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これだけの要素を書き漏らしていた。
貴乃花は現役時代、有名なガチンコ力士で、先代大関貴ノ花の時代からそうであった。親方がガチンコなら、弟子もガチンコになる。相撲界で言うガチンコとは八百長の反対の言葉で、どの取り組みも全力で相撲を取る力士のことである。一方、八百長力士はすべての取り組みで八百長をする訳ではなく、ここ一番の時に相手に負けて貰う力士である。もちろん星を譲る力士も含まれる。
7勝7敗で千秋楽を迎えた力士は、最後の1勝がどれだけの意味を持つか分かっている。そこで相手に星を譲ってくれと頼むのである。もちろん、自分が相手と会って直接頼み込むような馬鹿なことはしない。誰かを間に立てて、金で買うか、星を借りるかするのだ。よくしたもので八百長全盛の頃はその間に立つ人間もいて、彼等のことを〝中盆〟と言っていたと記憶している。
週刊ポストの記事で八百長が騒がれていた時期、7勝7敗力士の千秋楽の勝ちが際立っていたため、余計な疑念を抱かせてしまうという事で、その改善策として7勝7敗同士を対戦させるという取組を増やした。確かにどちらも勝ちたいのだから星を遣り取りする懸念は減る。
勝ち越すことを相撲界では給金を直すという。関取以上が受け取れる場所の報奨金らしいが、色々な所(例えば退職金)で金銭として跳ね返る仕組が作られているようだ。三賞、金星(平幕〈前頭〉が横綱に勝つこと)なども大きな給金直しの材料となる。嘘か真か知らないが、部屋に関取(十両以上の力士)が誕生すれば、その部屋は食うに困らないらしい。故に部屋頭(部屋で番付が一番高い者)の事を米びつなどと言うこともある。
八百長力士は金のある横綱や大関なら星を買えるが、そこから下の力士だと買い取る金が無いため、貸し借りになるようだ。やがて自分が調子が良い時でも、星を返してくれと言われ、やむなく負けて三賞を逃す、負け越すといったことが生じ、結局、普通よりも早めの引退に追い込まれるという。
一方、ガチンコ力士は当然、相手も全力でくるし、土俵際でもつれることが多くなる。必然的に怪我が絶えないという仕儀になる。本場所の怪我が原因で翌場所休場する力士はガチンコと考えていいかも知れない。八百長力士でも相手がガチンコならガチンコでやるので、それは一概には言えないと思われるだろうが、八百長力士は怪我を何より恐れる傾向があるらしい。また、八百長力士はガチンコ力士を憎んでおり、ガチンコ力士に怪我をさせるのを勲章と思っている節がある。
自力(ガチンコ)でここ(平幕上位・小結・関脇)まで上ってきたのだから、あとは上手に星を回し合い、怪我をせず少しでも長く現役を続けられるようにしようよ、というのが八百長力士の言い分である。
何故、こんな話を長々するかというと、ここからはあくまでもおじさんの憶測だが、貴乃花はモンゴル力士会が八百長をやっているのではないかと疑っており、貴ノ岩を近づかせなかった。
同郷、同国の力士が集まっても悪い訳がない。貴乃花の頑なな様子を見ていると、ただ親しくなり過ぎて気遣ったり忖度することを恐れたと
いうより、さらに進んで、外国で働く者同士が一日でも長く現役を続けられるようグループで様々な配慮がなされているのではないかと疑い、もしかしたら何かの確証を得ていたのかも知れない。
貴乃花はそれを言う訳にはいかなので、力士が余所の部屋の力士と仲良くすることは駄目だという表現をした。方やモンゴル力士会は貴ノ岩が出席しないことに腹を立てていた。おまけにガチンコで負かされ、よそで「時代は終わった」と吹聴したという噂が流れてきた。
力士会の会長格は白鵬と想像され、杯を受けた兄弟分が鶴竜、日馬富士という格好だった。若頭の大関もその場にいたようだ。組に入るよう皆で説得を試みたが貴ノ岩はうんと言わない。白鵬が口に気を付けろと言い聞かせているところに、たまたま電話が掛かり貴ノ岩が出た。貴ノ岩も馬鹿ではないのだから、目上、格上の横綱の話の最中にスマホをいじればどうなるかぐらいは承知していた筈である。だから、もしかしたら出なければならない相手、貴乃花だったのかも知れない。
その直後、日馬富士が「兄貴が話をしているのに何だその態度は」とばかりテーブルにあったビール瓶を逆さに掴んではみたが、中に幾らか残っていたのでこぼれ落ちる。そこで瓶を投げ捨て、今度はリモコンを掴んで角で頭を殴打した。リモコンは持ちにくいし、一発で手を離れた可能性もある。だが、一発では日馬富士の怒りが収まらなかった。素手で馬乗りになって殴打し続けた。それがあまりに常軌を逸し、しつこかったので、皆が止めに入り、直接日馬富士の体を止めようとした若頭が流れ弾を数発くらった、という図式ではないか。
皆が落ち着きを取り戻した時、貴ノ岩が頭から血を流しているのに気付き、このままではまずいと我に返り、知人が紹介した医者に行き傷を縫って貰った。それでお開きとなり、当事者はじめ誰もがそれで済むと思っていた。そこで最初の手打ち(和解:握手)があったのか。別の日かそれは知らない。
寄宿舎へ戻った貴ノ岩は親方に頭の傷を説明するのに、階段から落ちたと嘘をついた。しかし貴乃花は一見してこれは単なる事故ではないと察知し、本当のことを言えと迫る。最初、日馬富士とは握手をして和解しているし、残りのモンゴル力士会の人々を敵に回したくない。しかし、一通り聞き終えた親方は、有無を言わさず、医者の診断書を取り、警察へ被害届を出すと宣言するに至り、ついに貴ノ岩も腹を括らなければならなくなった。
診断書が複数あるようだが、事件が勃発してから何日めと何日目だったのかは分からない。貴乃花は入院させ、そこの診断書を取り、続く九州場所を休場させた。
この事件を考えるに、まわりがヤクザばかりの席に拉致された堅気と考えれば理解しやすいだろう。堅気の方も腕に覚えはあるが多勢に無勢、あらがう術もなかった。
だが、貴ノ岩は警察沙汰にまでする気はなかった。親方の方針で力士会にいつも出席は出来ないが、同じ出身国の力士は外国で闘う戦友だと思う気持ちもなかった訳ではないから、自分が想像する以上に事が大きくなって、困惑しているだろう。
貴乃花は、日馬富士が引退と聞いて、やったと思っただろうか。八百長問題も含めて協会が変わらなければならないという気持ちは現役の時から持っていたのだろう。引退後、一代年寄となり改革を実行すべく他の若手の親方宗に持ちかけたが、賛同を得られたのはごく僅かで、理事になる票を獲得するのが精一杯の状況は何時まで経っても変わらない。すなわち理事長の席は遠いというのが実情と見た。
続く
by 考葦(-.-)y-~~~