柔と耕作(松田)米国滞在日記 (2日目)
渡米二日目。
ドシ~ン、、、ドシ~ン、、、ドシ~ン
大きな音に耕作は目を覚ました。
寝ぼけ眼で起きた耕作は昨夜の事を考えた。
耕作 「(そうか、昨日は柔さんを泊めたんだった。)」
ふと横を見ると柔が受け身の練習をしていた。
耕作 「(そう言えば、柔さんは日課は欠かさなかったか。)」
耕作 「柔さん、おはよう~、朝から頑張るね~。」
柔 「耕作さん、おはようございます。」
柔 「あっ、起こしちゃいました?ごめんなさい。」
耕作 「大丈夫だよ、柔さんは自分のしたい様にしてて構わないから。」
柔 「ありがとうございます、でも、もう終わったので朝食の準備をしますね。」
柔は風呂場で部屋着に着替えるとキッチンへと向かった。
耕作 「そんな事までして、貰って申し訳ないね~。」
耕作は顔を洗いに洗面所へと向かった。
料理を作る音とともにキッチンから柔の声がした。
柔 「あたしは耕作さんの為なら喜んで何でもしますから。」
耕作は洗面所から戻ってきた。
耕作 「柔さん、ありがとうね~。」
朝食の準備も終わり二人はテーブルの椅子に並んで座った。
テーブルの上には柔が作った料理が並んでいる。
耕作 「相変わらず料理が上手いね、これだけ作るの大変だろうに。」
柔 「耕作さんに喜んで貰えると嬉しいです。」
耕作、柔 「いただきま~す。」
耕作は相変わらずがつがつと食べていた、柔も食べながら嬉しそうにそれを眺めていた。
柔 「耕作さん?お替わりありますよ?」
耕作 「じゃあ、一杯だけ。」
柔は嬉しそうに茶碗を受け取りキッチンへ行って御飯をよそうと、それを持って
耕作の元に戻ってきた。
柔 「はい、耕作さん、お待たせしました。」
柔は耕作に茶碗を渡した。
耕作はそれを受け取ると同じ様にがつがつと食べてしまった。
柔は耕作の隣に座ると耕作の様子を嬉しそうに見ながら自分も残りの御飯を食べた。
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
柔は片付けする為にキッチンへと行ったが、直ぐに戻って来た。
柔 「耕作さん?コーヒーを入れましたから、どうぞ。」
耕作 「柔さんって、気配りが凄いよね~。」
柔 「うふ、耕作さんに喜んで貰うのが嬉しいから。」
柔 「それじゃあ、片付け済ませてきますね。」
耕作 「うん、手間を掛けさせごめんね。」
柔 「いえ、慣れていますから。」
柔はキッチンへ戻って片付け始めた。
耕作はその光景をコーヒーを飲みながら眺めていた。
耕作 「柔さん、今日はどうするの?何か予定とかあるの?」
柔 「特に予定とかは無いです。」
耕作 「それじゃあ、部屋でゆっくりしてると良いよ、お昼御飯はどこかに食べに行こうか?」
柔 「会社の近くに公園がありましたよね?あたし、お弁当を作って、そこで待っていますから。」
耕作 「そんな申し訳ないよ~。」
柔 「あたしが作りたいんですから、ね?良いでしょう?」
耕作 「そっか~、じゃあ、お願いしようかな?」
柔 「楽しみにしてて下さいね、近くにスーパーが有ったら教えて下さい。」
耕作は柔にスーパーへの地図を書いて渡した。
耕作 「それじゃ、そろそろ出かけるね。」
柔 「はい!お仕事頑張って下さいね、いってらっしゃい。」
柔は耕作に抱き付いて短めにキスをした。
耕作は驚きを隠せずに。
耕作 「柔さん・・、君、積極的になったね。」
柔 「それは、もう、耕作さんが大好きですから。」
耕作 「柔さん、俺も君の事が大好きだよ。じゃあ、行ってくる。」
柔は耕作が出かけて行く後姿を嬉しそうに見送った。
柔 「(さてと、結婚した時の予行演習をしておかないと。)」
柔は洗濯をしながら掃除を始めた。
洗濯が終わったので洗濯物を次々に干していった、しかし、耕作の下着を見て困惑した。
柔 「(お嫁さんになるんだから、恥ずかしがっちゃダメよね。)」
柔は左手の薬指に光る指輪を見て、そう自分に言い聞かせ耕作の下着も干した。
柔 「(次はお買い物に行って来ようかな。)」
