柔と耕作(松田)米国滞在日記 (3日目)
渡米三日目。
ドシ~ン、ドシ~ン、ドシ~ン
聞き覚えの有る音で耕作は目を覚ました。
起き上がった耕作は横でいつもの様に受け身の稽古をしてる柔を見つけた。
耕作 「柔さん、おはよう~、相変わらず日課をこなしてるんだね、気分はどう?」
柔 「耕作さん、おはようございます。」
柔 「気分ですか?すっきりしていますよ?」
柔 「気を遣って頂いて、ありがとうございます。」
耕作 「柔さん?昨日の事覚えてる?」
柔 「耕作さんがあたしをベッドに運んでくれてたのも覚えていますよ。」
柔は顔を紅潮させていた。
耕作 「えっ?あの時起きてたの?」
柔 「うん、体がフワッてなった時に目が覚めちゃいました。」
耕作 「言ってくれれば下したのに~。」
柔 「あたし嬉しかったのでそのまま運んで貰う事にしました。」
耕作 「でも、ひょっとしてあの時に俺が君に何かしたかもしれないのに。」
柔 「昨日、言ったでしょう?あたしは耕作さんを信じてるって。」
耕作 「・・柔さん、君って、ほんとに・・好きになったのが君で良かったって、
つくづく思うよ。」
柔 「あたしも好きになったのが耕作さんで良かったって、ほんとに思ってます。」
二人はどちらともなく抱き合っていた、そして短めにキスをした。
柔 「じゃあ、朝食の準備をしますね。」
柔は風呂場に行って部屋着に着替えてキッチンへ向かった。
耕作 「いつも、ありがとう。」
柔 「耕作さんがおいしそうに食べてくれるから、それで十分です。」
耕作が洗面所で準備をしている間に料理が出来上がっていた。
耕作 「もしかして朝食の準備を終わらせて稽古してたの?」
柔 「はい!勿論です、じゃないと稽古が終わってからだと会社に
間に合わなくなっちゃいますからね。」
耕作は柔の顔をじっと見つめた。
耕作 「柔さん、俺、君を絶対に幸せにするから、じゃないと罰が当たるから。」
柔 「耕作さん?この前も言った様に、あたしは今でも十分に幸せです。」
耕作 「柔さん、君にはかなわないな~。」
柔 「ほらほら、さっさと食べないと会社に遅れますよ?」
耕作 「そうだね、いただきます。」
柔 「あたしもいただきま~す。」
耕作 「今日のお昼はどうする?君に作って貰ってばかりじゃ悪いし、
どこかに食べに行こうか?」
柔 「昨日も言ったでしょう?好きな人の為に食事を作る事は嬉しいんですから、
今日もお弁当を作って、あの公園で待っていますね。」
耕作 「ほんとにありがとう、この埋め合わせは必ずするから。」
柔 「その気持ちだけで十分ですから。」
耕作、柔 「ごちそうさま~。」
柔 「お粗末様でした。」
耕作 「じゃあ、行ってくるね。」
柔 「耕作さん?お出かけ前のあれは?」
耕作 「おっと、いけない。」
二人は短めのキスをした。
柔 「いってらっしゃい、お仕事頑張ってね~。」
耕作 「おう~、いってくるね。」
柔は耕作が見えなくなるまで見送った。
柔はその後いつもの様に洗濯と掃除を済ませて外出着に着替えると
食材の買い出しに行った。
買い物から戻った柔は昼の弁当の内容を思案していた。
柔 「(さてと、今日のお昼は何にしようかな?やっぱり、和食風味かな?)」
柔は考え抜いて昼の弁当の調理に取り掛かった。
料理が出来上がった頃にはもう直ぐ昼という時間になっていた。
柔 「早く出かけないと間に合わなくなっちゃう。」
柔は弁当を手に例の公園へ足早に向かった。
公園に着いた柔は昨日と同じベンチに座って待つ事にした。
ベンチに座って待つ間、柔は耕作が居るビルを眺めていた。
暫くすると不意に後ろから声をかけられた。
耕作 「柔さん、待った?」
柔は驚いて後ろを振り返ると何やら手にリボンが付いた包みを持った耕作が立っていた。
柔 「ううん、余り待ってないです、それより後ろから来たから、びっくりしちゃった。」
耕作 「じゃあ、半分は成功かな?驚かそうと思ってたから、残り半分は・・
これね?受け取ってね。」
耕作は手に持ったリボンの付いた包みを柔に渡した。
