お断り:文章量(文字数)が多くなりましたので1日を4分割してお届けします。
午前中の部分がかなり含まれます
柔 「それじゃあ、お昼の仕込みを済ませるから。」
耕作 「うん、頑張ってね~。」
柔 「は~い。」
柔はキッチンへと急いで行った。
耕作 「ほんとに素直で良い子だな~、柔さんって、好きになって良かったって、
今更ながらに思うな~。」
耕作がそう呟くと、キッチンから柔の声がした。
柔 「あたしも耕作さんの事を好きになって良かったって思ってる~。」
耕作 「(ほんとにどういう聴力をしてるんだろう?柔さんって。)」
耕作 「お互いにそう思ってるから良いパートナーだよね~、俺と柔さんって。」
柔 「そうよね~、最高のパートナーだよね~、あたし達って。」
柔 「耕作さん、お待たせ~、後は調理するだけだから、そんなに時間は
掛からないんで、お昼前に作るね。」
柔がキッチンから戻ってきた。
耕作 「ほんとに手際が良いよね~、柔さんって。」
柔 「えへ、耕作さんに褒められちゃった、嬉しいな~。」
耕作 「柔さん、お昼までにはまだ時間が有るけど何しようか?」
柔 「何しようか?耕作さんは何かしたい事有るの?」
耕作 「俺は特には無いかな、柔さんは何か有るの?」
柔 「そうね~、そうだ!耕作さん?」
耕作 「何?柔さん。」
柔 「耕作さんさえ良ければ、スクラップブックのVol.3を一緒に見ない?」
耕作 「少し気恥しい気もするけど、柔さんがそうしたいなら構わないよ?」
柔 「ほんと~?じゃあ、一緒に見よう~?」
耕作 「うん、良いよ?」
柔はスクラップブックのVol.3を本棚から持ってきて耕作の膝にちょこんと座ってきた。
耕作 「や、や、柔さん?どこに座ってるの?君は。」
柔 「うん?どこって耕作さんの膝だけど?」
耕作 「うん、それはそうなんだけど、何でそこに?」
柔 「この方が一緒に見やすいかな?って思ったから、いけなかった?」
耕作 「いや、いけなくはないけど急にそこに座ったから、ちょっと驚いた。」
柔 「あっ、あたし重いかな?」
耕作 「いやいや、そんな事は無いよ?」
耕作 「ただね?」
柔 「ただ何?」
耕作 「う~ん、言って良いのか悩むな・・。」
柔 「耕作さん?」
耕作 「はい、何でしょうか?柔さん。」
柔 「あたしもだけど耕作さんも二人の間では隠し事はしないって言ったの覚えてるよね?」
耕作 「うん、そう言ったね。」
柔 「じゃあ、言わないのは可笑しいよね?」
耕作 「はい、柔さんの言う通りです。」
柔 「じゃあ、言わないとね?」
耕作 「柔さん、怒らない?」
柔 「内容にもよるかな?」
耕作 「う~、これ言うと柔さん、怒ると思うんだよね~。」
柔 「耕作さん?この前喧嘩になってもお互いを理解しようとすれば分かり
合えるとも言ってなかった?」
耕作 「うん、分かった、それじゃあ、言うね?」
柔 「どうぞ~。」
耕作 「あのね?そうやって柔さんが俺の膝に座るとね?」
柔 「あたしが耕作さんの膝に座ると?」
耕作「・・、柔さんのお尻の感触が・・。」
柔が耕作を見て満面の笑みになった。
柔 「耕作さん、嬉しいの?」
耕作 「え?まあ、嬉しいけど・・。」
柔 「良かった~、嫌な気分になってるかと思っちゃった。」
耕作 「柔さんは嫌じゃないの?俺がそんな考えを持ってるのって。」
柔 「だって、寝る時も抱き合って寝てるじゃない?」
耕作 「それもそうか・・。」
耕作 「しかし、柔さんてほんとに可愛いよね~、そういう考え方も含めて。」
