程とは思わなかった。」
耕作「歩くとか走ると違って、柔道はほぼ体全体を使うし、特に腰は重要な
ウエイトを占めてるからね。」
柔「うん、腰が抜けるほどしたらいけないって事だね?」
耕作「これこれ、君はそんな事をどこで仕入れてくるんだい?」
柔「え?ほんとに腰が抜けるの?あれやったら。」
耕作「あら、知らなかったんだね。」
耕作「そうなるって聞いた事は有るよ。」
柔「怖いね~、立てなくなるのかな?」
耕作「まあ、立っても直ぐに腰砕けになるそうだけど。」
柔「何でも程々が一番なんだね、腹八分と一緒なのか~。」
耕作「そうだよ~、柔さん?今朝3回以上とか言ってたけど、腰抜けるよ?」
柔「や~ん、あなた、覚えてたのね~。」
耕作「まあ、でも、さっきも言ったけど明日には戻ってるよ。」
耕作「だから、朝の練習も大丈夫だと思う。」
柔「そうだと良いんだけどね~。」
耕作「まあ、無理そうだったら、ペースダウンしたら良いよ。」
柔「そうだね、様子を見ながらやってみる。」
耕作「そうなると、今日のお風呂は別々が良いかな?」
柔「あたしは良いけど、あなたに我慢させる形になるからそうした方が良いかもね。」
耕作「そうだね、君は魅力的だからね~。」
柔「うふ、ありがとう~。」
柔「あなた、お詫びに。」
柔は耕作を見上げると、そっと目を瞑った、耕作は柔の頬と肩に
手を添えると優しく長めのキスをした。
耕作「お詫び、受け取ったよ~、ありがとうね。」
柔「うふ、あなたも、素敵なキスをありがとう~。」
耕作「そろそろ行ってこようか?」
柔「そうだね、出掛けよう~。」
二人は階下へ下りて行くと玄関へ向かった。
柔「おかあさん、耕作さんと一緒に写真屋さんと印鑑屋さんに行ってくるね~。」
玉緒「気を付けて行ってらっしゃい~。」
柔「は~い。」
耕作「行ってきます。」
二人は玄関から出ると木戸を潜って表へ出た。
耕作「やっぱり、FAXは効果あったみたいだね。」
柔「うん、さすが、あなたね、あんな事思い付くんだもん。」
耕作「切っ掛けは、柔さんがくれたんだけどね。」
柔「それをあんな風に組み合わせたのは、あなただよ?」
耕作「俺もここまで効果が有るとは思って無かったんだ。」
柔「でも、入籍する二人がここに居ても可笑しくないのは、ほんとだし。」
柔「結婚も、もう直ぐなんだから当たり前だよね。」
耕作「そうだね、入籍が明日で、まだ別々に住んでる方が変な事だからね。」
柔「あそこだよ、印鑑屋さん。」
柔「ごめんくださ~い、猪熊 柔です。」
誠三「お~、滋悟朗さんの所の孫娘の柔ちゃんか~、もう直ぐ結婚なんだね、
おめでとうね~。」
柔「ありがとう~。」
誠三「ほぉ~、そちらの方が旦那さんになる方かい?」
耕作「はい、初めてお目に掛かります、松田 耕作と申します。」
誠三「こちらこそ、よろしく、柔ちゃんを頼むよ~。」
誠三「猪熊さん家に厄介になるのかい?」
柔「うん、そうだよ、これからも会う事が有ると思うのでよろしくね~、
あ、そうそう、印鑑作りに来たの。」
誠三「おっと、そうだよな、姓が変わるんだな。」
誠三「で、どんな感じのにするかい?苗字だけとか全部入れるとか有るけど。」
柔「全部入れる感じで出来る?」
誠三「おうよ、出来いでか、どんなもんでも作れるぞ?」
誠三「少し待ってくれよ、見本、持って来るから。」
耕作「へ~、見本ってあるんだね。」
誠三「それが無いと出来上がりが不安だろう?」
柔「確かに、そうだよね。」
誠三「こんな感じになるんだが、どれが良いかな?」
柔「この読めない様なのも同じ名前なの?」
誠三「そうだよ~、昔の書体って言うか、印章用の字かな?」
柔「へ~、そうだよね、普通見ないもんね、こういう字は。」
柔「印鑑を四角にするとこうなったりするのね~。」