柔 「耕作さん、これは?」
耕作 「いつも世話をして貰ってるお礼かな?」
柔 「ありがとう、耕作さん、何かしら?」
耕作 「開けてごらん?」
柔は貰った物を開け始めた。
柔 「わぁ~、きれいなネックレス、耕作さん、ありがとう~。」
耕作 「着けてあげるね。」
柔は耕作にネックレスを渡した。
耕作が柔の首にネックレスをぎごちなく着けてくれた。
柔は涙ぐみながら耕作の顔を見た。
柔 「耕作さん、ありがとう、あたし嬉し過ぎて・・。」
耕作 「柔さんにそう言われると、選んで買ってきた甲斐があるよ。」
柔 「耕作さん、あたしも今日のお昼は驚かそうと思って作ったんだけど、どうですか?」
柔は弁当の包みを開け始めた。
耕作 「え?え?え~?日の丸弁当?ご飯だけなの?」
柔 「うふふ、びっくりした?勿論、ご飯だけのはず無いじゃないですか~。」
柔はもう一つの包みを開け始めた。
耕作 「わぁ~、これは・・手が込んでるね・・時間掛ったんじゃないの?」
柔 「作ってる時間も楽しいから短く感じるんですよ?」
耕作 「そいうものなんだね、それも覚えておかないと。」
おかずの包みの中には筑前煮、鮭の切り身を焼いた物、ヒジキの和え物、
サラダ等色々と入っていた。
耕作 「どれも美味しそうだね、早速、食べても良いかな?」
柔 「どうぞ耕作さん、沢山食べてね。」
耕作 「あれ?柔さんのご飯は?」
柔 「あたしのはこれ。」
そう言って見せられたのは小さめのおにぎり三個だった。
耕作 「それじゃ少なくない?」
柔 「ほら、あたしって柔道の体重別は48kg以下でしょう?だから炭水化物は
控えめにしておかないとって。」
耕作 「さすが柔さんだ、そこまで考えてるなんて感心するな~。」
柔 「そうしておかないと、おじいちゃんに叱られちゃうから。」
耕作 「じゃあ、いただきます。」
柔 「たんと召し上がれ。」
柔 「あたしもいただきま~す。」
耕作は相変わらずがつがつと食べていたが、時折、おかずを柔に食べさせていた。
柔はおにぎりと一緒にそれを食べながら耕作の食べる様子を嬉しそうに眺めていた。
柔は耕作にお茶を差し出した。
柔 「はい、耕作さん、お茶どうぞ。」
耕作 「相変わらず良く気が付くね、柔さん、最高だよ。」
柔 「えへへ、そう言われると凄く嬉しいです。」
二人とも弁当を食べ終わった。
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
耕作 「そう言えば、昨日、公園から拍手が聞こえてきてたけど、あれって
もしかして柔さんが?」
柔 「うん、ここで練習をしてたら、いつの間にか沢山の人だかりが出来て、
その人達が拍手してくれたの。」
耕作 「やっぱり、そうだったんだね。」
耕作 「柔さんは柔道をしてる時って練習も含めてだけどキラキラと輝いて
見えるんだよね~。」
柔 「そうなんですか?」
柔 「自分じゃ分からないから不思議には思っていたんですよ、それであんなに
人が集まっていたんですね。」
柔 「それだと今日は止めておいた方が良いのかな?」
柔 「あまり話題になって耕作さんとの事が公になると、また騒動にもなるし。」
柔 「何より日本に伝わるとおじいちゃんに知れてしまうから。」
耕作 「それじゃあ、俺が取材に行った事がある道場を教えておこうか?」
耕作 「そこならここからも近いし何よりも柔道をしても誰も不思議には
思わないだろうから。」
柔 「そうして貰えると助かります、稽古相手が居た方が練習にもなるから。」
柔 「それにおじいちゃんに練習をサボってたって言われずに済むし。」
耕作 「ただ・・。」
柔 「ただ?・・。」
耕作 「柔さんは柔道界では超有名人だから、サイン攻めにあう可能性も無いとは
言えないのがちょっと心配かな?」
柔 「その位なら日本で馴れちゃってますから、多分、大丈夫かと思います。」
柔 「あっ!でもTV局の取材とか来たら困っちゃうかな?」
耕作 「柔さん、それってこう考えたら良いかも?滋悟朗さんに近況が知れる
良い機会になるって。」
