柔と耕作(松田)米国滞在日記 (4日目)




      渡米四日目。

      ドシ~ン、ドシ~ン、ドシ~ン

      いつもと変わらない音で耕作は目覚めた。

      耕作 「(今日も朝練か、感心するな~、これが柔さんの強さの秘密だって
            知っている人は少ないかもな~。)」

      耕作 「おはよう~、柔さん、今朝も頑張ってるね~。」

      柔 「あ、耕作さん、おはようございます、よく眠れましたか?」

      耕作 「柔さんこそよく眠れたの?」

      柔 「うん、未来のお嫁さんって言われて嬉しくなって直ぐに寝ちゃいました。」

      耕作 「あの時、まだ起きてたんだ、そっか聞かれちゃったのか~。」

      耕作 「俺もあの後暫くして寝たから、俺の方がよく寝たかも。」

      柔 「朝食の準備をしますから、耕作さんも出掛ける準備をして下さいね。」

      柔は風呂場で部屋着に着替えてキッチンに向かった。

      耕作 「うん、顔を洗ってくるよ。」

      耕作が洗面所から戻ってくると、既に朝食がテーブルの上に準備されていた。

      耕作 「相変わらず、手際が良いよね、柔さんは。」

      柔 「さあ、召し上がれ?」

      耕作 「いただきま~す。」

      柔 「あたしもいただきま~す。」

      耕作 「日本人はやっぱり朝は味噌汁とご飯に限るね~。」

      柔 「そうですね、やっぱり落ち着きますよね~。」

      耕作 「今日こそはお昼はどこかで食べようか?」

      柔が耕作の顔をじっと見詰めた、その目には涙が滲んでいた。

      耕作 「柔さん?どうしたの?」

      柔 「耕作さん、私の作るお弁当に飽きたんですか?」

      耕作 「いや、作るの大変だろうな~って思って。」

      柔 「前にも言ったはずだと思うんですけど、好きな人のお弁当を作るのは
        嬉しい事なんだって。」

      耕作 「あっ、そうだったね。」

      耕作 「俺が悪かった、決して柔さんが作るお弁当に飽きたなんて無いから、
           だってほんとに美味しいんだから。」

      柔の顔がみるみる綻んできて満面の笑みを湛えていた。

      耕作 「やっぱり柔さんにはその笑顔が一番似合ってるね。」

      柔 「そう思ってるなら、もう二度とお弁当を食べないなんて事は言わないで下さいね?」

      耕作 「うん、毎日のお弁当をとっても楽しみにしてるよ?」

      耕作 「勿論、結婚してからもだから。」

      柔 「えへ、そう言われると頑張ってお料理の種類も増やさないとですね?」

      耕作、柔 「ごちそうさまでした~。」

      柔 「お粗末様でした。」

      耕作 「さてと、じゃあ、行ってくるね、お弁当も楽しみにしてるから。」

      柔 「はい、お仕事頑張って下さいね~。」

      二人は抱き合いキスをした。
      耕作は後ろを振り返りながら手を振っていた。
      柔もそれに応じる様に手を振って見送った。
      柔はいつも通りに洗濯をしながら掃除をした。
      柔の頭の中は今日の弁当をどうするかで一杯だった。

      柔「(そうだ!今日は学校の弁当みたいな子供っぽい物を作ってみようかな?)」

      柔の頭の中には既に弁当の内容が出来上がっていた。
      洗濯が終わったので洗濯物を干していたが、この頃になると
      耕作の下着も違和感なく干せる様になっていた。
      洗濯物を干し終わったので外出着に着替えて、食材の買い出しに出かけた。



      買い出しから帰ってきた柔は昼の弁当の準備を始めた。

      柔 「(今日は割と簡単な物だから、時間は十分に有るかな?)」

      柔は料理を始めて少しずつだがおかずの用意も出来ていた。
      少し時間が余りそうだったので、弁当の準備を中断して耕作の部屋の中を
      ぼんやりと眺めていた。

      すると本棚にYAWARAと書かれた厚手のスクラップブックを発見した。
      それはVol.1~4までの4冊あった。

      柔は覗き見をする罪悪感に苛まれながらもVol.1を徐に引っ張り出していた。
      それを開いた瞬間、柔は大きく目を見開き見入っていた。

      そこには耕作と柔の出会いと柔の事が順を追って写真付きでコメントが
      書かれていたのだった。
      当然の様に1ページ目にはあの壁の写真が張り付けてあって、写真の傍には
      柔を見つけた喜びが綴ってあった。