柔は耕作に渡された地図を頼りに大通りに面した近くのスーパーに弁当容器、食器類、
昼の弁当と晩御飯の食材を買いに出かけた。
買い物から戻った柔は早速、昼の準備を始めた。
柔 「(出来るだけ和食風味で作らないと。)」
弁当を作り終えると昼には少し時間があったが、周辺の様子も見たかったので
外出着に着替えると早めに出かけた。
柔は周辺を散策しながら公園へと向かった。
都会の喧騒に包まれている割には公園は静かな佇まいを見せていた。
柔は耕作の会社から見えるベンチに座ってお昼が来るのを待っていた。
耕作 「柔さ~ん!待った~?」
自分の名前を呼ばれて柔はハッとして声のする方に視線を向けると耕作が笑みを
浮かべながら走ってきていた。
息を切らしながら近寄ってきた耕作に柔は笑いながら話しかけた。
柔 「耕作さん?そんなに走ってこなくても、あたしは逃げませんよ?」
耕作 「いやいや、柔さんを待たせるのは申し訳ないから。」
柔 「待つのも楽しみの一部なんですよ?」
耕作 「そういうものなんだね、これからは覚えておく様にするね。」
耕作は柔の横に腰かけた。
すると柔が微笑みながら自分の直ぐ傍のベンチを叩きながら。
柔 「もう少し傍に来て下さいね。」
耕作 「あ、そうだね、分かったよ。」
耕作は柔の直ぐ傍に座り直した。
柔は耕作から会社での出来事を聞きながら弁当の包みを開いていた。
柔 「お気に召すか心配なんですけど、今日のお昼はこれです。」
耕作 「お気に召すも何も柔さんの手料理っていうだけで大感激だよ?」
耕作は柔の作った弁当を見て更に感激した。
耕作 「うわ~、これ全部、柔さんが作ったんだね~。」
弁当の中身には色々な種類のおにぎり、卵焼き、唐揚げ、焼き魚の切り身、サラダが
所狭しと並んでいた。
柔 「それじゃ、食べましょうか。」
耕作 「うん、きっと美味しいんだろうな~、わくわくするよ~。」
耕作、柔「いただきま~す。」
耕作「やっぱり、美味しいな~。」
柔 「そう言って貰えると凄く嬉しいです、作った甲斐がありました。」
耕作 「柔さんも食べてね。」
柔 「はい!頂きますね。」
二人は仲良く並んで弁当を食べていた。
柔 「耕作さん、はい、お茶もありますから。」
耕作は差し出されたお茶を飲みながら嬉しそうに言った。
耕作 「柔さんは良いお嫁さんになるよね~。」
柔は満面の笑みを浮かべながら。
柔 「誰のですか~?」
耕作 「うぐうぐ・・、それは・・勿論・・。」
柔 「勿論?誰なんですか~?」
耕作 「柔さ~ん、意地悪だな~、分かっているくせに~。」
柔 「ごめんなさ~い、ちょっと意地悪過ぎましたね~。」
耕作は真顔に変わりこう切り出した。
耕作 「柔さん!本当に俺で良いの?」
それを聞いた柔は急に目に涙を滲ませた。
柔 「耕作さん!あたしは耕作さんが良いの!耕作さんじゃないとダメなの。」
耕作は柔の突然の涙におろおろしつつ。
耕作 「ごめん、柔さん、俺も君以外は考えられないんだ。」
柔はそれを聞いて微笑んだ。
柔 「うふふ、それを聞いて安心しました、もう二度とそんな事は言わないで下さいね?」
耕作 「うん、もう絶対に言わない、約束する。」
耕作 「柔さん、美味しかったよ。」
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
楽しい昼の時間を過ごした二人だったが耕作は会社に戻らないといけない時間になっていた。
耕作 「それじゃ、柔さん、俺、仕事に戻るね。」
柔 「はい!午後からもお仕事頑張って下さいね、耕作さん。」
別れ際に二人は短めのキスをした。
柔は会社に戻って行く耕作の後姿をずっと見ていた。
柔 「(さてと、午後はどこかで練習をしておかないとおじいちゃんに叱られるかな?)」
柔 「(ランニングして、この公園で練習しよう~っと。)」
柔は、一旦、耕作のアパートへと戻っていった。
部屋に戻った柔は滋悟朗が忍ばせていた柔道着に着替えた。
柔 「もう~、おじいちゃんたらいつの間に入れたんだろう?」