柔 「わ~い、耕作さんに褒められちゃった~。」
柔 「それじゃあ、一緒に見よっか?」
耕作 「うん、そうしようか。」
柔 「耕作さん?」
耕作 「何?柔さん」
柔 「あたしの事を後ろから抱き締めてね?そうして一緒に見よう?」
耕作 「柔さん?良いのかなそんな事して。」
柔 「これを見るのにはそうした方が良いかなって思ったから。」
耕作 「じゃあ、抱きしめるよ?」
柔 「うん、お願~い。」
耕作は腕を柔のお腹辺りに回して軽めに抱き締めた。
柔 「わ~い、耕作さんに抱き締められちゃった~。」
耕作 「柔さんって何だかふわってした感じなんだね。」
柔 「そうなのかな?自分ではよく分からないけど。」
柔 「じゃあ、ページを開くね?」
耕作 「うん、良いよ~。」
柔がVol.3の1ページ目を開いた。
そこには柔のユーゴでの一本背負いの記事の切り抜きがあった。
耕作には柔がそれをじっと見ているのが分かった、暫くすると
肩を震わせ始めて泣き出してしまった。
耕作 「柔さん、どうしたの?」
柔 「この時の事を思い出したのと、その後の事を考えてたら思わず泣いちゃった。」
耕作 「そういえば、後から知ったんだけど、この一本背負い以前の試合って
絶不調だったんだよね?」
柔 「あたし、この時に耕作さんのあたしの中での存在感を初めて実感したの。」
柔 「あたし、耕作さんが居ないとこれほどまでに精神的に弱いんだって。」
柔 「その時に、あ~、あたし、耕作さんの事を好きなんだっていう事も。」
柔 「最初はジョディーが耕作さんの事を彼氏だ彼氏だって言ってるのを
勘違いしてるって思ってた。」
柔 「この時以前までは、自分の気持ちには或る程度気が付いてたけど
何でかそれを否定しようとしてる自分が居たの。」
柔 「でも、この時にそうじゃないんだって分かって、かなり後悔した。」
柔 「以前、耕作さんが思いを伝えなかった事が悪い事だったって言ってたよね?」
耕作 「うん、そう言ったね、確かに。」
柔 「試合後に耕作さんに外に連れ出された時が有ったじゃない?」
耕作 「うん、あの時も急に泣き出して、俺はどうして良いか分からずに、
ただオロオロしてただけだったんだよね。」
柔 「その時に以前と全然変わっていない耕作さんの事を見たら、安心したのと、
やっぱり、あたしは耕作さんの事を好きなんだって思って泣いちゃった。」
耕作 「なるほど、そういえば、ここに来た時に泣いてそう言ってたね。」
柔 「その後、あたしは自分の気持ちを耕作さんに伝えようと思いながら結局言えなかった。」
柔 「今思うとそれが、その後の耕作さんに酷い仕打ちをしてしまう原因になって
たんだと思うと悲しくなっちゃって。」
耕作 「俺もそうだよ?言うべき事を言わなかったのは、俺も同じなんだから。」
耕作 「だから、柔さんは自分だけだって思う事は無いんだよ?」
柔 「うん、今ならそれは分るかな。」
柔 「あたし、やっぱり耕作さんの元に来て良かったって思う。」
耕作 「俺も柔さんがこっちに来て貰って良かったって思ってるよ?」
柔 「だって、こんなにお互いを理解し合えたんだもの。」
耕作 「うん、そうだね、分かれた状態で居たらまた同じ過ちを繰り返すとは
思わないけど今の様にはお互いを理解する事は出来なかったんだし。」
柔 「耕作さん?」
耕作 「うん?何?柔さん。」
柔 「素直になる事って難しいよね?」
耕作 「そうだね、俺が柔さんに告白出来たのも切羽詰まった状態だったから