柔 「そうですね、ちゃんと練習してるって分かれば、おじいちゃんも安心する
かもしれないですね?」
耕作 「うん、うん、そうだね。でも無理はしちゃいけないよ?」
柔 「耕作さん、あたしの事をいつも気遣ってくれてありがとう。」
耕作 「じゃあ、練習頑張ってね、俺も仕事頑張ってくるから。」
柔 「はい!いってらっしゃい。」
二人は別れ際に短めにキスをした。
耕作は会社へと戻って行った、柔はその後ろ姿をずっと見ていた。
柔は耕作のアパートに戻って柔道着とTシャツをバッグに入れて耕作に教えて貰った
大通りに面した柔道場に向かった。
柔道場はそこま大きくはなかったが設備が充実しているようだった。
柔は扉を開けて中に入ると道場に一礼した。
柔 「こんにちは~、柔道の練習をしたくて伺いました。」
柔がそう言うが早いか、周りから道場生達が集まってきた。
道場生一同 「Oh~、ミス・イノクマ~、ナイストーミーチュー。」
道場生一同 「ミス・イノクマ、ベリーキュート。」
柔 「え?え?え~?何であたしの名前を?」
柔 「あ、えっと、ありがとうございます。」
柔が困惑していると日本語に堪能な道場生が話し掛けてきた。
マイケル 「私の名前は、マイケル・スズキと言います。」
マイケル 「日刊エブリーのミスター・マツダから連絡が有りまして、あなたが来るので、
よろしく、お願いしますと言われていました。」
柔 「(もう耕作さんったら、連絡するならするって言ってくれても良かったのに~。)」
道場生達を見渡すと色々な年齢、人種、性別の人が結構多くいるのが分かった。
柔 「すみません、宜しかったら練習させて貰いたいのですが。」
マイケル 「どうぞ、この道場の設備はご自由にお使い下さい。」
マイケル 「乱取したくなったら言って貰えたら、誰でもお相手をさせて頂きますので。」
マイケル 「それと、あそこが更衣室になっていますから。」
柔 「ご丁寧に、どうもすみません、使わせて頂きます。」
マイケルが他の道場生達に説明をしてくれている様なので柔は安心した。
柔は柔道着に着替えを済ませると、道場生達に一礼して早速練習を開始した。
トレーニングをしていて暫くすると周りから感嘆の声が聞こえてきた。
するとマイケルが近寄ってきた。
マイケル 「ミス・イノクマはいつもその様なトレーニングをしているのですか?
みんな驚いていますよ?」
柔 「そうですね、あたしは小さい頃の事は全然覚えていませんが祖父が言うには、
3歳の頃からこの様にさせられていたみたいです。」
マイケル 「え?3歳からしていたんですか?」
柔 「そうみたいです。」
マイケル 「今までのトレーニングを見る限り大人でもそう簡単には出来そうに
無いのですが。」
マイケル 「それを3歳からとは!!」
柔 「今では習慣になっていますから、きついと思った事は一度も有りませんね。」
マイケル 「なるほど、あれだけのトレーニングをやっているんだから
金メダルを取るのも納得です。」
マイケル 「あ、すみません、トレーニング続けて下さい。」
柔はそう言われたのでトレーニングを続けた。
相変わらず周りからは感嘆の声が聞こえていた。
一通りトレーニングを終えた柔は次に打ち込みを開始した。
暫くすると今度は驚嘆の声が聞こえてきた。柔は不思議に思いつつも
打ち込み500本を淡々とこなし終えた。
するとマイケルがまた近寄ってきてこう聞いてきた。
マイケル 「ミス・イノクマ、打ち込みは何本してたんですか?」
柔 「えっと・・、500本かな?」
柔がさらっと答えるとマイケルは目を丸くして。
マイケル 「え?え~?500本ですか?それを毎日?」
柔 「出来ない時もありますけど、ほぼ毎日かな?」
マイケル 「なるほど、それ位しないと金メダルは取れないのですね~。」
マイケルはしきりに感心して、戻って行って周りの道場生達にその事を
説明していた様だった。
周りの道場生達は驚嘆の声を上げていた。
暫くして乱取がしたいと思っていた柔の元にマイケルが身長が2m程有る