柔 「まあ、いっか、一通り練習してこよう~っと。」
柔はトレーニングの為に出かけた。
ランニングを終えた柔は公園に居た。
公園には芝生が有り立ち木も有ったので受け身の練習、打ち込みの練習をしていたら
突然、周囲に居た人達から拍手が沸き起こった。
柔は驚いて周りを見回すとかなりの人が集まっていた。
周囲の人達 「Oh~、ジュードーガール、ベリーキュート。」
周囲の人達からそう言われた柔は顔を紅潮させながら一礼した。
周囲の人達の中には日本人も居て、その人からこう言われた。
日本人 「あなた、柔さんじゃないの?」
柔 「はい、そうです。」
日本人 「やっぱり~、どうしてアメリカに居るの?」
柔は少し考えて、無難に思える返答をした。
柔 「観光を兼ねて、あたしの勤務する旅行代理店の研修で来ています。」
日本人 「そうなんだ、頑張ってね~。」
その人は疑いもしなかった様で柔は安心した。
柔は周囲に集まっている人達に一礼をして公園を後にした。
後ろでは拍手がずっと続いている様だった。
柔 「(あ~、恥ずかしかった~、こっちに来ているほんとの理由を知られたら、
大騒動になっちゃうから良かった~。)」
柔は耕作のアパートへ戻って行った。
部屋に戻った柔はシャワー浴びて部屋着に着替えると柔道着などを洗濯した。
洗濯が終わったので洗濯物を干そうと思ったがふと気が付いた。
柔 「(柔道着とTシャツは良いとして下着はどうしよう・・。)」
柔 「(今から干せば耕作さんが帰ってくる前には乾いてるよね。)」
そう思って普通に干した。
柔 「さてっと、耕作さんが帰ってくる前に晩御飯の用意を
済ませておかないといけないな~。」
柔「何を作ろうかな?やっぱりあれかな?」
柔はふっと思ったあの時の料理を作る事に決めていた。
料理の下ごしらえが終わったので耕作が帰宅する間しばしの休息を取った。
しかし、疲れと安堵感からいつの間にか転寝をしていた。
耕作 「柔さ~ん、今、戻ったよ~。」
耕作の声で起きた柔だったが、まだ頭がぼ~っとしていた。
柔 「耕作さん・・お帰りなさい、お仕事お疲れ様でした。」
柔が耕作の方を見るとそこには、顔を紅潮させながら俯いた状態で耕作が立ち尽していた。
柔 「耕作さん?どうしたんですか?」
耕作 「柔さん、後ろ、後ろ・・。」
耕作の消え入りそうな声を聞いて、後ろを振り返るとそこには・・柔の下着が干してあった。
それを見た柔も恥ずかしさで顔を紅潮させた。
柔 「ごめんなさ~い、帰ってくる前に畳んでおこうと思ってたの忘れてました。」
耕作 「そうだったのか~、ごめん、俺、こういうのに慣れていないから戸惑ってしまったよ。」
柔 「直ぐに畳んでなおしますね。」
柔は慌てて下着を畳んでなおした。
耕作 「あ~、びっくりした~、でもよく考えたらこれからはずっと起こる事なんだよね?」
耕作 「俺も慣れておかないといけないのかな?」
柔 「耕作さん、余り慣れて貰っても困りますけどね。」
二人はお互いを見詰めながら苦笑していた。
柔 「さてと、気を取り直して晩御飯を作りますね。」
柔はキッチンに向かった。
耕作 「今夜は何かな?楽しみだな~。」
柔 「今夜の晩御飯も二人にとって、とても思い出深い物ですよ~、楽しみにしててね。」
耕作 「何だろう思い出深い物って、楽しみなのは変わり無いから別に良いかな?」
柔は耕作にコーヒーを入れてキッチンから出てきて差し出した。
柔 「これ飲みながら待ってて下さいね。」
耕作 「お、いつもありがとうね~。」
柔はキッチンに戻って行った。
耕作は出されたコーヒーを飲みながら一生懸命に料理を作る柔を嬉し気に眺めていた。
柔 「さ~てと、出来ましたよ~。」
柔がキッチンから料理を運んで来てテーブルの上に並べていった。
耕作は出された料理を見た瞬間。
耕作 「あ~、これは・・あの時の~。」
柔は耕作の隣に座りながら。
柔 「耕作さんも覚えてくれてたんですね?」
耕作 「俺が足を怪我した時に部屋に来て作ってくれた、あれだよね?」