      柔の目から大粒の涙が零れ落ちていた。
      以前、耕作が書いた記事で耕作の思いを受け止めた事はあったが、
      このスクラップブックには写真と伴にそれ以上に耕作自身の魂の
      叫びにも似た言葉が書き添えられていたのだ。

      途中まで見た柔はこれ以上は耕作に許可を得てからでないと見ては
      いけない様な気持ちに囚われていた。
      そこでページを閉じると元あった場所に戻した。

      柔 「(続きは今日耕作さんが帰って来て見ても良いか聞いてからにしよう。)」

      柔はそう心に決めていた。
      我に返った柔は昼の弁当の準備の続きを始めた。
      昼の弁当が出来上がったので出かける事にした。

      柔 「少し早いけどブラブラしながら公園に向かおうかな?」

      柔は弁当を持って部屋を後にした。



      暫く公園の周りを散策した後、いつものベンチに座って耕作を待つ事にした。
      柔はいつかと同じ様に耕作の居るビルをぼんやりと眺めていた。

      耕作 「柔さ~ん、待った~?」

      声のする方に視線を移すとそこにはにこやかに笑っている耕作が立っていた。

      柔 「待ったけど、待つのも楽しい時間なんですよ?ってこれ以前にも
         言いましたよね?」

      柔は微笑みながらそう言った。

      耕作 「そうだったね、でも、待たせた分は何かで埋め合わせしないと、
           俺の気が収まらないから何かさせてね?良いよね?」

      柔は満面の笑みで頷いた。
      耕作は柔の直ぐ隣に座ると会社での出来事を話してくれた。
      柔は嬉しそうにそれを聞いていた。

      柔 「今日のお弁当はお子様風です。」

      と笑いながら言った。
      弁当の包みごと耕作に渡して、耕作に開けて貰った。

      耕作 「うわ~、これまた懐かしくて美味しそうだね~。」

      耕作 「早速、食べても良いかな?」

      柔 「どうぞ、召し上がれ?」

      耕作 「あれ柔さんのは?」

      柔 「前と同じおにぎりセットですよ?」

      耕作が柔の膝の上にある弁当を見るとおかずは耕作の物と同じだったが
      量は少な目で、おにぎりも3個だった。

      耕作 「柔さん?少なくても良いけど食べる時は食べないと体力が無くなるよ?」

      柔 「うん、その辺りは上手く調整しますから、耕作さんは心配しないで?」

      耕作 「その辺りも一緒に暮らすようになったら、俺にも心配はさせてよ?」

      耕作 「これから君は俺の大事なパートナーになるんだから。」

      柔 「耕作さん、ありがとう、出会ってから、いつもあたしの事をずっと見守って
         気遣ってくれてるのは知っていました。」

      柔 「一緒になったら隠し事は一切しないって、心に決めてるから安心してね?」

      耕作 「それを聞いて安心したよ。」

      耕作 「柔さんは俺にとって大切なパートナーだから一緒になったら、
           ずっと支えていくんだ。」

      柔 「耕作さん・・、頼りにしていますよ。」

      耕作 「それじゃ、いただきます。」

      柔 「あたしもいただきます。」

      耕作 「美味しい~、ほんとに柔さんって料理が上手いよね~、最高~だよ。」

      柔 「褒めすぎですって、耕作さん。」

      柔は一緒に食べながら耕作の食べっぷりを微笑ましく見ていた。

      柔 「はい、耕作さん、お茶どうぞ~。」

      耕作 「ありがとうね。」

      耕作、柔 「ごちそうさまでした~。」

      柔 「お粗末様でした。」

      耕作 「ふ~、美味しかった~、満足、満足。」

      柔は嬉しそうに耕作の顔を見ていた。

      耕作「そうそう、以前話していた、こっちの駐在員の復帰が少し早まりそうなんだ、
          そうなれば俺も少し早めに日本に帰国出来るかも?」

      柔は満面に笑みを浮かべた。

      柔 「わ~い、嬉しいな~、早く帰ってこれると良いですね。」