誠三「どれかお気に入りなの有るかい?」
柔「これ面白い形してるから、これにして下さい。」
誠三「材料は一番安いのにしとくよ、少し待ってな。」
柔「ありがとう~、お願いします、待ってます。」
暫くすると何かを削る音が響いてきた。
耕作「最近は売ってるのが多いけど、こういう所で作るのも味が
有って良いよね、俺も今度作ろうかな?」
誠三「そん時は頼みますよ~。」
柔「あは、この音の中でも聞こえるんだね。」
誠三「人の声とは違うからね、この音は。」
柔「凄いね~、あたしだったら無理かも。」
誠三「ほい、おまっとさん、これで良いかい?試しに押してみな。」
柔「うん、押してみるね。」
柔「これで良いよ~、良い感じ。」
耕作「そうだね、これ見易いね。」
誠三「木のにしても良かったんだが、これも安い方なんであと頑丈だし、
火にも水にも強いからね。」
誠三「後、軽いから落とさないように気を付けとくれ。」
柔「お幾らですか?」
誠三「滋悟朗さんの孫娘でもあるし、結婚ご祝儀で1500円でどうかい?」
柔「はい、それで良いです、じゃあ、これで。」
誠三「丁度だね、耕作さんとやらも安くするから作りに来とくれ。」
耕作「はい、その際はお願いします。」
柔「ありがとう~、とても使い易くて良い感じ。」
誠三「滋悟朗さんに誠三がよろしく言ってたと伝えとくれ~。」
柔「うん、おじいちゃんに伝えますから。」
二人は店を出た。
耕作「滋悟朗さんの知り合いって気さくな人が多いね。」
柔「うん、そうだね、次は写真屋さんか。」
耕作「道路の反対側って言ってたから、あれじゃない?」
柔「あ、そうだね、行こう~。」
耕作「うん、行こう。」
二人は写真館の中に入った。
柔「ごめんください~、猪熊 柔と申します。」
幸作「おぉ~、おめでとう~、柔ちゃんじゃないか、相変わらず元気そうだね。」
柔「ありがとう~、あの、パスポート用の写真を撮って貰えませんか?」
幸作「そちらが旦那さんかい?」
柔「はい、そうです。」
耕作「松田 耕作と申します、初めまして。」
幸作「お~、奇遇だね~、俺も幸作って言うんだ、幸いに作るで幸作なんだけどな。」
耕作「私の方は農業の耕作と同じ漢字です。」
幸作「そうかい、そうかい、読みが一緒なら同じ名前で良いさね。」
柔「えっと、どこで撮るんですか?」
幸作「おっといけない、そこの椅子に腰かけとくれ。」
柔「ここで良いんですか。」
幸作「そうそう、背筋を伸ばしてこのカメラの方を向いて。」
柔「こんな感じで良いのかな?」
幸作「そうそう、ちょっとそのままで居てな。」
幸作は柔の後ろに白のスクリーンを下まで下げた。
幸作「2枚撮るから動かないで。」
柔「はい。」
幸作「フラッシュから視線は外しておくれよ。」
柔「はい。」
幸作「じゃあ、撮るよ。」
幸作「もう、一枚ね。」
幸作「はい、終わったよ。」
幸作「焼付けしてくるから少し待っててな。」
柔「はい、待ってます。」
柔「あの時みたいだったね。」
耕作「そうだね、同じ感じだったね。」
柔「危うくフラッシュで目を瞑りそうになった。」
耕作「でも、君は会見で慣れてたみたいだね。」
柔「でも、こんなに近くじゃ無かったよ?」
耕作「たしかに、そうだったね。」
幸作「お待たせ~、一応、4枚焼付けしておいたから、パスポート・サイズに
カットもしといたよ。」
柔「ありがとう~。」
幸作「ところで虎滋朗さん帰って来てるんだってな。」
柔「おとうさんをご存知なんですか?」
幸作「ご存知も何も小・中・高で一緒だったさ、同じクラスになった事は3回くらいかな?」
柔「へ~、そうだったんですね。」
幸作「もう、ずっとこっちに居なさるのかい?」
柔「ううん、またフランスに戻らないといけないそうです。」
幸作「そうか~、また寂しくなるね。」