出来たんだと思うから、ああいう状況になっていなかったら今も以前の
状態と変わっていなかったかも?」
耕作 「あの時以前にも俺には告白出来る状況は結構有ったけど、素直に
それを言う事が出来なかったから。」
耕作 「でも、柔さんもこの前言ってたじゃない?色々な事が有ったから
今があるんだって。」
耕作 「俺もそう思ってるからあれはあれで良かったんだって思うよ、今は。」
柔 「そうね、過去を振り返るのは同じ過ちを繰り返さない為の反省の材料に
するって言ったからね、あたし。」
柔 「あの時こうしてればをこの先はこうしないとっていう風にしていけば、良い事なんだよね。」
耕作 「そうだね、あの時こう思ってただけだった事を、今後はこう思ったから
こうするんだってやっていけば以前の様な事にはならないよ、きっと。」
柔 「耕作さん、大好きよ。」
耕作 「ああ、俺も柔さんの事、大好きだよ。」
二人はお互いを見つめ合いキスをした。
柔は耕作を見て微笑みを浮かべた。
柔 「1ページ目だけでこんな話になるって、このスクラップブックは魔法の本みたいだね~。」
柔 「耕作さんのあたしへの思いの詰まった魔法の本だね。」
耕作 「そうかもしれないね~。」
柔 「耕作さんが言ってた様にゆっくり見ないと勿体ないよね?」
耕作 「そうだね~、柔さん?これからも見る時は二人で見ようね。」
柔 「そうした方が良いよね、一人で見るのは勿体ない気がする。」
柔 「そろそろお昼の仕度をするけど、その前に耕作さんにコーヒー入れるから、
ちょっと待っててね。」
耕作 「うん、待ってるよ。」
柔は耕作の膝から降りてキッチンへと行って耕作のコーヒーを持って戻ってきた。
柔 「少し待っててね、直ぐに作るから。」
耕作 「うん、コーヒーを飲みながら柔さんの事を見てるよ。」
柔がキッチンに行くと鼻歌交じりに料理をする音が聞こえてきた。
耕作 「お互いの事を少しずつ理解出来ている事が確認出来ているって
分かる様な出来事だったな、今のも。」
耕作がそう呟くと、またキッチンから柔が話しかけてきた。
柔 「そうね~、耕作さん。」
耕作 「(相変わらず凄い聴力をしてるな~、柔さんは。)」
柔 「耕作さん、何かあたしの事を褒めたの~?」
耕作 「うん、凄い聴力をしてるなって。」
耕作 「それと俺の考えてる事も的確に言い当ててるなってね。」
柔 「あれ?考え事だったの?あたしにはお話しとして聞こえた気がしたんだけど。」
耕作 「柔さん、君ってもしかしてエスパーじゃないの?」
柔 「まさか~、そんな事は無いよ?」
耕作 「(変な事は考えない様にしないと危険だな、これからは。)」
柔 「耕作さん?変な事ってな~に?」
耕作 「何でも無いよ~、気にしないでね~。」
耕作 「(これも愛のなせる業なんだろうか?)」
柔 「お待たせ~、今、そっちに持っていくね~。」
耕作 「今日は何かな~?」
柔がキッチンから料理を持ってきて次々にテーブルへと並べていった。
耕作 「今日の料理も美味しそうな物ばかりだね~。」
テーブルの上には中華風な物とか揚げ物が並べられていた。
柔は料理を並べ終えるとまた耕作の膝にちょこんと座ってきた。
耕作 「あの~?柔さん?君どこに座ってるの?」
柔 「え?耕作さんの膝だけど?」
耕作 「うん、それは分かってるけど、何で膝に座ったのかな?って。」
柔 「耕作さんがさっき嬉しいって言ってたから。」
耕作 「確かにそう言ったけど、これって御飯が食べ難くない?」
柔 「そうかな?」