      耕作 「そろそろ会社に戻るね?また夜にね~。」

      柔 「午後からのお仕事も頑張ってね~。」

      二人は別れを惜しむかの様にキスをした。
      柔は会社へと向かっていく耕作の後姿をビルの中に消えるまで見送っていた。

      柔 「さてと、あたしも練習をしなくちゃ。」



      柔は耕作のアパートに戻って弁当の片付けを済ませると柔道着とTシャツを
      バッグに入れて昨日行った柔道場へと向かった。



      柔道場に着いた柔は周りの人だかりに驚いた。
      その中の一人が柔を見つけると、指をさしながらこう叫んでいた。

      観衆の中の一人「Oh~、ミス・イノクマ~!!」

      その声に反応するかの様に周りの群衆も一斉に柔の方を見ていた。
      柔は恐る恐る柔道場へと歩みを進めた。
      すると昨日の道場生のマイケルが出迎えに中から出てきてくれた。

      マイケル 「ミス・イノクマ、昨日の一本背負いの件を誰かが外で話したみたいで、
             その本人を見たくてこれだけの人が集まった様なのです。」

      マイケル 「更にTV局が数社来て取材したいと中に入って待っています。」

      柔 「それでなんですね、こんなに大勢の人が集まってたのは、おまけに
         TV局までなんて、びっくりしました。」

      マイケル 「取材といっても、ミス・イノクマが練習している所を撮影するだけなので。」

      マイケル 「ミス・イノクマに直接にインタビューは無いから安心して
             トレーニングして下さい。」

      柔 「それなら安心です、じゃあ、早速、着替えて練習をさせて貰います。」

      柔は道場に入ると一礼をした。
      柔は柔道着に着替えると道場生達に一礼をしてトレーニングを開始した。
      暫くすると昨日と同じ様に周囲の人達からどよめきが起きていた。
      多分、昨日と同じ様に練習量の多さに驚いているのだろう。
      柔はトレーニングも一通り終わると次に打ち込みを始めた、
      ここでも暫くしてから、打ち込みの数の多さでもどよめきが起こっていた。

      今日は乱取はしない旨をマイケルに伝えていた、代わりに一本背負いの
      打ち込みの練習をする為に三人ほど手伝ってくれる事になっていた。
      柔は早速一本背負いの打ち込みを始めた、すると三人で押さえていたにも
      関わらず、いきなり三人を一本背負いで投げ飛ばしてしまった。
      手伝ってくれてた三人もこれほど強烈とは予想していなかったのだろう。

      暫くの沈黙の後に周りからは驚嘆と拍手が起こっていた。
      柔はマイケルを呼んで手伝いの三人に細かく指示して貰った。
      それでも油断をすると三人とも投げられそうになる場面が何度もあった。
      柔は打ち込みが終わったので手伝ってくれた三人とマイケルにもお礼を述べた。

      柔は道場生達に一礼をすると着替えてきた。
      するとマイケルが近寄ってきた。

      マイケル 「ミス・イノクマ、昨日、帰る時に道場に一礼をしているのを見ていた
             皆は感心していました。」

      マイケル 「礼に始まり礼に終わるを正に体現していたのですから。」

      柔 「あたしはこの礼は感謝の表れだと思って欠かさずに行ってきました。」

      柔 「あたし達が柔道を出来るのも道場があってなのですから。」

      マイケル 「その言葉、みんなにも伝えておきます、。」

      マイケル 「その様な姿勢から学ばないといけないと思いますので。」

      柔 「今日もありがとうございました。」

      柔 「また明日もお邪魔すると思いますので、その時はよろしくお願いします。」

      マイケル 「是非こちらからもお願いします、お待ちしています。」

      柔は道場に一礼をすると帰宅の途に就いた、後ろでは歓声と拍手が
      鳴り響いていたので、群衆の人達にも一礼をした。
      そこを後にして耕作のアパートへと向かった。