柔 「その通りです、どう?懐かしいでしょう?」
耕作 「うん、でも、ほろ苦い懐かしさだけどね。」
柔 「それじゃ、食べましょうか。」
耕作、柔 「いただきま~す。」
耕作は美味しそうに食べながら話し始めた。
耕作 「柔さん、あの時は君に誤解を与える様な事になってしまって、
ほんとに申し訳ないと思ってる。」
柔 「仕方ないですよ、邦子さんも悪気があってした事じゃないんだし。」
耕作 「俺がはっきりしなかったのが悪かったんだよ。」
柔 「耕作さんは優しいから、耕作さんのそういう所も含めて、あたしは
耕作さんの事が好きなんです。」
耕作 「柔さん・・、そう言って貰えると救われるな~。」
柔は突然真顔になってこう言った。
柔 「耕作さん?今までの事は、あたしも寛大になれるけど・・、結婚したら許しませんよ?」
耕作は柔の顔を見詰めた。
耕作 「柔さん・・、はい!二度とああいう事が無い様にするから。」
柔はニコッと笑った。
柔 「あたしは耕作さんの事を信じていますから、成田空港のあの時から
今もそしてこれから先も。」
耕作 「俺、柔さんを悲しませる事は二度としないって誓うよ、だって、君には
やっぱり笑顔が一番似合うから。」
柔 「ありがとう、耕作さん。」
その後、食事を続けながら二人はお互いに自分のおかずを相手に食べさせる様になっていた。
耕作 「柔さん?あの時の事を聞いても良いかな?」
柔 「はい、構いませんよ。」
耕作 「ありがとう、それじゃ、まず、これから聞くね。」
柔 「はい、どうぞ、何でも聞いて下さい。」
耕作 「訪ねてくれた時に柔さんは「直ぐに帰りますから。」って言ってたよね?
本当に直ぐに帰るつもりだったの?」
柔 「正直に言いますね、耕作さんに晩御飯を作るつもりだったから、
帰るつもりは無かったです。」
耕作 「そうだったんだね、道理で袋の中に食材が入ってた訳だ。」
柔 「うふふ、耕作さんって割と目敏いんですね?」
耕作 「その後に俺が買い物袋を受取りに行った時、躓いて、柔さんに抱き付く形に
なってしまって、ほんとに申し訳なかったって思ってる。」
柔 「あの時は、ほんとにびっくりしましたけど、実は嬉しくも有ったんです。」
柔 「だから、あたしは耕作さんを支えたんですよ?」
耕作 「そういえば、それ以前の柔さんなら「何するんですか?」って言って
俺の事を投げてたと思う。」
柔「そう言われると、確かに以前のあたしだったら、そうしてたと思うので
返す言葉もありません。」
耕作 「更にその後に、俺が立とうとして落ちていたリンゴに足を取られて柔さんの胸に
顔を埋める形になった時に、柔さんは「どうしたら良いんですか?」って言ってた
けど、あれはどういう気持ちでそう言ったの?」
柔 「そのままの方が良いのか、ちゃんと立たせた方が良いのかっていう気持ちが
錯綜して、ああいう風に言っちゃったんだと思います。」
耕作 「なるほど、柔さんとしては複雑な心境だったんだね。」
柔 「今考えるとあの時あたしは既に耕作さんに好意を抱いてたのは間違い
無かったんだと思います。」
耕作 「その後に晩御飯を作って貰ってて俺の仕事の事を褒めてくれてたけど、
あれって羽衣さんの影響だったの?」
柔 「その通りです。」
柔 「羽衣課長代理が北海道からあたしを東京に帰す時に耕作さんの書いた記事で
毎日ワクワクしてたって言ってたのを聞いていたからです。」
耕作 「そうだったんだね。」
耕作 「そういえば、その時に壁の写真を見てからの柔さんの態度を見てて思ったんだけど、
柔さんは、余り嫌がっていない感じだったけど、どうだったの?」
柔 「ここに来た時に言ったでしょう?出会う切っ掛けになった写真だって、
その時もそう思っていましたから。」
耕作 「なるほど、納得したよ、その後に部屋までキチンと片付けて貰った事には
感謝してたんだ。」
柔 「あの時も最初の時もそしてここに来た時も、あ~、耕作さんは、ほんとに片付けが、
苦手だなんなって思い、あたしが何とかしないとって思ったんです。」
耕作 「それ言われると二の句が継げないな。」