耕作 「まあ、食べられないって程じゃないんだけど。」
柔 「それなら問題無いんじゃないの?」
耕作 「柔さんの気の済む様にして良いよ。」
柔 「わ~い、良かった~、それじゃあ、食べようか~。」
耕作 「(柔さんてほんとに無邪気なのは良いけど、この先が思いやられるな
余計な事は言わない方が良いかもしれない。)」
柔 「耕作さん?」
耕作 「何?柔さん。」
柔 「あたしってそんなに無邪気なの?」
耕作 「(うお、ほんとに人の心が読めるのか?柔さんは。)」
耕作 「うん、無邪気で可愛いな~って。」
柔 「わ~い、嬉しいな~。」
耕作 「食べようか?」
柔 「うん。」
耕作、柔 「いただきま~す。」
耕作は考えるのはやめにしてがつがつと食べ始めた。
柔も食べながら時折耕作の方を向いてはそれを見ていた。
耕作 「柔さん?その食べ方だと首が痛くならない?」
柔 「いえ?耕作さんを見てると嬉しくなるから平気だよ?」
耕作 「それなら良いんだけどね。」
柔 「耕作さん?」
耕作 「柔さん、今度は何かな?」
柔 「耕作さん?あたしが何か言う度に、そんなに身構える様な言い方を
しなくても良いのに~。」
耕作 「あ、別にそう言う訳じゃないんだけどね。」
柔 「じゃあ、どう言う訳でいつもそう言ってるの?」
耕作 「えっとね、柔さんからいつも予想外の事を言われてきたから、次は何を
言われるのかと思って、こういう返事になってしまうんだ。」
柔 「そうだったんだ~、あっ、そうだった、耕作さんお替わりは?」
耕作 「あ~、そう言いたっかたんだね、お願いします。」
柔 「は~い、少し待ってて~。」
柔は膝から降りてキッチンへと向かった。
柔 「耕作さんお待たせ~。」
柔は耕作の元へと御飯を持ってくると、また膝に座った。
耕作 「ありがとうね、しかし、柔さん、俺の膝がお気に入りになってしまってるよね?」
柔 「お気に入りと言うか、耕作さんが嬉しいって言ってくれたから。」
耕作 「そうだったんだ。(柔さんって、俺が嬉しいっていう事なら何でもしそうで、
ほんとに変な事は言えないな。)」
柔を見ると、柔も耕作をじっと見ていた。
耕作 「どうしたの?柔さん。」
柔 「耕作さん、この前から変な事、変な事って言ってる気がするんだけど
変な事ってなあに?」
耕作 「(あ~、思わずまた考え事をしてしまった~。)」
耕作 「深い意味は無いから、柔さんは余り深くは考えなくて良いからね?」
柔 「そうなの?まあ、耕作さんがそう言うなら考えない様にするね。」
耕作はこのままの状態が続くときっと良くない事になりそうだと思って急いで御飯を食べた。
柔 「耕作さん?」
耕作 「何?柔さん。」
柔 「余り急いで食べないで?もう少し味わいながら食べてね?」
耕作 「うん、分かった、味わいながら食べないと柔さんに失礼だしね。」
耕作は御飯を食べるペースを少し遅くした。
耕作 「しかし、柔さんって結構、俺の事を良く見てるんだね?」
柔 「だって大好きな耕作さんをいつでも見てるのは嬉しいから。」
耕作 「そうだね、俺も大好きな柔さんをいつでも見ているの嬉しいから、
その気持ちは分かるよ。」
柔 「ほんと~?耕作さんもあたしと同じ気持ちだったんだ~、嬉しいな~。」
そんな話をしながら二人はご飯を食べ終えた。
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
柔は耕作の膝から降りた。
柔 「片付けるね、耕作さん、コーヒーを入れてくるから待ってて?」