男の道場生を連れてきた。
マイケル 「この人が是非お手合わせをお願いしたいと言うので連れて来ましたが
構いませんか?ミス・イノクマ。」
柔 「構いませんけど、本気で掛かってくる様に話して下さいね?」
マイケル 「分かりました、話しておきます。」
その道場生はそれを聞いて両手を上げる仕草をしていた、思うに女性だから本気では
掛かれないと思っているようだった。
柔 「本気で掛かってこないとケガをする恐れがあるという事をもう一度伝えて下さい。」
マイケルがその事を伝えると、その道場生の顔つきが本気になった様だった。
試合形式の練習が始まった。
マイケルが審判を務めてくれる事になったので柔は安心してその練習に応じた。
周りの人達は固唾を飲みながらこの様子を見ている様だった。
マイケル 「レイ。」
柔とその道場生はお互いに礼をした。
マイケル 「ハジメ!」
その掛け声とともにその道場生が柔に掴みかかったが、一瞬でその道場生は
柔の一本背負いの餌食になった。
マイケル 「・・・。」
周囲の道場生達 「・・・。」
暫くの沈黙があった後、柔が審判のマイケルを見ると、彼は我に返った。
マイケル「イッポン、ソレマデ。」
と宣言してくれた。
周りからは驚きの声とともに割れんばかりの拍手が起こった。
マイケル 「素晴らしいです、こんなに見事な一本背負いを見たのは
初めてです、ミス・イノクマ。」
周りの人達も同様な事を言っているような感じだった。
柔は茫然として倒れたままになっていた2m程の道場生の所に歩み寄り
手を取って起こしてあげた。
柔とその道場生は開始線に並んで終わりの礼をした。
その道場生は何かを言っていたので、マイケルに通訳を頼んだ。
マイケル 「この人はこの道場では段位も上で柔道にも結構自信も有ったのですが、
あれほど見事にあなたに投げられて感動しています。」
マイケル 「これが本当の柔道なんだと、そしてあなたに指導して
貰いたいと言っています。」
柔 「そうなんですか、あたしが実際に組んで教える事は出来ないですけど
一つだけ言える事をお話ししてあげて下さい。」
柔 「それはここにいる他の道場生全員にも伝えて欲しい事です。」
マイケル 「はい、それはどんな事なんでしょうか?」
柔 「柔道とは技の切れとタイミングが重要だと話して下さい。」
柔 「その事を理解しさえすれば、少なくとも本来の意味での柔道を
理解して貰えるかと思います。」
マイケル 「分かりました、みんなに話します。ご教授感謝いたします。」
柔 「あたし、そろそろ帰らないといけない時間なので、今日はこれで
失礼させて頂きます。」
柔 「明日もまたお邪魔させて下さい。」
マイケル 「それはこちらからも是非ともお願いします。」
マイケル 「皆も喜ぶと思いますので、それではお疲れ様でした。」
柔 「失礼いたします、また明日お伺いします。」
マイケルが全員に説明してくれたみたいで道場生達から歓声が上がるとともに
拍手が沸き起こっていた。
柔は着替えが終わると道場生達と道場に一礼をして帰宅の途に就いた。
耕作のアパートに戻った柔は慌ただしくシャワーを浴び、
洗濯をして晩御飯の仕度に取り掛かった。
柔 「(すっかり遅くなっちゃった。)」
柔 「(明日から練習メニューを考え直さないといけないな~。)」
柔 「(そうしないと耕作さんを待たせちゃう事になるし。)」
柔は今夜の晩御飯は何にするか悩んでいた。
柔 「(思い出のメニューは全部作っちゃったし、何を作ろうかな?)」
柔 「(耕作さんの好物って何だろう?そういえば耕作さんって
秋田出身だったわね。)」
柔 「(ちゃんと作れるかどうか分からないけど。」
柔 「後、耕作さんのご両親を驚かせる事になって申し訳ないな~。)」
柔 「(ごめんなさい国際電話を使っちゃいます。)」
柔は耕作の実家の民宿に電話を掛けた。
電話の呼び出し音が鳴っている。
柔はドキドキしながら電話が繋がるのを待った。
電話が繋がって、相手が呼び掛けてきた。
柔 「(きっと耕作さんのお母様だ。)」