耕作 「しかし、ご飯を食べ終わって、寛いでいる時に柔さんから「ずっと前みたいに
泊まっていっちゃおうかな~?」って言われた時は、ほんとに驚いた。」
耕作 「何であんな事言ったの?」
柔 「あの時は冗談って言いましたけど、実はあたしの本心だったんです。」
耕作 「そうだったんだね・・。」
耕作 「ところで柔さん、俺がその後に言った言葉覚えてる?」
柔 「「ほんとに泊ってくか?」って言ってましたね?」
耕作 「うん、あの時は加賀君が来て返事が聞けなかったけど、ほんとはどう思って
いたのかなって気になってた。」
柔 「あたしはそれを聞いて一瞬「え?」って思ったんですけど。」
柔 「今だから正直に言えるんですが、「あたし泊まっちゃおうかな~。」って答えようと
してたんですよ?」
耕作 「ほんと?あ~、加賀君さえ来なければ~。」
柔 「でも、今ではその後に色々な事が有ったからこそ今が有るんじゃないかって
思っています。」
耕作 「そうかもしれないね。」
耕作 「あの時すんなりいってたら、今みたいな感じにはなって無かったかもね。」
耕作 「そうなると加賀君には感謝かな?」
柔 「耕作さん?あたしは、ああいう思いは二度としたく無いんですから。」
耕作 「ごめん、ごめん、さっきも言ったけど二度と君にはあんな思いは
させないって約束するから。」
柔はニコッと笑った。
柔 「耕作さん、信じていますからね。」
耕作、柔 「ごちそうさまでした。」
柔 「お粗末様でした。」
柔 「さてと、あたし片付けしますから、耕作さん、お風呂に入って来て下さい。」
耕作 「いつも悪いね、そうさせてもらうね。」
柔 「あたし、慣れてますから。」
キッチンへ行った柔は鼻歌交じりに片付け始めた。
耕作は湯船に浸かって寛いでいた。
突然、柔の悲鳴が聞こえた。
柔 「きゃ~~、耕作さん、助けて~。」
耕作は腰にタオルを巻いて慌てて風呂場から飛び出していった。
耕作 「柔さん!どうしたんだ!」
柔 「ゴキブリが・・、ゴキブリがいるの~。」
耕作 「どこかで見た様な光景が。」
耕作 「柔さん、大丈夫か?」
柔 「耕作さん・・、退治して~、お願い~。」
耕作 「柔さん、君って昔と少しも変わってないな~。」
柔 「良いから早く~、退治して~。」
柔は耕作の腕にしがみ付いてきた。
耕作 「ち、ちょっと~、柔さん動けなくなるから退治出来ないよ?」
柔 「早くして~、お願いだから~。」
耕作 「分かったから、手を放して~。」
しかし、柔は耕作にしがみ付いて離れようとしない。
耕作 「仕方がないな・・、殺虫剤はどこだっけ、あっ!あそこに有った。」
キッチンの隅にあった殺虫剤を取りに行こうと柔を連れたまま移動した。
殺虫剤を手にした耕作はゴキブリ目掛けて噴射した。
ゴキブリは暫く動いていたがやがて動かなくなった。
柔 「耕作さん・・、退治したの?」
耕作 「多分・・。」
耕作はキッチンタオルを数枚手に取るとゴキブリを包み込んでゴミ箱に捨てた。
耕作 「ほら、もう大丈夫だよ、柔さん。」
柔「ほんと?・・、ほんとだ居なくなってる、さすが耕作さんね~。」
耕作 「いやいや、そうまで言われるほどじゃないけど。」
突然、耕作の腰に巻いていたタオルが落ちた。
柔 「きゃ~~~、耕作さんったら~~。」
柔は顔を手で覆った。
耕作 「ひゃ~~~、ご、ごめん。」
耕作は落ちたタオルを慌てて拾って再び腰に巻き付けた。
耕作 「ごめん、裸を見せてしまって。」
柔 「もう大丈夫なの?」
柔は顔を覆っていた手を下した。
柔 「あたしこそ、ごめんなさい、あたしが腕にしがみ付いていて手が
自由に使えなかったんだから仕方がないです。」
耕作 「いや、俺こそしっかり巻き付けていなかったのが悪いんだから。」
耕作 「しかし、昔と少しも変わっていない柔さんを見て安心したな~。」
柔 「ゴキブリは今でも苦手なんです。」
耕作 「変な言い方になるけど、ゴキブリを怖がってた柔さん、物凄く可愛かったよ。」