耕作 「うん、しかし、柔さんって、ほんとに甲斐甲斐しいね~。」
柔 「甲斐甲斐しいってどういう事なの?耕作さん。」
耕作 「えっとね、人の為に出来る事を健気にする事かな?多分これで
意味は合ってると思うけど。」
柔 「耕作さんって、ほんとに言葉の意味を良く知ってるよね~、さすがは
新聞記者をやってるだけの事はあるね。」
耕作 「だって、記事にする時にその言葉の意味を知らないで間違った使い方を
すると全然別な意味の記事になったりするから。」
柔 「やっぱり、耕作さんは新聞記者に誇りを持ってるのね。」
耕作 「まあ、それだけが取り柄なのかも?」
柔 「毎日、読む人に感動を与えてるのも、前も言ったけど凄い事なんだね~。」
耕作 「柔さん褒めすぎだって、俺は当然そうしないとって思ってやってきただけなんだから。」
柔 「当然って考えるだけでも凄い事だと、あたしは思うよ?」
耕作 「だから、褒めすぎだってば、柔さん。」
柔 「そういう耕作さんを旦那様にするあたしは最高に幸せ者だって思うから。」
耕作 「なるほど、そういう考えも有るんだ。」
柔 「あ、いっけない~、耕作さんのコーヒー持ってこないと。」
耕作 「慌てなくて良いからね?柔さん。」
柔 「は~い、分った~。」
柔はキッチンへと食器を持って行った、暫くして耕作のコーヒーを持って戻ってきた。
柔 「はい、お待たせ~、今回のはあたしの耕作さんへの思いも込めて
入れたから美味しいと思うよ?」
柔からコーヒーを受け取った耕作はそれを飲んだ。
耕作 「柔さんの思いも一緒に飲込んだよ?最高に美味しいね。」
柔 「えへ、嬉しいな~、そう言って貰えると。」
柔 「それじゃあ、片付け済ませてくるね。」
耕作 「うん、最高のコーヒーを飲みながら待ってるから。」
柔 「うふふ、じゃあ、片付けてくる~。」
耕作 「うん。」
キッチンから柔が鼻歌交じりで片付けする音が聞こえてきた。
耕作 「(ほんとに仕草も話し方も可愛いな、柔さんって。)」
柔 「耕作さん、ありがとう~。」
耕作 「うん?どうしたの?柔さん。」
柔 「今、耕作さんがあたしの事を褒めてたよね?だから。」
耕作 「聞こえたの?柔さんには。」
柔 「うん、聞こえたかな?」
耕作 「(柔さんって機嫌が良い時は勘が働くのかな?)」
柔 「終わった~。」
耕作 「お疲れ様~。」
柔はキッチンから戻って来て、また耕作の膝に座ろうとした。
耕作 「あ、柔さん?普通に椅子に座っても良いからね?」
柔を見ると、柔が悲しそうに耕作を見ていた。
耕作 「あ、嫌とかそう言うんじゃなくて、ここに座ると不安定で柔さんが
転げ落ちて怪我をするんじゃないかと思っただけだから。」
柔は嬉しそうに耕作に抱き付いてきた。
柔 「耕作さん、大好き~、いつもあたしの事を気遣ってくれてるのね。」
耕作 「それはそうだよ?柔さんは俺にとっては世界中で一番に大切で
大事なパートナーなんだから。」
柔 「あたしにとっても耕作さんはそうなんだからね?」
耕 作「うん、分かってるよ?」
二人はお互いをじっと見つめてキスをした。
柔 「耕作さん?」
耕作 「うん?柔さん、どうしたの?」
柔 「あたしが練習に行くまではまだ時間があるけど、どうしようか?」
柔は耕作の隣に座った。
耕作 「そうだね~、何しようか?」
柔「それじゃ、少しお話でもしようか?」
耕作 「うん、良いよ。」
柔 「耕作さん、オリンピックの時、終わり掛けまで姿を見せなかったよね?