柔 「もしもし、あたし猪熊 柔と申します、松田さんのお母様でしょうか?」
柔 「突然のお電話をお許し下さい。」
柔 「どうしても、きりたんぽ鍋の作り方が知りたくて、失礼とは存じつつ
お電話をさせて頂いた次第です。」
柔 「(もう~耕作さんったらそんな事までお母様に話してたのね。)そうなんです。」
柔 「はい!ありがとうございます、・・メモの用意が出来ました。」
柔は耕作の母親からきりたんぽの作り方から鍋の具材等を含めた作り方を
詳しく聞いてメモをしていった。
柔 「はい!!分かりました、ありがとうございます、ほんとに助かりました。」
柔 「はい?」
柔 「(耕作さんとの事、ばれちゃってる?)はい!必ず伝えておきます。」
柔 「お母様もお元気で居て下さい、お父様にもよろしくお伝え下さい。」
柔 「はい、それでは失礼いたします。」
柔は受話器を置いた。
柔 「(ふ~、緊張しちゃった、でも優しそうなお母様だったな。)」
柔 「(早速お米を炊いてその間に必要な材料を買ってこなくっちゃ。)」
柔はご飯を仕掛けて材料を買いに出かけた。
買い物から戻った柔は耕作の母親から聞いてメモしていた通りに作り始めた。
中々上手く出来そうに無かったが電話で聞いた耕作の母親の言葉を
思い出して一生懸命に作った。
耕作 「柔さん、今、戻ったよ~。」
柔 「耕作さん、お帰りなさ~い。お仕事お疲れ様でした。」
耕作 「柔さん、道場の人から色々と聞いたよ~、さすが柔さんだね。」
柔 「もう~、耕作さんってば~連絡を入れるなら入れるって言ってくれなかったから、
入ってからびっくりしちゃいましたよ~。」
耕作 「ごめん、ごめん、君を驚かそうと思って。」
耕作 「ほんとにびっくりしちゃったんだね、ごめんよ~。」
柔 「まあ、通訳出来る人が居たのでかなり助かりましたけど。」
耕作 「それは良かった、明日もまた行くんだよね?」
柔 「はい、そう伝えてから戻ってきましたから。」
耕作 「道場の人達も楽しみにしてるみたいだけど、無理せずに頑張って。」
柔 「耕作さん、ありがとうございます、色々気を遣って貰って助かりました。」
柔 「もう直ぐ晩御飯が出来ますから、これ飲みながら待っててね。」
そう言うと柔はキッチンから出てきて椅子に座っている耕作にコーヒーを差し出した。
そしてまたキッチンに戻った。
耕作 「いつもありがとうね。」
耕作 「柔さんの入れるコーヒーはとても美味しいんだよ。」
柔 「そんなに褒めても何も出ませんよ?」
耕作 「いやいや、ほんとの事だから。」
耕作 「ん?んん?この匂いは・・もしかして・・。」
耕作 「柔さん今夜の晩御飯は何かな~?」
柔 「出来てからのお楽しみだから、今は内緒ですよ?」
耕作 「うん、楽しみにして待ってるよ。」
暫くすると柔が鍋を持ってキッチンから出てきた。
柔 「耕作さん、お待たせしました~。」
柔は鍋をテーブルに置いて、更に取り皿を並べていった。
それが終わると耕作の隣に座った。
耕作 「おぉ~、こ、これは~、柔さん良く作り方知ってたね?」
柔 「耕作さん、懐かしいですか?」
耕作 「勿論、昔はおふくろに良く作って貰って食べたから。」
柔 「初めて作ったから、余り美味しくないかもだけど・・。」
耕作 「柔さんが作った食べ物で美味しくなかったのなんか
無かったから大丈夫だよ?」
柔 「耕作さん、早く食べてみて?」
耕作 「うん、早速いただきま~す。」
柔 「召し上がれ~。(どうかな?心配・・。)」
耕作 「うわ~~~。」
柔 「耕作さん、どうしたの?美味しく無かった?」
耕作 「柔さ~ん、君、最高だよ~、物凄く美味しいよ~。」
柔 「ほんと?ほんとに美味しかったの?」
耕作 「うん、ほんとに美味しくっていくらでも食べられそう。」
柔 「良かった~、美味しく出来てて、初めてだったから、とっても不安でした。」
耕作 「柔さん、ほんとに初めて作ったの?もしそうならやっぱり君って料理でも
天才なのかもしれないな?」
柔 「耕作さん、それは褒め過ぎですよ?」