柔「でも、コーチの契約が終わったら戻って来るって言ってました。」
幸作「お~、そいつは良かったな、孫が出来るまでには戻って来るんじゃないのかな?」
柔「そうですね~、そうなれば良いって思ってます。」
幸作「虎滋朗さんは覚えてないかもしれないが、写真屋の息子の幸作が
よろしく言ってたって伝えとくれ。」
柔「はい、分かりました、あ、お幾らですか?」
幸作「結婚祝いで半額の500円で良いよ。」
柔「え?そんな、悪いですよ~。」
幸作「良いって事よ、おとうさんと知り合いでもあるんだし遠慮しなさんな。」
柔「すみません、ありがとうございます。」
幸作「結婚式、上手くいくと良いな。」
柔「あ、それでお願いがあるんですけど。」
幸作「もしかして結婚式の記念撮影かい?」
柔「はい、それをお願いできませんか?」
幸作「お~、それなら喜んで行かせて貰うよ、虎滋朗さんにも会いたいしな、
で、いつなんだい?」
柔「六日後の10時からで場所はあたしの家の道場で執り行います。」
幸作「分かった、じゃあ、それに合わせて機材を準備して行くから
よろしくお願いしますよ。」
柔「はい、お待ちしています。」
柔「では、失礼します。」
幸作「はいよ、また六日後に。」
二人は写真館を後にした。
耕作「意外だったね~。」
柔「まさか、おとうさんの同窓生とは思わなかった。」
耕作「あの人も気さくな感じだったね。」
柔「うん、そうだったよね~。」
耕作「この町内は君の家を知らない人は余り居ないみたいな気がしてきた。」
柔「そうだよね~、この前の人もそうだったし。」
耕作「準備は出来たから、いよいよ明日婚姻届けを提出だね。」
柔「あなた、原稿は?」
耕作「戻ったら、やっても良いかい?」
柔「うん、良いよ、見てても良い?」
耕作「勿論だよ。」
柔「やっぱりうちの近辺は静かだね、誰も居ない。」
耕作「明日、取材が出来なくなる方が痛いしね、抜け駆けすると。」
柔「なるほど、そういう事なんだね。」
耕作「うん、それに、もう同居してるのは公表されてるから今更感が有るからね、
スクープにもならないから。」
柔「あなたのFAX作戦は成功だね~。」
耕作「だね、あ、中に入ろう?」
柔「うん。」
二人は木戸を潜って玄関に入った。
柔「ただいま~、戻ったよ~。」
耕作「ただいま、戻りました~。」
玉緒「お帰りなさい、また上に上がって休んでなさい。」
柔「うん、そうする~。」
耕作「そうさせて貰います。」
柔「その前に電話した方が良いんじゃない?」
耕作「あ、そうだね、じゃあ、掛けるね。」
耕作は実家に電話を掛けた。
耕作「出るかな?」
耕作「出た。」
耕作「もしもし、かあさん?耕作です。」
耕作「結婚式の時間は10時からになったから、間に合う?」
耕作「え?明日からこっちに来るって?どうして?」
耕作「え?わざわざ、その為に?」
耕作「うん、分かった、何時に来る?」
耕作「うん、午後からだね、時間は?」
耕作「13時過ぎだね、分かった。」
耕作「こちらのご両親と滋悟朗さんには話しておくから。」
耕作「泊まる場所とかは?」
耕作「なるほど、こっちに来て決めるんだね、分かった。」
耕作「うん、じゃあ、待ってるから。」
耕作は受話器を置いた。
柔「あなた?ご両親は明日来るってどうしてなの?」
耕作「上で話そうか。」
柔「そうだね。」
二人は2階の柔の部屋に入るとベッドに寄り添って座った。
柔「もしかして、結納を持って来るんじゃない?」
耕作「さすがだね、その通りだよ、送るだけじゃ申し訳ないって直接手渡したいんだって。」
柔「そこまでしなくても良いのに。」
耕作「家も古風な考えだからね、そうしないといけないって思ってるんじゃないかな。」
柔「泊まる場所はこっちに来てとか言ってなかった?」
耕作「そう言ってた。」