あの時何してたの?」
耕作 「あ~、あの時はね、加賀君が大変な事になっちゃってて、それを
助けようとして会場から離れてたんだよ。」
柔 「そうだったんだ、実はそれであたし少し不安になってて、また試合で
いつもの調子じゃなかったの。」
耕作 「そうだったのか・・、柔さんごめんよ、でも、柔さんの事は離れてても
ずっと考えてたから。」
柔 「それでね?それを見かねた富士子さんが耕作さんのプレス・カードを持ってきて、
耕作さんから渡してって言われたからって、あたしに渡してくれたの。」
耕作 「あ、それでプレス・カードが無かったんだね。」
柔 「耕作さん、ごめんね、そのせいで中々会場に入れなかったんだよね?」
耕作 「ううん、そのお陰で試合の調子を取り戻せたんなら、その方が
良かったって思うから気にしなくて良いよ。」
柔 「そうなのよね、体重別の決勝ではプレス・カードのお陰で、集中出来て
勝てたから、とても感謝してるよ、富士子さんにも耕作さんにも。」
耕作 「その試合の事は鴨田から聞いたけど、凄い駆け引きが行われてたって。」
耕作 「今までとは違った柔さんの試合の仕方に皆気が付かなかったとも言ってたね。」
柔 「そうなの?」
耕作 「柔さんの試合を見てたほぼ全員が終盤まで気が付かなかったみたい。」
柔 「あたしは普通にやってたつもりだったんだけど。」
耕作 「それが柔さんの強みなのかもしれないね?」
耕作 「自分で意識せずに状況に応じた試合運びが出来るって凄い事だと思うよ?」
柔 「ありがとう~、耕作さんに、そう言われると嬉しいな~。」
柔 「その後に耕作さんを見つけて、その時に耕作さんが励ましてくれたので、
更に集中できたの、あの時は凄く嬉しかった。」
耕作 「無差別級の時の試合も凄かったよね。」
耕作 「あのジョディーに一歩も引けを取らずに、結局は最後に一本背負いを
決めちゃうんだもんな~。」
柔 「うん、あの時は最高に楽しかった。」
柔 「あたしもジョディーも全力で試合したから、会場も異様に
盛り上がってたみたいだよね?」
耕作 「柔さん、君はあの試合の状況で、そこまで分ってたって凄いね。」
耕作 「今、全力でって言ったけど、実はまだ結構、余裕が有ったんじゃないの?」
柔 「う~ん、あたしは全力で試合してたつもりなんだけど。」
耕作 「柔さん、君ってやっぱり最高だね、意識しないでそういう事が出来るから。」
柔 「褒められたのかな?それって。」
耕作 「勿論だよ?俺も嬉しいし。」
柔 「えへ、耕作さんに喜んで貰えたなら、あたしも嬉しい。」
柔は突然真顔になった。
柔 「ところでね?耕作さん。」
耕作 「どうしたの?柔さん。」
柔 「あたし、体重別の決勝が終わった夜にプレス・カードを返しに耕作さんが
泊まってたホテルに行ったの。」
耕作 「そうだったんだ。」
柔 「それでその時・・。」
耕作 「うん、どうしたの?」
柔 「部屋を訪ねたら・・。」
耕作 「うん。」
柔 「ドアが開いてそこに・・。」
耕作 「柔さん、何が有ったの?」
柔 「バスタオルを巻いた邦子さんが・・。」
耕作 「え~~、加賀君はそんな事を柔さんにしちゃてたのか、何て事を。」
柔 「あ、邦子さんを怒らないでね?その事は後で理由が分かったから。」
柔 「あたしは絶望してそのまま帰ったんだけど、途中で邦子さんが来て、
あたしと耕作さんが、ちゃんとしないから、邦子さんが色々先走って、
いい迷惑だって。」
柔 「だからあなたも耕作さんもお互いに好きなら、ちゃんとしなさいよ、
って怒られちゃった。」
耕作 「そうか、部屋から出ていった加賀君と柔さんがそういう話をしてたのか、
実はね、正直に話すから怒らずに聞いてね?」
柔 「うん、怒らないから話して?」
耕作 「実は、多分、柔さんが帰ってからになると思うけど、加賀君が
俺を誘惑してきたんだよ。」
そう話した時、耕作は柔の体がぴくっとなったのを見た。
耕作 「柔さん?やっぱり止めとこうか?」
柔 「耕作さん、あたしは平気だから続けてね?」
耕作 「柔さん、君が余り平気だとは俺には見えないけど、君がそう言うなら続けるね。」
柔 「ありがとう、耕作さん、あたしを気遣ってくれて、でも聞きたいの。」
耕作 「分かった、じゃあ、話をつづけるね。」