柔 「あたしも少し食べてみよう~っと。」
耕作 「うん、食べてみて?ほんとに美味しいから。」
柔 「いただきま~す。」
柔 「わ~、ほんとだ~、こんなに美味しく出来てるって思わなかった~。」
柔 「あ~良かった~、耕作さんに喜んで貰って、あたしも嬉しいです。」
耕作 「柔さん?さっきも聞いたけど、良く作り方知ってたね?」
耕作 「これって料理の本には余り載ってないはずだから誰かに聞いたりしたの?」
柔 「実はね?・・耕作さんのお母様に聞いてその通りに作ってみたの。」
柔 「国際電話使っちゃったから、ごめんなさい。」
耕作 「え?え?え~~、秋田の俺の実家に電話かけたんだ~。」
耕作 「柔さん、よく番号を知ってたね、それから国際電話の事は
気にしないで良いからね。」
柔 「以前、耕作さんが秋田に帰ってた時があったでしょう?」
柔 「その時に編集長さんに聞いてたの、黙っててごめんなさい。」
耕作 「それは良いよ?逆に嬉しくなっちゃった。」
柔 「そう言って貰えると気持ちがやすまります。」
柔 「ところでお母様からの伝言があって、実家の事は心配いらないから頑張れって、
何を頑張るのかまでは聞きそびれちゃったんですけど。」
耕作 「多分だけど、柔さん、それは君との事と仕事の事だと思う。」
柔 「そうだったんですね。」
柔 「それともう一つ、これはあたしにだったんですけど、耕作さんの事を
よろしく頼むって言われました。」
耕作 「え?え~、柔さん、俺との事をお袋に話したの?」
柔 「いえ、あたしからは特に何も言わなかったんですけど。」
柔 「このお料理の作り方を聞いた時にお母様には分かっちゃったのかも?」
耕作 「そうか~、知られちゃったんなら仕方ないな~。」
耕作 「それに今はこんな風になってるんだから問題は無いかな?」
柔 「あたしもお母様にご挨拶できた様なものだし。」
柔 「お父様にもよろしくお伝え下さいって言っちゃいました。」
耕作 「まあ、いずれ正式に俺の両親に紹介するから、って言っても、
柔さん自身は有名で名前は知ってるし。」
耕作 「実は、今だから言うけど、おやじは一度君に直接会ってるんだ。」
柔 「え?どこで会ったんだろう?」
耕作 「えっと、三葉のメンバーで柔さんの道場で練習してた時が有ったでしょう?」
耕作 「あの時おやじが来てたんだよ。」
耕作 「お見合いの話を持ってきてね、だから、俺は君をあんな誘い方しちゃったんだよね。」
柔 「そうだったんですね。」
柔 「それであの時は変な話ばかりするな~って思っていました、ごめんなさい。」
耕作 「その事はもう済んだ事だから謝らなくても良いよ~。」
耕作 「そのおやじが秋田に帰る前に柔さんの実家を訪ねたみたいなんだ、
家の前で会ったんだと思う。」
耕作 「柔さんは買い物の袋を持ってたって言ってたから。」
柔 「・・、あ~、あの時の小父様がお父様だったんだですか~、
お父様って優しそうな方でした。」
柔 「その時にお父様の息子さんがあたしの大ファンだって言ってました、
耕作さんの事だったんですね~。」
耕作 「おやじ、柔さんにそんな事言ってたんだ余計な事は話していない
とは言ってたけど。」
柔 「耕作さん、電話でしたけど、お母様にあなたとの事は認めて貰ってるみたいで、
あたし安心しました。」
耕作 「元々、柔さんとの事はずっとハッパを掛けられてたから、親父にもお袋にも。」
柔 「良いご両親が居て、耕作さんは幸せ者ですね。」
耕作 「いずれ義理ではあるけど、柔さんの両親にもなるんだよ。」
柔 「早くそうなると良いな~、今から楽しみです。」
耕作 「そうだね~、早くそうなりたいね?柔さん。」
柔 「うん、出来る限り早くなりたいです。」
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
耕作 「美味しかった~、満足~、これで柔さんの料理の種類が増えたね?」
柔 「うん、さすがに毎日は無理だけど、たまに作るのも良いですね。」
柔 「さてと、片付けしますから、今夜も先にお風呂に入って下さいね?」