      耕作のアパートに戻った柔は洗濯をしている間にシャワーを浴びながら
      晩御飯を何にするか悩んでいた。

      柔 「(何にしようかな?カレーだとビーフ・ストロガノフと同じ感じだし。)」

      柔 「(どうしようかな~? 鍋は昨日作ったし・・。)」

      柔 「(簡単な物だと耕作さんに申し訳ないしな~。)」

      柔 「(耕作さんにも栄養を取って貰うとなると・・、う~ん、悩むな~。)」

      柔 「(日本の代表的な料理といえば寿司、ラーメン、鍋物、う~ん。)」

      柔 「(そうだ海外でも歌になってるスキヤキにしようかな?)」

      柔 「(あれって日本の原曲名は別の曲名だったと思ったけど、何だったっけ?)」

      柔 「(耕作さんが帰ってきたら聞いてみようっと、スキヤキを作って
          その話に持って行こうかな?)」

      柔 「(今夜の晩御飯はスキヤキに決定~、安直すぎるかな~?)」

      柔 「(でも、一応栄養も取れるし、鍋みたいに二人で一緒にで
          突きながら食べられるから。)」

      柔はシャワーを浴び終えて部屋着に着替えると晩御飯の準備に取り掛かった。

      柔 「よし、後は耕作さんが帰って来てから食材を入れるだけだ、
         早く帰って来ないかな~?」

      柔は暫くぼーっと部屋の中を見回していた、視界の中に例のスクラップブックが
      飛び込んできた。

      柔 「(あの事も聞かないといけないな、許可してくれるかな?)」

      柔 「(耕作さんの宝物って言っても良い物だからな~。)」

      柔 「(うん?という事は、あたしは耕作さんにとっては宝物なのかな?)」

      そんな事を考えていると表から元気よく走ってくる足音が聞こえてきた。

      耕作 「ただいま~!!柔さん、君ってやっぱり凄いね~。」

      耕作が部屋の中に飛び込む様に入ってきた。
      柔はびっくりしたような顔をした。

      柔 「お帰りなさい、お仕事お疲れ様でした。」

      柔 「どうしたんですか?そんな大声で。」

      耕作 「柔さん、今日も道場に行ってたよね?」

      柔 「はい、練習をしてきました、それが何か?」

      耕作 「柔さんの事をTVのスポーツ番組で特集して放送してた局があってね?
           そこで衝撃的な映像が流されていたんだよ!!」

      柔 「あぁ~、そう言えばTV局が来ていましたね、それで衝撃的な映像って
         何なんですか?」

      耕作 「柔さん、一本背負いの打ち込みをしてたでしょう?」

      柔 「はい、三人に手伝って貰ってやってきました。それがどうかしました?」

      耕作 「もぅ~、柔さんにとっては当然な事だから、そういう反応なんだね~。」

      耕作 「柔さん、その時に三人を一緒に投げちゃったよね?」

      柔 「あ~、説明を良くしていなかったから最初の時に三人を一緒に
         投げちゃいましたけど、それがどうかしたんですか?」

      耕作 「もぅ~、柔さん、それが衝撃映像としてスポーツ特集で流れていたんだよ?」

      柔 「そうなんですか?」

      耕作 「明日道場に行ったら、今日より凄い事になってるかもしれないよ?」

      柔 「それは困ったな~、今日よりも人が多かったら中に入るのが大変そう。」

      耕作 「柔さんにとってはそっちの方が重要なんだね~。」

      耕作 「まあ、でもこれで滋悟朗さんの目にも留まるだろうから、練習をきちんと
           してるのが分かるから良かったね?」

      柔 「それなら安心ですね、帰国してから練習を~って言われなくて済みますから。」

      耕作 「うん、うん、何にしても良かったね、柔さん。」

      柔 「はい!」

      柔 「耕作さん、少しは落ち着きましたか?」

      耕作 「柔さん、心配してくれてありがとうね。」

      柔 「それじゃ晩御飯を作りますね、直ぐに出来るけど、これ飲んで待ってて下さい。」

      柔は耕作にいつもの様にコーヒーを差し出した。

      耕作 「癒されるな~、このコーヒーにはいつも。」

      柔 「そんなに褒めても何も出ませんよ?」

      耕作 「いやいや、ほんとの事だからお世辞でも何でもないから。」

      柔 「そんな、大袈裟過ぎますよ?耕作さんは。」

      柔はキッチンへ行って料理を作り始めた。

      柔 「さてと、出来ましたよ~、今日はこれです。」

      キッチンから出てきた柔は鍋をテーブルに置いて耕作の隣に座った。

      耕作 「おぉ~、スキヤキだ~、こっちでは中々食べられないんだよね~これ、
           ナイス柔さん、グッドチョイスだね~。」