耕作 「誘惑されたけど、俺には君の事があるから、当然拒否した後に加賀君に
君の事を話したんだ、俺には今、好きな人が居るんだって。」
柔を見ると微笑んでいた。
耕作 「その直後に加賀君は部屋を出ていったんだ、柔さんと会ったのは
その後の事だと思う。」
柔 「そうだったんだ、だからあの時、邦子さんはあたしにああいう風に言ったのね。」
耕作 「俺が早くから加賀君に君の事を話していれば、そういう事も
起らなかったと思うと、柔さん、君に悪い事をしたって思う。」
耕作 「柔さんは俺が優しいからって言ってたけど、優しくする事で後々に
周りの人に酷い結果を残した事を考えると、これからは言うべき時
には、ちゃんと言う様にするから。」
柔 「耕作さん、耕作さんだけが悪い訳じゃないから、それはあたしも
同じだと思うの、あたしも、早くはっきりさせてたら、ああいう状況
になってなかったんだし。」
耕作 「柔さん、これからはお互いに言うべき事は早めに話す様にしていこうね。」
耕作 「勿論、君と俺でよく話し合った上でだけど。」
柔 「そうね、そうしようね。」
耕作 「柔さん、これでまた一つお互いの事を理解出来る事が増えたね?」
柔 「耕作さん、そうね、しかしまだまだお互いに沢山理解が出来ていない様な
事がありそうだって思った。」
耕作 「そうかもしれないけど、今から先そういう事は二人で話していけば
解消されて行くと思うよ?」
柔 「うん、あたしも今そう思った。」
柔は嬉しそうに耕作を見た。
柔 「あっ!」
耕作 「どうしたの?柔さん。」
柔 「耕作さん、あたし、そろそろ練習に行かないと。」
耕作 「おっと、もうそんな時間か。」
柔 「まあ、始める時間を特に決めてた訳じゃないから、耕作さん、コーヒーを入れるね。」
柔 「もう少しこうしていたいから。」
耕作 「うん、ありがとうね。」
柔はキッチンへ行くとコーヒーを入れて戻ってきた。
柔 「長い時間、色々と聞いたり話したり、ありがとう、耕作さん。」
柔は耕作の隣に座ってコーヒーを差し出した。
耕作 「色々な思いが入ったコーヒーをありがとう、柔さん。」
柔 「えへ、耕作さんに、そう言われると嬉しいな~。」
二人は先程のお互いに話した事を思い出しつつ見つめ合っていた。
耕作 「そろそろ行かないと遅くなりそうだから出掛けたら?」
柔は耕作を見て微笑んだ。
柔 「耕作さんも一緒に来ます?」
耕作 「一緒に行きたいのは山々だけど大丈夫かな?」
柔 「耕作さんがあたしに密着取材をしてたのは日本のマスコミは殆ど知ってたから、
途中で会ったって言えば大丈夫じゃないかな?」
柔 「おじいちゃんにもそう話せば納得はしてくれると思うし。」
耕作 「段々危険な状況を自分達で作っている様な気がしなくもないけど、
そう説明すれば或る程度は納得してくれそうだね。」
柔 「それじゃあ、出かけようか?」
耕作 「柔さん、先に出てて、さすがにここから二人が出て行ったら納得させられる物も
させられなくなるから、俺は少し後に裏から出て柔さんの所に行くから。」
柔 「あ~、こういう風に二人ともこそこそしなくて良い様に早くなりたいな~。」
耕作 「俺もそう思うよ、柔さん。」
柔 「それじゃ、先に出て少し行った所で待ってるね。」
耕作 「うん、俺も直ぐに後を追うから。」
二人は抱き合ってキスをした。
柔 「こういうのも早く大っぴらに出来る様になると良いな~。」
耕作 「柔さん?こういうのは大っぴらに人前ではしない方が良いと思うよ?」
柔 「そうなの?」
耕作 「だって日本でこういう光景って殆ど見ないでしょう?」
柔 「そう言えば、そうね。」
余り納得はして無さそうだったが、柔は出て行った。
耕作はそれを見送った後に暫くして裏口からアパートを
出て柔の後を追った。
耕作と柔はアパートから少し離れた場所で落ち合った。
耕作 「一応取材って分かる様にカメラだけ持ってきた。」
柔 「耕作さん、さすが~。」
柔は耕作のそういう細やかな気配りに感心していた。
耕作 「柔さん、行ってる道場は少しは慣れた?」
柔 「うん、日本語が出来る方が居たから慣れたよ。」
耕作 「そうか、それなら良かった。」
二人は取材をしている様な感じで道場へと向かった。