柔「耕作さんの意地悪・・、でも、可愛いって言われると嬉しいかな?」
柔 「あ、早くお風呂に入り直してきてね?」
柔 「そのままだと風邪を引いちゃいますから。」
耕作 「うん、そうするよ。」
耕作は再び風呂に入った、柔は片付けの続きを鼻歌交じりでしていた。
耕作が風呂場から出てきた。
柔も片付けが終わって耕作の為にビールを用意していた。
耕作 「柔さん、ビールありがとう、お風呂に入ってきたら?」
柔 「はい、そうします、ゆっくりしててね。」
柔は風呂場に向かった。
耕作はビールを飲みながら先ほど起こった事を思い返して恥ずかしさが
込み上げてきていた。
耕作 「(う~、不可抗力とはいえ柔さんに裸を見られてしまった。)」
柔 「耕作さん、良い湯加減でした。」
柔の方を見た耕作は思わず顔を手で覆い隠した。
耕作 「や、柔さん・・、その恰好は・・。」
柔はバスタオルを巻いただけの格好で風呂場から出てきた。
柔 「あたしだけが耕作さんの裸を見たら不公平かなって思ったから、いけませんでした?」
耕作は顔を覆っていた手を外した。
耕作「いけないことはないけど・・、さっきの俺みたいにタオルが取れちゃったら
大変だから早く何か着て?」
柔 「いけなくないなら大丈夫かな?」
耕作 「いやいや、大丈夫じゃないから・・。」
柔はキッチンからコップを取り出してきて、そのままの格好で耕作の隣に座った。
耕作は柔を見たがバスタオルの上の方に柔の胸の谷間が見えたので、
顔を紅潮させて直ぐに視線を外した。
柔はそれに気付いていない様だった。
柔 「耕作さん、あたしにもビール頂けますか?」
耕作 「良いけど、早く何か着た方が・・。」
耕作は柔の持っているコップにビールを注いだ。
注がれたビールを柔は一気に飲み干した。
柔 「お風呂上がりのビールは最高って聞いていましたけど、ほんとなんですね。」
柔はニコニコしながら更にコップを差し出してきた。
耕作 「柔さん?もしかして酔っぱらってる?」
柔はビールを飲んだ為に顔を真っ赤にしていた。
柔 「そんな事は~、無いですよ~?」
耕作 「じゃあ、後一杯だけにしてね?」
柔 「耕作さんが~、そう言うなら~、そうしま~す。」
耕作は差し出されたコップにビールを注いだ。
柔は今度は一気には飲まなかったが美味しそうに飲んでいた。
柔 「ね~、耕作さ~ん、さっきは、裸を見て~、悲鳴を上げちゃって~、ごめんなさ~い。」
柔 「突然だったから~、驚いただけなの~。」
柔 「だって~、あたし~、耕作さんの~、全てが~、好きなんだも~ん。」
耕作 「柔さん?やっぱり酔ってるよね?」
柔 「酔ってなんか~、いないも~ん。」
耕作 「いやいや、十分に酔ってると思うよ?」
柔「酔ってないってば~、・・くぅ~・・。」
耕作 「あ・・、寝ちゃった・・、どうしよう・・。」
耕作 「着替えさせるわけにもいかないから、このままベッドに寝かせようかな?」
耕作 「何卒バスタオルが外れません様に~・・。」
耕作は顔を横に向けて柔を優しく抱きかかえるとベッドへ運んで、そっと横にすると
布団を掛けてあげた。
耕作 「ふ~、良かった~、バスタオルは外れなかったか・・。」
耕作 「明日起きたら怒られそうだな・・。」
耕作 「今日も色々な事が有ったな、さてと俺も寝ようかな。」
耕作はベッドの傍のソファーに横になった。
するとベッドの方から柔の手が伸びてきた。
柔 「耕作さ~ん、手を繋いで~。」
耕作 「柔さん?寝ぼけているのかい?」
柔 「寝ぼけてなんか~、いませんよ~だ、早く手を繋ごうよ~。」
耕作 「はいはい、分かったからおとなしく寝てね?」
柔 「「はい」は~、一度で良いから~、早く手を繋いでよ~。」
耕作 「じゃあ、繋ぐよ、ぐっすりと寝てね。」
柔「やっと繋いでくれた~、おやすみなさ~い・・くぅ・・。」
耕作「(柔さんは酔っぱらうとこうなっちゃうのか、良く覚えておかないといけないな~。)」
耕作 「結婚したらお酒は飲ませない様にしないと・・。」
耕作は今日の事を色々と考えているうちにいつの間にか眠っていた。