      柔 「だからそんなに褒めても何も出ませんって。」

      柔 「どうぞ、召し上がれ?」

      耕作 「いただきま~す。」

      柔 「あたしもいただきま~す。」

      耕作 「美味しいね~、ご飯が進む進む。」

      柔 「お替わりは何杯でもありますよ?でも余り食べ過ぎない様にね?」

      耕作 「うん、程々にしておくから、しかし、美味しいな~。」

      柔は自分も食べながら耕作の食べる様子を嬉しそうに見ていた。

      柔 「耕作さん聞きたかった事が有るんですけど、もし知ってたら教えて下さいね?」

      耕作 「どういった事かな?分かる範囲なら答えられると思うけど。」

      柔 「この料理、スキヤキって言いますよね?」

      耕作 「うん、間違いなくスキヤキだね。」

      柔 「全世界でヒットした曲にスキヤキって有るのを知っていますか?」

      耕作 「うん、未だに売り上げ枚数は破られていないかも?」

      柔 「これって元々は日本の曲でしたよね?」

      耕作 「うん、日本で作詞作曲されて今は亡き坂本 九っていう歌手が
           歌ってたんだけど、それがどうしたの?」

      柔 「そのスキヤキって曲の日本の曲名を耕作さんなら分かるかと思って
         聞いてみようって考えてたんです。」

      耕作 「あ~、それなら「上を向いて歩こう」って曲名で日本では発売されてたんだよ。」

      耕作 「何故、海外での発売時にスキヤキになったのかは、俺も詳しくは知らないだけど。」

      柔 「さすが耕作さん、良く知っていましたね?」

      耕作 「柔さん、どうしてそれが気になってたの?」

      柔 「スキヤキを作ろうと思った時に全世界でヒットした曲で日本の曲だってのも
         思い出したんだけど、日本の曲名を知らなかったから気になってて。」

      柔 「それで耕作さんに聞いてみようかと。」

      耕作 「柔さんって面白いよね~、知りたい事を知ろうとするのは良い事だけど。」

      柔 「あたしって面白い子なんですか?」

      耕作 「いやいや、面白いっていうか不思議な子?かもしれないかな?」

      柔 「耕作さんにとっては、あたしは不思議な子だったんだ。」

      耕作 「柔さんは或る意味謎が多い女の子かもしれないかな?」

      柔 「そうなのかな~?耕作さんはそういう子は嫌いなの?」

      耕作 「まさか~、そうだったらここまで好きになる訳ないじゃない?」

      柔は満面の笑みを浮かべていた。

      柔 「あ~、良かった~、嫌いだったらどうしようかと思っちゃった。」

      耕作 「俺は柔さんという存在自体が大好きだし、一部分を取って好きとか
           嫌いとか、そういう事は絶対に無いから。」

      柔 「うふふ、嬉しいな、そう言って貰うと。」

      耕作 「美味しかった~、ごちそうさまでした。」

      柔 「ごちそうさまでした~。」

      柔 「お粗末様でした。」

      柔 「片付けする間に、耕作さんお風呂に入って来てね。」

      耕作 「それじゃ入ってくるね、昨日みたいな事は無しだからね?」

      耕作 「風呂場でケガをしたら職場で笑いものになっちゃうから。」

      柔 「昨日みたいな事?何だったかな?」

      耕作 「お背中流しましょうとかは無しね?」

      柔 「あ~、もうしませんから、するなら黙って入っていきますよ?」

      耕作 「おいおい~、そっちの方が強烈過ぎるってば~。」

      柔 「うふふ、うそうそ、しませんって。」

      耕作 「脅かすなよ~、それじゃ入ってくるね~。」

      柔 「上せない程度にごゆっくり~。」

      柔は片付けを済ませると耕作の為にビールを用意した。
      手持無沙汰になった柔はあのスクラップブックに目をやっていた。

      柔 「(あれの事も聞かないといけないな~。)」

      耕作が風呂から上がってきた。

      耕作 「良い湯加減だった~。」

      柔 「はい、これをどうぞ。」

      柔は耕作にビールを渡した。

      耕作 「サンキュー、相変わらず気が利くよね~、柔さんって。」

      柔 「それじゃ、あたしもお風呂を頂きますね?」

      耕作 「あ、ちょっと待って?」

      柔 「どうかしましたか?耕作さん。」

      耕作 「はい、これどうぞ。」

      柔 「何かしら?」

      耕作 「開けてのお楽しみかな?」

      柔 「開けますね?」

      耕作 「うん、開けてみて。」

      柔 「わ~、可愛い~、これどうしたんですか?」