耕作 「うん、先にお風呂頂くね。」
柔 「ゆっくり入って下さいね、今夜は昨日みたいな事は無いと思うから。」
耕作 「毎晩だと大変な事になっちゃうよ~。」
柔 「あはは、早く入って来て下さいね?」
耕作 「うん、早速入ってくるよ。」
柔は片付けを済ませると耕作の為にビールを用意していた。
柔 「(耕作さん、まだお風呂に入ってるかな?)」
柔はそっと風呂場に近づいて行った。
柔 「(うふ、まだ入ってる、鼻歌なんか唄ってご機嫌みたいね。)」
柔 「(うふふ、そうだ、ちょっと驚かしてみよう~っと。)」
柔 「耕作さ~ん、お背中流しましょうか~?」
するとお風呂場の中でドタバタする音がした。
耕作 「えっ、え~?柔さん冗談はやめてよ?」
耕作 「びっくりしたじゃないか~。」
柔 「え~、あたしは耕作さんが良かったら流しても良いかな~と思ってたのに~。」
耕作 「柔さん?まさかビール飲んでないよね?」
柔 「ビールとか飲んでませんよ?流さなくても良いですか?」
耕作 「いやいや、そういうのは今はダメだからね?」
柔 「耕作さん?今はって事は結婚した後は良いって事なんですか?」
耕作 「う~、柔さん?意地悪してるでしょう?」
柔 「ごめんなさい~、待ってるのが余りにも暇だったので。」
耕作 「柔さんって結構意地悪なんだね?直ぐに出るから待ってて~。」
柔 「ほんとにごめんなさいね~、待ってますから~。」
暫くして耕作が風呂から出てきた。
耕作 「もう、危なく湯舟の中に落ちそうになったよ?」
柔 「ごめんなさい~、これで許してね?」
柔は耕作に抱き付いてキスをした。
耕作「もぉ~、柔さんには敵わないな~、でもそういう所も含めて大好きだよ~。」
柔 「あたしも耕作さんのそういう優しい所も含めて全部大好きです。」
柔は耕作にビールを渡した。
柔 「はい、ビール冷えてますよ。」
耕作 「いつも、ありがとうね。」
耕作は渡されたビールを飲んだ。
耕作 「く~、上手い、柔さんも早くお風呂に入っておいで。」
柔 「うん、入ってきますね。」
耕作 「あ、出てくる時は昨日みたいな恰好はダメだからね?」
柔 「耕作さん?・・、あたしのあんな格好は嫌いなの?」
耕作 「好きとか嫌いとかじゃなくて、一応これでも男だからね? 」
耕作 「大好きな人のあんな格好を見せられたらそれこそ理性の箍が外れちゃうよ?」
柔 「そう言って貰えると安心しました。」
柔 「あたしを飾り物みたいに思っていないって分かったから。」
柔 「これで安心して耕作さんと結婚出来ます。」
耕作 「あ~、柔さん、ま~た俺を試したんだな~、このこの~。」
耕作は柔を抱きしめて髪の毛をくしゃくしゃとした。
柔 「あはは、ごめんなさい~、お風呂に入ってきますね~。」
耕作 「のぼせない程度にゆっくり入っておいで~。」
柔 「は~い。」
耕作は柔との先程までのやりとりを思い返した。
耕作 「(俺って柔さんの尻に敷かれるタイプなのかな~。)」
耕作 「(でも悪くは無いかな?一生支えてあげないとって思えるし。)」
耕作 「(何より誰よりも可愛いから。)」
柔が風呂から出てきた。
柔 「良いお湯加減でした~。」
耕作が柔の方を見て思わず顔を手で覆い隠した。
耕作 「や、や、柔さ~ん、その恰好どうしたの~?」
柔 「え?何か変でしたか?バスタオル一枚じゃないですよ?」
耕作 「いやいやいや、ある意味バスタオル一枚の時よりも刺激が
強すぎるんですけど~。」
柔の格好は上には大きめのTシャツ1枚で下は下着一枚という格好だった。
勿論、ノーブラなのは一目瞭然だった。
大きめのTシャツなので辛うじて下着は見えていないのだが。
柔 「この格好でも耕作さんにとってはダメなんですか?」
耕作 「ともかく上はそのままでもいいけど、下には何か穿いてきてね?」
柔 「やっぱりダメなんですか~、でも、下はスカートしか持ってきて
ないんですよね~。」
耕作 「あれ?最初の晩には何を穿いていたの?」
柔 「最初の夜はトレーニングウェアの下を穿いていました。」