柔「後で、近くにそういう場所っが有るか聞いてみようか?」
耕作「この近くって無かったんじゃない?」
柔「駅の傍なら有ると思うけど。」
耕作「あ、そうだね、それでお願いしようかな。」
柔「うん、そうする。」
柔「ところで、原稿は直ぐ書くの?」
耕作「そうだね、その方が後でゆっくり出来るから。」
柔「じゃあ、コーヒー入れるね。」
耕作「その前に、その印鑑と写真をバッグに入れてた方が良いよ。」
柔「あ、そうだね、無くしたら大変だしね。」
耕作「そのバッグには婚姻届けも入ってるからね。」
柔「うん、そうだよね、明日忘れない様にしないと。」
柔「これで良しと。」
耕作は机に向かって原稿を書き始めた。
柔はコーヒーを2杯入れると片方を机の上の原稿から離れた場所に置いた。
耕作「ありがとうね、そうやって気を遣って貰って。」
柔「えへ、褒められちゃった~。」
柔は耕作の斜め後ろに立ってコーヒーを飲みながら眺めていた。
耕作は暫く考えていて、書き始めると一気に数行を書き上げていた。
柔「やっぱり、考えて一気に書くんだね。」
耕作「そうだね、考えが纏まってない状態で書くと前後の文章が
可笑しく見える時が有るんだ。」
柔「へ~、そういうもんなんだね。」
柔「まさか、昨日の事を絡めてとか無いよね?」
耕作「さすがにそれは書けないよ?」
柔「そうだよね~、って、あ、ごめんね、邪魔しちゃった。」
耕作「ううん、大丈夫、考えてる時は、そっちに集中してるから。」
耕作「声は聞こえてるけど邪魔にはならなから。」
柔「あなたって器用なんだね~。」
耕作「君が俺の声を聞き逃すまいとしてる方が器用だって思うけどね。」
柔「あ、そう言われればそうか、あたしも料理を作ってたりしたね。」
耕作「そうだよ~、そっちの方がよっぽど器用だよ?」
柔「そう言えばあの大歓声の中でも、あなたの声は聞こえるんだよね。」
耕作「ユーゴの時の事だね。」
柔「うん、あなたの声だけがはっきり聞こえてたの。」
柔「後はオリンピック選考の試合の、さやか戦の時もね。」
耕作「あ~、あの時に言った言葉で勝てたって言ってたね。」
柔「うん、あれを言われてなかったら、そのまま巴投げが出来ない状態で、
時間切れになってたと思うよ。」
耕作「そうだったんだね。」
柔「あ~、タイトル面白いね、猪熊 柔 指導者への道か~。」
耕作「うん、実際に対戦しなくても出来るのが指導者への近道だから、
見てるだけで教えるって中々難しいと思うんだ。」
耕作「それが出来る様になってたから、今日の柔さんは。」
柔「そのタイトル見ると、どんな事が書いてあるかって読みたくなるよね、
さすが、あなたは優秀な新聞記者だって思う。」
耕作「君にそう言って貰うと自信が湧くね~。」
柔「なるほど、あたしが体調不良でって書かなくて、そういう試みを
してるって書いてるんだね。」
耕作「ふふふ、良い表現って思う?」
柔「うん、自分の意思でそうしてるって思わせるよね、その表現だと。」
柔「それで指導者への道なんだね~。」
耕作「うん、君も言葉に関しては良い物持ってるね。」
柔「うふ、褒められちゃった~。」
耕作「良し、出来た~。」
柔「お疲れ様~。」
耕作「柔さんの声を聞きながらだったから、良い感じに書き上がったって思うよ。」
柔「そうなんだ、それなら話しかけてて良かったのかな?」
耕作「うん、良かったよ、手助けに十分なった。」
柔「あなたの役に立てて嬉しいな~。」
耕作「原稿を書き上げて飲むコーヒーも格別なんだ~。」
柔「でも、冷めてない?」
耕作「大丈夫、君の熱い愛情が入ってるから。」
柔「あなたもそう言う表現が上手いよね~。」
玉緒「あなた達~、そろそろ御飯よ~。」
耕作「また、絶妙なタイミングだね。」
柔「うふふ、そうだね、下りようか?」
耕作「そうだね。」