      耕作 「俺の大切な人をずっとあられもない恰好にさせとけないって
           思ったから買ってきた。」

      柔 「耕作さんの大切な人?あたし?」

      柔は目に涙を滲ませたが顔は満面の笑みだった。

      柔 「ありがとう~、耕作さん、とっても嬉しいです。」

      耕作 「お風呂から上がったら着てみてね?」

      柔 「はい!じゃあ、お風呂に入ってきますね。」

      耕作 「ゆっくりと入って来て練習の疲れを取ってね~。」

      柔 「はい!」

      柔は急いで風呂場に向かった。

      耕作 「これで今夜からは悩ましい事にはならないかな?」

      耕作 「少し残念な気もするけど、日本に帰ってけじめを付けるまでは
           我慢しないといけないしな。」

      耕作 「変な事をしようものなら滋悟朗さんの必殺技が待ってるからな~。」

      耕作はビールを飲みながら日本に思いを馳せていた。

      柔「出ましたよ~、耕作さん、どうですか?」

      耕作は目を見張った、そこにはお姫様の様な柔の姿があった。

      耕作 「柔さん、とてもきれいだよ?」

      柔はその言葉が終わる前に耕作に飛びつく様に抱き付いてきた。

      柔 「耕作さん大好き~。」

      耕作 「俺も柔さんの事、大好きだよ。」

      二人はお互いを見詰め合ってキスをした。

      耕作 「ほんとにきれいだね、柔さん。」

      柔 「ありがとう~、耕作さん。」

      耕作 「これで安心して眠れるね?」

      柔 「あたしはいつも安心して眠ってますけど?」

      耕作 「そうだったんだね、じゃあ、更に安心して眠れるね。」

      柔 「?・・・」

      耕作 「あ~、柔さん深く考えなくて良いから。」

      柔 「はい!」

      柔 「ね~、耕作さん?」

      耕作 「うん、どうしたの?柔さん。」

      柔 「あたし、どうしても聞きたい事が有るんですけど、聞いても良いですか?」

      耕作 「俺で答える事が出来るなら何でも聞いても良いよ?」

      柔 「あの・・あの・・あそこに有るスクラップブック見ても良いですか?」

      柔は本棚のスクラップブックを指さした。

      耕作「・・、柔さん、あれ見つけちゃったんだね・・。」

      耕作が柔を見ると柔は目に涙を滲ませていた。

      柔 「ごめんなさい、気になって少しだけ目を通しました。」

      柔 「許して下さい、でも全部見ようと思ったら耕作さんの了解を取らないとって
         思って途中で見るのは止めました。」

      耕作 「柔さん?泣き止んでね?柔さんは悪い事をしたように感じてる
           みたいだけど、そんな事は無いからね?」

      耕作 「今となっては、柔さんに是非、見て欲しいかも。」

      耕作 「そうしたら俺の柔さんへの思いも、より理解してくれそうだから。」

      柔 「耕作さん、ありがとう、あなたの思いをしっかりと受け止める為にも
         見させて頂きますから。」

      柔 「でも、今夜は遅いので明日にしますね。」

      耕作 「時間をかけてゆっくり見て良いから、いつでも好きな時に見て良いからね?」

      柔 「耕作さん・・、ありがとう、あたし・・、耕作さんと出会ってほんとに良かった。」

      柔 「好きになった人があなたでほんとに良かった。」

      耕作 「それは俺も同じだよ?柔さんに出会って、出会い方としては
           最悪だったかもだけど。」

      耕作 「柔さんの事を好きになって、ほんとに良かったって思ってる。」

      耕作 「今日は遅いからもう寝ようか?」

      柔 「はい!そうですね、寝ましょうか。」

      耕作がソファーに横になろうとすると。

      柔 「耕作さん、一緒にベッドで寝ましょう?」

      耕作 「良いの?」

      柔 「今の気持ちを大切にしたいから、一緒に寝ましょう?良いでしょう?」

      耕作 「うん、俺もそう思ってた、一緒に寝ようね。」

      柔は満面の笑みで耕作に抱き付いた。
      耕作は柔を抱いたままベッドに一緒に横になった。
      二人はお互いの顔をずっと見ていた。
      耕作は柔の頭を優しく撫でていた、柔は耕作の背中に手を
      回してしっかりと抱き付いていた。
      お互いにどちらからともなくキスをした。

      耕作 「これ以上は結婚してからにしょうね。」

      柔は微笑みながら頷いた。

      柔「その時まで今の気持ちを大切にしておきますから。」

      お互いの存在を感じているうちに二人は深い眠りに落ちていった。