柔 「でも、あれだと暑かったんですよね~、だからこのままでも良いかな?って。」
耕作 「(そう言えば柔さんって超が付くほどの天然だったんだ。)」
耕作 「いやいやいや、そのままだと刺激が強すぎるから・・。」
柔 「そうだ!!耕作さんのパンツを穿くとか?・・ダメかな?」
耕作 「う~ん・・・今よりはマシかもしれないけど、複雑な心境だな~。」
耕作 「仕方ないな~、柔さんがそれでも構わないなら、そうして良いよ?」
柔 「ほんと?良いの?じゃあ、耕作さんが何か適当に選んで下さい。」
耕作は渋々顔を覆っていた手を下げて自分の下着を選び始めた。
耕作 「柔さん?また意地悪してないかな?」
柔 「ううん、耕作さんが選んだ物なら喜んで穿きますから。」
耕作 「(う~ん、どうも意地悪されてるとしか。)」
耕作 「それじゃ~、このトランクスタイプでも穿いててね?」
柔 「わ~い、耕作さんと一緒に居るみたいだ~。」
耕作 「ね~、柔さん?君って段々過激になっていない?」
柔 「う~ん、好きな人になら裸を見られても恥ずかしくないと思うんだけど、
あたしの考え自体が過激なのかな?」
耕作 「や、柔さん?それ十分に過激な発言ですよ?」
柔 「だって、あたしは今も耕作さんになら裸を見られても恥ずかしいって
思わないも~ん。」
耕作 「(早く寝ないと危険な状態に陥りそうだ。)」
耕作 「柔さん、今夜はもう遅いから寝ようか?」
柔 「耕作さん?はぐらかそうとしていませんか?」
耕作 「いやいや、ほら明日も早く起きるんでしょう?早朝の練習も有るしね。」
柔 「う~ん、やっぱりはぐらかそうとしてる様な・・。」
柔 「まぁ、いっか~、こうして耕作さんと一緒に居る様な感じにもなったし。」
柔は穿いたトランクスの端を両手で引っ張っていた。
柔 「耕作さん?今夜は一緒に寝ましょうか?」
耕作 「え?え~?今なんて?」
柔「だ・か・ら~、・・一緒のベッドで寝ましょう?って。」
耕作 「それは結婚してからじゃないとしないって、この前言わなかった?」
柔 「一緒に寝るだけだから良いと思うんだけど?」
耕作「 まあ、寝るだけなら良いのかもしれないけど。」
柔 「そうでしょう?一緒に寝ましょうよ~。」
耕作 「いやいや、第一あのベッドはシングルだから二人で一緒に寝るには
狭すぎるから。」
柔 「だから~、抱き合って寝れば大丈夫じゃないんですか?」
耕作 「しかし、狭いとほらベッドから落ちる可能性もあるわけだし。」
柔 「片方が壁で、片方にはソファーがあるから大丈夫なんじゃ?」
耕作 「(えぇ~い、押し問答してても埒が明かないな。)」
耕作 「柔さん、分かった君が望むようにしよう、狭いけどベッドで一緒に寝よう。」
柔 「わ~い、耕作さんと一緒に寝れる~嬉しいな~。」
耕作 「(ほんとに天然は怖いな。)」
耕作 「その代わり大人しく寝るんだよ?」
柔 「は~い、大人しく寝ます、わ~い、わ~い。」
耕作と柔はこうしてベッドに二人で並んで寝る事になった。
耕作 「柔さん?窮屈じゃない?」
柔 「ううん、耕作さんがこんなに近くに居るのが嬉しいから。」
柔 「今までは手を繋いではいたけど離れてたから、物凄く嬉しいです。」
耕作 「早く寝ないと、明日も早いし。」
柔 「耕作さん、あたしの頭を撫でてくれないですか?」
柔 「良い子良い子するみたいに、そしたら落ち着いて眠れそうなの、ダメかな?」
耕作 「柔さんは、ほんとに可愛いから頭を撫でるのは好きだよ。」
柔 「ほんと?じゃあ撫でて~?直ぐにでも寝そうだから。」
耕作は柔の頭をゆっくりと優しく撫でてあげていた。
柔 「耕作さ~ん、大好き~・・くぅ~・・。」
耕作 「(本当に無邪気でかわいいな柔さんは、さっきまでとは
打って変わって天使みたいな寝顔だな~。)」
耕作は柔の額にキスをした。
柔 「う~ん、耕作さん・・大好き~・・くぅ~・・。」
耕作 「俺も柔さんの事は大好きだよ、おやすみ~、未来のお嫁さん。」
暫くすると耕作も眠りに落ちていった。